弱虫兄貴のリスタート   作:バタピー

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謝って質問を消してしまったので、前書きでお答え致します。

悟飯の一人称が時々変わっている件


メタ的に言えば、僕の時はかなり弱気な時に変えています。
僕=腕を失う前の甘えた孫悟飯 という感じです。
一人称で悟飯自身の精神状態を表してる…という認識であります。

…ちょっと分かりにくい表現だったかも知れません汗


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誤字脱字修正済み R2 1/12


修行するぞ

目標…行動を進めるにあたって、実現・達成をめざす水準。

即ち、そこに行き着くための明確な目印である。

目標があれば、そこに行き着くためのビジョンを描きやすい上に、自分の位置も客観的に見やすくなる。

例えて言うならば、横穴を掘るのに「とにかくいいと言うまで掘り続けろ。」と言われるか、「〇〇mまで掘れ。」と言われた時にどちらが作業効率を上げられるか。

答えは簡単だろう、明確な水準があればモチベーションだって失わずに済む上にそこまでの作業効率も考える。

無神やラディッツが、次の敵をざっくりでもとにかく伝えるのはその為だった。

次の強敵の存在は、戦士達を更なる高みに押し上げるための試練にもなっている。

実際、目指すべき強さの敵がいる時と、そうでない時の伸び方の差は明らかである。

現在でも、天下一武道会が終わってからラディッツ襲来までの5年間は、悟空を始めとして他の戦士達もさほど強くなったとは言えなかった。

しかしその後、サイヤ人 ベジータと言う強敵の存在を示唆されるや、僅か1年と言う期間で数倍もの強さになってしまったのだ。

何がどうさせればそうなるのか分からないが、具体的な目標…特にある程度の強さが明確に分かれば、戦士達は必死に自身のレベルの底上げに掛かる。

そしてそれは、教えられた側だけでなく教えた側にも言えることだ。

 

 

「おい神様、魔人ブウ編まで何年ある?」

 

『そうだな…単行本から推測すれば6,7年という所だろう。』

 

(ようやく…ようやく最後の章まで来た。

…だが…。)

 

 

まだ強さが足りない。

今回は悟飯に助けて貰った。

自分は超サイヤ人2にもなれていない。

次はいよいよ作中最強を誇る超サイヤ人3。

そのインフレについていかなければ、無事に元の世界に戻れない。

そして何より超サイヤ人3だけではない。

孫悟飯のアルティメット化。

老界王神による潜在能力を限界以上までに解放した形態は、超サイヤ人3に匹敵…若しくはそれ以上。

実は河野、この悟飯が作中で一二を争うほど好きなのはまた別のお話。

 

 

(順当に6,7年後に来ると思わない方がいいだろう。

時間が足りない…超サイヤ人2を超えなければそもそも生き残りすらできん。

1番楽なのはアルティメット悟飯にそのまま倒してもらえばいいけど…そんな生易しい訳ないだろう。

だから俺も強くならなければ…どこかに無いものか。

潜在能力を上げてくれるようなアイテムは。

…って、そんな都合いいものなんて無いよな。

ナメック星の最長老様の潜在能力解放っても、ほとんど上がってなかったし。

個人差があるとか言ってそれっきりだし。)

 

『それがあるんですよ、ただ飲むだけであっという間に強くなる魔法の水が!』

 

「怪しいわ!

ってかいちいち思考を読まないでって言ってるじゃないですか。」

 

 

『お前は知らんじゃろ。

超聖水と超神水の話を。』

 

 

初耳であった。

後者はともかく、前者はそもそもこのカテゴリーに属しているのか不安しか無かった。

こちらの世界に来る前の若かれし頃、とある先輩と夜の街に繰り出していた時にその単語の意味をその先輩に聞いた時だ。

確かあの時の先輩の言葉は、「あれは選ばれた者にしか身体は受け入れないだろう…。」と言っていた。

その後どういうものかこっそり調べて…

 

 

『貴様…そこまで心が汚れていたのか。』

 

「いや、そういう特殊な…ねぇ。

俺はそれだったら絶対に嫌です。」

 

『安心せい、そんな如何わしいものでは無いわ。

とにかく、カリン塔に行ってみれば早いぞ?

死にものぐるいで生き残るんじゃろ?

その言葉に嘘がないならば、行く事を勧めよう。』

 

 

再び声が途切れる。

飛躍的に強くなるのであれば、試してみてもいいだろう。

なぁに、効果が無さそうならば地道にまた修行に励めばいい。

 

 

………

 

……

 

 

 

「…と言うノリで、ここに来たわけじゃな?」

 

「いや…そんな軽いつもりで…来た訳ではなくてですね。

そのー…超聖水とか超神水とやらの修行をさせていただせますでしょうか?」

 

 

人造人間やセルを倒してからまだ数日と経っていない。

強敵を倒して直ぐに超神水を飲みにここまで来るとはどういうことか?

カリン自身にも気づかない程の凶悪な敵が短期間で現れるという事なのだろうか?

そもそも何故超聖水と超神水の存在を知っているのだろうか?

様々な思考が頭を駆け巡るが、全てはあの方に通じてるという事なのだろう。

 

 

「その調子であるからに、あの方に何かしら唆されて来たか?」

 

「無神様ですか?

…まぁそんなところです。

次の敵は7年後に来る魔人ブウと言う奴です。

今の悟飯よりもさらに強くなってやっと戦いに参加出来る位です。」

 

「悟飯を…あの馬鹿げた強さですら敵わないのか。

じゃがおヌシは少々先を急ぎすぎじゃ。

先へ先へと物事を考え過ぎて地盤が疎かになっておる。」

 

「地盤…?」

 

「おヌシはこれまで武術の経験はないじゃろう?」

 

 

自身の過去を遡っても、武術の経験なんてただの一つもなかった。

幼少期によくある習い事でもある空手・少林寺拳法ですら。

子供同士の喧嘩でさえ無かった。

だが今更にその事に触れる真意が分からなかった。

 

 

「この身体になる前は、確かに経験無いです。」

 

「何を言いたいのかさっぱりって顔じゃな。

簡単に言うと、おヌシの戦いはその身体が覚えてる戦い方の延長のようなものじゃ。

この言葉は受け売りじゃがのう、何を行うにしろ心・技・体バランス良く磨き上げよ。

おヌシはただただ変身だけ突き詰めようと焦っておる。

ご都合主義…その傾向は昔からのようにも見えるがの?」

 

 

カリン様の言葉通りだった。

これまでも、強敵相手にとにかく死なないように強さを求め続けていた。

対サイヤ人達は問題無く、対フリーザ・クウラはギリギリ勝てた。

だがセル編では、いよいよ置いていかれ始めていた。

悟飯にはもちろんの事だが、悟空にもいよいよ地力だけでは敵わない。

 

 

「おヌシはサイヤ人、確かに鍛えればまだまだ強くなる。

もっと更なる高みへ行けると思っておる。

無理強いはせぬが、武術の心得を持つ者に技と精神力を指南してもらえばその速さは比較するまでもないじゃろう。」

 

「…ならカリン様、自分に修「ならん、ワシはおヌシになにも教えることは出来ん。」

 

 

考えを読まれあっさり断られるラディッツ。

だがカリン様の言葉はこれで終わらない。

 

 

「ワシは教えられぬ。

ワシが教えられるのはこの高高度の低酸素状態での超聖水争奪により自然に養われる修行くらいじゃ。

超聖水はただの水じゃし、おヌシのレベルではもう無駄じゃろう。

もう一つの超神水は、心技体のバランスが乱れておるおヌシが今飲んだ所で無駄死にする代物じゃ。

よって、ワシが教える事は出来ぬ。」

 

「そうですか…では帰れません。

せめて、自分を指導出来るかもしれない方をお教えてください!」

 

 

ここで引き下がれば本当に今後が危うい。

そう感じたラディッツは食い下がる。

やはり焦っておるなぁと思いながら、カリン様は再び口を開く。

 

 

「焦るなと言った直後ではないか…。

よく知っておるじゃろう?

ワシよりも教え方が上手く、"武術の神"とも言われる者が。

修行の際に亀の甲羅の重りを付けさせる者が。」

 

「あ 武天老師様!」

 

 

最強の主人公である孫悟空を、幼少期に修行をつけ、立派な武道家としての基礎を作り上げた師である。

強くなると言っていたが、正直なところ忘れていた人物である。

 

 

「かつてここを訪れた時はひよっこだったがの、人間と言うのは鍛錬を積み歳をある程度重ねればそれなりになるものじゃ。

指南と言う点ではワシ以上、過度なプライドは控え、礼節を重んじれば必ず応えてくれるじゃろ。

…スケベなのは除けば。」

 

「カリン様…自分がそのレベルになったらまたお伺いしてもいいですか?」

 

「ここは聖地カリンのカリン塔。

天界と下界を結ぶ塔じゃ。

悪しき者以外なら誰が来ようと構わんよ。」

 

 

そう言い笑いながら唯一の室内へ歩き始めるカリン様。

ちなみにカリン自身も武術の神と言われるが、彼の現在のキャリアからすれば1からやり直した方が早いだろうという判断だ。

時期が来れば自ずとここへ再び来るだろう。

そうさせるかのように()()()も鍛えるだろう。

 

 

(やれやれ…体だけ一丁前になった男か。

これで心技体揃ったらどれだけの器の者になるか…。

久しぶりに楽しみになってきちゃったわい。)

 

 

背後で一礼をし続ける期待の戦士は再びここへ来る。

そう確信しながら仙豆に水をやりに自室へと帰って行った。

 

 

………

 

……

 

 

 

「それで、ワシに修行を付けてくれと言う訳じゃな?」

 

「はい、何卒よろしくお願いします!」

 

 

久しぶりに現れた弟子志願者。

かつて、初めて地球外生命からの悪党だった奴だ。

弟子の孫悟空がピッコロ大魔王と共闘して辛くも倒したはずの男。

よく良く考えれば、「地球人100人の死体をここに積み上げておけ。」と言っていた彼が「修行をつけてください。」と頭を垂れるなど絶対に有り得ないはずなのだ。

 

 

「(こうも面白い事が起こるものかのぅ?

長生きするのも悪くないわい。)

つけてやらんことも無いが、ワシの修行はウルトラハードじゃぞ?

音を上げずにやり遂げられるか?」

 

「はい!」

 

 

実の所、亀仙人の修行なんざ何一つ知らないラディッツ。

唯一知ってると言えば、亀仙流=山吹色の道着 くらいなものである。

サイヤ人の戦闘服を着なくなった後は、それをオマージュした道着を着用するようになったのはそこから来ていた。

 

 

「ふむ…弟子にするならばまずは道着と行きたいところじゃが、もう山吹色の道着と黒いアンダーシャツを着ておるしな。

このアップリケを胸に貼っておけばよかろう。」

 

 

亀仙流の証である亀のマーク。

そのアップリケをラディッツの胸に貼る。

久しぶりに耳にするアップリケと言う単語に心がざわめいたのは内緒。

 

 

「さて、おヌシの言うことに間違いないのならば一刻が惜しいじゃろう?

早速今の本気を見させてもらおうかの?

超サイヤ人になってもらおうか?

あ ちょっと待て………よーし、いいぞー!」

 

 

吹き飛ばされないようにカメハウスの影に隠れ、合図する。

その合図を聞いて一呼吸、全身に気合いを込めるようにするとあっという間に超サイヤ人へ。

超サイヤ人第四段階…この力もだいぶ板についてきたようだ。

 

 

「これが今の自分の超サイヤ人です。

そして界王拳で限界まで引き上げます。

はぁあっ!!

……っはぁ……これが今んところの本気の本気です。」

 

 

瞬時に界王拳を超限界の2倍に引き上げ、直ぐに解く。

それと同時に超化も解いて、普通の形態に戻る。

避難していた亀仙人は問題無かった。

近くで見ていれば間違いなく吹き飛んでいた為に、彼の判断は賢明だった。

 

 

「ふむ、なるほどな。

ではその状態で構わんから、何かしら気功波を撃ってみよ。

その状態で最高の物をな。」

 

「わかりました。」

 

 

海に身体を向け、自身の技の動作に入る。

かめはめ波と行きたいところだが、生憎自分の型にはまっている方が最適だ。

右手をこめかみまで引き上げ、腰を落として中腰。

すべての気を右手に集め、その手は徐々に白く輝く。

 

 

「主砲斉射!」

 

 

勢いよく突き出された右手。

そこから放たれる荒々しい白い光は、海面を抉りながら水平線の彼方へ飛んで行く。

光の通った後はしばらく海面も形を整えていたが、それも質量に耐えきれず轟音と波飛沫を立てて元に戻ろうとする。

しばらく静観する亀仙人。

そのサングラスは、鋭くなった目付きを隠すには丁度良い代物だった。

 

 

「…どうでしょうか?」

 

「ふむ…ふむふむふむ。

なるほどな、カリン様がワシに預けた理由がわかった気がするわい。

こりゃあとんでもないのぅ。」

 

 

亀仙人の独り言に困惑して何を言えばいいのか分からないラディッツ。

それを察して亀仙人は声を掛ける。

 

 

「よし、ならば次は体術じゃ。

ワシと組手をしてもらおうかの?」

 

「組手…このままですか?」

 

「気はワシに合わせんでもいいが、超サイヤ人と界王拳は禁止じゃ。

そして最初は気をわしと同じレベルまで落としてもらえんかの?

いきなり本気になられては、わしがついていけんからな。」

 

 

逆を言えば、超サイヤ人と界王拳が無ければ素の状態でも慣れれば何とかなるという表れである。

曲がりなりにも強敵を倒してきた自尊心が少し刺激される。

武天老師とは言え、気の大きさや体格はこちらの方が上。

善戦は出来ると踏んでいた。

 

「怪我…しないでくださいね?」

 

「ホッホッ、心配してくれるのか。

そうじゃな、年寄りは労わってもらわんとな。

さぁ、来なさい。」

 

 

相も変わらず杖も亀の甲羅も手放さず、まるで棒立ち。

ならばと思い、軽く足払いをするつもりで接近しいとも簡単に間合いに入る。

 

 

「ほっ!

…あ…れぇ?」

 

 

気づく頃には視界が傾き、砂浜を背にして空が見える。

何が起こったのか見当がつかなかったが、腕を掴まれていた所を見ると背負い投げで受け身も取れずにだらしなく仰向けに倒れたらしい。

 

 

「手加減というものは、相手を選ばなければ失礼になるぞ?

軽く足払いで終わらせるつもりじゃったか?」

 

 

手の力を緩めると同時に、大きく跳躍して距離をとる。

完全に舐めてかかっていた。

相手は武術の神 武天老師。

悟空とクリリンを育て上げた男だ。

 

 

「…失礼しました、亀仙人様が凄い人ってのを再確認させられました。

ここからは全力で向かいます!」

 

 

その言葉通り、全力で砂浜を蹴って先程とは比べ物にならない速さで迫る。

そのまま突っ込むと思わせ、途中で残像拳を使って左低めの側面から脇腹目掛けて拳を振るう。

 

 

「いっ!」

 

 

しかしその体を捉える前に、顔に杖がぶつかる。

その隙に上半身が浮かんだ所を放り投げられ、海に頭から落ちて水しぶきをあげる。

 

 

「ふぅむ、これくらいならば本気でやって来ても大丈夫そうじゃ。

遠慮なく来てもえぇぞ〜。」

 

「へ へへへ…ならば遠慮なく!」

 

 

最初は余裕をみせ、自信満々であったラディッツの心に徐々に焦りが見える。

海水を弾き飛ばしながら、再び立ち向かっていく。

蹴り、当身、体当たり、組み付き…その全ての動作に入る前に防がれるか、かわされる。

弄ばれているような組手は、その後も1時間近くまで続き、まさかのラディッツのスタミナ切れで幕を閉じる。

息が切れるラディッツに対し、亀仙人は涼しげに鼻をほじっていた。

 

 

「だぁ…はぁ…はぁ……」

 

「最近の若いもんは気合が足りんぞ?」

 

「はぁ…でぇい!」

 

 

反則気味だが、そっぽを向いた瞬間にタックルを仕掛ける。

その行為虚しく、ヒラリとジャンプし後頭部に着地する。

無論ラディッツはヘッドスライディング気味に顔面から砂浜に突っ伏した。

 

 

 

「まだまだじゃの。

おヌシはてんで体や気の使い方がデタラメじゃ。

詳しく説明してやるから顔を上げい。」

 

「……ぶふぉっ!」

 

 

未だ砂浜に突っ伏していた事を思い出し、慌てて亀仙人は頭から降りる。

口や鼻が砂まみれの顔を必死に海水でゆすいで洗い落とし、とぼとぼと亀仙人の元まで戻ってきた。

まさかここまで敵わないとは…カスリもしないなんて…。

彼の顔は、そんな自信丸つぶれな表情に変わっていた。

 

 

「おヌシの課題はその身体以外のバランスの悪さじゃ。

身体だけならもはやかなりのレベルに達しておるのに、その他がまるで疎かになっておる。

気の量も膨大ながらも質がまだまだじゃ、これも質を良くすればかなりのものになる。

心もじゃ、ワシが避ける事に攻撃がどんどん鈍くなっておる。

技もまだまだと言いたいところじゃが、体が出来ておるから形にすれば伸びてくるじゃろう。」

 

「……?」

 

「要するに、心技体の体以外を鍛えればかなりの武道家の素質を持っておるというわけじゃ。

ワシだってビックリじゃ!

こんなにも勿体ない者がまだおったとは!」

 

 

ラディッツのレベルははっきり言って高くは無かった。

肉体ばかりにステータスを振りすぎて、残念なキャラになっていたのだ。

強敵を目の前に、身体の強度と気の活動量を上げることに躍起になっていたことが原因だった。

ただこれは悪いわけでは無い。

逆を言えば、その他の低いステータスを上げていけば高ステータスのバランスの取れた素晴らしい戦士になれる素質があると言う事だ。

 

 

「修行すれば、俺は強くなれますか?」

 

「慢心せずに、己を見つめ、ただひたすらに高みを目指すのならば、心身共に良き武道家になる。

武道の心得に触れて来なかったのなら、これ以上の無い程いいタイミングと思う。」

 

「それならば、私も混ぜてはくれぬかな?」

 

 

ふと声が降ってくる。

聞き覚えのある声だ…毎週日曜日にたまに現れる…ではなくつい最近まで敵だった者の声だ。

忘れるわけがない。

 

 

「「セ セルぅっ!?」」

 

「脅かせてすまぬな。

超聴力で話は聞かせてもらった。

私も強さを欲している…いくら細胞を取り込んだ所で今の私には限界がある。

今のこの世界に私と気楽に手合わせしてくれる物好きがいるとは思えん。

教える気がないのならば、たまに手合わせの相手になってもらうだけでも構わん。」

 

「お おい、こやつを連れて来るとは聞いとらんぞ。」

 

「俺だって知りませんよ!

勝手についてきたんじゃないんです!?」

 

「……嫌なら別に構わん、私は去る。」

 

 

いくら小声で喋っても、超聴力で全て筒抜けだった。

飛んで行こうとした時、思わずラディッツが声を掛ける。

 

 

「待ってくれ!

セル、お前が強さが欲しいのはなんでだ?

…地球人を殺すつもりか?」

 

「前にも言っただろう、無駄な殺生に興味は無い。

…ただな、私の産まれた理由は究極の武道家になる目的だ。

Dr.ゲロの言いなりでもない。

コンピュータがその目的で生み出したが、今は心の底から真の強さを手に入れたいと思った。

貴様らに適わないと思った時からな。

目指すのは、完膚無きまでの強さを持った究極の武道家だ。

…笑いたければ笑うがいい。」

 

「セルよ、笑うわけがなかろう。

その高みへの挑戦こそ、自身を成長する糧となる。

…おぬしの言葉に嘘はなかろう。

ここで鍛錬に励むが良いぞ?」

 

 

長年の鍛錬により、相手の言動がどれほど信用足るものかもわかる亀仙人。

セルの言葉に一点の曇りの無い事を察すれば、間違いなく本気の思いなのだろう。

基本的に自分から弟子をとる事は滅多にないが、このような純粋な動機と高いモチベーションをもった者ならば、むしろ喜んでその武道家の真髄を指南するつもりだ。

 

 

「さて、鍛錬の前にこれを付けてもらおうかの?

わしが亀仙人と言われる理由はここから来る。

生憎おぬしらに合うような重さは無いが、これで我慢しておくれ。」

 

 

カメハウスからよいしょよいしょ言い、二つの亀の甲羅が運び出される。

重量にして100kg。

一般人にとっては絶望的な重量だが、馬鹿げた戦闘力の二人は軽々しく持ち上げられ、まるでリュックでも扱うかのようだった。

 

 

「へへっ、セル。

お前ガメラのパチモンみたいだわ。」

 

「ガメラ?」

 

「さて、背負ったところでおぬしらにはなんの意味も無いじゃろう。

気を極限まで抑えてもらおうかの?

ズルしたって無駄じゃ、わしも気を読めるからの。」

 

 

気と言うものは、簡単に言えば生命エネルギーでもあり、戦闘エネルギーにも揶揄される。

気を上げたり解放する事で、自分の攻撃力や防御力を上げることも出来る。

それを抑えろと言うのならば…即ちパワーを下げろという事だ。

50kgの甲羅の重りを背負った状態で気を抑えれば、たちまち全身が悲鳴を上げることも容易に想像がつく。

亀仙流の修行は負荷トレーニングだ。

 

 

「負荷か。

どれほど下げればいい?」

 

「わしに合わせれば良い、これくらいなら丁度良いはずじゃ。」

 

 

 

具体的な数値を上げるなら、戦闘力50。

丁度悟空やクリリンが天下一武道会初参加の時よりも若干下回るあたりなのだが、無印時代すら知らぬラディッツにとっては知った所で無駄な知識になるだろう。

戦闘力を徐々に抑えていく。

両肩の紐が比例するように肩にくい込んでいく。

 

 

「7年…それだけ無くともそこそこ仕上がるはずじゃ。

さて、おぬしらにとってはその重りは動けない程度ではなかろう。

そのまま真っ直ぐ泳ぐぞい?」

 

「…背負ったままです?」

 

「当然じゃ、近くの島までじゃ!

ほれほれ、修行はもう始まっておる!」

 

 

カメハウスから次の陸地までの遠泳。

このカメハウスのある孤島から、近くの島まではそこまで時間は掛からない。

ただしそれは飛行機やボートで移動すればの話であり、遠泳のアスリートですら泳いでいくとなるならば15時間はかかるであろう距離である。

それを50kgの重り付きとなれば、自殺行為とも言えるだろう。

 

 

………

 

……

 

 

 

「クソゥ…あのジジイはあてになるのか?」

 

「し 知らん!

だが、亀仙人のおかげで悟空は武道家の礎を築き上げたと言えるだろう。

死ぬかと思ったわ…。」

 

 

だがたったの3時間で泳ぎ切るのはもう人間離れし過ぎているとしか言えない。

普通に泳ぐのではなく、二人とも尻尾をスクリューのようにしていなければもっと掛かっていただろう。

全身クタクタになりながら海岸を歩くと、そこにはカメハウスが立っていた。

あれだけ真っ直ぐ進んでいたと言うのに、潮流の影響で大きく戻ってきてしまったというのか。

これには二人とも苦い表情を堪え切れない。

 

 

「意外と早いもんじゃ。

もう二時間ほど掛かるかと思っておったぞ?」

 

「どういう…?」

 

 

カメハウスの背後に何やら建物が見える。

ここにカメハウスがあるのならば、周りは海。

建物なんて無いはずだ。

 

 

「あの島で修行するとなると、いくらなんでも場所が無さすぎるからの。

カプセルに入れて先回りさせてもろうたわい。

さて、明日からの修行ではその尻尾を使わずに今の距離を往復する修行も組み込んである。

ウミガメとワシの食料を箱で貰わんとな。

久しぶりに牛乳配達とバイトをしてもらおうかの。

今日は準備運動で手一杯じゃ。」

 

 

時間はもう夕暮れ時に差し掛かっている。

泳ぎ始めた時から3時間もかかれば無理もないが、あの距離を往復…どれだけの距離があるかわからない上に、目安となる目標物の無い海を泳いで来いと言う。

ただ出来ない事を言わない武天老師。

二人の力量と精神力を見定めているのだ。

 

 

「ラディッツは家庭もあるじゃろう。

休む時は家に帰って良い、休む時は休まなければならん。

…出来れば人妻ランチさんを連れてきてもええんじゃが……。

セルは行くとこが無いのならしばらくここに住めば良い。

ちとワシの身辺を手伝ってもらいたいしの。」

 

 

さらっと本音が出たのはさておき、ラディッツは帰宅が許されてセルは留まることを許される。

亀仙流の基本方針「よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。

そして人生を面白おかしく張り切って過ごす。」

今回も例外無く、その方針に則った教えである。

武天老師の計らいに感謝し、セルは留まり、ラディッツは舞空術で家路へと着く。

南の大きな島からカプセルコーポレーションまでは、ゆっくり飛んで1時間。

到着時には日もほぼ落ちていた。

 

 

「…って事があったんだ、流石にクタクタだ。」

 

「色々ありましたわね。

これから毎日修行なの?」

 

「そういう事になるのかな?

明日からはバイトも入るとか言ってたから、多分生計は困らないとは思うけど。」

 

 

味的には問題ないが、何をどうしたらこうなるのか分からないほど真っ黒の麻婆豆腐を美味しく完食し、ラディッツは椅子にぐったりともたれ掛かる。

サイヤ人の身体なら屁でもない修行も、一般人(超人レベル)まで気を落とすとここまで辛いものになる。

いかに自分が馬鹿げた身体になってしまったのかが痛感する。

 

 

「もし困るようなら、そこら辺の武道大会に出させてもらって賞金でも頂こうかな?」

 

「大丈夫よ、最近通帳のお金が徐々に増えてるの。

何故かわからないけど。」

 

「え?

あぁ、もう一人のランチさんが最近ダーティヒーロー的なことやり始めてるからだと思うよ。」

 

「えぇ!?

私…なんて恐ろしい事を……。」

 

 

そう、最近カプセルコーポレーションの付近の治安が急に良くなってきていた。

金髪の女戦士…彼女に悪事が見つかれば、たちまち半殺しの状態で広場に吊し上げられ、多額の金品すらも奪われるアンチヒーロー。

SNSで次第に話題となり、今ではその活動が密かに話題になっている。

 

 

 

「悪い事しなけりゃ…まぁいいんじゃない?

とりあえず今日は、申し訳ないけど早めに寝るね。

あれだけ動いて夜更かし出来るほどもう若くないや。」

 

 

 

重たい体を引きずって布団に横になる。

皆の憧れ戦士の師である武天老師。

そのしごきに恐れながらも少しワクワクして興奮して眠れなさそうだ。

…と思った矢先に瞳が重くなる。

 

気づけばもう夢の中。




修行パート…手を出しておかないとこの先の的をラッキーマン的要素以外倒せなくなります汗

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