明朝午前3:30。
目覚まし時計よりも30分も早く起きてしまった。
歳をとると目覚ましよりも早めに起きてしまうなんて都市伝説だと思っていたが、最近目覚まし時計に頼らなくなってきた事を見ると嫌でも実感せざるを得ない。
残り30分あるが、渋々諦めて朝食に取り掛かる。
起きてしまった朝は大体ラディッツが作る。
と言っても、昨晩のサラダのあまり、卵焼き、ウインナー、味噌汁とそこまで手は凝ってないので尻尾も使えば30分も掛からない。
起きる予定時刻にはテレビを付けて朝食を摂る。
チャンネルを回したところで通販番組が殆どで、唯一退屈しのぎになりそうな情報番組を眺めながらあっという間に完食。
食後のコーヒーを啜りながら道着に着替え始める。
(さぁ、今日から頑張るぞ。)
朝日が昇る前に家を出て、引っ越したカメハウスへ向かう。
到着すると、既にセルと亀仙人が外に出ていた。
「随分早いな。」
「早く起きちゃったんだよ。」
「歳か。」
「やかましい。」
茶々を入れるセル。
だが冗談だと言うのも、機嫌が良いのも声色でわかる。
強くなりたいと思っていたのはやはり嘘ではなかったようだ。
話はそろそろに…と言いたげに亀仙人は小さく咳払いする。
空気を読んで、二人とも口を噤んで亀仙人へ意識を向ける。
「二人ともおはよう。
早速じゃが修行を始めるとしよう。」
亀の甲羅、武天老師が亀仙人と揶揄されるもの。
カプセルを取り出し、PON! と軽い音の後に現れる亀の甲羅型のただの重り。
重さは100kgちょうど。
重ねて言うが、これを戦闘力50レベルで背負って半日を修行に費やす。
戦闘力50とは誰くらいの強さであろうか?
あまりのインフレの酷さで、よく覚えていない方(執筆者含む)がいるので簡単に言えば…
第21回天下一武道会 悟空とクリリンが初めて天下一武道会に参戦した大会でのクリリン、彼が戦闘力60。
15,6歳あたりのクリリンに少し劣るくらい。
その頃の亀の甲羅の重りは20kgで、最終的には40kg。
これが2.5倍の100kg。
例えて言うならば、原付バイク2台分・20kgの米袋5袋・道行くスリムな女性二人分(?)。
「お…っもい!」
「当然じゃ、かるくては修行にならん。
ほれ、このカゴを持て。」
よっこいしょと一声の後に、更に追加された重り。
中には小型の重りが沢山…ではなく牛乳瓶がビッシリ並んでいた。
これが何を意味するか。
感の鋭い皆様なら良くおわかりだろう。
「牛乳…配達?」
「左様、これを走って配達をする。
これならばランニングも兼ねて収入も得られる。
いわゆる肉体労働じゃ。
早い分にはいいが遅ければ牛乳は腐って商品にならん。
生計が立てられなくなるぞ?
ラディッツは収入を得られなくなり、セルは飯抜きじゃ。
今回は初めてじゃから、特別に保冷バッグに包んで行くぞい。」
え、セルも飯を食べるの? と思う前に、収入が得られなくなるショックの方が深刻であった。
何としてでも新鮮な内にお届けしなくては。
収入減は青髪ランチさんならともかく、金髪ランチさんにドヤされる可能性がある。
銃弾の雨ならなんとかなるが、精神的にそれは辛いものがある。
てめぇ誰のお陰で大飯食えると思ってんだ! なんて言われたら、いよいよ家に帰れなくなる。
「さて、ランニングがてら道案内するぞ?
ハイ、イチニ、イチニ!」
テンポよく走り出す一行。
その光景はかれこれ20年前、悟空とクリリンが行った修行そのものである。
昔は目をキラキラさせた少年二人を連れていたが、まさかその宿敵であった兄が…三十路のオッサンと得体の知れない化け物を弟子に付けるとは思いもしなかった。
だがその秘めたポテンシャルは、悟空を思わせるような高さを秘めているに間違いないのだ。
一行はひた走る。
時に谷底深い渓谷に掛けられた固定されていない巨木の一本橋。
時に空腹に飢えた人喰い恐竜のテリトリー。
時に永遠と続く並木道をジグザグと。
それぞれ過酷な環境に住む人たちへ、牛乳を届ける。
極めつけは、標高2,000m級の山をロッククライミング、そして何千段もある不揃いの石階段。
その山だけは尻尾の使用が許可され、何とか登り切る。
「おはようございます和尚様、牛乳をお届けに参りました。」
「おはようございます。
いやぁ…久々に弟子をとられましたかな?」
「えぇ、昔の弟子より年増ですがな。」
荒い息と滝汗の男が這いずり昇りきる。
ロン毛で人相も悪い事から、何処かの道場から問題児でも引き入れたのかと思った矢先、今度は緑色の訳の分からない生物が這い上がってきた。
あまりにも事情がわからないが、きっと天下の武天老師も少し趣向を変えてきたのだろうと強引に事態を飲み込む。
「そ…そうですかな?
い いやぁ、武天老師様は分け隔てなく弟子をとるとは…す 素晴らしい。」
「ほっほ、気まぐれという所でしょうな。
明日からは保冷バッグ無しで来させます故、いつもよりも温いですし時間通りに来ないかもしれませんが…大目に見て下さいな。」
「武天老師様のお弟子様です。
こちらも気長に待ちますので、どうかご安全に。」
「では、ご無礼を致します。
さぁ、降りるぞい!」
セルもラディッツも一礼して断崖絶壁のような岩肌を跳ぶように降りる。
着地点を誤れば、位置エネルギーと100kgの重りで簡単に真っ逆さまに落ちる。
先んじて「舞空術は無しじゃぞ」と釘を打たれてしまったら…どうにも的確に降りるしかない。
「飛び降りるのでは無く、山肌を駆けるように降りれば容易いぞ。
ほれほれ!」
空の牛乳瓶は暴れ、重りが邪魔で動きが制限され、何度目かの九死に一生を得てようやく地面に降り立つ。
このランニングで、一般人なら少なくとも十何回は死んでただろう。
ラディッツやセルのビジュアルも、近年のイケメン具合からギャグ漫画のような人相に変り切って荒い息を上げている。
「「ハァ…ハァ…ゼイ…ゼイ…。」」
「ふぅむ、やはり今日は保冷バッグは正解じゃったな。
明日からは保冷バッグは無しで同じ条件じゃ。
さぁ、次の修行をするぞ?」
「「…は…ぁい…。」」
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「でやあぁぁぁぁ!」
「ぬわぁあぁぁぁ!」
広大な荒地に、数メートルの幅で指を突き刺していく二人。
ある程度の距離で人力のローラーで地面を固め、熱々のアスファルトを撒いて、再びローラーで固めていく。
何をしているのかと言うと、都市と都市の間には道路が通っておらず、人力で国道を作っている。
山があれば素手で掘り、岩があれば素手で砕き、川があれば橋にする。
文字通り一直線に結ぶ壮大な計画を二人で行っている。
「ファイトじゃ。
この道が出来れば何千何万の人が喜ぶ慈善事業じゃ。
ちゃんと平らにするんじゃぞ。」
「「…へ…へ〜い…。」」
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穏やかな海。
今日はベタ凪。
絶好の海水浴日和でもあり、航海には穏やかだろう。
そんな中、三隻のボートが大きな
いや、正確に言えば一隻と二人。
凄まじい速さで島々を抜けていく。
『尻尾は使うなー!
沈む暇があれば前へ進めー!』
「「がぶぉぶぶぶばぁぁぁぁ!!」」
食材やら飲み物やらが積まれた亀の甲羅を背負い、必死の思いで泳ぎ続ける二人。
「多すぎやしないかだって?
安心せい。
水には浮力があるから、多少荷物を乗せても大丈夫じゃ。」
(ふざけんな!
浮力を重りと荷物がぶっ壊してんだろうが!!)
(こんな所で死にはせんが、この程度で力を解放するほど私は落ちぶれてはおらんぞぉ!!)
死にものぐるいで物資をカメハウスのあった島へ運び、再び元の海岸へ戻る。
全てが終わった時、太陽なんてどっぷり沈み切り、時刻は22時になりかかろうとしていた。
こんな修行が…下手をすれば7年間続く。
サラリーマンの7年はあっという間に感じるだろうが、ここまで内容の濃い7年なら、下手したら地獄の方が鬼と仲良く平穏に過ごせるのではないかと思い違えてしまう程だ。
「二人ともご苦労じゃった。
明日からはとりあえず、この修行を一通りこなせるまで続けてもらう。」
「「…はい。」」
「ほっほっほ。
悟空とクリリンも、最初はそんな感じだったわ!
まだお主らは、返事する体力が残っているだけ結構な事なんじゃぞ?
ちょっと今は死んどるが、今の悟空があるのも全てここから始まったんじゃ。
あそこまで強くなるとは思わなかったが、悟空本人も修行が終わった時は強くなった自分に驚いていたもんじゃ。
ワクワクせんか?
この辛い修行を終えたら、今まで限界だったと思えたレベルが簡単に届くどころか既に通過しておる。
まだ見えぬ世界が、修行を積むことにより見えるようになる。
そしてその成果を遺憾無く発揮する舞台が、数年後には用意されておるのじゃ。
地球の運命を掛けた戦いと思うと荷が重い様にも思えるが、強さを求める武道家にとってこれ程幸せな舞台は無いと思うぞ?
強さを確認出来れば、また新たな課題が見つかり取り組むことができる。
武道家と言うのは、一生前に進むことができる素晴らしいものじゃ。
難しく考える必要は無い、昨日の自分を超える事が確実に出来る人生。
今日出来なかった事が少しずつ変わってくるじゃろう。
…いかん、歳を取れば何を言うにも説教じみてしまうな。
今日はゆっくり休むんじゃ。
そうじゃラディッツ、ランチさんにくれぐれもよろしくの。」
最後の最後に下心をチラ見せさせられ、今日の修行は終えた。
正直言って、武道家なんてドMの極みかと思っていた節があったが…武天老師の話を聞いて考えが少し変わった。
修行=昨日の自分が出来なかった事を出来るように励む事。
そう考えると、悟空は単なるバトルジャンキーなのかと思っていたが、課題を見つけてそれを克服したい欲が強いだけなのかもしれない。
もっとよく考えれば、そんな人一般人の世の中にもいくらでもいる。
アスリートなら修行とか鍛錬の言い回しも似たものがあるが、一般人に置き換えれば改善とか工夫とかの言い回しで現れる。
家計簿を見直して、先月使い過ぎたから今月はうまくセーブしよう。
この前、別の取引先で資料にミスがあったから、今度は見直してちょっと煮詰めてみよう。
今日寝坊して忘れ物したから、明日は早く起きて余裕を持って家を出よう。
そう思うと、日常の全てが修行に繋がるのではないか?
(自分にできる事をしよう。
この修行は悟空がもう子供の時にやってたんなら、俺にもできないことはないだろう。
この道を辿れば悟空に繋がる。
そう思うとモチベーションが上がるな。)
重かった身体が少し軽くなる。
まだ初日、ここからが正念場だ。
時を同じくして、セルと亀仙人。
島に運ぶ食料の中からいくつかカメハウスへ運び入れており、その中から軽く料理を仕上げる。
「お主に料理の心得があるとは思わんかったわい。」
「この時代に来て少ししてから、過去にいなかったラディッツの細胞も手に入れたのでな。
これくらい程度なら簡単だ。
生体エネルギーを吸収出来ない以上、食事でしかエネルギーを確保出来ないからな。」
今セルに必要なのは、高タンパクな物と炭水化物。
破壊された筋繊維と不足するエネルギーを回復させる為にはバランスの取れた食事とプラスアルファで以上の物が必要である。
「…こういう事は他の物にも教えてやりたいものじゃ。」
「サイヤ人はこういう事をしないのか?」
「あ奴らはただの大飯食らいじゃ。
なんでも沢山食べるからバランスなんてへったくりもないわい。」
「食事トレーニングの一環…ではなさそうだな。」
「昔からそうじゃ。
初めての修行の夜も…と、ワシらはフグの毒で死にかけたがの。」
「武を持って毒を制すか?
いや、それは流石に無理であろう。」
意外にも武天老師との食事は楽しいものだった。
この日からセルは亀仙人と食事を摂りながら色々な昔話を聞いた。
悟空、クリリンとの修行の日々、天下一武道会の出来事、亀仙流と鶴仙流…。
少年記から青年期、ピッコロ、サイヤ人達、ナメック星でのフリーザ軍との戦い。
色々と孫悟空に纏わる話をいくつも聞くことが出来た。
それがセルにどれほどの影響を及ぼしたかはわからない。
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「…金はいくら掛かる?」
「そーですねぇ…大体これくらいになるかと…。」
「ふぅむ、これっぽっちでいいのか?
この十倍出す…いや、君の言い値で構わん!
これまで以上では無く、未来にも過去にも最大規模で世界一のゴージャスなものにしたまえ!!」
ある男が、召使いからタブレット端末を取り上げ声を荒らげている。
それはまるで漫画の中に出てくるとても長い食事テーブルからだ。
さぞかし名高い貴族か、資産家か…どちらにせよかなりのお金持ちでなければ出て来ない台詞だろう。
全ては息子のある願いで、金にものを言わせて実現させる計画。
そして自身の名声を更に世界中に知らしめる為でもある。
準備には時間は掛かるが、そう大した時間は要らないだろう。
金さえあれば、自身に出来ないことは無い。
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「馬鹿な…俺…が……。」
「「す…すげぇ!」」
「そんな!
…クソ、殺るなら…俺達も戦ってやる!」
1人の大男が地に倒れる。
繰り広げられた戦いは、もう一人の男に軍配が上がる。
気を失った男に近寄るその仲間達。
そして長を庇う仲間も、敵意剥き出しで立ち塞がる。
しかし、一番強い者が戦って敗れたのだ。
目の前に何人立ち塞がった所で、結果は見えている。
それでもこの者を守ろうとするのは、それほど慕われていた証なのだろう。
「……く、はぁ。」
「そこまでにしておけ。
お前達、コイツをここまで強さを引き出したのなら見込みが多少はある。
どうだ?
この俺に協力するのは如何かな?」
「協力…だと?」
思わぬ提案に動揺が広がる敗者達。
「ふざけんじゃないよ!
どうせまともな条件じゃないはずだ。」
「なぁに、俺達の為に少し動いてもらうだけだ。
今度、北の銀河にある地球という星にいる奴に復讐をしようと思っているのだよ。
奴らを誘き寄せて始末している内に、その星の生物を皆殺しにしておいて欲しいのだ。
後にそこを拠点にして宇宙帝国を作るから、星は無傷に近い状態でな。
我々が出向いてもいいが些か面倒でな。
…狸寝入りはもう充分だ、悪い話ではないと思うが如何かな?」
気を失っていたはずの大男が、身体を起こして座り込む。
不意打ちの機会すら与えられない。
提案を呑まなければ、ココが墓場になるかもしれない。
「この俺様を駒にしようってか?」
「どうかな?
その星を我々のものにした後、君達は好きにしても構わん。
我々を殺しに来ようが自由だ。
最も、次に戦う時はその命をコイツが奪うだろうがな?」
「……その時に俺様が強くなっていればその減らず口を叩けなくしてやる。
その間は……いいだろう、地球の奴らを皆殺しにしてやる。」
「いいんですか!?
そいつの言いなりになっても!」
「今は、だ!
まだコイツらとの勝負に負けた訳では無い。
ふふ、後悔しても知らないからな。」
悔しさに思わず口をかみ締める。
宇宙最強だったはずなのに、まだ上がいた。
いや、自分達がいない間に自分らを上回る奴が生まれてしまっていた。
戦い初めは明らかに片手で捻り潰せるほど弱かった。
だがどうだ、拳を交える事にどんどん攻撃が鋭くなり、自らの攻撃が躱され効かなくなっていく感覚に陥っていく。
これまで多くの生物と戦ってきた大男だが、こんな奴は初めてであった。
「ふふ、まぁお互いにこれで休戦。
俺の為に働いてもらうぞ?
なぁに、まずは俺だけで出向いて目当ての奴を誘き出す。
その為にまずはじっくり偵察だ。
計画にはまだ少し時間が掛かる、確実性を持たすためにはな。
それまではこの星で仲良くやろうではないか。」
確実性を持たすため…その自然現象が起こるまではまだ数ヶ月レベルで待たねばならない。
この星が軌道上にある事は既に科学者によって調べられている。
その自然現象は、グモリー彗星の衝突。
この星よりも数千倍もある超巨大彗星である。
(待っていろよベジータ…。
全てはこの為に。)
憎しみを込めて握りしめる。
パラガスの復讐計画は、目前に迫る。
………
……
…
修行を初めてから三ヶ月、いや半年。
牛乳瓶がたっぷり入った籠を抱え、亀の甲羅を背負いせっせと走る光景は見慣れた物になりつつある。
これが子供や青年なら、「可愛らしい、微笑ましい」とでもなるのだが、壮年・強面・ロン毛のおっさんと得体の知れないガタイの良い緑色のモンスターがそれをやっているのだから…。
やはり冷静に見てもシュールな光景である。
「…随分と軽々と運ぶようになったではないか。」
「セルも随分と余裕って感じだな。」
雑談をしながらこなせるようになった二人。
元々の身体がだいぶ仕上がっていたとは言え、戦闘力を抑えて恐竜から逃げ、断崖絶壁をテンポよく上がり、踊るように駆け下りる。
二人ともかなり高いレベルの潜在能力があった。
一人は元々のポテンシャルはあったが、それが活かされる前に死んでしまっていた為に活かしきれていなかった。
それがやっと開花されてきたと言えよう。
もう一人は未だに完全体の形態が残っている。
セルゲーム前の数日間、ただ一人でウォーミングアップレベルのみで真の力を発揮したとは到底有り得ない。
歴戦の戦士ですら、様々な修行をこなしているのだ。
サイヤ人・ナメック星人・フリーザ一族の細胞を取り入れ、鍛錬を積めば、どれほど強くなるのか未だわからないだろう。
「この身体…細胞を取り入れただけ強くなったと言うのは甘かった。
鍛えれば、まだまだこの形態でもパワーアップするとは。
ワクワクするなぁ。」
「あぁ、サイヤ人の細胞も入ってるんだ。
そりゃ強くなるだろうよ。
この身体だって、まだ超サイヤ人
そしてその先は…いや。
それまでに地盤を堅めて戦い方を学べばまだまだ強くなれる。
俺も楽しみだ。」
そこまでいけば最強の
まずは目の前に集中しなければ壁を越えることは出来ない。
道路作りも遠泳もさっさとこなす。
当初に比べ何時間も早く終える事となった亀仙人の修行。
この一通りのルーティンが終わると、武天老師直々の気の扱いの修行なる。
通常修行が終わる時間が早くなっていくにつれ、この気の修行の時間が増えて行った。
気は生命エネルギー、攻撃や防御にも用いられる上にかなりの応用が効く。
そして応用技の、気を放出する気功波…エネルギー波とも言う。
極めればそれは。一点に集中させて貫くものに特化させたり、形質を変えて気の刃にしたりと…。
攻撃や防御にも使われる故に、戦術や応用によっては格上の敵にも通用するほど優れたものである。
「…乱れておるぞ。」
「す すみません。」
杖で小突かれて、コン と小気味良い音が響く。
いわゆる座禅、二人はそれを行っている。
ただの座禅ではなく、文字通り邪念を取り払わねば気で勘づかれてしまう。
体内の気を整え、落ち着かせ、滞りなく一定にゆっくり体を巡らす。
一般人には想像もつかない、とてもレベルの高い座禅だ。
「話を続けよう。
先程も言うた通り、その武道大会にはもちろんお主らも出てもらう。
その筋に精通する者から聞いた話じゃから間違いないじゃろう。
おぬしらは戦闘力を抑え、純粋な力でどれだけの相手に渡り合えるか確かめる良い機会じゃからのう。
優勝は期待せん方がいい。
力を抑えるから悟飯やベジータどころか、クリリンやヤムチャにも勝てるかどうかじゃからのう。」
テレビCMでもやっていないが、世界規模での武道家大会が開かれるという。
天下一武道会は数年に一度である為に今年ではない…とすればまた別の何かしらの大会なのだろう。
いずれにせよラディッツもセルも知らない大会だ。
「セルよ、乱れておるぞ。
…なんでもギョーサン・マネーとやらがスポンサーになっとる。
高額な賞金に目がくらんで様々な輩や武道家が来るじゃろう。
武を高める者ならともかく、金に目が眩んだ訳の分からん者に負けないように精進する事じゃ。」
配達や肉体労働が徐々にこなせるようになり、モチベーションも下がる前にこのような催しがあるのは、亀仙人にとっても悪くない話だった。
この大会の出来次第では、次の修行に移っても問題ないある種のものさしになるからだ。
気晴らしに自らも出ようかと思っているくらいだからだ。
目の前にいる弟子と、かつての弟子達と久しぶりに組手でもしてみたいと考えていたからだ。
(…武道家の中に、ピチピチギャルでもおればパフパフしちゃおっかな〜)
「「気が乱れてますよ。(いるぞ。)」」
亀仙人の鼻から鼻血が出ている事なんて見なくても二人は分かっていた。
「なんだと!?」
「聞こえなかったのか?
お前はもうしばらくしたらここから追い出すと言ったんじゃ。」
ところ変わって神領。
何やら元祖ラディッツと無神が揉めている。
「何故だ!
俺には居場所が無いからここに連れてきたんだろう!
今更あの世にでも送るのか!」
「あの世にはまだ送れん。
身体がまだ現世で元気モリモリじゃからな。」
「じゃあどうするつもりだ!」
「己の命はしばらくワシがあずかっておる。
そのしばらくがようやく終わるという事じゃ。
生かすも殺すもワシ次第、そんなに無駄にしたいか?」
命を預かる…ラディッツをどうするかは無神次第。
あまりにしつこく聞くと消されそうだと思ったのか、ラディッツはまだ何か言いたげだったが渋々口を噤む。
「お前はこの物語のキーじゃ。
これまでは鍵穴がなかったようなもんじゃったが…ようやく下地の準備が出来始めた。
わからんか?
お前を元の体に戻すんじゃ。」
「身体を!?
戻れるのか!?」
「元々バラバラの身体が元に戻る、お前の読んだドラゴンボールGTのウーブと似たような感じだと思え。
あやつは、河野は元々地球人。
サイヤ人のように無限に強くなる訳では無い。
今は河野自身が入ってるから、普通のサイヤ人のように強くなってはいかないがな。」
「早く強くなっちゃぁ行けない理由でもあるのか?」
「そんな早く強くなってみろ。
基礎の基礎のありがたみが無くなるわい。
ラディッツ、お前も基礎の基礎すらサボって地球にやってきたから、呆気なく死んで恥さらしになったのを忘れたのか?」
戦闘力…たったの5か…ゴミめ…。
この言葉を辛うじて残し、サイヤ人の中では最弱のポジションを確定させてしまった。
目に余る程の愚行を残してしまった事実にぐうの音も出ない。
ただ単に戦闘力を上げるのではなく、基礎を自然に、当たり前のようにその成果が出るように、身体に覚えさせるまで徹底的に行わない限り、地力が鍛えられる訳が無い。
基礎トレーニングを、反復練習をただひたすらに続ければ、それはいつか形になる。
今までラディッツや河野がしてこなかったものだ。
「周りの人達が自分よりも強くなり始めた。
己を鍛える事の意味と重大さに気付かされ、ようやく武天老師の元で修行を始めた。
今までの出来事はそれに気づくための前フリみたいなものじゃ。
周りに言われたからやる、そんな精神で修行したところで成長なんてたかが知れておる。
自分で気づいて、試行錯誤を重ね、実践でまた反省点が出てくる。
悩んで悩んで悩んで…それでも終わりの無いもの、武道だけじゃなく、スポーツ、勉強、芸術、全て物にそれは通ずる。
最初の内はわかりやすいところが修正点だと気づいたりするが、突き詰めていくとそれはそれは地道で果てしないものになっていく。」
「…要は河野自身がそれに気づくまで俺をここにいさせた訳か。」
「そうだ、まぁ奴の進歩具合で決めるつもりじゃ。
お前も迷惑をかけぬようにな。」
無神は高笑いする。
いよいよ元の体に戻れる。
そうなると河野はどうなるのか?
彼の存在はどうなるのか?
ここまで強くなったのも、彼自身の功績が大きく関わってくる。
奴が消えてしまったら…。
(…ふん、俺もカカロットの甘さでも移ったか?
元は俺の体だ、やつの事なんざ知らねぇ。)
謎の違和感を認めないようにラディッツは忘れようとした。
いつになるか分からない戻る日を楽しみにしながら。