ヘタレ勇者とヤンデレ僧侶の大冒険   作:シズりん

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第30話

少女はいつも私を見ていた。

 

古びた絵本(孤独な悪魔の物語)を大切そうに抱えたその少女は瞳を輝かせ、まるでその物語の主人公を見るかのように私を見ていたのを覚えている。

 

 

「ねぇおねーちゃんはまおーさまを知ってる?まおーさまはとても強くて、私たちを悪いヒトからまもってくれるんだよねー。」

 

キラキラと輝く瞳を真っ直ぐ私に向ける少女の頭を、私はそっと撫でる。少女は私の手を愛しそうに握りしめ、本当に本当に嬉しそうに微笑んだ。

そんな少女の微笑みは、私の心の中にも暖かいものを与えてくれる。

 

 

メルサンディ村

 

神界レンダーシアと、ここ魔界グランゼドーラの境界近くにあるこの村は、神々と魔族との紛争に度々晒されてきた。

 

私は自国の住人を護るため、魔王が魔王城(グランゼドーラ城)を出ることを引き止める意外と細かいバラモスゾンビに隠れて、境界にある村をよく訪れていたものだ。あの子は面倒臭いから、新しいロイヤルガードの候補ができたら即座に代えてやろうと思う。

村は、正体を隠して触れ合えば、私のような存在にも、皆が普通に接してくれる。魔界の住人の活き活きとした笑顔溢れる生活に触れることができるのだ。

 

「おねーちゃん、私ね、大人なったらまおーさまを護る騎士になるんだー。まおーさまの右側にはグランゼドーラの英雄キリトさまがいるから、私は左側にたつの!」

 

少女は満面の笑みで未来を夢見て語る。

 

「でも、魔王様にはロイヤルガードがいるわよ?」

私は少しだけ意地悪な質問を投げかけて見ると、少女は首を傾げて本気でどうしようか悩んでいる様子だった。

 

「大丈夫よ。あなたならきっと素敵な騎士様になれるわ。」

「ほんとー?じゃあさ、おねーちゃんも一緒にまおーさまを護る騎士になろ?」

「え?私も?そうね、じゃあ一緒に頑張ろっか。」

「うん」

 

少女ははち切れんばかりの笑顔で私に抱きついてくる。ふと少女のどうぐ袋に人形のようなものが目につく。

 

「あ!これ?これはまおーさまだよ。」

それは白銀の髪をした人形だった。とても似ているとは言い難い不細工な人形。でも、くたびれた様子から、少女が長年とてもとても大切にしているのが伝わる。

 

「まおーさまの髪はキラキラと輝く白い髪なんだよ。おねーちゃんも綺麗な髪だけど、おねーちゃんは黒髪だから、まおーさまにはちょっと負けちゃうね。」

「そうね。私なんかじゃ魔王様には敵わないわ。」

 

そう言って再び頭を撫でてあげると、少女は幸せそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

数十年の歳月が経ったある日のこと

 

 

「魔王様!大変でございます。」

ロイヤルガードであるバラモスブロスのキョウイチさんが真っ青な顔で部屋に飛び込んできた。

「・・・」

「あの・・・どうしたんすか?魔王様?」

「いえ、大概そう言って部屋に入って来た方はぐふっとか言って死ぬから、ソレを待ってるんですけど。」

「あの、魔王様・・・今はそれどころでは。」

「ちぇっ、分かりましたよ。で?何があったのですか?」

「あぁ、神族の軍勢が境界を越えてグランゼドーラ領(魔界)に進入してきました。」

 

最近では力の拮抗状態から、小競り合いはあれど進入まではなかったのだが、どうやら今回はちょっと様子が違うようだ。

 

「神族の軍勢は、辺境の小さな村を壊滅し、なおも中央に向かって進軍しています。」

私のお茶目な冗談を軽くスルーしたキョウイチさんは、私に事細かな詳細を身振り手振りで説明し、ことの重大さを伝えようとしている。

しかしキョウイチさんも魔界の唯一の法は知っているはずだ。

魔界では、力無き者が敗れるのは仕方がないのだ。特に何かに縛られることなく、いろんな意味で自由を満喫する彼らは、自身の防衛にも責任を負わなければならない。それが自由の代償。

キリトさんが決めた、たった一つの法律なのだ。

 

魔族は争いが絶えないイメージを持たれているが、実際は命のやり取りまでは至らない。互いに次の再戦を楽しみにするために。

戦闘狂のキリトさんらしいルールだと思う。

 

だけど、神族は違う。

彼らは、良い言い方をすれば真っ白なのだ。

黒や赤、青や黄色など、多色な性格の魔族にたいし、彼らは唯一光輝く純白のみしか受け容れられない。

彼等にとっては、白以外は全て排除すべき悪なのだ。

 

それはお母さん(ルビス)やお父さん(ゾーマ)が決めたルールではなく、ましてやレンダーシア(神界)の女神であるセレシアちゃんが決めたルールでもない。

欠片ほどの悪をも受け容れられない神族の性格によるものだ。

 

報告をするキョウイチさんに至っても、別にグランゼドーラの姫(魔王)である私に、滅ぼされた村やこれから危ない村を助けろなんて話はしていない。敗れた彼等に力が無かっただけと、キョウイチさんの中では既にカタがついているのだ。

 

「神族の軍勢の討伐に魔王軍があたったのですが、どうやら敵の中には闘神クラスがいるようでして・・。」

「なるほど、で、私達もそれクラスが必要だと?」

「はい。俺を始めとしたロイヤルガードが出てしまっては、流石に神族側も引くに引けなくなってしまうので出れないし、どうしたら良いかと魔王様にご指示を伺いたく。」

「そうですか・・・。滅ぼされた村は何という村ですか?せめて、無に還してあげないとですから。」

「魔王様は小さな村過ぎてご存知ないかと思いますが、メルサンディ村と申します。」

 

キョウイチさんの報告を受けて私は軽く目眩を覚えた。

いま、メルサンディと言わなかっただろうか。

堅苦しいグランゼドーラ城から、私が息抜きにお忍びで楽しんでいた村だ。

この事は、キリトさんしか知らない。

 

 

静止するキョウイチさんやキングヒドラのヒデアキさんを振り切り私は辺境のメルサンディ村へルーラで飛んだ。

 

 

 

 

辺りは瓦礫の山だった。

のどかで美しかった面影はもうどこにもない。

倒壊した家屋からは未だ黒い煙が上がっている。

色んなものが焼けた蒸せ返るような匂いを、風が私の鼻へと届ける。

辺りに動く者は誰一人いない。

そこらにあるモノは、かつて神族や魔族であった者達の残骸だけ。

私は神族魔族問わず、近くに倒れたモノ言わない亡骸の生命力の欠片は残っていないか調べて廻るが、どれも既に事切れている。ザオリクは効果を期待できない。

 

焼け野原を暫く見て廻る私の目に、炭化した小さな亡骸が目に入った。自分の身体を丸めるように胸に大切に抱えた人形を守るかのような亡骸だった。

私はその人形を知っている。

 

白銀の髪を象った人形

それは少女が私(魔王)を模した人形。

私がソレを拾い上げると、炭化した亡骸は音も無く崩れ去った。

 

この胸を締め付ける感情はなんと言っただろう。

 

誰も彼も皆が私を遺してキエテイク。

 

 

「シズク・・・。」

私が1人、少女の人形を抱き抱えていると、後ろから声がかかる。振り向かずとも分かる声の主はキリトさんだ。

私は黙ったまま彼の次の言葉を待つが、言葉はかからないままだった。案外優しい彼のことだから、きっと言葉を選んでいたのだろうが、今はその沈黙が逆に嬉しい。

 

「辛いだろうが死者を送ってやれシズク。」

「・・・別に辛くなんかありません。いつもの事じゃないですか。」

 

私は右手に魔力を込め、光輝く刀身が半透明の剣を取り出すと、ソレをゆっくりと、そして大きくふる。

死者を無へと還す〝異界送り″の儀。

 

 

様々な色の魂がグランゼドーラの空へと溶けていく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら〜?なんで勇者くん泣いてるの?ウチのバカ亭主(ゾーマ)に苛められたの〜?」

 

え?泣いてる?誰が?

ルビス様に指摘された俺は、自身が涙していることに気付いた。

 

「わ、私はただザオリクを使っただけで・・・」

 

やたら慌てるゾーマ。

 

「なんか夢を見ていた気がします。」

「「夢?」」

「はい。メルサンディとかいう村なんですが。」

 

夢で見た村の名前を出した途端に2人の顔から笑顔が一瞬だけ消えた。

 

「どうしたんですか2人とも。」

「マコトくんが見た夢にメルサンディという村が出てきたのかい?」

「はい。」

ゾーマの一言一言、俺を探るかのような質問に素直に答える俺。

「他にもキリトさんが見えました。」

「そうか・・・いまキミはシズクと同調しているからね、

きっとシズクの記憶に触れてしまったのだろう。」

「では、アレはシズクの記憶なんですか?」

「私達は見ていないから何とも言えないが、メルサンディはかつて魔界と呼ばれるグランゼドーラ領にあったとされる辺境の小さな村の名前だ。」

「驚いたわ〜、あの子まだ引きずっていたのね〜。幾百もの仲間や数億の神魔の死をみつづけて来たあの子が、あの日は凄く肩を落としていたのよね〜。まるで普通の女の子のように。あまりに珍しいからよく覚えているわ〜。」

 

そう言ったゾーマとルビス様の2人は何かを思い出すように目を閉じ頷いている。

 

ふと目線を感じ、過去の俺とシズクの方に目線を戻すと、シズクがバギでロレンスさんをぶっ飛ばしていた。

どうやら気のせいらしい。

これはロマリアでの出来事だ。今となっては懐かしい。

 

「あれ?アイツ怪我なんてしていたっけな。」

バギを放つシズクをよく見ると、見落としてしまいそうなほど小さな傷が無数にあった。

「気のせいじゃない〜?それより先、進むわよ〜。」

何故か先を急かすルビス様に背中を押されりように俺たち3人は再び過去の自分たちの旅路を追う。

 

 

シズクに焦点を当てたあの旅路は、すぐ隣にいたにも関わらず、シズクが俺の知らないところで色々してたことに気付かされた。宿屋で寝ている俺にベホマをかけていたり、知らぬ間に呪われていた俺を解除したりと・・。

 

 

 

 

 

 

順調に進んだと思われた2人の旅は、予想以上にシズクが支えてくれていたのだ。

 

なかでも幾つか印象的な点がある。

 

 

先ずはノアニールだ。

ノアニールはピサロとロザリーさんに初めて出会った地だ。

 

「あら・・・あなたは。」

 

そう言った2人は長い無言の間の後に『はじめまして』と言い、過去の俺が突っ込んでいたのだが、ルビス様とゾーマは2人の無言の間をクスクスと笑っていたのだ。

不思議そうに見ていた俺の額にルビス様の人差し指がチョコンと触れると、2人の話し声が聞こえてきた。

 

「ちょっと・・・なんでこんなところにグランゼドーラ(魔界)の姫がいるのよ!」

「あ、あなたこそ何がミーナですか。明らかにエルフの姫、ロザリーさんじゃないですか。あ!さてはあなたですね?エルフの女王ヒメアさんから夢見るルビーを盗んだのは!」

「そ、それはその・・・あ、あなたこそ何人間のフリしてんのよ!神魔王のクセに!!」

「うぐっ・・・」

「「・・・・」」

「お互い都合が悪そうね。ここはお互い見なかったことにしない?」

「そ、そうですね。」

 

 

「はじめまして。」

「はじめましてかよー!!」

 

過去の俺がロザリーさんに突っ込みをいれている。

あの間にこんなやり取りがあったとは思わなかった。

 

 

 

俺がバハラタでアルバイトをしている間にロレンスと船を手にする旅をしていたのも知らなかった。

あまりにお金にがめついロレンスに苛ついたシズクは、魔物(あなた)の物は魔王(わたし)の物、魔王(わたし)の物は魔王(わたし)の物!

なんて言う、どこかで聞いたようなセリフを残してロレンスの財産を没収していた。

 

キョウイチにしてもそうだ。

ピラミッドで俺の見ていないところでの2人の会話だ。

 

「キョウイチさんが出るには早すぎます!!ちゃんとジジイ(ゾーマ)の城で待つように言ってあったじゃないですか!」

「でもよ姫、それだと俺、暇じゃん?俺だって何かしてーよ!」

 

では、空でも飛んでなさいとばかりにシズクはキョウイチをバギクロスでぶっ飛ばしていたのだ。

 

 

 

その他にもたくさんあった。

 

ジパングでは正体がヤマタノオロチと言う魔族のヒミコは、シズクの正体に気付いた時に驚愕していた。

ルビス様にまた無言の会話をみせてもらうと、

「ヒミコさん、私の正体をバラしたら殺しますよ?」

と、笑顔で無言の圧力を掛けていた。

まぁ、結局はキョウイチの気持ち悪い女装のせいでシズクの怒りを買うことになったのだが・・・。

 

 

さりげなく宿屋でツカサやサキの食事に力のたねや、ふしぎな木の実をたくさん入れている姿もみた。

 

 

ランシールでは、壁の巨人を蹴り飛ばし、震える彼等にオーブを取りに行かせ献上させていた。

俺たちがランシールを去る時、壁の巨人は泣きながらもう来ないでねと言っていたのはこう言うことだったのかと理由を知った。

 

テドンではシックスの正体がオリハルコンの精霊であることに気付いたシズクは、コッソリとシックスに勇者である俺が大当たりを引き当てるように指示していたが、シズク自身のまさに魔王の如き悪運で自分が当ててしまっていた。

約束が違うとばかりにシックスを蹴り飛ばしていたが、これは完全にヤツアタリだ。

 

 

バラモスにしてもそうだ。

ウッカリシズクの正体を口にしようとしたバラモスは、彼女の蹴り一撃で倒されていた。

ルビス様は、私のレベルは53万ですの一言に、

「年齢じゃあるまいし、何サバ読んでるのよ〜。」と言って笑っていた。

・・・本当はいったいどんなレベルなんだろうか。

 

俺は本当にアイツを見ているようで、本当は何も解っていなかったんだ。

 

 

 

 

「あれ?確かここはキリトさんと再会したハズなんだけどなぁ。」

過去の自分達の旅を追う俺は、ラダトームでふと違和感を覚えた。

牢屋に入っている俺は確かにここでキリトさんと再会したハズなんだが、彼はいなかった。

 

「あぁ・・・さっきも言いかけたんだけどね、私達創造神は未来過去現在に至るまで単体なのよ〜。世界の全てを創造した私達が、未来や過去の自分達と会えないでしょ〜?だってそれも全て私達が創ったのだから。」

 

ルビス様は言いにくそうに俺の呟きに答えた。

「妻の言う通りだマコトくん。見よ!エスタークと話しているように見える君は、独り言を言っているように見えるだろう?リムルダールでのエスタークとの戦闘を思い出してみなさい。あれだけ派手にやりあっていたのにも関わらず、死者0、倒壊した家屋も0だったはずだ。」

「確かに後からそう聞いた気がします。」

「さらに言うと、勇者くんがこのバカ亭主(ゾーマ)と戦い勝利した後に私達が去ったあとゾーマ城も消え去っていたハズよ〜?私達創造神はね〜全てを創造できるけど、何も残せないのよ。いえ・・・残せなかったと言うべきかしらね〜。」

 

ゾーマも頷いている。

 

創造神は全てを創造できるけど何も残せない。何となくだけど彼等が神界(レンダーシア)で神々の王をやらない理由の一部が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後もシズクは、ビアンカさんに俺のサポート役をやってほしいと頼み込んでいた。ビアンカさんも最初は「私でいいの?」とか言っていたが、いずれ訪れる別れの時が来る、自身が消え去る時が来ることを知っていたシズクは、俺の心が壊れないかを心配しての事だった。

パパス王やサンチョさんがシズクが女王になるように頼み込んだ際、彼女が渋々受け入れたのは、結局シズク自身がパーティを外れる為だったのだ。

きっと少しずつ俺から自分の存在を離して行こうとしていたのだろう。

 

俺たちパーティがマイラの村、そして本人は今の俺といるのだから誰もいないルビスの塔を経由してリムルダールへ行く。

 

その最中シズクは、女王の執務室で例の手紙を書いていた。俺に宛てた手紙だ。彼女は涙を何度も何度も拭いながら一生懸命書いているのが印象的だった。

手紙を書き終えた彼女は、突如姿を消した。

手紙と古びた絵本(孤独な悪魔の物語)を残して。

 

ルーラを使ったのだと言う。

ゾーマが言うにはこの世界と神々の世界とを繋ぐ道へ向かったそうだ。恐らくは神界(レンダーシア)へ帰るキリトさんを迎えに行ったのではないかと言っていた。

 

あれ?執務室の手紙は記憶にあるけど、この絵本はあっただろうか・・・でも何か見覚えがある。

俺はペラペラと絵本を開いてよんだ。

 

 

 

「これってまさか・・・」

「ええ、勇者くんはシズクの記憶に同調したから見たことあるでしょう?それはメルサンディ村の少女が持っていた絵本よ。それはね、昔とても巨大な力を持った少女が友達を求めて魔界(グランゼドーラ)に現れたお話ね。でも当時まだ神界だったグランゼドーラの神々は、少女の桁違いな力を恐れてしまい、誰もが少女を忌み嫌って友達になれなかったって物語でしょ?それを英雄のような女の子が少女の心を救うのよね?私もシズクのを読んだから知っているわ〜。さ、絵本よりも先に行くわよ?」

 

ルビス様は何故か絵本の話しを掘り下げようとはしなかった。

 

 

そして過去の世界の俺は、やはりそこにはいないが、ゾーマに勝ったであろう場面に辿り着いた。

 

「マコトさん・・・光の鎧だいぶ壊れてしまいましたね。そんな格好じゃ寒いでしょう?ですが見てください。マコトさんが取り戻した光です。」

ゾーマ城の半壊した部屋で、アイツが消えたシーンだ。

 

「勇者くん、ここだけはあの子の本当の気持ちの方を聞いた方が良いわよ〜。」

そう言ってルビス様は再び人差し指をチョコンと俺の額に触れた。

 

 

 

とても寒く、草木も生えないような世界を永久(とこしえ)に生きてきた私の世界は、一筋の光さえ通さない世界でした。

誰も彼もが私を残して死んでいく。

メルサンディの村の少女もそう。私を神魔王(わたし)だと知らないまま少女は私を慕ってくれた。グランゼドーラでは自由との代償に生きる為の力を自身に求められる。そこは私も理解しているけど、やはり私は少女を救いたかった。

私には平和を創る力はない。救いたいヒトたちを救う力がない。

 

そんな私の心象風景は草木も生えない、暖かな光が一切入らない無人の荒野だ。

 

 

でも・・・そんな闇の一番奥深くにいた私を、あなたは光輝く世界へと連れて来た。

 

ゾーマ城の崩れた城壁から、今まさに昇ろうとしている太陽の光は、私の心象風景にさえも光を灯した。

 

アレフガルドの草花に、ラダトームの城壁に、メルキドに、大雪積もるリムルダールに、アレフガルドで一番高いルビスの塔に、未来に希望を持てない子供たちの心に、全ての絶望に満ちた人びとの心に、

 

凍てついた私の心を、マコトさんは光に変えていく。

こんなに輝く光満ちた世界に、あなたはは私を連れていく。

 

貴方は人類の絶望の涙を、歓喜という宝石のような輝く涙に変えていく。

 

 

 

 

 

そして過去のシズクは、過去の俺を通り越し今の俺を見据えると、涙を溜めているが、しっかりとした輝く瞳を向け、

 

「勇者(マコトさん)よ、真の魔王である私の心に光を灯した貴方を心から愛しています。」

 

 

 

確かに彼女はそう言い残し、彼女は光の粒子となってアレフガルドの空へと舞い散る・・・微笑みを浮かべたまま。

 

 

 

 

 

世界がぐにゃりと歪んだ。

ボロボロと大小の岩石を崩しながら天井が崩れていく。床にも光輝くひび割れが出来ていく。

 

「どうやらこの過去の世界の構成が終わるようだな。」

ゾーマは崩れゆく世界を見て言う。

「セレシアの冒険の書による過去の世界は、しょせんは誰かの冒険の記憶を映し出したものにすぎない。我らはシズクの世界を旅しているのだから、あの子が去った後の世界をあの子は知らない。したがってここが終着駅だよマコトくん。」

 

 

 

ゾーマが過去の世界について語ったその時だった。

 

 

 

体の奥深くに響くような音とともに大きな地響きが起きた。

床に立っているのがやっとな程の揺れの中、崩れたゾーマ城の壁から、太陽の光とは違う眩い光が射した。

這うように壁までいき、俺の目に飛び込んできた光景それは

 

アレフガルドのはるか上空が光輝いていた。

昇る朝日より遥かに眩い光を放っているそれは、アレフガルドの空を上へ上へと登っていく、輝く光の龍だった。

 

「勇者くん、あれが神龍よ。」

「あれが神龍・・・」

 

空一面を覆い尽くすような巨龍。まさに神の龍だった。

 

「さ、私達も行くわよ〜。勇者くん、神龍の証の場所はメドが立ってる〜?」

「ル、ルビス様ですか?」

「そうよ〜」

 

ルビス様は巨大な鳥に姿を変えていた。あの姿はどこか神鳥ラーミアに似ている。

「ラーミア一族に似てる〜?まぁ、あの不死鳥ラーミアとか神鳥レティスとか呼ばれているあの一族は、元々私のこの姿を似せて創った一族だからね〜。」

俺の心を読んだであろうルビス様は応えた。

 

「それがルビス様の正体なんですか?」

「ん〜半分正解ね〜。」

「マコトくん、君には理解し辛いかもしれないが、どちらも我らの姿なのだ。我々創造神の大きすぎる力を適度に放出させるための姿なのだ。ルビスは神鳥、私は光輝く白虎、キリトは巨大な亀だっりな。さ、そんな事より我々も行くぞ?妻(ルビス)の背に乗るがいい。そしてマコトくんの導き出した神龍の証の在りかへ跳躍するぞ!!」

 

 

ゾーマの掛け声に応えたルビス様は二人を乗せてアレフガルドの上空へ上空へと、七色の虹の軌跡を引いて飛び立つ。

 

2人は俺の出した答えに従うと言う。

俺が導き出した神龍の証の在ありか・・・

それはーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー続くーー

 

 

 

 

光も通さない闇の奥深く

グランゼドーラ城(魔王城)は緊張感が漂っていた。

 

と言うのも、魔王が勇者に先じて神龍の証の奪取に向かうも、黄金の悪魔(ルビス)による妨害(災厄)に見舞われ失敗した神魔王は、臣下の者誰が見ても不機嫌なのだ。

いつ自分に魔王の災厄が降りかかるか知れない臣下達は、恐れ慄いているのだ。

 

そんな魔王の玄室の扉が勢いよく開き大慌てで入室してきた者がいた。

いつもは自慢の長い縦巻きのブロンドも、今は乱れ放題だ。

その者は大慌てで魔王の前まで進むと、片膝をついてかしずく。

 

「魔王様!!一大事でございます・・・・グフッ」

 

 

魔王にこうべを垂れかしずいていた女は床に突っ伏した。魔王が目にも留まらぬ拳を腹部に、いわゆる腹パンを入れたからだ。

そして魔王もといシズクは俺の方を見て

 

「見ましたかキリトさん。慌てて王室に入った者の末路はコレがデフォルトです。」

そう言って微笑んだ。

 

「ちょっ、ちょっと魔王様、何をなさるのですブァ」

「ミレーユさん?私の事はいつも何と呼べと?」

 

ミレーユの頭をグリグリ踏んでいるシズクは、本人が否定している魔王と言う名が最も似合うような冷たい目でミレーユを見降ろしている。

 

「まぁミレーユも立場あるものだ。許してやれシズク。」

「え〜。まぁ貴方がそう言うなら仕方ありませんね。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと慕ってくれたのになぁ。」

残念そうに口を尖らせたシズクは、目をぐるぐるさせたミレーユを見て溜息をついた。

まぁシズクの言うことも分からないでもない。

あの、シズクの後を追う小さかった少女は、今は成長し、身長はゆうに180センチを超える。浅黒く隆々とした筋肉の鎧に覆われたその姿は、少女が夢見た騎士に適していると言えば適しているのだが、とにかく厳つい。

魔王本人と知らないまま少女はシズクを慕い、シズクの方もまた、何かと小煩いバラモスゾンビをロイヤルガードから外したいと言う打算が相まって、シズクは少女を徹底的に鍛えた。

そう、意図せずに魔王を育ててしまうシズクが徹底的にだ。

 

その結果少女は強くなって念願のロイヤルガード入りを果たした。過去人間の世界に幾度と無く送り込んだ魔王を遥かに超えるロイヤルガードに。

その結果がこの姿である。

 

幼かったあの少女は縦巻きのブロンド以外は見る影もない。

完全に死んだ者を生き返らせることが出来るのは創造神でもルビス様だけだ。

あの人(ルビス様)もあれで、何かと娘には甘い。

 

 

「シズク、ミレーユは何を俺たちに伝えたかったのかは分からないが、俺はもう行くぞ?キョウイチにロレンスがマコトの側に付いた。彼らが神龍への挑戦の為に奇跡の泉に着くのはもはや時間の問題だろう。」

「キリトさん・・・。」

シズクは目を回すミレーユを抱えながら不安そうな目を俺に向けた。

言葉にしなかったが何を言いたいかは分からないでもない。

「悪いなシズク。今回ばかりは誰が相手でも俺は手加減するつもりはない。」

 

シズクは何も答えなかった。彼女も今回ばかりはマコトを鍛えるだけで死なせないでとは言わないだろう。何せアイツは・・・

 

これは終わりなのだろうか、それとも俺とマコトの長い戦いの始まりなのだろうか。

 

俺は愛剣を携え奇跡の泉へと向かう。

 

 

 

 

 

 

続く




次回はほんとのエンディングです。
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