「さぁ天下一大舞踏会!
現在予選の最中ぁっ!
丁度200の戦士達が、8つのステージに別れてバトルロワイヤルだーっ!!」
大きな城をモチーフにされた第1ステージ。
その踊り場のような武道場で行われる予選。
各ステージで生き残った者が第2ステージへ進み、1VS1で勝ったものが最終ステージへと進む。
最終ステージには、銀河中から集められた強力な戦士が待ち構えている…と言う事らしい。
最後はもちろん、セルを倒した事になっている世界チャンピオンのミスターサタンとの一騎打ちで幕を閉じる事となっている。
「はぁーーぁ。」
迫り来るアマ、プロの格闘家や腕自慢達をいとも簡単に弾き飛ばしながらデカいため息をつくクリリン。
優勝賞金1億ゼニーと世界各地の温泉巡りツアー…誰と行こうかワクワクしていた所に、帰ってきたトランクスと、まさか孫家の家計の為に出場する悟飯と、退屈しのぎに参加してきたピッコロと、何故か亀仙人の弟子になっていたセルの参加。
もしかするかもと思っていたが、この面子が揃えば多少の運が味方したところで優勝を掴み取るのはほぼ無理だろう。
…こんなに味方を恨めしく思った事は久々である。
「天津飯やクリリンならともかく…アイツらは絶対無理だろーなぁ。」
同じくステージの支柱のてっぺんで五体を投げ出しているヤムチャも同じ心境だった。
武道会参加の飛行機は舞空術で浮いたものの、滞在費や生活苦を打開する為に参加した大会がここまで優勝の文字が霞むとは思ってもみなかった。
地球人相手(天津飯含む)ならまだなんとかなるが、サイヤ人やナメック星人…そして人造人間セルまで。
彼らには歯が立たないだろう。
「…しょうがない。
このお祭りを全力で楽しむか。
武道家として久々の出番だからな。
これが終わったら…バイトだろうが派遣だろうが真面目にやるしかないからな。」
そんな時だ、人間としては巨大な体格の男が支柱に迫っていた。
ドスコイと呼ばれるこの力士。
ヤムチャと同じステージに割り当てられた、人間としてはかなりの強者が何人もの戦士を突き飛ばしながら支柱を巻き込む。
傾く支柱。
滑り落ちるヤムチャ。
彼の体は頭からステージ下の海に落ちていく。
「うぉ、ぐわあーーー!
…って、俺は空飛べるっつーの。
このまま海に落ちるわけないぜ!」
空中でピタリと止まり、誰に向けたか知らぬツッコミを決め、さながら体操選手の着地のようにステージへ降り立つ。
「ど!?
…どすこい!」
人が宙に浮くはずがない。
何かの見間違いと自分に言い聞かせ、ドスコイはヤムチャに向け突き進む。
その界隈では電車道とも言われる押し相撲が売りの力士も、この武道会でも炸裂させようとする。
「おぉ、テレビで見た事あるぜあんた。
相撲で来るなら俺も相撲で行くぜ!」
ヤムチャもどっしりと腰を割り、その巨体を受け止めにかかる。
ドスコイの体重は正確には分からないが、優に400kgを超える。
そんな肉の塊が陸上選手並の速さでぶちかましをすれば…衝撃は1トン近くに及ぶだろう。
それをヤムチャは爽やかなスマイル付きで受け止める。
「ドスコ…イィ!?」
「お相撲さんよ、ここは土俵じゃなくて武道場だ。
あんたの出る幕はないぜ!」
まわしを片手で鷲掴み、軽々持ち上げステージ外へ放り投げる。
結末を見届ける間もなく、残りの数人の戦士も吹き飛ばし、いつしかヤムチャのみがステージに立っていた。
「ヤムチャ選手、スマートに第2ステージ進出ーっ!!」
………
……
…
今回はヤムチャ中心に話を進めたが、残りの予選会場の結果は…一応お教えしよう。
悟飯・ピッコロ・クリリン・天津飯・ヤムチャ・有名な格闘家らしき者と…
「残ったのはセルリン選手!
ギリギリの戦いでしたが第2ステージ進出決定!」
亀仙流の道着と偽名を使ったセルである。
ひたすらに気を抑え込んで戦った為に、他の予選会場よりも時間が掛かったが、余裕綽々という所だ。
気づけば天下一武道会に参加してきた歴戦の戦士であり、ミスターサタンの顔色は虹よりも多く色が変わっていたのはここだけの話。
「結局、天下一武道会みたいな顔ぶれになったな。」
「ま、それだけ俺たちはメチャ強いって事さ。」
「天津飯さんも余裕でしたからね〜。
ま、悟飯やピッコロ達は心配すらしてないけどな。」
「ははは、クリリンさん達と久しぶりに戦えるのは楽しみです!」
「…にしても、セルの奴がまともに試合をしているとはな。
武天老師様のところで何があったんだ。」
天津飯は武道場から降りてくるセルを見やりながら呟く。
少し前には全人類を殺すとまで言い放った者とは思えない、気の質とフェアファイトぶりに改めて戸惑う。
………
……
…
第2ステージは天下一武道会に倣って1VS1の戦いとなる。
組み合わせは厳正な抽選により…
悟飯VS有名な格闘家
マジュニア(ピッコロ)VS天津飯
ヤムチャVSセルリン(セル)
クリリンVS有名な格闘家
となった。
全て書いていくのもしんど…原作を追う形になるので、今回はヤムチャとセルの戦いに出向いた亀仙人について行こう。
(ふむ、今のところワシの言いつけをよく守っておる。
ヤムチャか…しばらく武道一筋とは言えんようじゃが、そこら辺の者よかうんとレベルが違うからの。
どういう戦いをするか楽しみじゃわい。)
DカップかTバックのギャルをサングラス越しに探す武天老師。
武道場に並び立つ弟子同士を、下心も有りながらもちゃっかりモニターから見やすい柱に捕まって見ているのは内緒である。
「よおセル…じゃなかったセルリン!
頼むから死合じゃなくて試合にしてくれよな。」
「フッフッフ、これはゲームでもあり私の力試し大会だ。
殺してしまったらつまらんだろう?」
ジョークなのか分からない返しに、引きつった笑いしか返せないヤムチャ。
確かに悟飯がいる前で殺しは無いだろう。
思考を切り替え、陽気な雰囲気を抑える。
「なら安心したぜ。
お前を倒せれば、賞金獲得のチャンスが近づく。
全力でやらせてもらうぜ。」
「こちらこそ、お前に合わせた全力でやらせてもらおう。」
審判のドローンからホイッスルがなる。
試合開始と同時に飛び出したのはセル。
肩を掴みながら手刀を首へ放つ。
咄嗟の動きに一瞬動揺したものの、右拳を即座に顔面へ当て手刀を何とか避ける。
向かった方向と逆に顔面が殴り飛ばされる前に、セルは掴んだ肩を全力で地面へ投げ落とす。
受け身から即座にバランスを整え着地。
セルも宙返りで着地。
(めちゃくちゃ早かったけど、全然向こうは本気じゃねーな。)
(…やはり奴の気の量に合わせると、これがいい所か。
ならば!)
跳躍と同時に、両足裏から気弾を放つ。
これは武天老師から聞いた、孫悟空の足でかめはめ波のオマージュ…。
元々の跳躍力と、気弾の爆発を更なる推進力にし、初撃よりも段違いな加速力で土手っ腹をめり込む程殴りつける。
「がっ…!」
堪らず血反吐を吐き出して吹き飛ぶヤムチャ。
普通ならば、そのまま空中にあるステージから落っこちて場外負けだっただろう。
武道場で壁にぶち当たったかのようにスレスレで留まり、即座に反転。
痛む腹を気合で押し込め、ヤムチャが仕掛ける。
渾身の一撃に油断は無かったが、想定外の速さにセルは守りに入る。
一撃目の浴びせ蹴りは避けたが、肩の当身は若干ダメージを受け、そこからの顔面に一撃を貰う。
ようやく反撃を試みるも、重心の動きに沿ったコンボはそう容易く崩せない。
一撃を返す内に、三撃を躱す。
徐々に速くなる攻撃の連鎖…この技はセルも知っている。
「狼牙っ…風風拳!」
土手っ腹に重い一撃の直後こそ力は乗せられないが、その攻撃の速さは未だ健在。
だがその狼牙風風拳には弱点があるのもセルは知っている。
(ぐぬっ……ならば足だぁ!!)
攻撃の連鎖の最中、唯一の弱点である足元を狙ってのローキック。
しかしそれは、悲しくも空振りに終わる。
「待ってたぜ、お前のその読みを!」
「何!?」
声は足よりも更に下から。
ローキックに合わせて身体を倒し、そのまま首元へハイキックが決まる。
敢えて旧技の狼牙風風拳を繰り出したのは、全ての遺伝子を受け継いだセルに足元を狙わせる咄嗟の作戦だった。
宙を舞って武道場に墜落するセル。
ドローンのスピーカーからは審判のテンカウントが始まる。
7つ程数えた所で立ち上がる。
「ふぅ…ヤムチャにしてはなかなかやるでは無いか。」
「けっ、どいつもこいつも好き勝手言いやがって…。
(セルの野郎、俺の戦闘力で戦ってやがる。
余計に腹が立つぜ!)」
降参もせずに立ち上がった為、カウント中止、試合続行。
再び両者は相見える。
「もうわかっているとは思うが、この大会は相手の技量に合わせたレベルで戦っている。
ヤムチャよ、貴様はいい修行相手だ。」
「それは褒めてんのかよ!
…舐められたもんだ、だったらお前の知らない新必殺技でケリをつけてやる!
はああああ!」
ヤムチャの両手から無数の気弾が宙に浮かぶ。
咄嗟に思い出すのは繰気弾であるが、1つでは無い。
「次のステージにいくのは俺なんだよ!
繰気烈弾!!」
無数の気弾はヤムチャの意思により、セルに向かっていく。
カウンターで全てを撃墜するのは無理と判断し、空へ上がる。
幾多の気弾はセルを追って行く。
いくつかは気弾で撃ち落としていくが…様子がおかしい。
「ちっ。
爆ぜる前に分裂させてるのか。」
「へへ、ここまで気を操れるようになったのには苦労したんだぜ!」
無数の気弾は小さくともエネルギーの塊であり、小さくなればその分凝縮する。
たった一粒でも侮れない威力を持つ。
(ならば…。)
舞空術で別のステージ寸前まで飛行し、直撃寸前で躱す。
幾多の気弾は別のステージに当たって爆ぜて消えるだろうと目論んでいたが、これも予想が外れる。
曲線を描くステージに当たったと同時に、ゴム球のように放射状にはね返ってくるではないか。
「ぐっ!?」
四方から迫る気弾に、いよいよ身を固めて防ぐしか手立てが無くなる。
百を超える気弾は全てセルを包み、爆発。
その衝撃は他のステージまで届く事になった。
「へっへーん!
俺だってこれくらいやらねぇとな!」
余裕かましてピースまでしてしまう始末。
大体こういう時は…。
「ふぅ、危ない危ない。
バリアを何重にも張らなければ危うかった。」
ラディッツお得意のイージス。
ただしヤムチャに合わせた戦闘力なので何重にも張って凌いだ。
咄嗟の判断が無ければ、手痛い事になっていただろう。
「ちっくしょう…空気読めっての!!」
再び繰気烈弾でセルを狙い撃つ。
だが既にセルは動いていた。
(粒が増える前に根源を叩けば良かろう?
ならば一撃で仕留めるまでだ。)
足でかめはめ波のように、足からエネルギー波を放ちながら…更に両手からもエネルギー波を放って細かくコントロールしながら接近する。
自分から向かって行けば、気弾の乱れ打ちを掻い潜るようなもの。
一つ一つ丁寧に、素早く避け…そして。
「だあぁぁぁぁ!!」
位置エネルギーと、運動エネルギーを乗せた拳はヤムチャの顔面を捉え、ステージを突き抜けて海面まで吹っ飛ばした。
盛大な水しぶきを挙げた後、ぷかーっとヤムチャが浮かんできた。
『場外!
セルリン選手、決勝進出決定ー!!』
(クソー!
恥ずかしくて戻れやしねー!)
新必殺技まで出してカッコつけて勝ちたかったヤムチャにとっては誤算だったのか予定通りだったのか…。
海水をブクブクさせながら中々出てこない。
「…ふん、貴様はいい戦いをしたのだ。
さっさと上がってこい。」
ヤムチャの道着を掴みあげ、セルに引きずられるようにステージに戻されていく。
その後ろ姿こそ、なんともまぁ情けない様にも見えるのだが、それを言う観客は誰一人としていなかった。
健闘の拍手喝采である。
そして、その後ろ姿の並んだ亀マークに武天老師は満足し、お目当ての子がいる席に飛びついて盛大にビンタを浴びた。
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「すげーな!
天下一武道会よりもパワーアップしてんなぁ!」
「悟空、出たそうじゃがお前は既に死人じゃから参加出来んぞ。」
界王星からもモニター越しに観客がいた。
孫悟空と界王様である。
セルの自爆により、1人で修行するか、飯を食うかしか楽しみが無いこの星にとっては武道会の見物はひとつの娯楽になる。
「ん〜まぁ参加出来る事も可能なんじゃが…既に始まっておるからどっちみち無理じゃな。」
「ちぇー。
じゃぁさ、今度の天下一武道会はオラ出られるんか!?」
「んー…まぁまたその時になったら話してやる。
今は大人しくしておれ、少しは観戦させろ!」
「悟飯と…それにセルか。
きっとすげぇ戦いになるぞ…。」
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(どうして…どうしてヤツらがこんなチンケな大会に出てきてるんだ!?
ななな何とかしなければ…。)
七変化した顔色も既に真っ白にしかならなくなったミスターサタン。
第2ステージは全て終わったところ。
悟飯は言うまでもなく一発完勝。
ピッコロと天津飯は、善戦はしたもののピッコロの勝利。
クリリンは 「クジ運来てるぜ!」 と、余裕勝ち。
だが彼らの中にはセルと戦った異次元の強さの戦士も混ざっており、金髪になったり空を飛んだり光の玉を出したり…
キャスターのフリも辛うじて応えはするも、内心は穏やかではない。
ミスターサタンの最強伝説の危機である。
「おや?
ミスターサタン、顔色が優れんが…。」
「え゛ぇ!?
あ あ あぁぁあハラだ、腹が痛いんだうーイテテテテ!!
スマンが少し医務室へ行く!
すぐ戻ってくる!」
渾身の仮病を使い、何とかギョーサンを退けて部屋を出る。
廊下には誰もいない、スタッフすらもだ。
(このままずらかった方が身のためだ。
君子危うきに近寄らず…てな!)
演技を終えると一目散に走る。
今行かなければいけないのは医務室なんかでは無い、大会と無縁の地である。
数分間誰にも見られずに逃走し、ようやく出口が見えてきた。
その時だ。
「ミスターサタン!?」
「のわぁ!?」
出会い頭。
突如スタッフが通路から出てきてしまった。
「ミスターサタン、もうすぐ決勝ですよ?
この先は出口ですからここを曲がれば控え「あーイテテテ!
持病の腹痛が!
主治医に見てもらわないといかんのだ!
外にいるから早く行かないと間に合わんからな!
ダイジョーブダイジョーブ、すぐに戻って来…る…?」
スタッフをサラッとかわして出口に出たのだが…どういう訳か、陸地が海の向こうへ遠ざかっていく。
いや、この武道会場が離れて行く。
「あれ?
決勝はバトルアイランドで行うので今移動してるんですよ?」
「何ぃいいいい!?
帰してくれ、あっちに行かせてくれーーーーっ!!」
サタンの涙の訴えは、応援に駆けつけたファンのサタンコールによってかき消されていく。
………
……
…
決勝進出は悟飯・ピッコロ・クリリン・セルの四名である。
決勝は東西南北にひとつずつくじ引きで選び、地下に作られたバトルゾーンへ向かう。
そこで強敵である銀河戦士と戦い勝ち、最初に戻ってきた者が優勝者となり、ミスターサタンとの戦闘権を得る事が出来る。
…まぁぶっちゃけた話、銀河戦士と言えど大会側が用意した…Z戦士からすればただの一般人である。
そう…ここから先はZ戦士同士が戦わないのである。
「ってことは、悟飯達と直接戦わなくてもいいし、一番最初にゴールすればいいって事だよな?
俺にも優勝の可能性があるって事じゃないか!!」
クリリンにとって一番の難所は第2ステージだった。
あとはもう障害物競走と、優勝戦という名の消化試合みたいなものである。
千載一遇の大チャンスなのだ。
(よーし!
ここまで来れば、優勝賞金と温泉旅行は頂きだぜ!)
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「そいつらは片付けときな。
見つかると厄介だ。」
派手な装飾をした四人のミスターサタンの弟子と、数々のスタッフの死体。
これから始まる、決勝ステージの銀河戦士だったのだろう。
「いよいよだな。」
「ホホホ、ようやくこの星を丸ごと頂けるな。」
「にしても、銀河戦士とやらがこれなら…普通に殺しまくってった方が早かったな。」
「そう言うな、ボージャック様の完璧な作戦なのだ。
殺戮ショーはこれからよ。」
「ザンギャの言う通りかもしれんな。
まぁ、この大会は全世界生中継らしいからな。
派手に行くぞ。」
四人の影は各ステージへ赴く。
その事を知る人物は、もう誰もいなかった。