「お前…生きていたのか!」
「当然だ。
あんなものすら避けれない、『ヤムチャ』とか言う雑魚が悪い。」
すぐ隣に倒れている悟飯の首を掴み上げる。
気を失っている為、抵抗すら出来ずにだらりと体がぶら下がる。
だが脅威はベジータだけではない。
背後からラディッツが雄叫びを上げて迫り来る。
間違いなく…間違いなくクリリンやベジータ達を狙っている。
「こいつらをあいつの前に差し出さば…間違いなく殺されるだろうな。
俺に殺されるか、暴走した仲間に殺されるか。
自由な方を選ぶんだな。」
「そんなもん!」
単身でベジータにかかるも、ひと蹴りされ地面に返される。
「時間切れだ。」
無造作に悟飯は投げ捨てられ、ベジータが消える。
その背後からラディッツの巨大な腕が伸びてきた。
まだ意識のある、クリリンと悟空を掴み上げる。
何の抵抗もできない…そこまでの力も無い。
かつての仲間であった勇敢なサイヤ人は、再びクリリンと悟空に牙を向いていた。
凶悪な大猿は、握力の限り締め付ける。
特に悟空は、力をほぼ完全に使い果たし、全身に力は入らない。
抵抗ができない。
「うわぁぁああ!」
「やめろラディッツ!
やめてくれーっ!」
かつての仲間は叫ぶが、彼には届いていない。
一向に力は弱まらない。
それどころか、ますます締めあげられている。
ミシミシと…骨が、体が、限界を迎えている。
「「ぅあぁああーーっ!!」」
「ラディッツーっ!………」
願い届かず…クリリンと悟空の視界は暗くなっていく。
反応が無くなりつつあるも、全く力を弱めようとはしない。
クリリンと悟空に集中がいく中、それを待っていた者がいた。
「もらったぁ!」
ベジータ、渾身のエネルギー弾が尻尾に向かう!
大猿ラディッツの尻尾が!
パシン!
「なん…だと…!?」
不発。
こんなにも呆気なくエネルギー弾が弾かれたことがあっただろうか?
反応が無くなった2人を地面へ投げつけ、矛先はベジータに向けられる。
まるで遊んでいたおもちゃが壊れたから、次のおもちゃに飛びつく子供のようだ。
もっとも、無邪気な子供と言うには無理があり過ぎるが。
(カカロット達はとどめを刺すだけだ!
なのに…なのにあいつの尻)「ごはぁ!」
もうラディッツの暴走が止まらない!
自らの体力もあまり残っていないベジータにとって、今の大猿ラディッツは荷が重い。
これでは…
「クソッタレ…この糞猿が!」
彼にとっても想定外である。
ベジータ自身が再び大猿になれば簡単に倒せるが、パワーボールを作る体力も無く、尻尾もない今再び拳を食らってしまう。
「でやぁぁ!」
顔面にエネルギー弾を飛ばして、素手で尻尾を切断しにかかるが尻尾に弾かれる。
ベジータも、簡単に沈むほどスタミナがない訳では無い。
だが…抗い勝つほどの力も残されていない。
いよいよ、ベジータも追い込まれつつあった。
「!?」
ボトッ
不意にラディッツの尻尾が落ちる。
巨大な体が…散々自分を苦しめていた憎たらしい大猿が、縮んでいく!
「…はっ!?
な…なん…うぅ…!?」
ラディッツが元に戻った。
理性が戻り、自らの感覚が戻っていく。
…と体の痛みに襲われた。
大猿悟飯と大猿ベジータとの乱戦…
更には、ベジータ渾身のスーパーギャリック砲を受けた体…無事で済むわけが無い。
「ククク…どうやら、そこのデブに感謝しねぇとな。」
「…うぅぅ…デブに感謝…?」
気を探ると、ヤジロベーが岩の影に隠れている。
…と言うか、刀の先がちょっと出てプルプル震えてる。
気づかれてしまった事に動揺したのか、小刻みに震えていた剣先がビクッっと動く。
その近くには、クリリンと悟空が倒れている。
「悟空、クリリン!?
どうした!?」
「クハハハハ!
皮肉な話だな!
味方になったサイヤ人に、全員がやられるとはな!」
(味方になったサイヤ人に?
…まさか!?
なんとなく察してしまった。
足元に倒れる悟空とクリリン。
そして、遠くで全裸になって倒れる悟飯。
気が消えて、遠くで倒れている天津飯と、姿すら見えないヤムチャ。
「教えてくれ、ベジータ。
俺が…俺がみんなやったのか?」
「そうだな…冥土の土産に教えてやるか。
パワーボールを見た、そのガキとお前が暴れ回ってな。
ちなみに、トドメを指したのは貴様だ。」
「……。」
眩暈。
頭を抑える。
(…みんなを助けるつもりで、パワーボールを見たのは間違いだった。
理性を制御出来ると思っていた自分が甘かった!
俺が、天津飯とヤムチャを殺したんだ。)
「さてと、残るは貴様だけだ。
その後で、じっくりと仲間を同じところへ送ってやる。」
一歩、ベジータが迫る。
大猿では無いとはいえ、充分な脅威だ。
一歩が…とても大きく迫るような気に駆られる。
思わず一歩、後ずさりするラディッツ。
(悟空が元気玉を作れるまで、時間を稼ぐのか?
いや、悟空もクリリンもダメだ!
また体を振り絞って俺が追い返すしか「ラディ…ツ…」
「ぉ…元に…戻っ…たんだな…」
「悟空、クリリン!
動けるのか!?」
この2人は意識を取り戻している!
充分に戦えないとはいえ、ラディッツにとっては大きな支えとなった。
何も特別な言葉は発してはいない。
動いてもいない。
だが歴戦の戦士がいるという事が、どれだけ心強いのかを改めて感じたラディッツ。
「悟空、元気玉は作れるか?」
「作れる…けど、脚が…」
「作れるなら作れ!
クリリンが撃てる」
「元気玉?
おい、なんだそ「説明は後だ!
時間稼ぐからやってくれ!」
「そうか!
わかった…頼むぞ。」
方針も腹も決まった。
ラディッツは再びベジータに意識を向ける。
逃げの戦い、防戦だ。
だが確実な目的がある事で、活力が産まれる。
ラディッツの瞳に…心に再び闘気が燃える。
「?
まだ生きていたようだな。
だが、もう戦えないようだな。」
「そうだ、俺が戦うしかないみたいだ。
クリリンは戦えるほどの気力も無いし、悟空に至っては脚がグチャグチャだからな。」
………
「冗談じゃねぇ!
俺はさっさと逃げるぜ!」
ベジータにバレていた。
自らの唯一の武器が、自己主張し過ぎていたのに気が付かなかった。
頭のてっぺんから血の気が引く感覚。
ラディッツが殺られたら…次は…。
「やべぇ…クソ…死ぬ前に美味ぇもん食っとくんだった!」
………
界王拳を2倍に引き上げる。
限界の4倍には引き上げられないが、持久力も考えると半分程が妥当か。
「ふん!」
「甘いぜ!」
真横に回り込み、ボディーを狙った右フック。
簡単にガードされる。
だが…ダメージ目的ではない。
「ふははは!
だいぶつかれているようだな!
それとも、まだ何か無駄な事でも考えているのか!?」
「うるせぇ!」
ベジータの右手のパンチを受け止める。
ほぼ同時に出したラディッツの右カウンターが、腕を掴まれて受け止められる。
そのまま力比べとなる。
「でやぁぁああーっ!」
「ぬぉおおお!」
「ヤジロベー!
腹決めて来いやぁ!」
「う!?
うわぁぁああ!」
「何!?」
岩影からワンテンポ遅れて飛び出す大きな影。
その出っ張った腹からは想像出来ないほどの身軽さでベジータに接近する。
「どうにでもなれぇーーっ!!」
ヤジロベー自慢の愛刀は、ベジータの戦闘ジャケットを諸共せずに背中に一太刀浴びせる。
「うぅ!」
「どりゃぁ!」
うずくまるところを蹴り飛ばす。
これまで、修行という修行をしてこなかった侍。
神様の超超高地トレーニングと、ベジータの弱体化により目の前の戦果となった。
まるで大将でも討ち取ったかのように、顔が晴れている。
「見てちょうよ!
これならあいつもおしまいやらぁ!?」
「ふぅ…ありがとうヤジロベー。
助かるよ。」
ヤジロベーのでかい胸が更に張っている。
ラディッツのこの一言までは。
「…だけど、まだ生きてるぞ?」
「え!?
ち ちょっとお腹痛くなってきたから後はよろしくね!」
「待て!」
ヤジロベーは愛刀を放り出して逃げ帰って行く。
下手したら、開き直りの攻撃よりも速いのではないかと思ってしまうほどだ。
それと同時に、ベジータが起き上がる。
「や 野郎ぉ~!
こいつらを片付けたら始末してやる…!」
………
「大地よ 海よ そして生きているすべてのみんな…
このオラに…ほんのちょっとずつだけ元気をわけてくれ…」
仰向けのまま、右手を天に掲げる悟空。
その右手には、徐々に光の粒が集まる。
徐々に一つの塊へ…バレーボール程の大きさに集まる。
「クリリン…こいつを受け取ってくれ。
お前ぇくらい気をうまく制御出来る奴なら、元気玉は撃てるはずだ!」
「それが元気…ってお 俺か!?
…よ よし。
や やってやる!」
「はぁ、はぁ!
悟空!?」
ヤジロベーが悟空とクリリンの元へ来た。
逃げ足だけなら誰よりも速いようで、あっという間にここまで来てしまった。
「あれ、刀がねぇ!?
…あそこか!」
「クソ…気が散るなぁ…」
「頼むぞ、クリリン。
外したら…もう二度と元気玉は作れねぇ!」
………
(元気玉が完成したか!?
クリリンが持ってるな?
よーし…)
「どうしたベジータ?
ご自慢の体がまさか太った侍に傷つけられるなんてねぇ?
それでも王子様かい?」
「なんだとぉ!?」
ラディッツの挑発。
襲来当時の精神状態なら掛かるはずもない。
だが幾度となく癪に障る攻撃が募り、今は簡単に乗ってしまう。
「撃ってみろよ、ギャリック砲。
今のお前なら、簡単に弾き返してやれるぜ?」
「面白い…そのまま肉片残らず消し飛ばしてやる!」
「「はああぁあああ!!」」
両者、最大パワーで撃つために気を溜める。
地面の塵から岩まで、2人を中心に全て吹き飛んでいく。
このエネルギー同士がぶつかり合えば、確実に地球にクレーターが出来るだろう。
そんなベジータは、戦闘力を集中させる為に動きがとまる。
今がチャンスだ!
(当てなきゃ…!
クソ…元気玉の制御がやたらに難しい!)
クリリンはとても集中していた。
だがどうしても、制御していると言えるギリギリのところが限界だった。
悟空が半年も掛けて界王星で会得した必殺技だ。
気の取り扱いに長けているクリリンですら、手間取るのは仕方のない事だろう。
外的要因として、絶対に外せないプレッシャーがある。
少しでも手元が狂えばベジータに避けられるだろう。
もしくは、ラディッツに当たるか。
だが早く撃たねば…ここはギリギリベジータの視界の外。
「何やってんだ!
早く撃っちまえよ!」
「!?」
そんな事は何も知らず。
耐えきれずにヤジロベーが叫ぶ。
ベジータが気づき、こちらに顔を向ける。
「クソ!
やぶれかぶれだぁ!!」
「あの馬鹿野郎!!」
放たれる元気玉。
威力は申し分ないし速さも充分ある。
だがベジータに気づかれてしまった!
(クソっ!)
ここまでは原作でも出ていた。
ヤジロベーが叫んで、ベジータが気づき、クリリンが元気玉を放つ。
原作通りだったのだ。
なのに…なのに悟飯がいない。
悟飯は未だ気絶して横たわっている。
今気がついたところで絶対間に合わない。
これでは…
「な なんだ!?
グッ!」
ベジータの不意を突けば確実に当たった元気玉。
気づかれてしまった今、ギリギリの所で回避する!
(((外れた!)))
やってしまった。
必殺技も当たらなければ、ただのエネルギーの塊。
地球の戦士達の運命が掛かった技は、呆気なく終わった。
「うおぉぉぉお!!」
即座に駆けるラディッツ。
界王拳も再び5倍に引き上げられ、力の限り脚を動かす。
『元気玉は悪の気を持たぬものなら跳ね返せる!
じゃがお主の体は悪人じゃったから無理じゃ!
ラディッツ!
お主が死んでしまうぞ!!』
界王より心に話しかけられる。
だが全てを聞き取る前には元気玉を両手に受けていた。
「うわぁぁああ!」
これまでとは比にならない程の激痛。
手が…手が焼けていく。
バチバチと、音を立てて指が焼けていく。
指…掌…腕もが部分的に焼け消えて行く…。
「ぁぁあああああ!!」
それでも元気玉が跳ね返された!
それは上空に避難したベジータに向けて。
「う…何!?!
ぐわあああああっっ!!」
ベジータに直撃!
ラディッツの時とは比にならないが、バチバチと音を立てて上空へと消えていく。
「……グッ……うぅ…」
両腕に走る激痛。
肘より先は存在はしているものの、痛覚のみが残るだけで機能は無くなっていた。
完全な正義の心があれば、元気玉の威力を削ること無く、ダメージも受けること無く弾くことが出来た。
そのせいなのか、そのおかげか。
落下してきたベジータには息がある。
血反吐をぶちまけ、痙攣する体。
「あいつ…まだ生きてるぞ…」
「な なんて恐ろしい生命力だ…」
震える体を押さえつけ、ベジータが無理矢理体を動かす。
戦闘ジャケットの内ポケットから、リモコンを取り出す。
数あるボタンの中から一つのボタンを押す。
そして、リモコンを投げ捨て倒れ込んだ。
「…終わった…やっと…
クリリーン!」
腕が動かせないのでクリリンを呼ぶ。
それに気づいたクリリンは、よろよろとラディッツの元へ。
「大丈夫か…?
立てるか?」
「歩けるよ…だけど手伝ってくれ
腕持つな…動かないし痛いから…」
フラフラと、ラディッツも介助してもらいながら立ち上がる。
2人はもう、一歩一歩なんとか歩いてる状態だ。
「な なぁ…勝ったのか?」
「勝負においてなら負けだよ。
だけど、防衛戦なら俺達の勝ちさ。
あいつは今、リモコンで宇宙ポッドを呼んだよ。、」
悟空の近くに丸い宇宙ポッドが着陸する。
ベジータが立ち上がり、よろよろとポッドへ向かう。
「あの野郎…逃がすか…!」
気弾はもう撃てない。
だが幸いな事に、何故か刀が落ちている。
ヤジロベーが必死に逃げた最中に落とした刀だ。
這いながら宇宙ポッドに向かうベジータを、刀を杖にしてよろよろと追うクリリン。
(あと少し…クソ…タレ…!)
やっとの事で、ベジータが宇宙ポッドの一歩手前までたどり着いた。
だが、ふと右足を掴まれる感覚。
クリリンがベジータに追いついたのだ!
「クソォ!」
「くたばれ!」
刀が光り、ベジータにつけて大きく振りかぶられる。
いよいよベジータの喉元に、死神の鎌が掛かる。
「やめてくれクリリン!」
今突き刺そうとした両手が、引っかかる様に止まる。
声が、ラディッツの声が両手を止めるのだ。
「止めるな!
コイツはここで殺さなきゃ「オラからも…頼むよクリリン」悟空、お前まで!!」
死闘を繰り広げた2人が殺すなと言う。
無視しろと言い聞かせるが、どうしても腕が動かない!
今殺さなければ、奴は必ず再び来襲するだろう。
「クリリン、悟空はこの戦いの一番の功労者だ。
言う事を聞いてやってくれ。」
「いくら悟空やラディッツが止めたってダメだ!
コイツは殺さなきゃ!
わかるだろ!?
あんなに修行したのに勝てなかったんだ!
今度来たら…本当に俺達、皆殺しにされるぞ!?」
「すまねぇ、クリリン…もったいねぇんだよ。
オラ、修行して一番になったかと思ったのに…あいつは更に強ぇ。」
ベジータが最後の気力を振り絞り、座席へ腰掛ける。
装置を弄り電源を入れる。
「また来ても、オラうんと強くなってやる。
だから頼む!」
「悟空!
……クッ…わかったよ
言う通りに…する。」
クリリンは刀を捨てた。
ベジータは生かされた。
刀を捨てた以上、ベジータは焦る必要は無かった。
「つくづく…甘い奴らだぜ。
その甘さを嘆く事だな。、」
「おいベジータ、最後に言っとくぞ?」
ラディッツが、クリリンの裏から顔をのぞかせる。
このタイミングで、ベジータに話す事とは何であろう?
「俺達の"上司"は、お前が思ってるよりも遥かに強いぞ?
次は一緒に頑張ろう。」
「…何のことだ?
次に会うときは貴様らの最期だ!
せいぜい…余生を満喫しとくんだな。」
ハッチが閉まり、ベジータを乗せた宇宙ポッドはあっという間に空へと消えていった。