ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険   作:シズりん

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第28話

 

 

 

幼い頃、僕は一度だけ女神に出逢ったことがある。

 

 

 

血と燃え盛る炎の煙でむせ返るような戦場跡。誰一人として動く者はいない。

降りしきる雨が、戦いの跡を文字通り洗い流しているような……そんな真っ黒な世界の中、顔を打つ雨で眼を覚ました。

 

キシキシと痛む身体を引きずるように戦場跡と化した街を歩くと、至る所に息絶えた神々や魔物たちが横たわっていた。中には見知った顔もおおくいた。完全に生命力が尽きているのでザオリクも最早効果を望めない。

殆ど全ての家屋、街の中心部にある教会など全てが瓦礫と化し、湖の水は枯れ果て、草花もすべて焼け落ちた。

一面真っ赤に染まる空は絶望の色を映す。

僕は幼いながらに自分の死を悟った。

 

そんな絶望渦巻く神界の中の地獄。まるで終わりゆく世界の正にその時だった。

どこまでも続く雨を降らせる分厚い雲の隙間から、神界でも中々お目にかかれないような光量の光の柱が、一筋街の中心部へと走った。

 

光の柱の、目がくらむような光量を手で遮るように見たその中には、長い髪を優雅に揺らしながら光と共に雲の隙間から降りて来る一人の女性が見えた。

 

それを見た僕は、痛みも忘れて街の中心部へと走った。

理由なんて分からない。気付いたらそうしていたんだ。

 

 

街の中心部へと着いた僕は、崩れた壁の隙間から彼女を見た。

 

 

年齢で言えば18歳前後の少女と女性の間ぐらいに見えるが、神界において見た目と年齢は意味をなさない。

腰まで伸びるキラキラと輝く白銀の髪。真っ赤な戦場で一際輝くような白い肌。少し赤みを帯びた瞳。

 

 

 

白銀の女神だ。僕は瞬時にそう思った。

 

僕ら神々の中にも噂話の伝説がある。歳月による死のない僕ら神々は、死というものはあまりにも遠い事象だ。そんな神々の死の間際に現れると言う白銀の女神の伝説。

 

何もかもを洗い流すような豪雨は、彼女を避けていた。彼女の上空が晴れているのではない。文字通り雨が彼女を避けているのだ。まるで空間そのものが彼女と言う異質な存在を拒否しているかのように。

 

そんな神界に現れた異質な女神は、神魔問わず既に命の去ったモノに、優しく触れている。

彼女がそっと触れたモノは、赤や緑、青といった、おそらくはそのモノが司っていた事象を表す魔力の色の粒子となり、空へと消えていく。

 

〝ごめんなさい〝と繰り返し繰り返し謝りながら、自らが血糊で汚れることも厭わず、1人また1人と無へ還してゆくその姿は……不謹慎だけど子供ながらに僕は彼女が美しいと思ったんだ。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーオーーーーーース

 

ーーーーエルーー

 

 

「おいエルギオス?大丈夫か?」

「き、キョウイチ様?すみません、少し昔の事を考えていました。」

「エルギオス……お前のソレは走馬灯と言って、人間の間では死の直前に見る、言わば死亡フラグだ。縁起でもないから止めてくれ。」

 

バラモスブロスのキョウイチはため息まじりに部下の走馬灯を止めさせる。

部下を落ち着けた事で一息ついたキョウイチは、改めて自分たちの置かれた状況を確認する。

 

2人は狭い部屋の中央にいる。両腕は後手にキツく縛られている。椅子に座ってこそいるが、両足も括られているため、立ち上がることもできそうにない。

魔法も封じる効果があるのか、イオナズンも効き目がなかった。

完全に拘束されているという事だ。

 

しかしキョウイチは万を超える魔王軍の将軍。ここで慌てふためく姿を部下に見せるわけにはいかない。そこでキョウイチは先ず何故こうなったのか、その経緯を振り返る。

 

 

確か………

 

 

アレフガルドでずっと殺伐としていた気分を晴らすかのように、魔界グランゼドーラに還った彼は趣味であるロードバイクの旅に出ることにした。

 

魔王は、自分でたてた計画通りだったにも関わらず、マコトを残してあの世界を去った事をずっと悩んでいたらしく、心ここに在らずと言った状態だった。グランエスタークのキリトを始め、キングヒドラのヒデアキに俺は暫くそっとしておく事にした。まぁ、毎度の事だったから。

しかし同じロイヤルガードのミレーユだけは、魔王を終始庇っていた。それが結果的にはまずかった。

 

魔王は、最初こそ大人しくしていた。マコトとの思い出を思い出しては泣いている、そんな100年だった。

次の100年は、ミレーユによる慰めだった。「男は勝手」だの何だのと、男から言わせれば勝手な言い分だが、それで魔王の悲しみが癒えるのならと、目を瞑ったものだ。

 

どんな悲しみもやがては薄れていく。魔王は誰よりも死を多く見てきたのだから、誰よりも強く、誰より美しく立ち直ってみせるだろう。

 

 

 

 

などと思ったのがそもそもの間違いだった。

 

 

 

さすがは魔王と言うべきか、彼女はいつも我々の予想の斜め上を行く。

ミレーユによる慰めにより魔王は、なんと失敗を他人のせいにしだしたのだ。完全に八つ当たりである。

繰り返す、八つ当たりである。

そしてそれは特に我々ロイヤルガードの面々に向った。

 

こうなっては堪ったものではない。

ヒデアキの奴は、得意の買い物でプレゼント攻撃により難を回避。ミレーユは、毎日の食事に世話焼き、そして魔王を持ち上げる事で難を回避。

俺はと言えば、英雄キリトに魔王の八つ当たりが向いてる隙に逃亡し難を回避した。

しかしキリトだけは、婚約者(仮)と言う立場もあり逃げも隠れもできない。まさに進退窮まっていた。

いくらキリトが、創世の神の中でも最も防御力が高いとはいえ、魔王のエゲツない攻撃に耐えられるはずも無く、魔王の放った『マダンテ』によりボロボロになった事を、逃亡の旅の道すがらヒデアキから聞いた。

 

その時の微かに漏れた力が、魔界と神界の境界のある村にこぼれ落ち、運悪く小競り合いをしていた神魔数千が犠牲になったと言う。

 

横にいる我が部下の経験した〝大いなる厄災〝の真相なんてものは、実はそんなもんだ。

もちろんその後魔王は、ルビス様に電話でこっ酷く怒られて、完全に死んでしまった神族や魔族を生き返らせる為に、ルビス様とゾーマ様の元にバシルーラしていたそうだ。それも罰としてたった一人で。

 

 

 

 

 

 

 

そしてそんな優雅な趣味の旅行中、ミレーユから一本の電話が入った。逃げた事を怒っているのかと、恐る恐る出てみると、意外にも簡単な頼まれごとだった。

 

「キョウイチ?あなた何処をほっつき歩いてるのですか?」

「趣味の旅行だよ。」

「旅行?それより魔王様からあなたに指令があるのよ。」

「あ?指令だ?」

「ちょっとお待ちなさな。今魔王様に変わるから。」

「久しぶりですねキョウイチさん。」

 

電話の向こうの魔王の声は明るい。軽やかな小鳥のさえずりのような声を聞くと、不思議と彼女の笑顔が思い浮かぶと、自分の顔も緩むのを感じる。

 

「指令があるんだろ?」

照れてる自分を悟られまいと、少しだけ突き放すように言ってやった。

「指令?いえ、あの……お願いがあるんです。」

「お願い?」

「はい。キリトさんの家に行って、キリトの証を持ってきてほしいんです。」

「キリトの証を?」

「はい。」

 

正直拍子抜けした。どんな指令が来るのかと思えば、証を取ってくるだけどは。

「それは構わないんだが、キリトは?」

「キリトさんは天の箱舟に轢かれまして……今は私の隣でベッドに臥せっています。ほら」

 

ほらと言われても……と思ったのだが、電話の向こうでキリトの悲鳴が聞こえる。大方、魔王が傷口をツンツンと突いているのだろう。

 

「とにかく、キリトの証を取ってくれば良いんだな?」

「はい。あ、そうだ!あまり遅くなるようでしたら、逃げ出した分も含めてお仕置きしますからね?」

「ひっ!!す、直ぐに取ってまいります!」

 

しっかりと念を押す魔王の声は、何トーンか下げた、しかも自分で声にエコーをかける、『私、怒ってます』の、分かりやすい脅し。俺は大急ぎでキリトの家に向かうのだった。

 

 

そこで俺は思い掛け無い再会を果たしたのだ。

 

「キョウイチ?キョウイチだよな?」

 

不意に声をかけられて振り向いたソコには懐かしい顔があった。

 

「マコトじゃないか!久しぶりだなぁ。やっぱりお前神界レンダーシアへと渡ってきたたんだな。」

「ああ、俺もお前に会えて嬉しいよ。」

 

2人はハグして再会を喜びあった。

アレフガルドでのことから実に300年。本当に懐かしい友人は、俺の予想を遥かに超えたパーティで現れたのだ。

 

「それにしてもマコト、お前凄いパーティだな。ゾーマ様に

、神界の女神セレシア、その妹のサンディさんと……何だ?マコトに引っ付いてるそのちっこいのは。」

「ちっこいの言うな!僕の名前はプサンだ!パパのように強い勇者になって、マスタードラゴンに将来なるんだぞ!」

「パパ?」

 

マコトと手を繋いでいる男の子は、鼻息荒くそうのたまわっう。それに付け足すようにセレシアは

「そうですよ。プサンは将来、1つの世界を管理することになる子供なんですからね?バカにするのは許しませんよキョウイチさま。」

 

神界の女神セレシアとは、魔王を通じてわりと付き合いは長い。相変わらず丁寧な口調とは裏腹に物騒なことを言うのは、語るまでもなく魔王の悪い影響なのだろうと推測できる。

当のマコトはと言えば、ただただ苦笑いをしているが、子供にパパと呼ばれ懐かれている姿、これは間違いなく今後ゴタゴタの火種になる事だろう。

マコトも今や神の一員。もしかして争いの元凶でも司っているのではないだろうか?

 

まぁ、何はともあれこの再会は俺にとっても嬉しいものだ。改めてマコトにアレフガルドで覚えた握手をすべく近付いた瞬間だった。

 

「あら?良いもの拾ったじゃな〜い」

 

とても美しく透き通った、それでいて一番聞きたくない声が聞こえたかと思った瞬間に、頭部への鈍い痛みとともに俺の意識は刈り取られるのだった。

 

 

 

 

 

 

「キョウイチ様、我々はどうなってしまうのでしょうか。」

「エルギオス、大丈夫だからあまり心配するな。俺は4人のロイヤルガードのうちの一人だぞ?魔王が必ず救出してくれるさ。」

「それにしてもキョウイチ様、彼等は何者なんですか?」

 

創造神や、神界の女神セレシアは普段あまり下々に顔を見せない。我が部下が彼等を知らないのも無理はない。

 

「特にあの黄金の女神は……あの伝説の白銀の女神によく似ているのですが……」

 

そりゃそうだ。実の母娘なのだからソックリに決まっている。しかし、とうの魔王もあまり下々の魔王軍に顔を見せないから、やはり知らないのだ。

 

「エルギオス、悪い事は言わないから、あの黄金の悪魔(ルビス様)には関わらない方が良いぞ。」

「それってもしかして私のこと〜?」

「ひっ!!」

 

いつの間にかすぐ隣にいたルビス様が、ニコニコと俺を覗きこんでいた。

「ま、まさかそんなことあるわけ……ウヘヘ」

 

手を擦りながら女神のご機嫌をとると、彼女はジトっとした目で見た後に、深い息を吐いてまぁ良いわ〜と流した。

 

「それで…俺はどうなっちゃうんでしょ?」

「ん〜?大丈夫よ〜。大人しくしていれば痛くしないわよ〜。あまり。」

 

最後に付いた言葉が気にはなるが、とりあえず直ぐには殺されなさそうだ。

 

それにしても、ルビス様はニコニコしているが、マコトやセレシアをはじめ、他の面々は妙に苦虫を潰したような顔をしているのが気にかかる。

触らぬ創造神に祟り無し。

俺は暫く様子を見ていると、ルビス様は僧侶の衣から携帯を取り出し、慣れた手付きで何処かに電話をかけていた。

 

プルルルル…ガチャ!

『はいシズクです。只今留守にしています。御用の方は……』

 

「あらあら。携帯で居留守を使うなんてね〜。ダメな娘ね〜。」

 

見た目な笑顔ほど笑っていない瞳のルビス様。そんなルビス様の肩にポンと手を乗せて笑うゾーマ様は

 

「ハハハ。お前はシズクに恐れられているからな、きっと帰らない事を怒られると思って出ないのだろう。どれ、今度は私がかけてみよう。」

 

そう言ったゾーマ様は何故か近くにいる羊のモコモコした毛皮の中から携帯を取り出し、魔王に電話をかけた。

 

『おかけになった電話番号は、現在、お客様のご都合により、お繋ぎできません…』

 

「……ちゃ……着拒否だとー!!!」

 

 

 

「なんでパパは着拒否なんだシズクゥ。」

と、マコトにしがみついてオイオイと泣くゾーマ様と、そんなゾーマ様の頭を優しくポンポンする勇者マコト。アンタ達仮にもかつては勇者と大魔王だろうが。いつの間にそんなに仲良くなったんだよ。そしてルビス様、貴女は少し笑いすぎです。

 

「あ〜面白かった。でも困ったわ〜繋がらないわね〜。そうなるとコレ(人質)は只のゴミだから、さっさと焼却しちゃいましょうか。」

「わーーー!!!ちょちょちょっと待ってくださいよ!キリトは?キリトに電話すれば繋がりますよきっと。」

 

サラッと爆弾発言する悪魔(ルビス)に俺は必死にしがみ付き、提案するが

 

「ダメよ〜キリちゃんはシズクの前ではやたらと情けないもの。きっと携帯もチェックされてるわ〜。」

 

確かに。

俺は素直にそう思った。でもリアルに命がかかっている以上こっちも引けない。

 

「じゃ、じゃあミレーユはどうすか?ロイヤルガードで一番生真面目なミレーユなら出るんじゃ?」

「ミレーユ〜?あ〜あの子かぁ。私、あの子の番号知らないもの。」

「おおお俺は知ってます!!なんなら俺が電話しますから!お願いだから殺さないで。」

「も〜面倒臭いなぁ〜。じゃあ一回だけよ?」

「は、はははい!」

 

面倒臭いときましたか。

しかし俺は女神に貰った一回限りのチャンスを掴みとるため、仲魔であるミレーユに電話するのだった。

 

 

 

 

『もしもし?』

「俺だ、キョウイチだ。」

 

電話の向こうのミレーユは、妙に張り詰めた雰囲気だった。

 

『なに?私、今とても忙しいのよ。それよりキョウイチ、貴方ちゃんと魔王様の遣いは果たしたのでしょうね?だいたい貴方は……』

「いや、それがちょっとあって……それで姫に代わってもらいたいんだけど。」

『キョウイチ!貴方は何度言ったら分かるのですか?魔王様をそんなヤワな呼び方……』

「分かった分かった、魔王様に変わってくれ。」

 

ミレーユはまだ不満そうにブツブツ言ってるが、どうやら魔王に代わってくれたようだ。

 

『代わりました。どうしたんですかキョウイチさん。』

「それが……姫、」

『はい。』

「俺の身柄は預かった。無事に返してほしくば……」

 

ブツン!ツーツーツー……

 

まだ何も言ってないのに切りやがった。

恐る恐る後ろを振り向けば、指先にメラの炎をちらつかせる悪魔大僧侶(ルビス様)

 

慌てて再度ミレーユの携帯にかけなおすと、明らかに嫌そうな声で魔王は出た。

俺は必死に今の状況を伝えると、魔王は深いため息を吐いた。良いんです、呆れられようが命がかかってるんだから。

 

『……だいたい状況は把握しました。キリトさんの家に行ったら、ジジイ(ゾーマ)とババア(ルビス)に遭遇してしまい、拉致されたと。そして無事に返してほしくば、私とキリトさんに武装解除して投降しろとおっしゃるのですね?』

「そうです!姫、助けてくださいよー!」

『何で本人が電話してくるのですか?余裕あるじゃないですか。』

「違いますよ。姫がルビス様とかの電話に出ないから……」

 

そこまで話したところで、ルビス様が後ろからヒョイと俺から携帯をうばいとる。

 

「もしもし〜シズク?元気にしてるの?」

『ッ!!お、お母さん……』

「あ!切っちゃダメよぉ〜?もし切ったらそっち(魔王城)に押し掛けちゃうからね〜。」

 

ルビス様は笑っているが、間違いなく姫との間に凄まじいまでのプレッシャーのやり取りをしている。

 

「300年ぶりねシズク。ちゃんと食べてるの?」

『うん……。』

「ちゃんと力を抑えてる?無茶なことしてない?」

『うん……。』

「あまりパパ(ゾーマ)を苛めちゃダメよぉ〜?パパ泣いてるわよ〜?」

『前向きに考えてみます。』

「それとキリちゃんにあまり八つ当たりしちゃダメよ?」

『……。』

「そこは答えないのね〜。まぁ良いわ。」

『それでお母さん、要件は?』

「そうそう忘れてたわぁ〜。お宅の(魔王軍)キョウイチくんは預かった。無事に返して……『良いですよ。』」

「ん〜?それはどっちの意味かしら?」

『殺っちゃっても良いという意味です。』

「ちょっと待てーーー!!」

即答と言うのよりも早い、要件を最後まで聞く前に姫は答えた。こんな死に方はあんまりだ。我慢なんかとてもできやしない。

 

しかし、そんな俺以上に我慢出来なくなっている男がいた。

 

「シズク!!シズクなのか?俺だマコトだ!シズクーーー!!!」

『ッ!!』

 

電話を持つルビス様の近くで堪らず叫ぶマコト。ルビス様は、少しだけ寂しそうに微笑みながら、電話が切れた事をマコトに伝えるのだった。

それを聞いたマコトは、肩をガックリと落とし、サンディとプサンに支えられるように、証を探すためにキリトの部屋へと消えて行くのだった。

 

 

 

「さて、この不要になったモノの処分はどうする〜?若い魔族くんは助けてあげても良いかなって私的には思うんだけど〜。」

「いやいやいや、俺も助けてくださいよー。」

「え〜?でも邪魔だしなぁ。」

「俺けっこう役に立ちますよ。」

 

本気で処分を考えていそうな悪魔大僧侶(ルビス)に俺は必死にくらいつく。部下の目の前とか言ってる場合じゃない、この人は殺るときめたら必ず殺る。俺は姫の側で嫌というほど見てきたのだ。

 

「じゃあ聞くけど、キョウイチくんは何ができるの〜?」

「俺はバラモスブロスです。戦闘は得意です。魔王軍も蹴散らせます。」

「却下。」

 

即答っすか。本当にこの母娘は…

 

「俺の趣味はトレジャーハンターですから、キリトや神龍の証を探すのに役立ちますよ!?」

「却下。」

「クッ!それなら、最近俺は魚料理に凝っています。美味しいマグロ料理ご馳走できます!」

「………」

 

 

お?思った以上に反応が?

 

「更に馬車引きや、舟漕ぎも得意ですし、今なら肩叩き等のマッサージ付きです!!」

「採用!」

「いよっしゃーーー!!」

 

こうしてめでたく俺は、勇者マコトの新パーティの馬車引きとして仲間に加わることで命を繋ぎとめるのだった。

 

「あの…キョウイチ様、僕はどうしたら?」

「おおエルギオス。お前は解雇(クビ)な。」

「は?」

「じゃあ元気でな。」

 

 

 

訳も分からず1人残された青年魔族。

キョウイチのまさかの敵側への加入により魔王軍を解雇された部下ことエルギオスは、魔界に帰るも居場所がなく、途方にくれてしまう。更にトドメとばかりに幼い頃助けてくれた『白銀の女神』が実は魔王で、災厄を起こした張本人であったこと、さらに唯一救われたエルギオスの事を彼女は全く覚えていないどころか、しつこく聞いたエルギオスを蹴り飛ばし、人間の世界に叩き落されたことで彼はグレてしまい、後に堕天使エルギオスと名乗り人間の世界を恐怖におとすのだがそれはまた別の物語。

 

 

 

 

 

 

 

「これがキリトさんの部屋か……少しイメージと違うな。」

「部屋の模様替えをシズクちゃんが勝手にしちゃうから諦めたって、ずいぶん昔にキリト様がボヤいてたからね。」

 

俺の何気ないつぶやきを拾ったのは、共にキリトさんの証を探すサンディ。口は悪いが何だかんだ色々と付き合ってくれる。そんな彼女に言われて改めて部屋を見渡せば、なるぼど確かにアリアハンにあったシズクの部屋に何処と無く似通っている。

 

「それにしても未だに信じられないんだよな。あのシズクが魔王だなんて……。」

「……。」

 

確かに行き過ぎるとこも多々あるけど、基本的にシズクは優しい。そんなアイツが魔王だなんて……。

そんな悩める俺の肩に手をかけ、サンディとプサンくんが無言と言う優しさで包み込んでくれる。

 

 

「証は見つかりましたか?」

そんな俺たちのもとへ神界の女神セレシアがやってきて声掛ける。

「…何処にあるのかさっぱり…。」

そんな俺をセレシアは右手を少し上げる仕草で止める。見た目が14、5歳くらいの少女なのだが、この威厳はさすが神界の女神だと思う。

 

「マコトさま、何もお嬢様は好き好んで魔王に君臨しているわけではありませんよ?より大きな力を持っているお嬢様の、言って見れば運命と言うものです。」

「力を持つシズクの運命?」

「そうです。貴方に想像できますか?全宇宙を無に還す程の力を持つお嬢様の辛さを。」

「……。」

「強大な力は、力に比例した決断が時に必要とされます。例えば…そうですね、大洋を渡る豪華客船があったとします。豪華客船の中には、老若男女50名が

乗船しています。もちろん昨日まで何の繋がりも無い人々です。そんな豪華客船の中で致死率が凄まじく高い呪いが発動してしまったとします。その呪いは強力なもので、ヒトからヒトへと空気感染していき、次々と乗船していたヒト達は死んでいきます。まだ感染していない者達は、お互い助け合いながら何とか対岸の都市に辿り着き、避難しようと生きるのに必死です。……ですがここで考えてみてください。このまま致死率の高く、解除不能な呪いが蔓延した豪華客船を岸に辿り着かせてしまったら、たちまち呪いが都市に蔓延し、死者は凄まじい勢いで増えるでしょう。対岸の都市で豪華客船を待つ貴方様は、どうしますか?」

「俺は…助けられる命があるのなら、その可能性を信じたい。1人でも多く助けたい。」

「そうですか、とても勇者らしい答えですね。ですが、貴方様の決断はとても残酷でございますね。」

「え?残酷?」

「さようです。豪華客船が対岸の都市に着けば、呪いが蔓延するのですよ?その被害は?数千?数万人にも及ぶかもしれない。陸路を行く旅人に感染したら?それこそ世界が滅亡してしまうかも知れません。貴方様の決断には、そんな結果の可能性も秘めているのです。死ななくても良い人まで巻き込む結果。」

「じゃあ、女神セレシアは50名を見捨てるのが正しいと言うのですか?」

「そうは言いません。ですが、誰かが決断をしなければならないと言うのです。数千、数万、果ては世界の未来の為の決断を。豪華客船に乗っている人も決して悪ではない、それでも……。それが力を持つ者の運命。お嬢様の背負う魔王という名の責務ですございます。救われた命と、救われなかった命の違いは何でしょうか。その葛藤が優しいお嬢様の心を次第に傷つけていったのです。」

 

 

頭をハンマーで殴られた気がした。

今まで自分の魔王と勇者の認識が甘いものだと思い知らされたような気がした。

魔王は人間の世界を脅かし、勇者は人類の矢面に立ち、正義の行使者だと安易に考えていた。それが…魔王にも責務があるのだと。

 

じゃあアイツは?

シズクはどうなんだろう。魔王の責務でもこんなに重いのに……アイツは神界の魔王。言わば魔王の中の魔王、神魔王だ。そんなアイツはどれだけ大きなものを背負っているのだろう。俺には想像も付かない。

それなのにシズクはいつも俺の隣で微笑んでいたのかと思うと胸が締め付けられた。

 

 

そんな俺に今度は優しい声でセレシアは

 

「本当に君は面白いですね。」

「は?」

「冗談ですよ。良く考えてみてください。あのお嬢様の力で解けない呪いなんてありませんよ。それこそお母上様(ルビス)か、お父上様(ゾーマ)の呪いでもない限り。きっと呪いさえも無に還すでしょう。まぁもっともお嬢様の事ですから、客船ごと無に帰しちゃいそうですが。」

 

そう言ってセレシアは笑う。

 

「それより見て下さい。その本棚の本にある本に栞のように挟まっている輝く黄金のプレート。それがキリト様の証ですよ。」

 

そう言って指先した先に一際輝く一冊の本があった。本のタイトルは『ソードアートオンライン』とあった。なんだか何処かで聞いたようなタイトルだ。

 

 

マコトは大事な物『ソードアートオンライン』と、ついでにキリトの証を手に入れた。

 

 

「それにしても証って大事な物じゃないんですか?こんな栞のように扱われているなんて。」

「勇者さま、証は言い換えれば創造神の心なんですよ。各々の想い出深い所に現れるのですよ。」

「想い出深い?」

「さようです。ルビス様の想い出深い場所は、ご家族で森羅万象全てを造られた神界の城の部屋とか、おそらくその本はキリト様とお嬢様にとって想い出深い物なのではないでしょうか。」

 

 

シズクとキリトさんの?

俺は一応本を袋に入れておくことにした。そんな俺達のもとに、キョウイチを引き連れたルビス様とゾーマが部屋に入ってきた。

 

「どうやら見付けたようね〜。さっ、例のポーズをやって〜。」

ニコニコと微笑みながら、意味の無いポーズを要求してくる女神。意味がないと本人も言っていたのにやらせるんですか?

しかし、やらないで機嫌を損ねてしまうと後が怖いので、要求されるままに俺はキリトの証を頭上に掲げた。

 

 

「デレレレーン!!」

 

「何だそれ?」

 

キョウイチの、意味不明な何らかの音程を含んだ発言に問う。

「気にするな、これは効果音だ。」

「意味わかんねーよ!」

「ウフフ。良い感じよ〜キョウイチくん。」

 

嬉しそうに自身の頭を手で抑えながらペコペコするキョウイチ。何だか良く分からないが、どうやらキョウイチは何らかの取り引きをして、俺等のパーティに入ったようだ。

 

「さ、後一つね〜。」

 

 

こうして俺達は最後の一つ、神龍の証を目指すのだった。

 

 

 

 

 

つづく?

 

 

 

 

 

【魔王城の日常】

 

 

 

 

キョウイチが悪魔大僧侶に拉致されるより少しまえ、光も通さぬ闇の奥深く、魔王が座する城、魔王城では只ならぬ緊張が支配していた。

 

「ほら、キリトの番だぜ。」

 

ロレンスの一言に合わせるように差し出されたシズクの手にある三枚のカードを、キリトは暫く眺めた後、一枚とり自分の手持ちのカードと一緒に台座に置く。

 

「あがりだ。俺は一応戦いの神だぜ?勝負と名が付けば有利に決まっているだろ?」

 

得意になって勝利を宣言するキリト。しかし、隣に座る魔王の顔が横目に映り黙る。彼女はいつも通り女神の如き笑顔で微笑んでいるが、あれはダメだ。

他でもない、誰よりも共に過ごしてきたキリトだから分かる魔王の不機嫌な顔。

みんな気付いていないようだが、部屋の温度は5度ぐらい下がった。

 

そんなキリトの不安を知ってか知らずか、彼女は言う。

 

「次はロレンスさんでしょ?早くしてください!」

 

何気に語尾は強い。

これはシズクを勝たせなきゃマズい。キリトは二人にアイコンタクトを送る。言葉にして彼等に送れば、心を読むシズクに悟られてしまう。

そうなればこの不機嫌な捌け口が、自身に向けられてしまう。キリトはそれだけは避けなければならない。

 

そんなキリトのアイコンタクトに、黙って頷いたロレンスは、ミレーユが差し出したカードを抜くと、ニヤリと笑い手持ちのカードと共に台座に置いた。

サスガはロレンスだ。何にも伝わっていないどころか、空気さえ読んではくれない。

横目に映るシズクは、明らかに引きつった笑顔になっている。

 

益々危険だ。

魔王城の部屋の温度も、先程より明らかに10度以上は下がっている。

 

 

もう自分達の運命はミレーユに任せるしかない。

 

ミレーユも先程とは打って変わり、今はもう笑っていない。彼女も自分の置かれた状況にどうやら気付いたようだ。

 

 

シズクは手元にある二枚のカードをミレーユの眼前に差し出す。片方のカードだけを突き出す形で。

そして女神の…いや、魔王の如き笑顔を浮かべている。

 

 

 

魔王様……わたくしを試していらっしゃるのですか?わたくしの魔王様へ対しての忠誠心を。

いや、わたくしも魔王様の三大軍隊の将が1人。どの様な状況に於いても勝利を魔王様に捧げる。そんな強いわたくしの決断を示すのを待ってらっしゃるのか?

 

他人の心を読む力など持ち合わせてはいないが、中々シズクのカードを引かないミレーユの心情はきっとこんなところであろう。

 

 

 

そんなプレッシャーが交錯する中、突然シズクの携帯が軽快な音楽を奏でた。

シズクは携帯を台座に置いていたので、ディスプレーに表示される『ババア』の文字が見えたので、電話の相手がルビス様である事をキリトも悟る事が出来た。

 

「出ないのか?シズク。」

「良いんですよ。今はミレーユさんがどちらを引くのを待つ方が大切ですから。ハイどうぞ、ミレーユさん。」

 

言葉の最後の方の部分だけ何故かトーンを下げて話すシズクは、ミレーユの眼前に再度片方だけ突き出したカードを出す。やはり彼女にプレッシャーをかけているようだ。

 

青ざめたミレーユの顔を見ていると、不憫でならない。

 

 

 

暫く無言の圧力がミレーユに向けられていると、今度はミレーユの携帯が鳴り、ミレーユはビクリと身体を揺らす。しかしこの硬直状態を抜け出す絶好の機会に、ミレーユは安堵の息を吐き、シズクに失礼しますの挨拶と共に電話に出る。

 

 

「なに?私、今とても忙しいのよ。それよりキョウイチ、貴方ちゃんと魔王様の遣いは果たしたのでしょうね?だいたい貴方は……」

『いや、それがちょっとあって……それで姫に代わってもらいたいんだけど。』

「キョウイチ!貴方は何度言ったら分かるのですか?魔王様をそんなヤワな……」

『分かった分かった、魔王様に変わってくれ。』

「魔王様、キョウイチが魔王様に話しがあるようですが…いかがいたしまょうか。」

「恭一さんが私に?」

 

そう言って、携帯の声を拾うマイク部分を押さえながらシズクに携帯を渡すミレーユ。

なるぼど、そういう事か。さすがミレーユだ。

キリトは瞬時にミレーユの狙いに気付いた。

 

今の勝負は、そもそもキリトの証を取りに行ったキョウイチの様子を誰が見に行くかを決める為のもの。勝っても負けても危険な状況に陥っているミレーユは、たまたま電話してきたキョウイチにシズクの怒りを向かわせることでうやむやにし、この勝負自体に幕引きするつもりのようだ。

 

 

『代わりました。どうしたんですかキョウイチさん。』

 

しかし、シズクは出て数秒で電話を切った。側から見ていても話しが終わったようには見えない。明らかに不自然な切り方だ。

 

「どうしたんだシズク。キョウイチはなんて?」

「イタズラ電話です。身柄は預かったって。」

「それって誘拐か?あのキョウイチが?」

「でもそれを自分で言ってるんですよ?犯人じゃなく、自分で。」

「は?なんだそりゃ。」

 

そんなやりとりをしていると、シズクの手にまだ持っていたミレーユの携帯に再びキョウイチの名が表示された。

 

「魔王様、一応キョウイチは我らが軍の三大将軍の一柱です。そんなキョウイチを拉致できるものなど……。」

 

言っておいてミレーユも、それが出来る2名の存在に気付いて黙り込む。

 

「姫、今魔王軍の予算はあまり良くないぜ?」

 

もう1人の将軍であるキングヒドラのロレンスは、さすがに先ずは財政の事をシズクに進言する。

 

「ですが、キョウイチは私ミレーユとキングヒドラのロレンスとで三大将軍です。その将軍が敗れたとあれば軍に支障も……。魔王様、逆探知を行いますので、なるべく話しを引き延ばしてください。」

 

ミレーユの進言にシズクは頷き、携帯に出た。

電話から漏れるキョウイチの声が早口なとこを考えるあたり、ヤツもだいぶ必死な状況なようだ。

シズクも適当に流しながら話している。そんなシズクの様子が一転した。

急に正座して電話し始めたのだ。まず間違いなくルビス様に代わったのだろう。急にしおらしくなったシズクは、小さな少女のようで何だか笑えた。

 

しかし、それも長くは続かなかった。

急にシズクは持っていたミレーユの携帯を床に落としたのだ。焦点は定まらず、呼吸も荒い。

何者にも動じないシズクがここまで動揺する姿を始めてみた気がする。

 

ミレーユの携帯は床に落とした衝撃で壊れた。既にガラクタとなった携帯を、今もシズクは黙って見つめている。

 

キリトには心当たりがあった。

きっとキリトの最初で最後の弟子であり、これから永遠のライバルになるであろう、マコトが電話に出たのだと。

 

シズクは暫く放心状態ではあったが、さすがは魔王と言うべきか、今やるべきことだけは分かっていたようだ。

今度は無言でかつ、変なプレッシャーもなしにミレーユに二枚のカードを差し出す。

もちろん片方だけ飛び出した状態で。

こんな時でもそれはやるんだな。

 

 

ミレーユももう勝負とか考えていない。シズクが取れとばかりに突き出したカードを……取らないで、奥のを引こうとするが、それをシズクは凄まじい握力で引かせまいとしている。

ミレーユが両手で全体重を乗せて何とかシズクから奪ったカードと共に、自身のカードを台座に置いたとき、既に城内は氷点下と化していた。

勝負に勝利し、飛び跳ねて喜ぶミレーユも一瞬にして固まる。

 

 

「ま、まままま魔王様、キョウイチはもう助からないのですから、これはもうただの余興ですよね?ね?ね?」

 

ねを3回言ったミレーユは、真っ青な顔で後退りしながら正論でシズクを止めようと試みるが、俺からすればソレは無駄な行為だ。

確かにこの余興は、キョウイチの様子を誰が見に行くかを決める為のものだった。

目的の為の手段がたまたまカードゲームだっただけだ。

しかしだ!シズクは往々にして、目的の為の手段のはずが、手段の勝敗に意識がいってしまい、いつしかカードゲームで勝つことが目的となってしまい、本来の目的を忘れることが多々あるのだ。

きっと既に、本来の目的のキョウイチの様子を見に行くことなんて、頭の片隅にもなくなっていることだろう。

 

「闇に惑いし憐れな影よ。私を傷つけ貶めて罪に溺れし業の魂……ミレーユさん、あなたもいっぺん……死んでみる?」

 

シズクは両手に魔力を溜め、後ろに仰け反るようにその手を上げた。

 

「カイザーウェイ○!!」

 

どっかの世界で覚えたであろう何らかの技の名前を発すると同時に両手を前面に突き出すと、両手に溜め込んでいた魔力が、大きな渦となってミレーユを巻き込み、先に走って逃げていたキングヒドラごと、魔王城の天井を突き破り、魔界の星になって消えた。

俺はといえば、来るのが分かっていたおかげで難を逃れることができた。

 

「ああスッキリした。あら?キリトさんは上手く避けましたね。まぁ良いです、それならキリトさんも一緒に行きましょう。」

「行くって……何処へ?」

「察しが悪いですね。キョウイチさんと一緒にババア(ルビス)がいたと言うことは、アナタの証は既に回収されたことでしょう。そうなれば後一つ、神龍の証を先回りして回収するしかないじゃないですか。」

「いや、それは分かっているんだが……お前が取りに行くのか?」

「はい。」

「直接?」

「そうですが…それが何か?」

「アホか!マコト達はお前と再会する為に神龍を目指して証を集めているのに、お前が行って鉢合わせしたら意味がないじゃねーか!!」

「だ、大丈夫ですよ。私、変装とか得意ですから。ほら、美少女戦士……」

「美少女戦士シズリンならラダトームで一度瞬殺でマコトにバレてるからな?」

「グッ……」

「だいたい、お前が直接行くとか有り得ないだろうが!」

「そんなに強く言わなくても……。」

「いいや、言うねッ!!お前が直接行くってのは、アリアハンを出て直ぐに遭遇したスライムにギガデインを使うくらい有り得ないっつーの!!」

「そ、そこまで言いますか。」

「だいたい放っておけば良いんじゃねーか?マコトが神龍に一撃なんて無理に決まってるじゃないか。俺を除けば、只の一度たりとも神龍に一撃をくわえた者はいないんだぞ?ルビス様やゾーマ様が手伝うならまだしも、神龍は神々ならまだしも、仲間のうちに創造神がいたら現れない事になってるんだろ?だったら放っておけば良いんだよ。」

「むぅ……分かりましたよぉ……。」

 

 

ガックリと肩を落としたシズクは項垂れている。少しだけ可哀想だが、こればかりは仕方がない。

何とかシズクに理解させることが出来たが、ショゲている彼女を見るのは忍びない。俺は踵を返して魔王城の中にある自室へと帰ろうと振り向いたその時だった。

 

「と、見せかけてー。」

 

 

シズクは横っ跳びで俺の右足を掴むと、自身の身体を捻る。そして捻った身体が戻ろうとする反動を使って俺を投げた。

 

「ド、ドラゴンスクリューだとーー!!」

 

 

キリキリと横回転を伴ったまま俺は、先ほどミレーユとキングヒドラがぶっ飛ばされた天井の穴から、同じく魔界の星になるのだった。

 

 

 

「まったく……私をアホとか言うからそうなるんですよ。」

 

凄まじい勢いで遠のいていくシズクの一言に、

 

「そこかよ!」

 

 

必死に突っ込んだ俺の一言は、たぶん彼女の耳には届かなかった。

 

 

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