シンと張り詰めた緊張感が部屋一面を支配している。
部屋の内には数人の大人達がいるのだが、だれも喋ろうとはせず、時計の秒針の音だけがコチコチと響く。
「くっ、もう耐えられない!僕はタニアを救いに行く!」
暫くすると1人の若い男が、誰に言うでもなく言葉を吐き棄てるように沈黙を破る。
「グプタさん、落ち着いてください。いま下手な行動をとると、犯人グループを刺激してしまいかねません。そうなると拐われたタニアさんに危害が加わらないとは限らない。今はまだ動くべきではありません。犯人の出方を待つべきだ。」
今にも飛び出していきそうなグプタを、静かにそれでいて強く静止した男は、その道の人物なら誰もが知っている商人の服装を装備している。
その商人ロレンスは頭をフル回転させて、現状打開策を模索している。
先ずは原点にたち返ろう……
時を少し巻き戻す
.
ガタガタガタ・・・
荷馬車の車輪が軋みをたてて、レンガ造りの道を走る。
東の空が、うっすらと紫色に染まっている。
夜明が近いのだろう。
俺の名前はロレンス。
各国にある商館を渡り歩き商品を届ける、言わば流通を主とした商人だ。
今日も朝からロマリアからバハラタへと朝もやの中を荷馬車を走らせていると、フードを深く被った一人の修道女が道を歩いていた。
何故こんな明け方に女の子が一人で?魔物か何かであろうか?しかし無視して通れる程には冷たい人間になり切れない俺は、懐に隠し持ったナイフを片手に携えたまま、修道女に話しかけた。
「お嬢さん。私はロレンスと言う商人ですが、バハラタ方面でよろしければ、乗っていきませんか?」
少女は深く被ったフードから、視線を俺にむける。フード越しでも彼女が絶世の美女であることが分かった。
艶やかな黒髪、透き通るような白い肌。少しだけ不思議な色を讃えた瞳。俺は以前にロマリアで出会った勇者一行を思い出す。
そう言えばシズクと言ったっけ、あの娘もなかなかの美女だったな。
あの二人は今も魔王を倒すための旅を続けているのだろうか・・・
「・・・さん!!ちょっと聞いていますか?キチガイさん!!」
「あ、あぁ、ちょっと考え事を・・・って、キチガイさん?き、君はもしかして・・・」
そう言うと彼女は修道女のフードを捲って、素敵な笑顔を見せてくれた。
「なんだ、やっぱりシズクちゃんだったのか。マコトくんはどうしたんだい?」
「じ、実は・・・」
彼女の話では、船を求めて旅をしていた二人はポルトガに辿り着いたらしい。
ポルトガの国王は船をあげる代わりに黒胡椒を所望してきたらしい。
確かに、西の方に位置するポルトガの厳しい冬には胡椒は必需品。国王自ら所望するとなると・・・中々に商売の臭いがする。
「で?その勇者くんはどうしたんだい?」
「ま、マコトさんは・・・ゴニョゴニョ」
歯切れの悪い彼女の口からは、それ以上の情報を得ることはできなかった。
ロマリアからバハラタへの山間部入口
そこには関所があり、二人の屈強な兵士が門番を勤めている。近年では魔物が現れたおかげと言うのも何だけど、人間同士の戦いは減ったが、まだまだ小さな火種を残す国境には、大概関所があるものだ。
「シズクちゃん。少しフードを深く被っていてくれるか?国境だ。」
そう言うと彼女は黙って頷き、フードを深く被る。こう言う所は、旅なれた彼女で助かった。
「門番お疲れ様です。ロレンスです。」
と言って、いつもの様に商館ギルドの身分証と、お約束の100Gをそっと手渡した。
「あれってお金ですよね・・・」
「あぁ、旅の商人は色々大変でね、こう言うことも必要なんだ。」
俺達が小声で話していると、
「お?修道女か?ロレンスも男だもんなぁ。ロマリアで女でも買ったのか?」
と言って大笑いをする兵士二人。しかし、俺の横からは明らかに不機嫌なオーラ全開の彼女がいる。
以前俺はロマリアで彼女のバギクロス(バギ)で死にかけたことを思い出し、慌てて二人の兵士に
「ま、待ってください。彼女は大切な商談相手ですから・・・そういうのはその・・・」
「何だよつまんねー。おいロレンス。今は少し金額が変わってな、二人で1000Gを払ってもらうぞ。」
「な!せ、1000Gだって?あまりに法外な・・・」
嫌なら通らなくても良いんだぜとばかりに、二人の兵士はより一層大声で笑う。
この関所以外だと、船のルートしかない。しかし、その船を貰うために関所を通らねばならないというのに・・・どうしたものか。
プシュ!
プシュ!
「ふう。またつまらぬ者を刺しました・・・」
彼女が済ました笑いを見せると、二人の兵士は口から泡を吹いて、全身紫色になって倒れた。
ど、どくばりーーー!?
「な、何も殺さなくても・・・」
「大丈夫ですよ?峰打ちですから。」
どくばりに、峰打ちってあるんですか?
女神ルビスに瓜二つな笑顔の彼女は、荷馬車に乗り込むと、まるで何も無かったかのように旅の続きを催促する。
ようやくバハラタに着いた頃にはすっかり日もおち、夜になってしまっていた。
「シズクちゃん。黒胡椒をどこのお店で買うか決めてあるのかい?」
「いいえ。まだ決めてません。」
「黒胡椒となると…そうだ!俺の商売ルートに香辛料を取り扱う店があるからそこへ行こう!」
彼女は俺の出した案に特に異論を唱えなかったので、自身の知る店へと向かった。あわよくば自分にも商売のきっかけになるかもと、その時は安易に考えていた。
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そして自身の知る店に着いたら、店の主人の娘が野盗に拐われたらしく、慌ただしいじょうたいだった。
はいそうですかとも言えない俺たち2人は、この誘拐事件に巻き込まれたわけだ。
「ロレンスさん。こんな事をしている間にもタニアがどうなっているのか…」
うな垂れるようにグプタが言う。
「店主、もう一度伺いますが、彼等の要求は金なんですよね?」
「そうだ。1万Gと娘のタニアを交換だと言ってきた。」
「そうですか。では、お金の引き渡しには私たちがいきましょう。」
「え?ロレンスさんがなぜ。」
「私の馬車の荷物を金に見立てて、金を多く見せましょう。山積みの中の方は石ころの入った箱でも混ぜて。奴等が金を運んでいる隙を突いて娘さんを奪還、そして私たちはダーマ方面へと逃亡って計画です。」
「え?野盗と戦うんじゃないんですか?」
俺の作戦に口を挟んだのは、先ほどからヤケに大人しくしていたシズクちゃんだった。
「ごめんなシズクちゃん。俺は商人だから……戦闘はからっきしなんだよ。」
「そうですか?」
彼女は未だ納得いかないと言った顔で俺を見ている。君は俺の何を知っているのやら。
暫くすると彼女は興味が失せたのか、結局俺の作戦を実行することになった。
東の小高い丘を幾つか越えたそこに、野盗の住処らしき洞窟があった。
「シズクちゃんは俺の背後に隠れていてくれ。そしていざと言う時は、俺の事を気にせず逃げるんだ。」
「いざとは、どういう時ですか?」
「なるべくなら奴等に見つからずに助け出したい。実際は千Gしかないとはいっても、やはり大金だからな。奴等にくれてやるには惜しい。」
「でも、もう見つかってますよ?ほら」
彼女の指差した方を見ると、屈強な男がマスクを被り、巨大な斧を携えた野盗が数十人。既に戦闘態勢に入っていた。
だと言うのに、隣のシズクちゃんは一歩も怯まずすかさず戦闘態勢を整えた。
さすがは勇者と旅を共にする女の子だ。目の前で起きている誘拐に、逃げるなんて自分自身を許せないのだろう。
しかし、問題は俺が戦闘ができないことだ。
いくら彼女がバギクロスを使えると言っても、彼女も女の子だ。万が一彼女まで拐われでもしたら・・・
しかし、そんな心配は無用の産物であったことを知る。
「あなたたちも懲りませんね。まだそんな悪事を働いているのですか?どうやらお仕置きが足りなかったようですね・・・」
「お、お前は・・・カ、カンダダの親分。ヤバいですぜ、悪魔がいまし・・・」
スガァァァァァァン!!!
「誰が悪魔ですかぁ!!」
彼女の繰り出した痛恨の一撃が、カンダダ子分に炸裂し、一人を一撃で沈める。こ、怖っ。
「く、女一人に舐められてたまるか!お前等やっちまえ!この女は俺の慰みものにしてや・・・」
カンダダが卑猥なセリフを最後まで言い終わる前に、辺りの様子が変わった。
夜の闇を引き裂くような稲光。光の蛇のような稲妻が辺り一面を襲い掛かる。
あらゆる空間から、ところ狭しと電撃が漏れ出ている。
ライデイン
彼女がボソッと小さな声で唱えると、より一層大きな・・・そう、見たこともないような稲妻が、屈強な男達を襲った。
「本当にありがとうございました。娘もこの通り無事で。」
何度も何度も頭を下げるその人は、胡椒を初めとした香辛料を売る大商人だった。
流通を主とした商人の俺としては、このカシは幾ら払っても得られない願ってもない繋がりだ。
「なぁシズクちゃん。船・・・俺も乗せてくれないか?今回の冒険で俺も世界に出てみたくなったんだ。きっとまだ大きな商売のきっかけが世界には沢山あるはずだ!」
「ふふ。キチガイさん大丈夫なんですか?」
笑顔を見せてはくれるけど、俺はキチガイさんのままなのね・・・
「良いですよ?ですが、先程見た魔法の事は内緒にしてくださいね?特にマコトさんには。もし誰かに話したら・・・」
声のトーンを下けだ彼女の瞳は、俺が旅の中で見てきた、どんな魔物をも超えていた。
「よくぞ胡椒を手に入れてくれた。」
ポルトガに着くと、国王様は俺達を歓迎してくれた。俺としては一国の王様にまでパイプができ、もう言うことはない。そんな俺の満足そうな顔をシズクちゃんは横で微笑みながら見ていた。
「なぁシズクちゃん。俺と一緒に旅の商人をやらないか?どんな辛く大変な旅も、二人なら・・・」
そう言って俺は彼女に手を差し出すと、彼女は笑顔で首をふる。
「私がいないとマコトさん・・・何もできませんから。でも、私も楽しかったですよ?ロレンスさんとの
旅も」
シズクちゃん・・・俺の名前知っていたんだな。
勇者マコトのいるであろうところに向かって、振り向きもしないで走り去っていく彼女。
残念。
どうやら俺はフラれたらしい。
まぁいいさ。
俺も其々に戴いた船に荷物を積んで海に出よう。
まだ見ぬ海の向こうには何が待っているのだろう。
俺はまだ旅の途中だ。
ただ一人で旅に出て、さ迷っていた時に俺はシズクちゃんと出会った。
どんな辛いものも楽しくみえた。
ただ、君がいるだけで。
また会おうなシズクちゃん。君達が夢見る平和が訪れるように俺も強力するよ。
俺は晴れやかな気持ちで・・・
あれ?荷馬車がない?
そこには荷馬車がなく、紙切れが1枚残されていた。
「なんだこりゃ。なになに…」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
美少女との旅の対価戴きますね。
ロレンスさんなら大丈夫です。あなた程の商人様ならきっと。
あ!船は船着き場にあるそうですよ。
また会いましょうね
シズク
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
やれやれ。彼女には最後までやられたな。俺は紙切れをズボンのポケットに入れ、船着き場へと向かうのだった。
◆
「それにしてもシズクは何をしていたんだ?」
シズクが、黄金の爪を売ったお金で沢山の装備を買った。しかし、シズクの持ってきた商品はどれも高額で、お釣りどころかまさかの借金を背負った俺たち。
仕方なしにポルトガでアルバイトを二人で始めた。
俺は直ぐに接客になれ、お客さまの女の子達と仲良くなり売り上げも上がったのだが、その営業スマイルに嫉妬したシズクは俺に痛恨の一撃クラスのハイキックをぶちかまし、出ていったきりだった。
やっと帰ったかと思ったら、荷馬車に財宝。そして船まで手に入れていたシズク。
何をしていたんだか気になるけど、何となく聞くのが怖い。
「キャプテンシズク!!何処に向かえばいいんだ?」
船底から、舵を持ったキョウイチが声をかけてきた。こいつちゃっかり仲間としてパーティに入ってやがる。お前魔物なのに良いのかよ・・・
「目指すは黄金の国ジパングよ!!」
シズクは海を指差し、俺の腕に組み付く。すると何やら柔らかいものが腕に・・・
おーい!!
おーい!!その船待ってくれー
海から何か聞き覚えのある声がする。海をロレンスさんがアヒルの形をしたスワンボートを足で一生懸命漕いでいた。
な、なにやってるんだあの人は・・・
まさか、あれで海を渡る気か?
正気とは思えないが、助けをださなきゃと船を近づけると
すさまじい電撃がスワンボートを襲った。
ギ、ギガデインだとーー!?
目が眩むようなすさまじい電撃がスワンボートを直撃し、哀れ彼は海の藻屑となった。
ロレンスさん、あんたシズクに何をしたんだ?僧侶がギガデインを使うなんて・・・
ロレンスさん・・・生きていたらまた会おうな。
俺達はまだ見ぬ世界を目指し大海原へ旅立った。
――続く――
真 Lv28 装備 素手 布の服
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ネタが……尽きそうです