ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険   作:シズりん

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第29話

 

 

 

 

 

正直意外だった。

 

16の誕生日まで暮らした故郷アリアハン。

南側が海に面した故郷は、風向きによっては潮の香りがする。一方北側には小高い丘が連なっていて、バラモスが現れるより以前は、まだ魔物も凶暴化することもなく、夕暮れまで野山を駆け巡って遊んだものだ。

 

ホイミとルーラを覚えたら客は来ない、を持論に昼間から隣のルイーダさんの酒場に入り浸る道具屋の主人。裏山で適当に拾ってきたようなタケヤリでお金を取る武器屋の主人。城への道を歩けば途中に現れる、荘厳な雰囲気漂う教会。

大雪舞うアリアハンに迷い込んだシズクを引き取った養父の神父様は、彼女をシスターにしようと頑張っていたのを覚えている。

シズクの部屋は教会の裏の小屋にあり、まだ幼い頃は良く遊びに言ったものだ。

2人がいい歳になった頃、ある事をきっかけにノックもしないで入ることは無くなったのだが……。

 

目を閉じれば昨日のことのように、暖かい気持ちとともに甦る。

あぁ、今分かった。俺は懐かしいのだ。住んでいた時には何も想う事の無かった故郷は、変わらずに帰りを待っていてくれる、心の帰る場所。

 

俺は大きく息を吸い、懐かしい空気を堪能したあとに言う。

 

 

 

「って、アリアハンがねーーーーー!!!」

 

 

 

 

「まぁ、あれから300年経ってるからね〜。」

 

少し遅れて旅の扉の渦から出てきたルビス様が、何でもないような事のように言う。

俺たちは『神龍の証』を求めて人間の世界へとやってきたのだ。

 

「みんなちょくちょく言ってましたけど、本当に300年も経っているんですか?」

「そうよ〜。普通ヒトは、死ぬと記憶がデリートされた状態になって、新たな身体に入り新しい人生を始めるのだけど、レアな魂ほど再生に時間がかかるのよ〜。勇者くんは文字通り勇者だからね〜、神への転生に300年かかってしまったのね〜。」

 

普通に話してますけど、それって結構重要な話しですよね?

 

「300年も経つと風化して何もなくなっちゃうんすね。」

「風化が原因じゃないわよ?滅ぼされたのよピサロくんに。」

「なんだ、ピサロが……え?ピサロが滅ぼしたの??何で?」

「ピサロ様と言うよりは、ピサロ様がまだデスピサロと呼ばれる1魔族だった時ですね。」

 

さらにルビス様の後から旅の扉を渡ってきた神界の女神セレシアが、冒険の書と書かれた分厚い本をペラペラ捲りながら教えてくれた。

 

「人間界の歴史書(冒険の書)によると、ゾーマ様を勇者様が討った後に、アレフガルドとアリアハンの二つの世界は切り離されたようです。アレフガルドの方は、もうご存知だと思いますが、実の妹君であるサキ様の子孫が勇者となったようですね。一応勇者の血筋ですから。」

 

セレシアからとても懐かし名前が出てきたことで、俺の心を暖かい気持ちで埋め尽くす。サキはツカサと幸せに生きたのだろうか。仲間への想いが溢れてくる。

 

「……で、アリアハンの方は切り離された後は衰退していったようですね。あら?現在のこの世界の神は…。」

「はい!僕です。」

 

最後にサンディと手を繋いだまま旅の扉を抜けてきたプサンが、飛び跳ねるように元気に右手を上げている。

 

「プサンくんが?」

「そうですね。マスタードラゴンであるプサンが治めるこの世界では、アリアハンのあったこの村は勇者の村と呼ばれていたようです。」

「勇者の村?」

「はい。冒険の書によれば、勇者様と妹さまを失ったお母様とお父様は、後にもう一子お生みになったようですね。その子孫と後に天空人との間に子供が生まれ、やがて勇者となっていったとあります。」

「でも……それだとおかしいですよね?世界は俺とゾーマの闘いの後にわかれて、そして後にピサロが滅ぼしたんですよね?でも、アレフガルドでのピサロは既に闘いを放棄していましたよ?」

「ピサロくんと一緒にいたエルフの女王ヒメアの娘さん覚えてる〜?」

 

セレシアとの会話に入ってきたルビス様は、エルフの少女ロザリーの名を上げた。

 

「エルフはね〜、時を越える力を持った種族なのよ。だからロザリーちゃんのゲートを渡って過去に愛の逃避行をしてたみたいね〜。」

「ようするにあの二人は未来から来てたってことですか?」

「あら!勇者くんは意外と頭良いのね〜。」

 

意外とは余計です。

 

「じゃあ本来この世界の二人は?」

「もちろんちゃんといるわよ〜ね?セレシアちゃん。」

「はい。ルビス様の言う通りでございます。」

 

ルビス様に頭をなでられて照れているセレシアに聞いた。

 

「じゃあ、俺の仲間達は皆もういないのですか?」

「調べてみますか?」

 

そう言ったセレシアは、何やらブツブツと呪文のようなものを唱えると、淡い光に包まれた冒険の書がペラペラと開きだす。

 

「先ずは妹のサキ様ですね。彼女は賢者であると同時にラダトームの王妃として生涯を過ごしておりますね。え〜現在は……あら?彼女はどうやら神界に神としているようですよ?あら?サンディと仲良しみたいですね。」

「なに?ショボいのサキちゃんのお兄ちゃんだったんだ。あまり似てないね」

「ほっとけ!」

 

意外にも近いとこにサキがいる。きっといつか再会できるだろう。

 

「ツカサ様は…やはりラダトームの王として生涯を終えたようです。彼もまた神界に神としているようですね。お笑いの神となったようですね。現在もサキ様といるようです。よほど愛していらっしゃるのでしょう。」

 

ツカサ……お笑いの神って…似合いすぎる。

 

「次はパパス様ですが…彼は魔族になったようですね。相棒にサンチョ様を引き連れて、魔界に新たな勢力を築いているようです。」

 

パパス王にサンチョさんも相変わらずなようだ。

 

 

「ピサロ様にロザリー様は…あれ?まだ過去のアレフガルドにいらっしゃるようですよ?現在はお子様が3人いらっしゃるようです。まぁ私が語るまでもなくラブラブなようですね。」

 

そうか…あの二人はまだあの世界にいるんだな。ピサロに…ロザリーさん…子沢山で幸せにしてるのなら良い。

 

「キングヒドラのロレンス様にキリト様、お嬢様は魔界におられますね。」

「………とにかく今は神龍の証を探そう。思い出に浸るのは、神龍に願いを叶えてもらって、シズクと再会してからにしよう。」

 

 

俺の決意をルビス様とゾーマは満足そうに聞いていたのだが、その時の俺はまだ気付いていなかった。

 

 

 

 

「で、この滅びたアリアハンに神龍の証があるんですか?」

「どうかなぁ〜。人間の世界にあるのは確かなんだけど、何処にあるかまでは分からないのよね〜。」

「じゃあどう探したら…。」

 

人間の世界に来たは良いけど、いきなり行き詰まる俺たちを、無言と言う静寂が辺りを支配する。

 

 

 

 

 

 

「手掛かりがないのなら、過去の世界に戻り一から見直してみるか?」

 

静寂を打ち破ったのは、羊を撫でているゾーマだった。ゾーマが言うには、迷ったのなら初めから探し直せば良いと言うのだ。

特に宛てのない俺たちはゾーマの意見に賛同すると、ルビス様は右手を突き出し、握られた手から光の雫をポタリと落とす。

すると、パカパカパーンとか言うキョウイチの音楽を含んだ掛け声にあわせて、光の雫から木で出来た机が現れた。

 

「さ、行くわよ〜。」

「行くってどこへ?」

 

当然の質問だと思う。机に乗って移動するのか何なのかは分からないが、突然これだけ出されても俺には分からない。

だけどルビス様はニコニコと笑顔を湛えたまま机の引き出しを開けて、ハイと机の開かれた引き出しを指差す。

 

「机がどうかしたんですか?」

「何言ってるのよ〜。過去に行くんでしょ〜?タイムマシンと言えばコレでしょ?ほら、早く行くわよ〜のび太くん。」

「だから誰れがのび太だ!!」

 

まぁまぁと背中を押される様に俺を机の引き出しに押し込むルビス様は、ゾーマとルビス様と俺の3人が引き出しの中に入ると、引き出しを閉めた。

 

「行ってらっしゃいませ、のび太様。」

 

セレシアが呟いた一言が胸に刺さりながら、俺はルビス様とゾーマの3人で過去の世界へと渡るのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー

 

 

「オエッ。」

変な絨毯に乗って移動してきた机の中で乗り物酔いしました。

ハリセンを持ったルビス様がホイミをかけてあげましょうか〜などと言うが、持っているものが怪しすぎるのでやんわり断った俺は、吐き気が治ったところで辺りを見回した。

 

 

そこは今度こそ懐かしい世界だった。

母さんが庭の花に水をあげている。空気の匂いや風の柔らかさ。全てが懐かしい故郷アリアハンだった。

 

「ただいま母さん。」

 

俺は懐かしさのあまり、アリアハンを旅立って以来の母に声をかけた。

 

しかし返事は返ってこなかった。

ゾーマは少しだけ悲しい表情で、俺の肩に手をかけて言った。

 

「これは過去に私達が来たのではなくて、過去の世界を見ているにすぎないんだ。言わば映像だから彼女たちに私達は見えていないし、声も聞こえもしない。証拠にアレを見なさい。」

 

ゾーマが指差した先を見ると、そこには俺がいた。

過去の世界の俺が部屋から眠そうな目を擦りながら階段を降りてきたのだ。

忘れもしない旅立ちの日の朝の光景だ。

 

「私達はこれから、君のしてきた旅路を辿ることで、神龍の証の手掛かりを探ろうと思う。」

「ならば一つお願いがあるんです。俺ではなくて、シズクの……お二人の娘の足跡を辿りたいんです!」

「え?でも〜……。」

 

俺の提案に言葉を失うルビス様は、ゾーマと顔を見合わせる。しかし、暫くしたのちに快諾とまではいかないが了承を得て、シズクがいるであろう教会へと向かった。

 

「まぁ…いずれ判る事だしね〜。いいわ、行きましょう〜。」

 

なんとなくルビス様の残した一言が気になりながらも。

 

 

 

教会にたどり着くと、中ではシズクの養父である神父さまが、祭壇に掲げられたルビス様の像に朝の礼拝を行っていた。改めて像を見ると、よくもこんなに似せたなと言う程本人に似ている。

強いて違う所をあげるとしたら、本人と違って本心から慈愛に満ちた微笑みを浮かべていることだろうか。

 

「あら?私達は優しいわよ〜?勇者くん。」

「心を読むのはやめて下さいってのはさておき、どの辺りが優しいんすか?特にルビス様。」

「あら?知らないの〜?私達の有名な話しがあるじゃない。ある人間が、世界にたった100人しか善人がいなかったらって質問にたいして、私達はその100人の為に世界を滅ぼさないって話。」

「昔どっかで聞いたことありますよ。最終的に例え善人がたった1人だとしても、その1人の為に世界を救うと言う話ですよね?アレって二人の話だったんですね。」

「そうよ〜。私達は優しいんだからね〜。」

 

そう言って片目を閉じウインクしてみせる。

危うく感動してルビス様を見直しちゃうとこでしたよ。コッソリとゾーマから聞いた裏話、たった一人がルビス様をおばさん呼ばわりして滅ぼされた世界の話を聞かなければ……。

 

「それにしても肝心のシズクがいないなぁ。アイツ何処にいるんだ?」

「あのね勇者くん…凄く言い辛いんだけど……。」

「分かった!!裏庭だ!」

「あ……」

 

 

思い出した。

シズクは毎朝教会の裏庭にある花壇に水をあげていた。きっとアイツはそこにいる。俺は何かを言いかけていたルビス様を振り切り、教会を出て裏庭へと走る。

 

 

花壇には、教会を飾るかのように白い花が植わっている。太陽の光を受けて、キラキラと輝く水に虹の橋が架かっている。

ビクビクとしながらジョウロで水を撒く少女はそこにいた。流れるような長い黒髪。透き通るような白い肌に掛かる髪が何とも美しい。

今日はシスターの服装ではなく、旅の中見慣れた僧侶の衣に身を包んだシズクはそこにいた。

ようするに旅立ちの日にシズクは朝からついてくる気満々だった訳だ。

 

 

「ん〜?」

 

ルビス様は、ビクビクしながら水を撒くシズクの顔を、息がかかるほど間近な距離から覗き込んでいる。

しかし等の本人は、まるでこちらに気付いていないかのように水を撒き続けている。

つい今しがた自分達が、これは過去の映像のようなものなので、今の俺たちが見えないと説明していたばかりでしょうが。

 

「ま、いっか。」

 

時間にして数秒、シズクの顔を覗いていたルビス様が離れるやいなや、今度はゾーマがシズクゥ!!と、叫びながら抱き付こうと飛ぶ。

が、タイミングよく水を撒き終えたシズクは、ヒョイと交わすかのようにその身を移動したことにより、ゾーマは教会に顔から突っ込んだ。

 

「それにしても、相変わらずジョウロが苦手なんだなシズクのヤツ。」

腰が引けるように、おっかなびっくりジョウロで水を撒くシズクの姿が懐かしい。どういう理由かは知らないが、彼女は水撒きなのか、ジョウロ自体なのか分からないけど、以前から苦手としている。

 

そんな長年の謎に答えたのは鼻血を垂らしたゾーマだった。

 

「あれはトラウマだな。以前妻(ルビス)が城のガーデニングに拘ってたとき、その草木、花々に水を撒くのがシズクの役目だったのだ。あの子は像のジョウロが特にお気に入りでな、自らも楽しそうに水を撒いていたものだよ。そんなある日、いつものように水を撒いていたとき、ふいにジョウロの先の部分が取れてな、水がドバッと花々にかかってしまったのだ。まぁ、普通ならそこまでの話なんだが、あの子は沢山出た水を無に帰そうとしたんだ。きっと失敗をまるごと無かった事にしたかったのだろう。だがそんな事をしたものだから……たまたま付近を巡っていた星はとばっちりを受けて大洪水により水浸し、人類史上最悪の豪雨がその星で暮らす人間を襲ったのだ。私達は半ばその星を諦めていたのだが、変り者のある男が陸にも関わらず船の形をした家を偶然建てていてなぁ……なんとか全滅は避けられたのだ。その後妻(ルビス)にこっ酷く叱られて以来と言うもの、シズクはジョウロを苦手としているのだよ。」

「ああ、あったわね〜そんな事。あの子は少しドジっ子だからね〜。後始末も怪しいからキリちゃんにお願いしたのよねぇたしか。」

 

いやいや、ドジっ子で済む問題じゃないですよね?

分かってますよ。ほんの些細なミスが世界に多大な影響を与えてしまうシズクは、神界の魔王と呼ばれているのも今なら理解してますよ。

 

そんな昔話を聞いてるまに、過去の俺とシズクは合流し旅立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

ナジミの塔に登った過去の世界の俺とシズクは、見た目百パーセント魔法使いの女の子と、いかにも強そうな武道家と対峙していた。

 

忘れもしない、妹のサキと親友のツカサとの出会いだ。

今だから言うけどツカサの見た目の厳つさは、実は最初ビビっていたりした。後から知ったのだけど、二人はこの時点では只の村人だったんだよな。

 

「勇者くんってさぁ〜、サキちゃんが妹さんって直ぐに気付いていたのに何で言わなかったの〜?」

「……恥ずかしいから本人には言わないでくださいよ?」

 

二人と再会し、爺さんから魔法の玉を貰った二人を…過去の世界のシズクを見ながら、俺は絞り出すように理由を話した。

 

「は?もう少し二人きりで旅したかった〜?勇者くんも可愛いところあるじゃな〜い」

 

頬に熱が帯びる。きっと自分の顔は赤面していることだろう。しかし心を読み取るルビス様に隠し事したところで意味がない。

ふと目線を感じ過去の世界のシズクの方を見ると、彼女は向こうを見ていた。どうやら気のせいだったようだ。まぁ、本来この世界にいないオレ達が見える筈もない。俺はほのかに頬を染めた彼女の横顔を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

その後も俺達三人は、過去の世界の自分達の足跡を追っていると、山沿いの祠の先にある洞窟に辿り着いた。この先に封印された旅の扉があって、俺達はアリアハンを出てロマリアに行ったんだよな確か。

 

相変わらず俺のマントをヒノキの棒に包んで火を灯した松明を持って歩く過去の自分を、現在の自分が追うと言った不思議な状況が暫く続くと、二人は封印された場所に辿り着いた。確かこの後は……

 

「そう言えば今更ですけど、本当にシズクはルビス様に似てますよね?」

「何を言うかマコトくん。私にだって娘は似ているんだぞ?目元だとかなぁ…」

 

俺の一言に反論するゾーマはお面をとって素顔を指差して言う。どんだけ悔しいんですかってか、お面だったんすねその顔。素顔は本人の言う通り優しい…まさに神様のような青年の顔をしていた。

 

「俺が言ってるのは見た目じゃなくてですね、無茶な事ばかりするところですよ。」

「あら?私は無茶な事なんかしないわよ〜?」

「「嘘だ!!」」

 

ゾーマと綺麗にハモった。

何度も言うけど嬉しそうに俺をドヤ顔で見ないでくださいよ。しかも何で今回は親指までたててるんすか。

 

「今考えるとよくシズクも不思議なもの出をして暴れましたよ。確かこの後だって……。ルビス様もよく不思議なモノを使いますよね?さっきのタイムマシンとか。」

「え〜普通よ?」

「どこが普通だっつーの!あんなん見たことねーよ。」

 

俺のついに我慢しきれなくなった突っ込みに、ニコニコと嬉しそうに笑うルビス様。この人は絶対に輪の外にはずれると怒り出すタイプだ。本当にそっくりだ。

 

「でも勇者くんはそう言うのが好きなんでしょ〜?」

「ぜんぜん?」

 

ハッキリと本音で答えてやるぜ。

 

「だってシズクもわりとこんな感じじゃない〜。」

「やっぱり自覚してんですねってのはさておき、俺だって好きで毎回突っ込んでるわけじゃないですよ。」

「違うの〜?じゃあ……もしかして蹴られるのが好きだとか?」

「んなわけあるかー!!!」

「もう〜面倒臭いなぁ〜。じゃあ…わかった!見た目であの子を好きになったとか?」

「いいえ?」

「またまた〜。本当は見た目で好きになったんでしょ〜?」

「違いますって。」

「本当に〜?ぜんぜん違うの〜?」

「かすりもしません。第一俺の好みはサキのような派手めな……ってあれ?」

 

気がつくと辺りが寒くなったのを感じた。俺は過去の俺とシズクの方をみると、シズクが虹彩の消え失せた瞳で何やら長方形のものをカチカチと音を立てて『魔法の玉』に火をつけていた。

 

「そうそう、お二人はシズクが持っているあの火を灯す長方形の物体が何なのか解ります……かって、アレ?」

 

俺がルビス様とゾーマの方に視線を戻すと、二人は遥か向こうの部屋へ走り去っていた。

 

「え?」

 

辺りが目も眩むほどの光に包まれていく。自分の足元から伸びる影さえも光にかき消された。

 

 

 

ドガアアァァァン!!!

 

 

 

凄まじい轟音と衝撃波を伴い、過去の俺と現在の俺は纏めて吹き飛ばされて、教会のお世話になることになった。

 

 

 

 

 

ーーつづくーー

 

 

【魔王城の日常】

 

 

 

光も通さぬ闇の奥深く、魔王城はある。

絶対零度に近い気温は、魔族でさえも中々近づくことが出来ない、まさに空間の孤独。

 

ここまで気温が低いと雪さえも降らず、水も木々といった全ての生物は、氷という名の牢獄に永遠に閉じ込められる。

 

そんな魔王城は先日二人の魔将と、創世の神を吹き飛ばした際に屋根が壊れ修理中のため、魔王を含めた四人は移動を余儀なくされた。

 

 

 

 

フカフカに用意された宿屋のベッドを、ポンポンと叩いた魔王は、瞳を輝かせたかと思うと、思い切りベッドへとダイブする。

 

「おいおいシズク。お前は一応女の子なんだからもう少し……」

「一応とはどう言う意味ですか?」

 

首を横に向けギロリと睨むシズクに口を紡ぐキリト。

 

「まぁなんじゃ、キリトも女王陛下も自分の家と思って気楽にしてくれ。」

 

そう言った男の名はパパスと言う。かつてのラダトームの王は、現在は魔族となり宿屋の主人となっている。

 

「それにしても、パパスは何故こんな所で宿屋なんかやってるんだ?」

 

キリトは素朴な疑問をパパスに投げる。何故宿屋なのか。また何故それが人間の世界にあるのかがキリトには不思議だったのだ。

 

そんなキリトの疑問にニヤリと笑みを浮かべたパパスの相棒サンチョは答えた。

 

「愚問だなキリト。私とパパスは魔族に転生したのちに、このsecretbase(秘密基地)を拠点に、そこにいる二人の魔将にキョウイチを含めたロイヤルガードによる正規の魔王軍とは別の…言わば第二の勢力を築き上げたのだ。」

「ああ、それは知っているよ。」

「さすがは英雄キリト、情報が早い。そしてなんとその勢力に、我らが女王陛下が入られたのだ!」

「なに!?」

 

俺はシズクの方に顔を向けると、彼女は少しだけ照れたように笑っていた。

 

「だって……面白いんだもん。」

 

そう言ってシズクはモジモジと照れている。

ようするに何かで釣られたって訳か。

 

「私とパパスはここに宣言する!女王陛下を有した我らの第二の勢力は、現時刻をもって廃止、及び新たな正規軍をたちあげるものである!!魔界の国民よ女王陛下を讃えよ!!我らの魔界グランゼドーラに光りあれ!!ジークシズク!!」

 

サンチョが高らかに宣言すると、何処に隠れていたのか、無数の魔族があらわれ、ジークシズクを連呼している。その様はさながら勝利の勝どきのように見えた。シズクに別命を与えられ、この場にいないミレーユが見たら怒り狂って滅ぼしてしまいそうな光景だ。

だが二人はシズクの本当の願いをまだ知らない。

別にシズクはマコトを嫌って避けている訳ではないのだ。むしろその逆で……。

 

「まぁ俺はどちらが正規でも構わんが、そんなことより話を戻すがシズク、お前は女の子なんだからもう少しお淑やかになれないのか?男が可愛いと思うような。」

「え?私、可愛くありませんか?」

「見た目の話しじゃねー!いいか?お前には男を惹きつける為のスキルが不足しているんだ。」

 

この一言には、さすがのシズクもショックを受けたような顔をしている。

 

「わ、私の何が不足していると言うんですか?」

「お前にはなぁ」

「私には?」

「男の心がまるで分かっていない!!」

 

指差して言うと、彼女の瞳から虹彩が消え失せた。

 

「そ、それだそれ!!お前は直ぐに感情に流されすぎなんだよ。まあ性格は中々直らないものだけどな。」

「……じゃあどうしろって言うんですかぁ?」

 

少し拗ねたような表情で俺を見上げるシズクは、なんとも可愛い……が、今はそんな時ではない。

しかし俺もこう言ってくることは予測していた。俺は予めメモしていた紙をシズクに渡す。

渡された紙に目を通すシズクは、プルプルと震え始た。

 

「ま、まさか私にこれをやらす気じゃありませんよね?キリトさん。」

「フッ、そのまさかだ。」

 

 

今度は誰でも分かるほどにシズクは怒っている。足下から目視出来るほどに白い渦のように噴き出した魔力は、彼女の長い髪を揺らしている。そしてシズクは右手を引いたかと思うと、神速の凄まじい右ストレートを繰り出した。

 

「ちょ、ちょっと待て!これはマコトの為だっつーの!!」

 

俺は必死にシズクに言うと、彼女の拳はまさに目と鼻の先に止まり、直後にバギクロスをも超える強風が俺の顔を襲う。

こいつ、本気で殺す気か?

 

「どう言う事ですか?」

 

繰り出した拳を俺の顔面の目の前で留めたままシズクは聞いてきた。若干不満ではあるが、彼女を止めるには現在コレが一番有効なようだ。

 

「いいか?ソレは子供はもちろん、大きなお友達まで男子の間で流行っているものだ。もちろんそこにはマコトも含まれているはずだ。そんな所にお前がソレをやってみろ。マコトはおろか世の中の男がお前に夢中になる事間違いなしだ。」

「……。」

「……。」

「……分かりました。やります。」

「そうだシズク!そうこなくっちゃ!」

 

マコトの名前を出しただけでひょいひょいと付いて来るなんて…ちょろ過ぎるぜシズク。あまりにちょろ過ぎて心配になるくらいだ。

そうとは知ってか知らずか、シズクは緊張のあまり先程から深呼吸を繰り返している。

 

「い、行きますよ?」

「おう、こいシズク!」

「に……に…」

「ちょっと待てシズク!まだ恥ずかしさが見えるぞ。お前の本気はそんなものか!?」

「す、すみませんキリトさん。」

 

今度こそと懇願するシズクの瞳にはもう迷いは無かった。

 

 

「にっこにこにー♪あなたのハートににこにこー♪笑顔届けるシズクにこにこー♪にこにーって覚えてラブにこー♪」

 

 

 

 

本当にやりやがった…。

こいつは想像以上の破壊力だ。創造神のなかでも最も防御力の高い俺を持ってしても笑いを堪えることが出来ない。

頭の上に両手を置く独特なポーズのまま真っ赤な顔しているシズクと、俺の後ろで抱腹絶倒で笑っているパパスとサンチョ。やばいつられてしまいそうだ…。

次第にプルプルしだしたシズクが魔力を高め始める。

 

「ま、待つん女王陛下。」

「1秒たりとも待つものですか!」

 

 

 

ズガァァァァアアン!!

ズガァァァァアアン!!

 

 

と、痛恨の一撃が2人を襲う。

 

パパスは死んだ。

 

サンチョは死んだ。

 

こうして結成して間も無く、魔界の新勢力は壊滅するのだった。

そして2人をぶっ飛ばしてスッキリしたような表情のシズクは、俺の方を振り返ると

 

「さ、行きますよキリトさん。」

 

と言った。

当然それだけでは何のことか分からない俺がどこに?と聞き返すと、察しが悪いですねとシズクは言う。

 

「なんの為に人間の世界に戻ったと思うんですか?神龍の証を先に回収すると言ったじゃないですか。」

「え?お前ある場所知ってるのか?」

「知りませんよ。」

 

どうやって探すんだよまったく。

まぁそうはいっても宿屋にいても仕方ないのは確かだ。俺はシズクの手を取り、2人で神龍の証を探すための旅に出よう。

久しぶりに感じる冒険への高揚感に心を躍らせながら、希望に満ちた扉を開いた。

 

 

 

 

扉の向こうに悪魔がいた。

 

繰り返す、黄金の悪魔がいました。

 

 

 

 

「「出たーーーーーーー!!!」」

 

 

 

 

「こらシズク!!親に向かって出たとは何ですか出たとは!失礼ね〜。キリちゃん貴方もよ〜?私は化け物かって言うの。」

「ごめんなさい。」

「すみません。」

 

化け物だったならどんなに良かったかと言うのはさておき、俺とシズクは再び宿屋の部屋の片隅に戻り、正座させられている。頭に其々タンコブをこさえて。

 

輝く黄金の髪を揺らすルビス様は、腕を組んだ姿勢でまさに仁王立ちしている。

 

「まったく…貴女は何がしたいの?勇者くんが可哀想じゃない。」

「ババアにぶたれた私も可哀想です…。」

「ん〜?なんか言った?」

「なんでもありません。」

 

小さな反抗を試みるも、ルビス様の一睨みでまるで少女のように小さくなるシズクは、キョロキョロと辺りを見回している。

 

「勇者くんならいないわよ。」

「……お父さん(ゾーマ)は?」

「貴女が無茶するからパパ(ゾーマ)は今、勇者くんを治療中よ〜。それより貴女本当にこれは意味のある行動なのよね?」

「……はい。マコトさんとの約束ですから。」

「その割には自信なさそうじゃない。」

「……。」

 

暫く2人の無言の会話をしているような時間が続くと、やがて一息吐いたルビス様はまぁ良いわと言って場の緊張を説いた。

ようやくルビス様の緊張感漂う結界のようなものから解放されたオレ達もまた安堵の息を吐くと今度は一転して、母娘の軽話しになっていく。

 

「でもシズク?貴女は本当に勇者くんを分かってないわよね?」

「どこがですか?私達は側にいなくても分かり合えていますよ。」

「だめだめ!貴女はまるで男を理解していないもの〜、ね?キリちゃん。」

 

そこで俺に振らないでくださいよ。ほら凄い瞳でシズクが俺を見ているじゃないですか。

 

「ほらね?キリちゃんの微妙な表情が貴女には男を知らな過ぎると語っているでしょ〜?」

 

シズクが一歩俺の方に歩を進めると、俺は二歩下がった。そんな2人の様子を笑うルビス様は

 

「ほらね、貴女はすぐに怒りすぎよ。いい?男の子はね〜総じて可愛い女の子が好きなものなのよ〜。それに心の繋がりを好む女の子に対して、男の子は目に見える繋がりを好む傾向にあるの。側にいなくても心が繋がっている何ていうのは女の妄想よ〜?男はね、実際に手の届くところにいる女を好むの。離れている距離に比例して心が離れていくものよ〜。」

 

ルビス様がソレを言うのはどうかと思うが、その意見には激しく同意する。

頷く俺を見てさすがのシズクも少し落ち込んでいるようだ。

 

「可愛い娘の為にママが良いものを教えてあげるわ〜。ちゃんと見てなさいよ?」

そう言うとルビス様は大きく息を吸い込み

 

 

 

「にっこにこにー♪あなたのハートににこにこー♪笑顔届けるルビスにこにこー♪にこにーって覚えてラブにこー♪」

 

 

ま、まさか……ルビス様がやる…だと。

俺は思わず声を失ってしまう。

 

「……うわー寒っ。アホですか?歳を考えてくださいよ。お母さんがやったってキツいだけですよ。」

「バ、バカシズク。そこまで言ったら可哀想だろうが。」

「だって見て下さいよキリトさん。さりげなくウインクとかまでしてますよ?私なら恥ずかしくて死んでしまいますよ。」

「いやいや、さっきお前もやってただろうが。ルビス様だってお前の為に恥ずかしいのを推して無理してやってくれ……」

 

言って……しまった。

 

 

 

「ふ〜ん。私そんなに恥ずかしいことしてるんだぁ〜。」

 

 

 

ルビス様は変わらず女神の微笑みを讃えていた。見ているオレ達に幸せを与えるかのように。

しかし、すらりと伸ばされた指先にイオナズンの光の粒子が驚くほど早く凝縮されていく。

 

シズクは即座に俺の背後に身を隠した。

 

「何やってんだシズク?」

「キリトバリアーです。」

「ちょ、ずりーぞ自分だけ隠れて助かろうとするとか。」

「そんなイケズな事言わなくても良いじゃないですか。キリトさんは創造神だし、その中でも最も防御力が高いじゃないですか!アナタの背後が一番安全なんですよ。」

「い、嫌だよ。痛いものは痛いんだから。お前こそ前に出ろよ。」

「キリトさんには可愛い婚約者を守ろうとかいう考えないんですか?」

「こんな時だけ婚約者に戻すなんてズルいぞシズク!」

「煩い煩い!何も聞こえません。」

 

耳を両手で塞ぎあーあーと声を出すシズクは、どうあっても俺の背後から離れる気はないようだ。

 

「うふふ。二人が仲良くしているのを見るとママ、嬉しくなるわぁ〜。でも許さないけどね〜。」

 

「「いやー!!!」」

 

そう言うと、指先から離れたイオナズンの光がより一層光を強める。

シズクとキリトの悲鳴も包み込んだその光は、宿屋はおろか大陸ごと吹き飛ばした。

 

後にルビスは見てくれの悪くなった大陸を切り取って石版に封印し隠すのだが、その所業をシズクが拾った芋虫(オルゴデミーラ)が見ており、数百年後に真似して世界を石版に封じる凶行に走るのだが、それはまた別の話である。

 

 

 

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