俺ガイル短編集   作:さくたろう

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いろはすの抱き枕カバーが可愛すぎて即ポチした僕です。
あきさん、高橋さんにいろいろと教わりながら書きました。
やっぱりいろはす可愛いよはすはす!



一色いろはという少女は抱き枕にちょうどいい。

「だるい……」

 

 今日は朝から体調が芳しくない。授業を聞いてても全く頭に入らない。いや、別に授業が数学だったからとかじゃないからね? 

 さすがにこのまま授業を受けても仕方がないと思い、二時間目が終わった時点で保健室に向かうことにした。

 

「失礼します……」

 

「あら、いらっしゃい」

 

 保健室のドアを開け挨拶すると養護教論が出迎えてくれる。

 

「すみません、朝から体調が悪くて」

 

 軽い説明をすると熱を測るように言われたので、体温を測ると平熱だった。

 

「熱はないみたいね、とりあえずベッドが空いてるから少し休んで様子をみましょう」

 

「わかりました」

 

 空いているベッドに案内されて横になる。

 

「私はこれから用事で部屋を空けるけど、大丈夫?」

 

「たぶん、大丈夫です」

 

 少し眠れば良くなるだろ。熱はないしな。

 

「そう、それじゃお大事にね」

 

 そして俺はゆっくりと瞼を閉じた――。

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 「…………ん」

 

 どれくらい時間が過ぎただろうか。

 かなり眠っていたような気もするが、未だに意識は朦朧としている。

 ふと、何か違和感を感じた。

 横になっている俺の隣になにか柔らかいものがあって、無意識にそれに抱きついてみた。

 抱きついてみるとそれはとても抱き心地が良くて、子供の頃に使っていた抱き枕を思い出す。

 驚くほどに抱き心地がいいそれを、今度はさっきよりもちょっとだけ強く抱きついてみる。

 

「はう……」

 

 ……はう? あれ、今なんか声みたいなの聞こえた? 

 気になってもう一度、さっきよりも強く抱きついてみる。

 

「んっ…………、だ、だめですよ……そんなに強く抱きつかれたら、はわわ……」

 

 あれ? やっぱ声がするんだけど。

 気になって今度は抱きついているなにかを確認してみようと重い瞼を開けてみる。

 すると目の前には亜麻色の髪があって、アナスイのいい香りが漂ってきた。

 ……一色?

 俺の位置からは顔は見えないが、さっきまで抱きついてたそれはどう考えても我が校の生徒会長、一色いろはだった。

 

 ……なんだ夢か。

 

 うん、そうだな。これは夢だ。大体、保健室で寝てたらいつの間にか女の子が一緒に寝てたとか、それなんのエロゲだよ。ん、でも保健室に抱き枕なんて普通あるだろうか。いや、まあ一色が隣で寝てる確率よりはあるな、うん。

 そう思って再び瞼を閉じる。

 夢だとわかれば問題なく、横にある抱き枕に抱きつけるわけで。さっきよりも遠慮なく思いっきり抱きつくと、さらりとした布のような感触と、ふにょんとした感触が両手に伝わった。なんだこれ気持ちいな。

 

「ひゃっ、そ、そこはさすがにヤバイです、ヤバイんですけど……。ぁぅ……」

 

 そこってなんだよ……。しっかしこれ、なんかむにむにしてて癖になるな。

 えらく柔らかい何かが気に入ってしまい、何度か揉んでみる。

 むにむに。

 

「……っ」

 

 ぷにぷに、にぎにぎ。

 

「……ぁ、は」

 

 夢の中の一色は、少しずつだがだんだんと息が荒くなってきた。

 っつーか夢の中にまで一色出てくるとか、俺どんだけあいつのこと意識してんだ。

 ……まあそんなことは今は置いといてと。

 先程から抱き枕がもぞもぞと動いてるような気がする。

 おいしょっと。

 左足を抱き枕の下に潜り込ませ、右足を上から絡めながら両足で抱き枕をがっしりと挟み込む。

 

「ふあ……せ、せんぱい……まずいです、まずいです…………」

 

 夢の中の一色の慌てた声が無性に可愛く感じてしまい、こちら側に思い切り引き寄せる。その際、唇にぷるぷるした感触がした。それが何か気になってくわえ込む。

 はむっ。

 

「ひゃあっ!? ひっ、ひん……っ、だ、だめっ……」

 

 はむはむ。

 

「ぁ、だめ……です。それ、きもちいっ……」

 

 ぴくぴくと震えている一色の反応が面白い。

 ぷるぷるした何かをはむはむと口で咥えながら、さっきと同じようにぷにぷにした何かを両手でにぎにぎと揉んでみる。

 

「~~~~っ!」

 

 どのくらいそうしていただろうか。急に抱き枕がビクンと跳ねたような気がして、それからさっきまでもぞもぞとしていた動きは完全に停止した。

 その後、「すう、すう」という寝息が聞こえてきた気がした。 

 それにしても、この抱き枕本当に柔らかいな。こんな物があるならうちにも一つ欲しいものだ。

 夢の中だというのに一仕事終えて眠気が襲ってきて、そのまま意識が遠のいていった。

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「…………い、……ぱい」

 

 どこからか声が聞こえてくる。

 

「せんぱい」

 

 ……なんだ一色か。

 

 瞼を開けてみると、一色の顔が目の前にあった。どうやらさっき見ていた夢の続きなのだろう。

 

「どうした?」

 

「えっと……。さっき先輩がしてたのが思ったより気持ちよかったので……」

 

 なんかしたっけ俺。抱き枕に抱きついてただけな気がするんだけど。

 

「なので、今度はわたしが抱きついてみてもいいですか……?」

 

 何がなのでなの? ごめん、状況がよく読み込めないんだけど。

 

 一色の問いかけが理解できずにいると、一色は俺をぐいっと引き寄せて抱きついてきた。

 なにこれ、なにこれ?

 両手は俺の背中に回され、両足は腰のあたりに絡みついてくる。

 一色から漂ってくるアナスイの香りが、再び鼻孔を擽って変な感覚に陥る。

 

「さっきのお返し、ですからね……?」

 

「……っ!?」

 

「ちゅっ……、ちゅぴ、ちゅぴっ、ん……」

 

 そう言って俺の耳たぶをはむっと口にくわえ込むと、水音を立てながら舐めてきた。

 

「くっ……、一色、何、してんだ…………」

 

 俺の言葉を無視し、尚も耳を舐め続けてくる。抱きしめていた手足の力はさっきよりも段々と増していく。

 しばらく俺の耳たぶを舐めていた一色だったが満足したのか、今度は自身の頬を俺の頬にぴたりとくっつけ、すりすりとこすりあわせてきた。

 

「せんぱい、せんぱい……えへへ、えへへ」

 

 そして、まるで子猫が親猫に甘えるかのように、もぞもぞ、くねくねと一色が身もだえするように動き始めた。

 ああ、もう、まじで可愛いなこいつ。それになんだか愛くるしい。っつーか女子の頬ってこんな柔らかいの? ずっとこうしてたいまであるんだけど。

 

「ん……、んぅぅ」

 

 そんなことを考えていると、不意に俺の脇の下に身体を潜り込ませるようにして、一色が頭をぐりぐりと押し付けてきた。

 ……何してんの、この子。

 

「なに、どうしたんだよ」

 

「んー、んっ!」

 

 行動の意図が読めずに一色に尋ねようと視線を落とすと、俺が作る影の下で頬を赤らめ、あどけなく微笑んだ。

 

「こうすると、せんぱいの顔がちゃんと見えるかなって……」

 

 ――とくんっ。

 

 一色の瞳に吸い込まれるように、呑まれるように、二人の距離が徐々に縮まっていく。

 あと、もう少しで──。

 遠巻きに、何か物音がした。けれど、目の前にあるぷるんとした桃色の綺麗な唇が、そちらに向けようとした俺の意識を邪魔して、阻んでくる。

 

「一色……」

 

「せんぱい……」

 

 夢の割に妙にリアルなこの感覚。

 一色の吐息が、鼻腔をくすぐってきて――。

 甘く感じるようなそれは俺の興奮を掻き立て、どくどくと胸の鼓動が早まる。

 こきゅっ。

 小さく、喉を鳴らす音が聞こえた。

 小刻みに震えながらも揺れる瞳で俺を見つめる一色に応じるように、求めるように、弱々しく結ばれた唇へ自分の唇を向かわせる。あと数ミリで、お互いの唇が触れ合う。

 その寸前、不意に一色が視線を外して俺の背後を覗き込んだ。……そいや、さっき物音がしたな。

 まぁいい。今はそれよりも──。

 

「……ああ、あ」

 

 あと数ミリでお互いの唇が触れ合おうとしたとき、明らかな怯えを声音に滲ませて一色が小さな悲鳴をあげた。

 

「せ、せんぱい……」

 

「ん?」

 

 もう少しで一色のぷるんとした唇に触れ合うことができたのにと思うと、おあずけを食らったような気がして、返事が雑になった。

 

「う、後ろ……後ろに……」

 

 一体何事かと振り返ると――。

 

「二人は一体何をしているのかしら」

 

「ゆ、ゆきのん! ストップ、ストップ!」

 

 身も凍るような冷気を湛えた雪ノ下と、必死で制止しようと雪ノ下の肩を掴む由比ヶ浜がそこに居た。

 えっと……、これは夢……だよな。そうだよ、夢だ。うん。

 一度向き直ると、俺の下で一色は身を縮こませながらぶるぶると震えていた。

 もう一度確認のために振り返ってみる。

 

「比企谷くん、一色さん、覚悟はできてるかしら?」

 

「に、逃げて、ヒッキー! いろはちゃん!」

 

 やっぱりそこには雪ノ下と由比ヶ浜がいて――。

 

 ――瞬間的に空を仰ぐ。

 

 そっか……そうだったのか……。

 

 人生の終わりとは、かくも唐突に訪れるものか。

 死期を悟ってしまった俺は、胸元にしがみつきぶるぶると震える一色の頭に手を乗せ、穏やかな表情を浮かべながら口を開く。

 

「……さあ、やってくれ」

 

 我ながら清々しい程の声音で嘯くと、雪ノ下が未だかつて見た事が無い程素敵な笑みを浮かべた。

 由比ヶ浜が目に涙を滲ませて何か叫んでいる。極限状態のためか何を言っているのか聞き取れなかったが、その唇は確かに「逃げて」と訴えていた。

 目を閉じると、生まれてきたことを後悔しそうな程の冷気が身体を包む。

 

 今度こそ俺は夢の世界に旅立った――。


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