翌朝8時、朝食の支度が出来たと言われラディッツは食堂へ向かう。
既にベジータがモリモリ料理を平らげており、存在しない伝説の超サイヤ人討伐の為に力を蓄えている。
(今日こそ…今日こそ出てこい!)
思いはもう顔に出ている。
パラガスは既に食事を終えたようなので、ラディッツも手元の箸を手に取り最後の朝食になるかもしれないと味わって食べる事にした。
「ラディッツ、今朝方早くトランクス王子が外出されたが…何か知っているか?」
「うーん…わからんなぁ。
あ、昨日なんかあれが気になるこれが気になるとか言ってたから、早速見て回ってるかも。
大丈夫、俺達を置いて帰るような奴じゃないから。」
そう話をでっち上げながら周囲を見れば、アボだかカドだか…赤い方の姿を想像が見えない。
どうやらトランクスの監視中に撒かれて、慌ててラディッツを起こして確認した…という所か。
「そんな事よりパラガス!
明日には見つけると言っていた超サイヤ人はどうした!?」
「そ それがまだ調査中でして、近くに居るのは間違いないのですが…。」
ベジータは苛立っていた。
昨日探索に出向いたトトカマ星では、結局伝説の超サイヤ人は影も形もなく無駄足に終わった。
パラガスは自分を筆頭に、一生懸命配下に捜索させているというが…それも今のところ役に立たない。
パラガスはもうあてにならないと考えたベジータは、いよいよ情報を待たずして自ら宇宙を巡り、探す事を決めた。
これに慌てたのは勿論パラガスだ。
グモリー彗星の衝突までベジータをここに足止めしなければ、計画が全て無駄になる。
いよいよベジータも痺れを切らしてきたのだろう。
朝食を途中で切り上げ、スタスタと歩き始めた。
向かう先は宇宙船の方角。
「ベジータ王!?
ベジータ王、お待ちください!」
(お、帰る気になったのか!?)
ブロリーも後を追って外に出る。
ラディッツも期待半分で続く。
「なんだパラガス、俺の邪魔をするな!」
「明日まで!
明日までお待ちください!
必ずや伝説の超サイヤ人を見つけます!
せめてもう一日程猶予を!」
その時、トランクスが舞空術で飛び込んでくる。
気を抑えていない事を見ると、シャモ星人達に全てを伝えられたのだろう。
「父さん!
パラガスの言っていることは嘘です!
伝説の超サイヤ人はいません!
奴らは俺たちをここで足止めさせて、彗星の衝突に巻き込ませるつもりなんです!」
「彗星?
寝惚けて何を言い出すのですかトランクス王子。」
思いのほかネタバレが早かったトランクス。
ここまで言ってしまったらもう誤魔化しも効かないだろう。
トランクスの表情はまさに本物。
それを見た後にいくら言い訳を並べても消されるだろう。
「はぁ、もうおしまい。
パラガス、俺達はもう全部知ってるんだ。
ベジータ、伝説の超サイヤ人は確かにいるぞ?
すぐそこにな。」
指さされたブロリーは目を白黒する。
パラガスも必死にそんな事はないと否定するが、もうお構い無しだ。
ここにきてようやく、トランクスを見張っていたカドも送れて飛び込んでくる。
余程焦っていたのだろうか、額には汗がいくらか流れている。
そんな遅れてきたパラガスの部下に目もくれず、ラディッツは事の真相を話し続ける。
「頭の飾りは暴れた時用の制御装置だ。
下調べがあまり進まずにここまで黙ってたのは悪かった。
彗星の衝突が今日と聞いて、調べきれずにネタバレするしか無かった。」
つい先日出会ったパラガスと言う生き残った同胞と、未来を知る忌々しい元腰巾着と最愛の息子のトランクス。
どちらの情報が信じるに値するかは明白であった。
「…パラガス貴様、俺を騙しやがったな?」
「フフフ…ハハ…ハッハッハ!
バレてしまってはもうこんな茶番はしなくてもいいな?
ベジータ、貴様の姿は凄まじく笑いものだったぜ。」
この言葉を合図にし、アボとカドはパラガスの前に出る。
もう何も隠す事は無くなった。
彼らの復讐劇は、演技の段階から実力行使の段階へ移った。
「いくら貴様が王族の血を引いたとて、俺達に敵うはずも無い!
やれ、アボ! カド!」
嫌味たらしいアボとカドが、拳を振り上げ襲い掛かる。
彼等は形だけ側近に居た訳では無い。
その実力はパラガスの上を行くのだ。
本来であれば、彼等双子の方が上の為従う義理など皆無なのだが、ブロリーの脅威で下につかざるを得なかった。
その鬱憤を晴らすかのように、振り上げた拳が復讐相手の顔面を貫く。
「「でやぁぁあ!!」」
「ふん。」
「おりゃぁ!」
「「ごぶっっはぁぁああああっ!!」」
…訳がなかった。
臨戦態勢に入った超サイヤ人ベジータと、超サイヤ人にもならなかったラディッツの一振で、破損したスカウターのみを残して彼等双子は遥か彼方へ悲鳴をあげて吹き飛んで行く。
ドラゴンボールファンの方々でご存知ならば、アボとカドの登場はもっともっと先…現段階の約10年後になる。
その頃にはフリーザの戦闘力を超えた超戦士として地球へやってくるのだが、今の時点ではフリーザの足元にも及ばない。
そんな双子が、気を抑えていた戦闘力を本来の実力と勘違いし、襲い掛かればどうなるか…。
説明せずとも分かるだろう。
「ええええ!?」
「ふん、雑魚共がイキがりやがって。
さて、次は貴様の番だ。
何か言い残すことはあるか?」
「ブ ブロリー!
奴らを蹴散らすんだ!」
即座に頼れる味方はもう我が子のブロリーしかいない。
最強にして最後の駒である。
ブロリー自身もそうなる事を知ってか知らずか、既に戦う覚悟が出来ていた。
相手はあのベジータ王の息子 ベジータ。
ブロリー親子の運命を大きく変えてしまった元凶なのだから。
「貴様が伝説の超サイヤ人?
呆れて反吐が出るぜ。
貴様のような軟弱な奴が、伝説の超サイヤ人などあるものか!」
超サイヤ人状態は、軽い興奮状態になる。
ベジータも例外では無く、言葉と同時に手が出ていた。
あの双子と同じく、ブロリーも呆気なく吹き飛んで行く予定だった。
だが予想に反して拳の感触は殴った衝撃を生み出すこと無く、差し出された掌に収まっていた。
「お前達がいなければ、こんな事にはならなかった!
過酷な環境の星へと飛ばされずに済んだ。
様々な星を破壊せずに済んだ。
ベジータ王いや、…貴様らの馬鹿げた王族至上主義さえなければ、俺達は一人の戦闘民族サイヤ人として暮らしていけたのだ!
ブロリー!」
「はぁぁあああああああ!!」
「ぐぬぉっ!?」
受け止めた拳を再度掴んで引き付け、崩れた身体の腹部へ強烈な一撃を見舞う。
受け止められただけでも予想外だった上に、カウンターを貰うと毛頭無かったベジータは腹を抑えてうずくまる。
そんな状態でもブロリーは情をかけることなく、頭を踏みつけ抑え込む。
「待てパラガス!
父さんが一体何をしたと言うんだ!」
「フン、言われんでも教えてやるぞ、バカ息子!
このバカ王子の父ベジータが、俺達親子に何をしたか!」
時は遡ること約30年前。
惑星ベジータがまだ存在していた頃だ。
サイヤ人のエリート戦士だったパラガスに息子が誕生した。
当初は戦闘数値も低く、エリート戦士の息子でありながらも下級戦士と同じ保育器と同スペースに入れられていたブロリー。
だが、ひょんな事で泣き出した際に、戦闘力が桁外れな数値を叩き出した。
あまりにも急だった為に、精密検査を実施する間はエリート戦士専用保育器に移動。
検査の結果、戦闘力 1万という赤子のサイヤ人として過去にも未来にも現れない数値を記録する。
その報告を聞き、パラガスは親子共々サイヤ人王家により尽力するつもりでいたのだが、サイヤ人王家を脅かす危険因子として認識され、ブロリーともども処分されてしまう。
他惑星への島流し… 打ち捨てられたパラガスとブロリーも共に辺境の星で息絶えるはずだったのだが、パラガスは宇宙船を操作し何とか知的生命のある星へと不時着。
そこで出会ったタコのような科学者に宇宙を修理・改造してもらい、周辺の星々を蹂躙しながら再起を図っていた。
もちろん全てはベジータ一族への復讐の為…。
「…それ以降、俺達は星を破壊して周り、ブロリーを鍛えながら放浪せざるを得なかったのだ。
この過酷さ、悔しさ、苦しみが…貴様らには分かるものか!」
「それで俺達に逆恨みか?
つくづく哀れな野郎共だ。」
爆発波でブロリーを吹き飛ばし、ベジータは悠々と地面に降り立つ。
対するブロリーもノーダメージでパラガスの横へヒラリと着々する。
「復讐する奴ほどタチの悪い奴が多い。
貴様の様に、いつまでも死んだ奴に向けてのものなら尚更だ。
そんな性根の腐った奴なんざ、この俺が直々にぶっ殺してやる!」
「それぐらいのクズっぷりでなければ復讐の意味が無い!
俺達二人の人生を狂わせておいてその態度は…親もクズなら子も相応か。
やれ、ブロリー!」
血で血を洗うとはまさにこの事か。
報復には報復。
殺意には殺意。
ベジータ王の仕打ちも目に余るが、復讐の為に息子を使うパラガスも然りである。
親の因果によって、二世同士が殺し合いをするのは物語の中だけであって欲しいものだ。
こうも拗れてしまっては、止める算段はもう何も無い。
雄叫びを上げて飛びかかるブロリーを、加重移動で初手を切り抜ける。
「こんなレベルで伝説の超サイヤ人とは…拍子抜けだ!」
振り向きざまに首元に肘打ち。
堪らずブロリーは倒れ込むように地面に叩きつけられる。
肘打ちした体勢から消えるように高速移動し、パラガスでさえもブロリーに被せるように背負い投げる。
「ぐっ!」
「残念だったな。
貴様の復讐とやらもここまでだ。
精々あの世で悔しがりやがれ。」
ベジータの掌にエネルギーが集まっていく。
この星を脱出する時間が無い上に、とんだ無駄足だった事に対しての腹いせか。
もう終わらせるつもりのようだ。
父 ベジータ王の復讐なんてまるで興味が無いとでも言わんばかりに言い放たれた言葉に、パラガスは覚悟を決める。
「かくなる上は…ブロリー、あれを使え!」
おもむろにブロリーは立ち上がる。
何をするつもりか?
だがベジータにとっては、もう自分以下の存在のサイヤ人には何の未練もない。
それでも自分を殺そうというのならば、返り討ち…殺すしかないのだ。
「ちっ、失せやがれ!」
超特大の気功弾を放ち、ブロリーを中心に爆発する。
爆発が早かったか、ブロリーが飛び出したのかどちらが先か分からない。
だがブロリーが無傷なのは確かである。
黒髪のヘアースタイルが、いつの間にやら若干の金色がかった青髪に変わっている。
装置を取り付けられた際に生じる、パワーを強制的に押さえつけられた超サイヤ人化。
それでもベジータの肉体をぶちのめすには充分足りた。
「ふぉおお!」
たった一撃。
その一発のパンチで、ベジータの体は弾け飛ぶ。
その威力は、近くの岩山に岩盤状のクレーターを作り上げる程。
そしてベジータは、その一撃で気を失ってしまったのだ。
抑制装置を取り付けられたおかげでこの程度で済んだとも言えようか。
この抑制された時点で、既にベジータの全力を上回るオーラを放っている。
トランクスでも敵わない。
ラディッツで同等かと思われるレベルである。
「父さん!」
「こんのっ!」
ラディッツも即座に超サイヤ人になり、ブロリーに応戦する。
ベジータに固執していたブロリーの顔面を殴り飛ばすが、仕留めた手応えでは無い為追撃はしないものの視線は外さない。
トランクスは即座にベジータの安否を確認するが、大事には至っていない模様。
情勢では二対一。
悟空がいないので覚醒の危険は低いものの、過去の戦いでの不測の事態や伝説のスーパーサイヤ人との事もあり優勢とは程遠い。
「「よ…よくもやってくれたな!」」
声と同時にイージスを張れば、気弾の雨が降り注ぐ。
1発1発の威力はそう大したことは無いが、明らかに1人が放つ量ではない。
バリア越しに空を見あげれば赤と青の物体…アボとカドの仕業である。
この程度の攻撃なら数時間はバリアは持つだろうが、ブロリーを見やれば姿が消えている。
気弾の雨の最中に突如として現れる拳。
イージスバリアを粉々に吹き飛ばし、気を取られていたラディッツを大きく仰け反らせながら吹き飛ばす。
端から連携を取っていた訳では無いが、タイミングは抜群。
(考えるんだ!
赤いの青いのは対した脅威では無いなら、集中するのはブロリー。
気弾は頭部と背面のスコードロン化させた界王拳で相殺して奴と全力で対峙すればいい!
あいつらはいつでもやれる…だから今はブロリーだ!)
気を探り、砂塵だらけの空間をブロリーの元へ最短距離で突っ込む。
気弾の雨はその間にも降り注ぐが、計算通り防御力の上がった背面には通じない。
敵の大まかな位置の分かっていたブロリーも応戦しようとするも、地面スレスレからの体当たりには反応出来ず、先程の仕返しと言わんばかりに盛大に吹き飛んだ。
(仕返しだこんの野郎がぁっ!)
追撃の手を緩めず、吹き飛んだブロリーに対し溜め無しで放たれる主砲斉射。
そして放ったと同時に更なる追撃の為に、主砲斉射を壁にして更に接近したのだが、気功波も追撃も突如現れた壁により阻まれる。
緑色のバリア。
エネルギー波もラディッツをも止めるのならばそれ相当な強さのバリアである。
「はああああぁぁぁ!」
「クソ、やっぱりまだまだ気が上がる…。
気円斬!」
とっさにクリリンの必殺技 気円斬でバリアの打破を試みる。
借りた技の為一発とはいかなかったものの、2,3回同じ所へに撃ち込んでようやく打ち破ることができた。
気を上げきれなかったブロリーは咄嗟に体当たりを仕掛けてくる。
ラディッツも咄嗟にバク宙の要領でギリギリかわし、避けきったところで気弾を放ってダメージを与える。
(危なっ、なんとか戦えてるって所か?
ブロリーもあのムキムキ状態じゃないからな。
これなら辛うじて何とかなるか?)
伝説の超サイヤ人 ブロリーは未だあの最強の形態にはなっていない。
正確には、カカロットという存在がいない為になることが無い。
そこに気づく程の頭脳は持ち合わせていなかったが、クリリンの気円斬から始まり、砂浜でコテンパンにやられた時の武天老師の動きを真似して若干の手応えを感じつつあったラディッツ。
(とにかく、今のうちにアイツの体力を削らなきゃ。
戦況を掌握出来れば何かしら「合体!」…ん?)
遥か後方で、紫色の竜巻が発生する。
その竜巻は何かしらの被害を出す程でもなく、地表のチリや石を巻き上げる程度ではあったものの、ただならぬ気を放っていた。
その気の量…超サイヤ人状態と同等、あるいはほんの僅かに上である。
「な!
フュージョンか!?」
「フュージョン?
よく分からんがそれとは違うな。
超ワハハの波!」
「ワハハの波!?
なんやその名前は!
フゴッ!」
そのふざけたネーミングセンスとは掛け離れた威力の気功弾が迫る。
飛び退いてやり過ごすが、そのワハハの波は続け様に放たれて来る。
咄嗟に作り出すイージスでは凌げない。
一発一発が中々の威力と速さの為に回避に専念するが、後方より再び体当たりを仕掛けてくるブロリーは避けられなかった。
そのタイミングでワハハの波がラディッツに炸裂。
「ハーッハッハッハ、いいぞ!
アカ、ブロリー、このまま奴らを消し去ってしまえ!」
「言われなくとも、グモリー彗星を待たずに俺様がぶっ殺してやるぜ!」
「ラディッツ…俺も親父の為なら…!」
拮抗していたと思われた戦況が傾く。
自分よりも強い敵が二人。
界王拳を用いてアカと同等、二倍でブロリーと同等。
そして時間を掛ければグモリー彗星の衝突。
対セルとはまた違った絶望的状態である。
(どうすりゃいい。
向こうが合体するならトランクスかベジータとフュージョンすれば…いや、二人はやり方知らないし、一発本番で出来るほど簡単じゃなさそうだし、なにより隙が無い。
トランクスもベジータも、奴らとやっても勝てる見込みが無え。
意表を突く為に作らなきゃならん時間も、あんだけ彗星が近づいて来りゃ無理だ。
…道連れ…か?
このまま野放しにして、この後生き返る悟空に会わせてヤバい事になる前に、ここで心中すればまだマシかもしれん。)
「ラディッツさーん!」
昏倒していたベジータとトランクスが応援に駆けつける。
数的にはこちらが優位に立つが、それでも戦力不足には変わりはない。
そんな戦いのさ中、今まで城に篭っていたタコの科学者がパラガスの元へ駆けつける。
「パラガス様。
コンピュータの弾き出したデータによりますと、この星を脱出出来る時間は残り30分が限界ですじゃ。」
「ふむ…ブロリー、アカ!
15分いや、20分でケリをつけろ、急げ!」
戦いに集中し過ぎて頭上への配慮を疎かにしていたラディッツ以外の戦士達は全員空を見上げる。
今朝方見えなかったはずの星が…いや、彗星が少しずつ近づいている。
肉眼で僅かに見えていた星が、今ではサッカーボール並の大きさに。
もし科学者の言う30分を過ぎれば、脱出する宇宙船も彗星の重力により真っ直ぐ飛び立つ事が出来ずに、あっという間に吸い寄せられて粉々になるだろう。
事情をよく知らない者も、直感的に事態を何となく把握する。
「20分か。
それぐらいならてめえら3人まとめて俺様が殺してやるぜ。」
「ここからは、俺も全力でやる。」
ブロリーもアカも、もう容赦なく来るだろう。
「ラディッツさん、何か戦略はありますか?」
「戦略?
もう30分しかないなら出し惜しみしてたら死んじまう。
限界以上に戦わなきゃならん。」
「クッ…相手は伝説の超サイヤ人…。
それを分かった上で言っているのか!?
もし伝説が本物ならば、俺達三人がかりで戦っても勝てるわけがない。」
一応構えはしているものの、完全に弱腰ベジータであった。
いつもの闘争心溢れるプライトの塊のエリートサイヤ人の欠片もないおっさんだ。
「それでもやるしかないだろ。
お前はこんな所で死にたいのか?」
「伝説の超サイヤ人を知らない貴様は幸せな野郎だぜ。
千年に一人現れる、破壊と殺戮を好む最強にして最悪の戦士。
奴がそうなら、覚醒したら最後…この宇宙が消え「ごちゃごちゃうるさい!」
狼狽え始めたベジータを言葉で押さえつけるラディッツ。
「そうか、YouTubeやらニコ動で散々見てきたヘタレベジータってのはこの事か…
動画なら面白かったが、ここまでグズなら豚に食わせた方がマシだな!
よく考えろよ!?
ブロリーとそんなべらぼうな戦力差があると思えるか?
俺が超サイヤ人で普通の界王拳ならばジリ貧だが、1.5…2倍にすりゃこっちの方が上回る。
瞬間的にしか出せない上に、無限になれる訳じゃないが勝てないわけじゃない。
わかるか、あの伝説の超サイヤ人に勝てる可能性が無い訳じゃないんだ。
い い か ベ ジ ー タ ?
確かにブロリーは伝説の超サイヤ人だがまだ覚醒しちゃいない。
ラディッツじゃなく、俺がよく知ってるしこの目で見てきたんだ。
落ち着いて見てみろ、破壊と殺戮を好むんならもうとっくの昔に俺達ゃ死んどるわ、俺だって必死に逃げるわ!
まだごちゃごちゃ言うなら一生軽蔑するぞ!
お前なんかヘタレ豚野郎だ!
アホ! バカ! カス! パツパツスーツの見た目だけの使えないド変態M字クソハゲニート野郎だ!」
「…ラディッツさん…それは言い過ぎじゃぁ…。」
トランクスでさえ少々引くほどの悪口のオンパレード。
その言葉を全て受止めざるを得なかったベジータはゆっくりとラディッツの胸元を掴む。
「…ラディッツ。
もし地球に帰ることが出来たら…ぶち殺してやる。」
「やってみろよ、ヘタレベジータ様よぉ?
軟弱者と罵った伝説の超サイヤ人様とやらを前に生きて帰れたらな。
もしお前が野垂れ死んだら、墓でも銅像でも立てやるよ。
そんでその前でお前の醜態ぶりを全員で腹抱えて涙流して笑ってやるぜ。」
「ちょ ちょっと!
今は喧嘩してる場合じゃないんですよ!?」
流石にまずいと瞬間的に判断し、トランクスも間に入る。
ベジータの額には血管が何本も浮き出て、今まで見たことも無いような恐ろしい顔つきになっている。
対するラディッツの表情は険しくないものの、その声色は…平たく言えば軽蔑するような口調なのだが、殺気やら哀れみやら蔑みやら嘲笑やら色々混じっている。
ベジータの性格を知っててやってるとしか思えない… 互いに今ここで殺し合いでも始まらんかのような言葉の暴力の応酬ぶりである。
そしてベジータはトランクスを指でさしながらこうも付け加える。
「証人はトランクスだ。
今のうちに土下座して謝るなら許してやるぞ弱虫ラディッツ。」
「その台詞そのまま返してやるよヘタレハゲ。」
「作戦会議は終わったか?
さっさと殺してやるから無駄だがな。
そこのクズ王子、早くしろよ。」
アカがニヤニヤあからさまな挑発をする。
今のベジータにならどんな安い挑発も宜しくは無い。
「上等だ。
スグに貴様をぶっ殺してブロリーも俺様が殺してやる!
後に続けトランクス!」
「えぇ!?
は はい!」
切り返しの速さに全くついていけないトランクスも、ロケットエンジンに火をつけたかのような突進をするベジータに辛うじて続く。
残るはラディッツとブロリー。
「…出来れば戦いたくはなかった、同じサイヤ人だから。」
「こっちだって戦いたくないよ。
出来ればパラガスを倒すだけにしてお前を自由にさせてやりたい所さ。」
「それは許せない。
俺のたった一人の親父だから。
そしてベジータ王子に味方するならば、俺も戦うしかない。
15分…その間にお前を倒す!」
「どれが最善なんだろうかもう分からないが、とにかく俺達は生きて帰らせてもらうぞ!」
ブロリーとラディッツも、互いに気を高める。
その間にもグモリー彗星は迫っている。
時間は、あまり残されていない。