弱虫兄貴のリスタート   作:バタピー

55 / 56
リンクする肉体

そこに居たのは紛れもないラディッツだった。

戦闘服に身を包んだ、あのラディッツだ。

馬鹿な、ありえない。

この世にラディッツはただ一人だけ。

ならば目の前にいるのは…?

 

 

「貴様は…あのもやし野郎か!」

 

「この言い草は弱虫ラディッツ!

なんでお前がここにいるんだ!」

 

「知るか!

あのクソジジイがここから追い出すとか言った後、いつの間にかここにいたんだ!

てめぇこそ、俺の体使って何だこのザマは!」

 

「黙れ!

大体お前がグズでポンコツだからここまで苦労してんじゃねぇか!

俺だってお前に憧れてるわけじゃねーんだぞ!?」

 

「何だともやし野郎!

戦闘民族サイヤ人の身体を乗っ取ってその言い草は何だ!

俺様の身体をもっと敬って大事にしやがれ!」

 

「まぁまぁ馬鹿共、少し黙れ。」

 

「「クソジジイ!」」

 

 

現れたのはあの忌々しい無神だった。

戦闘真っ只中に現れたこの神とラディッツに困惑は深まる。

 

 

「いやー、神領にこのまま居座って貰ってもワシが困るからな。

野蛮な猿は追い出す事にした。」

 

「誰が野蛮な猿じゃコ「黙らっしゃい。

まぁ元からいつかは元の体に戻すつもりではあったからな、ブロリーが出てきたから早めに戻すことにした。」

 

 

幸い気を消していたので、まだブロリーには見つかってはいない。

だが時間の問題もあるので手短にするつもりだろう。

河野ラディッツは話を続けるように促す。

 

 

「河野、もう少しお前の器が整ってからにしたかったがな。

お前が武天老師の元で修行を積んで、心と体がより強固になった所で戻すつもりだった。

二人が力を合わせれば元の力に戻るからな。」

 

「それは…簡単に言えば強くなると?」

 

「その通り。

だが未だ道半ば。

じゃがこのままでは、ブロリーに殺されかねんと思って飛ばしたんじゃ。

覚醒とまではいってないにしろ、奴の力は本物じゃからな。

おいラディッツ、お前河野の身体に入ってみよ?」

 

 

元は自分の体。

本家ラディッツはそうブツブツ言いながらも、身体に飛び込むように入り込む。

瞬間、物凄い力に溢れる感覚がしたがすぐにそれも無くなった。

ラディッツが出てきたのだ。

 

 

「な なんだあの感覚は!

身体がバラバラになっちまう!!」

 

「それはお前が修行をサボって、のうのうと弱者のみを相手にしてた代償じゃ。

お前が本来身につける強さを、代わりに河野が死に物狂いで身につけたものに簡単に対応出来るものか愚か者め。

…と言っても、このままではブロリーになぶり殺しにあうだけだから困るんじゃ。

頑張って。」

 

「ぬわぁにが頑張ってだクソジジイ!

他人事だと思って簡単に言うなクソジジイ!」

 

「いい加減にしろ!

ラディッツ、さっさと俺の身体に入れ!」

 

「俺の身体だもやし野郎!」

 

「そこに居たのか。」

 

 

ブロリーがようやく現れた。

だが困惑する。

先程までのラディッツが二人いる。

 

 

「お前…双子?」

 

「「もとは別々だ!」」

 

 

揃ってツッコミが決まったところで、無神は「頑張れよ〜。」と一言残して消えてしまった。

もうこうなってしまってはどうにもならない。

本家ラディッツを身体に迎え入れてやるしか無いのだ。

 

 

「…しょうがない、とにかく今は俺の身体に入ってくれ。

じゃないと勝てない。」

 

「ふざけんな!

こんなもやし野郎と戦うくらいなら、1人でもやってやる!」

 

 

本家ラディッツが単身で突っ込むも、ブロリーの身体をすり抜けてしまう。

攻撃が当たらないというか、そもそも貫通して触れない。

 

 

「何故だ!」

 

「もしかして、身体は俺が持ってるからか?」

 

「クソ、身体を返せもやし!」

 

「とにかく、お前を倒さなければならない!」

 

 

ブロリーは気持ちを切り替えラディッツを蹴り飛ばす。

吹っ飛んでいく河野ラディッツに、本家ラディッツも綱で引っ張られるかのように同じ速度で吹き飛んでいく。

 

 

「何してやがるもやし野郎!」

 

「くそ、お前本当に使えないな!」

 

「うるせぇ!

てめぇだってボコボコにやられてるじゃねぇか!」

 

「ふん、攻撃も出来ずに吠えるだけ吠えて使えないって言って何が悪い。

弱い犬は良く吠えるってのは本当だな。」

 

「何だとてめぇ!」

 

 

本家ラディッツの蹴りが、河野ラディッツの腹に当たる。

思わぬダメージに腹を抑える河野ラディッツ…と本家ラディッツ。

 

 

「馬鹿!

自分を攻撃してどーすんだ馬鹿!」

 

「クソ!

自分にも跳ね返ってくるなんて〜!」

 

「…お前ら一体何をしてるんだ…。」

 

 

ブロリーですら困惑するレベルのしょーもない喧嘩に発展している。

まるで幼稚な争いに思わずヒクヒクと顔面を引くつかせる。

もはや失笑せざるを得ない。

そんな時、遠くの方でドサリと何かが落ちる音がする。

何事かと三人が振り返れば、ボロボロになったべジータが横たわっていた。

 

 

「「べジータ!!」」

 

「…。」

 

 

思わず駆け寄る河野ラディッツと本家ラディッツ。

本家ラディッツにとっては、久々の再開。

あのバカみたいに強かったべジータが…今や何者かによって戦闘不能寸前。

例の神領でモニター越しに見るのとは全く違う。

信じられない光景である。

 

 

「大丈夫かよべジータ。」

 

「く…クソみたいな面が二重に見えるぜ。」

 

「べジータ俺だ!

あの時の俺だ!」

 

「何を…寝ぼけた事を言ってやがる。」

 

「お前に散々扱き使われてた方のラディッツだ!」

 

「…なんだと?

今になって蘇ったとでも言うのか?

今更貴様が蘇ったとて…何の役にもたたんがな。」

 

「それはなんとも言えねぇが…。

あのクソジジイが連れて来やがったんだ。

それより誰にやられたんだ!?」

 

「おいおい、どうなってやがんだ?」

 

 

遅れてトランクスが落ちてくる。

そしてアカだ。

 

 

「お前、俺と同じ双子だったのか?」

 

「トランクス!

あぁもう!

違うんだけど…話すとややこしくなる。」

 

 

 

トランクスは意識が無い。

この場でまともに戦える人間が河野ラディッツのみとなった。

本家ラディッツはどういう訳か攻撃は当たらないし、当たるところで戦力にならない。

おまけにグモリー彗星が目前まで迫っている。

万事休す。

 

 

「こんな所で…厄介過ぎる。」

 

「アカ、片方の奴はどうやら攻撃が出来ない。

と言うより攻撃がまるで当てることが出来ないみたいだ。

幽霊みたいな…。」

 

「ほぅ…なら攻撃出来るのは片方だけってことか。

こりゃ随分やり易いぜ。」

 

「おいもやし野郎。

俺がお前の中に入れば、べジータの仇を打てるのか?」

 

 

本家ラディッツはポツリと呟くように言う。

確かにあの神は言った。

二人が力を合わせれば元の力に戻ると。

本来のラディッツの力を取り戻せるのかもしれない。

それに、一瞬同化した時のあの力の漲り方。

これまで感じたことの無い凄まじいエネルギーに溢れた感覚。

戦況を打開するにはこれしかないのかもしれない。

 

 

「わからん。

だがあの力の漲り方は、これまで感じたことの無い程だった。

協力してくれるか?」

 

「あのべジータをここまでやる相手だ。

やるしかねぇだろ。

だが、時間が掛かれば俺がバラバラになりそうだ。

なるべく早く倒せ。」

 

 

静かに頷く河野ラディッツ。

本家ラディッツも腹を括る。

いくら弱虫と罵られようが、仲間意識はある。

何だかんだ言われながらも、今まで何度も自分のミスを救ってくれた奴だ。

貸しのひとつを、ようやくここで返せるチャンスだ。

本家ラディッツは河野ラディッツに入り込む。

同化…憑依…そのどちらでもないのかもしれない。

だが、入り込んだ瞬間にエネルギーが満ちていく。

この充実感たるや何か?

今まで失っていたパズルがハマったような感覚。

そして、そのピースが揃って力が湧いてくる。

 

 

「なんだこれは…凄ぇな!」

 

『感傷に浸ってないで早くしろ!

熱い!

身体が痺れる!

バラける!』

 

 

脳内に響く本家ラディッツの叫び。

全身が電気ショックされる感覚が走っている。

そんな事は露知らず、河野ラディッツはアカとブロリーを見据える。

 

 

「待たせたな、第2ラウンドと行こうか。」

 

「…気をつけろ、奴のエネルギーが増えた。」

 

「へっ!

何一つ変わってねぇじゃねーか!

このアカ様がぶっ飛ばしてやるぜ!

ワハハの波!」

 

 

挨拶代わりには重過ぎる程のエネルギー弾。

だがラディッツにとっては、それは挨拶代わりにすらならない。

着弾する5m手前で爆散。

そしてそのど真ん中から、アカに強烈なアッパーをぶち込む。

意識の無くなったアカの巨体は、後頭部からぶっ倒れる。

 

 

「…強い。」

 

「俺も驚いてるよ。

さっきよりも…界王拳使った時より倍近くかな。

ブロリー、さっきの続きをやろうぜ。」

 

 

今度こそ、あのブロリーに勝てる。

確信を持ってブロリーに突進する。

対するブロリーも、真正面から突進していく。

拳は顔面に向けて放つ。

対するブロリーの攻撃は…若干の遅れは見せたものの、ラディッツの拳。

正面からの攻撃を、やや振り遅れる形で攻撃し返す。

パワーとスピード、そしてタイミングもラディッツの方が上。

しかし力も速さもタイミングも悪くても、攻撃を払い除ける形となる。

結果、互いの攻撃は反発し合う。

 

 

(なんとか…見える。)

 

 

二人が合体した。

その直後から実力も能力も上回られた。

ならば次にやる事は分析。

勝つという事は、相手に負けないことでもある。

当たり前と言えば当たり前であるが、相手の能力が上と判断したのならば負けない戦い方を知らなければならない。

自信に満ちた攻撃を跳ね除けられ、ラディッツは再び拳を振るう。

上下、左右…あらゆる方向から放たれる拳は、まるで乱れる風よりも速く、回避は出来ないはず。

 

 

「かああああああ!!」

 

 

それを全力で、まるで払いのけるように拳を当てていく。

簡単に跳ね除けられるような攻撃ではない。

だが全力で体重をも乗せた拳ならばどうか?

計算されて生み出された戦法では無い。

その拳は、感覚で振るわれている。

 

(ぐっ…威力が消されるどころかどんどん打ち込まれてる気がしてきた。

パワーもスピードも追いつかれてきている!?)

 

 

戦闘民族サイヤ人。

戦えば戦う程強くなる種族。

河野ラディッツはこれまで幾度となく修行を重ね、死闘を繰り広げ、その身体を鍛え上げてきた。

彼は戦う事に強くなってきた。

それと同じような事が、ブロリーにも起こり始めていた。

 

 

(気が高まっていく。

力も、速さも湧いてくる!)

 

 

 

これまで、ブロリーにはいなかった。

これまでどんな星に出向こうが、どんな相手と戦おうが、感じる事の無かった感覚だ。

最初の方は、戦っているうちに記憶が無くなり、意識が戻れば星ごと無くなってしまっていた。

パラガスが強引に付けた抑制装置のせいで、気が高まるのはある程度抑えられたものの、その後の相手はつまらないものだった。

拳を振るえば動かなくなり、脚で払えば呆気なく吹き飛び、エネルギー弾を放てば肉体ごと消し去ってしまう。

彼は強い。

いや、強すぎる存在。

それ故に好敵手となりうる者に出会う機会がなかなか無く、戦いという物は相手の命を奪う作業にしかならなかった。

だが眼前の男はこれまでと全く違う。

何度拳を叩き込んでも、どんなに蹴りを喰らわせようも、自身のイレイザーキャノンを撃ち込もうも立ち上がってくる。

気を抜こうものならば、逆にこちらがやられてしまう程だ。

 

 

(あぁ…親父…。

わかるかな?

俺は今…最高に戦いが楽しいよ。

楽しんでいいのか?)

 

 

これまでべジータを殺す為に磨き上げてきた術が、力が、全く違う相手に対して輝きを放っている。

拳の届く所、効果がありそうな場所。

主に上半身なのだが、ありとあらゆる場所に凄まじい力で振るわれる拳。

それを感覚で察知し、払い除けるような動作から、徐々にブロリー側からも攻撃が返り始めていた。

あの気の抜けた自分同士の喧嘩が終わり、1人になった後からの本当の戦い。

始まってどれくらいの時間がたったか分からない。

10分…いや1時間?

 

 

「はぁ!

…かはぁっ!」

 

「…っく!

はぁ…はぁ!」

 

 

呼吸もゆっくりできない攻防の中、いよいよ互いの息が切れ始めた。

小休止もない拳と拳のやり取り。

全力で攻撃し続ければ、嫌でも酸素不足は免れない。

思考が出来なくなり始める。

 

気力は互いに充分にあるものの、スタミナがそろそろ限界を迎えそうだ。

汗が滴る。

アドレナリンのせいか、これまでのダメージの痛みは全く感じない。

 

 

「…凄いな。

それがお前の本当の力か。」

 

「いや、片割れの力を借りているに過ぎん。

俺だけの実力なら、もうとっくの昔に終わっていた。」

 

「…ふふ、そうか。」

 

「あぁ。」

 

「「楽しいもんだな。」」

 

「…へっ!

こんなタイミングでハモるのかよ、気持ち悪ぃ。」

 

「サイヤ人は皆同じ。

そういう事だろう。

さぁラディッツ、続きを「その必要は無い!」

 

 

再び拳を交えようかという所で声が降りかかる。

パラガスが高みの見物を終えてブロリーの横にやってくる。

 

 

「殺戮ショーとまではいかなかったが、なかなか良い物を見させてもらった。

だがな、タイムアップだ。」

 

 

パラガスは指を天高く指す。

その指先には眼前に迫っているグモリー彗星。

戦っている最中は、ブロリーに意識が集中していて気づかなかったが、既にいくつか、彗星の周りの岩石が降り注ぎ始めている。

大小様々であるが、未だに星の生命を終わらせる程のものでは無い。

新惑星べジータの大気圏で燃え尽きてしまうものから、せいぜい地表に大きなクレーターを形成させるものくらいだ。

だがそれも、数分でこの星は跡形もなく消えてしまうだろう。

 

 

 

「ブロリー、避難するぞ。

もうこの星にはなぁんの未練もない。

この手で忌々しいべジータを始末出来なかったのは残念だが、グモリー彗星の衝突で跡形もなく消えてしまえば俺の心は晴れる。」

 

「だけど親父、俺はまだ戦いたい。

もう少しだけ戦いんだ!」

 

「お前のワガママを聞いてやれる程、今は優しくなれん。

大人しくアカを連れて来い!

言うことを聞けないのならば…。」

 

 

同時にパラガスは抑制装置のボタンを押し込む。

その瞬間、ブロリーでも悲鳴をあげるほどの電流が身体中に走る。

とある星の拷問用の電流装置を、ブロリーに用いる為に更に出力を上げた抑制装置である。

電流が収まる頃には、ブロリーの身体中から煙があがる。

 

 

「てめえ!

自分の息子になんて酷い事を!」

 

「他人の教育に首を突っ込むな。

もっとも、戦闘力の低い使えない息子を島流しにするようなクズ王より遥かにマシだろう!

ブロリー!」

 

 

未だ痺れの残る身体を動かし、アカを背負ってパラガスの元へ向かう。

 

 

「クソ、てめえは親でもなんでもねぇ!」

 

 

ラディッツは即座に気を集めてパラガスに放つ。

避ける素振りも見せなかったが、その気弾はブロリーが身を呈して防いだ。

理解出来ない。

あそこまで自らを戦う'モノ'として見ない存在を守るとは。

 

 

「…たった1人の俺の親父だ。

だけどラディッツ、気持ちは受け取っておく。」

 

「だぁクソ!

限界だ!」

 

 

その瞬間、本家ラディッツが身体から飛び出る。

二人になってしまってはもうブロリーには敵わないだろう。

その事も察してか、ブロリーは今度こそ背中を向ける。

パラガスも嘲笑うかのような笑みを浮かべ、その場のZ戦士達を置いていく。

更に上空には既に宇宙船が待機しており、三人を収容するとこの星を脱して行った。

残るは強制的に連れてこられたシャモ星人と、彼らを守る為に戦った数人の戦士達と、荒廃に拍車を掛けられ彗星により僅かに死期が早まった新惑星ベジータのみとなった。

 

 

「…ブロリーは?

パラガスは!?」

 

意識を失っていたトランクスが起きた。

が、誰一人とて答えない。

 

 

「…そうですか。

もっと早い段階から手を打っていればこんな事には…。」

 

 

戦いの様子を見守っていたシャモ星人も集まり出す。

この戦いの最中、ブロリーに破壊される事無く存在していた母星もグモリー彗星に飲み込まれてしまった。

いつかは帰れると思っていた星を失った彼等の顔は、悲壮に満ちていた。

 

 

「パラガスの野郎め…いつか必ずぶっ殺してやる。」

 

「あぁ、今回はベジータと全く同意見だ。」

 

「だかよう、どうやってこの星から出るんだ?」

 

「「「「……。」」」」

 

 

唯一の脱出手段であった宇宙船はもう無い。

その宇宙船を作る技術も時間も無い。

瞬間移動が出来る孫悟空もいない。

 

戦いにも負け、勝負でも負けたのだ。

 

 

「おやおや?

何か、お困りのようだな。」

 

 

シャモ星人達の背後から、声が発せられた。




更新頻度が酷いことに…

無理の無い程度で投稿しますね
とにかく皆さんのご無事を祈ってます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。