俺ガイル短編集   作:さくたろう

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八幡といろはが居酒屋で恥ずかしくなっちゃうみたいです。

「あれ? 先輩、こんなところで何してるんですか?」

 

 大学近くの居酒屋。

 今日は大学の研究室の奴らと飲み会のため、集合時間前に俺は居酒屋の前で携帯を弄って暇つぶしをしていた。

 

「研究室の奴らとこの店で飲み会なんだよ。お前だってこんなとこで何してんの?」

 

「今日は友達とここで飲み会なんですよー。あ、先輩、明日って空いてます? ちょっとにも……、買い物に付き合ってほしいんですけど」

 

「おい、今荷物持ちって言いかけたよね? やだよ、明日は忙しい。大学のファンクラブの奴らにでも持ってもらえ」

 

 一色いろは。俺の一つ下で同じ高校出身。

 それでもって何故か同じ大学に通っている。一昨年の春に再会したときは正直驚いたもんだ。

 うちの大学割と偏差値高いし、一色がここに入学してくるなんて思ってなかったからな。

 俺が言うのもなんだが、大学に入って可愛さにさらに磨きが掛かっているためか、大学内では一色いろはファンクラブまであるらしい。

 正直怖い。主に俺に対するファンクラブの奴らの態度が。

 

「えー、いいじゃないですか……。あ、先輩もわたしのファンクラブ入ってくださいよ!」

 

「や、なんでだよ。入らねえよそんなの」

 

 言うと、一色が頬をぷくぅっと膨らませ、「なんでですかー」と肩をぱんぱんと叩いてくる。

 リスみたいで可愛いのはいいが、痛い、痛いからね?

「大体、先輩大学生になってから妙に余所余所しくありませんか? 高校生の頃はなんだかんだいって付き合ってくれたのに……。むぅ……」

 

「そんなことないだろ。というか俺もいろいろとあるんだよ。就活だってまだ決まってないし、卒論だってあるんだぞ」

 

 

「それなら……まあ、もういいです。その代わり来週の土曜日は空けといてくださいね!」

 

 近い、近いからね? そうやってぐいぐいと顔を近づけてこないで? そのせいで俺はお前のファンクラブの奴らから嫌われてるんだから!

「すまん、その日も予定あるわ」

 

「読書と睡眠ですか?」

 

「そうそう。だから忙しいんだよ」

 

「そうですか。じゃあ、来週の土曜日十時に駅前集合でいいですかー?」

 

 なんでそうなっちゃうんですかねえ。どうせこれ俺に拒否権ないんだろ?

 つうか来週の土曜って……。

 はぁ……。

 一色に勝手に予定を決められてげんなりしていると、どうやら一色の友達が居酒屋に到着したようで。

 

「あー、いろは、おまたせー!」

 

「ごめんねぇ、遅くなっちゃって」

 

「もう、遅いよー。あ、それじゃ先輩、お先に失礼します~」

 

「おう」

 

 一色につられ、一色の友人も俺に軽く会釈をし三人は店の扉を開けて店内に入っていった。

 何も律儀に挨拶なんてしないでそのまま入っていけばいいものを……。

 そんなことを考えながら俺は再び携帯を弄り始めた。

 

「おー、比企谷」

 

「わりぃわりぃ遅くなった!」

 

「や、流石に遅すぎだろ」

 

 あれから待つこと一時間近く。

 別にいいけどさ? 種火集め捗ったし。

 FGOのアプリを終わらせ、むさ苦しい男どもと店内に入っていく。

 店員さんに案内されたのは四人用の座敷で個室だ。

 

「それじゃかんぱーい!」

 

 とりあえずと、先に注文した生をみんなで乾杯して飲んでいく。

 

「でさー。いろは、最近どうなの?」

 

「ふぇ? なにが?」

 

 お通しを摘みながらビールを飲んでいると、隣の方からそんな会話が聞こえた。

 なんだ、隣は一色たちなのか。

 

「ほらぁ、いろはが狙ってる先輩って人! 最近どうなの?」

 

「ちょっと待って! な、なんのこと?」

 

「ほら、あんたが高校時代から大好きな先輩! うちの大学に入ったのだってその先輩追ってきたんでしょ? ファンクラブなんてできるほどなのに、健気な子なんだから~」

 

「ぶっ!?」

 

 あいつら一体なんの話してんだよ……。

 いきなりのことで飲んでたビールを吹き出してしまった。

 

「おい」

 

「すまん」

 

 向かいの木村に思い切り吹きかけてしまったようだ。

 や、そんなことはどうでもいいんだけどさ。

 それより、今あいつらはなんて言った? 一色が好きな先輩を追いかけて大学に入った? ちょっと待って頭が追いつかないんだが。

 

「ちょっと待って。今はその話題は……ね?」

 

「えー、なんでよ? この話になるといっつもいろは誤魔化すじゃん。こんな時くらい喋っちゃいなよ~! ほらほら、飲め飲めぇ!」

 

「いや、だって今、ここにいるかもしれないし……」

 

「え、もしかしていろはの好きな先輩ってお店にいた人!?」

 

「しーっ! やめてお願いだから!」

 

「いいじゃんいいじゃん。ここ個室だし聞こえないって!」

 

 思い切り聞こえてるんですがそれは。

 一色のお友達さんももうやめてあげて? 俺まで恥ずかしくなってきたから。

 しかし一色も気の毒に。

 なんて一色に多少の同情をしたのも束の間、目の前にいる野郎どもがなにやらニヤニヤとこちらを見ている。

 おい、なんだ。めちゃくちゃ嫌な予感しかしないんだけど。

 

「今日だってさ、『来週は先輩の誕生日だから何あげようかな。……わたし、とか? えへへ……』なんて独り言言ってたじゃん? あんたにそんなに想われて、その先輩も本当に幸せよね~」

 

「やめてお願いもうやめてええええ!」

 

「もういっそのこと本当にいろはあげちゃいなよ」

 

 誕生日プレゼントに一色って……まじか。

 いやいやいや、待て落ち着け俺。

 ……とりあえずだ。一色は置いといて、今はこの目の前にいる野郎どもだ。さっきよりも顔がウザイ。なにか企んでるだろ。

 

「そういやさ、比企谷」

 

「……なんだよ」

 

「お前いろはちゃんのことどう思ってるの?」

 

「おい待って?」

 

 急に何を言い出すんですかやめてくださいお願いします。

 

「ほら、お前にこないだ聞いたらさ。高校の頃から妹みたいな奴で、一緒にいるのが心地よいとか言ってたじゃん? ぶっちゃけそれって好きだよなー」

 

「いつ俺がそんなこと言ったんだよ」

 

 マジでまったく記憶にないんだけど。

 一色が隣にいるからって捏造するのやめてくれない?

「何? お前覚えてないの? こないだの飲み会で酔っ払ったとき語りまくってたくせに」

 

「えっ」

 

「そうそう。あとさ、こないだ一色さんと会ったあと、『あいつまた可愛くなったな』とかボソッと呟いてたよな。あれ聞こえてたぞ」

 

「頼む、待って、なんでもするから。今日は俺の奢りでいいから」

 

 まじでこれ以上こいつらに変なこと言わせちゃならん。

 心なしか隣から一色の驚く声が聞こえたような気がしたが、これは気のせい。そう気のせいなんだよ。

 そう思ってないとやってられないんだけどまじで……。

 

「そういえばいろはこの間の飲み会のとき凄かったよね」

 

「ねえ……もうやめよう? わたしの話はもういいから!」

 

 今度はまた隣の部屋から声が聞こえてくる。俺の勘違いでなければ先程よりも大きな声で。

 これ絶対一色の友達も気づいてるよね? こいつら悪魔かなんかなの?

 

「えー、いろは覚えてないの? ああ、あの時凄い酔っ払ってたもんねー」

 

「そうそう、凄かったよね。最初は愚痴から始まってさぁ」

 

「うんうん。『高校時代から散々アプローチかけてるのに全然進展しない』とか『先輩はわたしがメールとかしても返信に一日かかる』とかねー」

 

「挙句、『この前先輩の家に泊まったのに襲ってくれなかったんだよ!』だもんね。びっくりしちゃったよねえ」

 

「やめてえええええ! なんでも言うこと聞くからああああ!」

 

 一色の声とは信じられないような悲鳴声が店内に響き渡った。

 もう俺にはわけがわからないよ……。

 つうか、あいつもあいつで何変なこと言ってんだよ……。

 隣から聞こえてくる精神攻撃に俺のライフがごりごりと削られていく。

 さらに目の前にいる男どもが嬉しそうにビールを一気飲みすると、俺に向かって話かけてくる。

 

「あー、そうそう。なんでか今思い出したわ。こないだ比企谷が酔っ払ってたときさ、『この前一色が俺の家に泊まったんだが……反則だろあいつ。あんなの襲われても文句言えねえぞ……』とか言ってたよなぁ」

 

「タイム! ちょっと口閉じろ。頼むから!」

 

「えー……。まだまだいろいろあんだけどなぁ」

 

「俺が悪かったから、や、何が悪かったのか全くわからんけど……とにかく俺が悪かったから!」

 

 俺の馬鹿馬鹿あほ八幡! なんで俺はこんなやつらの前で迂闊なこと口走ってんだよ!

 つうかまだまだあるってどういうことだよ。何? 俺って酔っ払うとそこまで口が軽くなるの? 

 決めた。もう二度とこいつらの前で酒は飲まない。

 

 それから、俺の必死の抵抗虚しく、次々と赤裸々発言を隣にいる一色に確実に聞こえるような大きな声で暴露されていった。

 一色の友人たちもこちらに聞こえるようにどんどん暴露話を続けていき、店内には俺と一色の悲鳴が交互に鳴り響いた。

 

「それじゃ、帰るかぁ」

 

「いやぁ、今日は楽しかったな! な、比企谷!」

 

「ああ……そうだな……」

 

 飲み会が終わる頃には俺も酔っ払っていた。

 や、だってこんなの飲まなきゃ耐え切れねえから。

 もういっそ誰か俺を殺してくれ。

 

 レジの前で会計の順番待ちをしていると、後ろから見覚えのあるやつが歩いてくる。

 一色いろはだ。

 ちょうどこいつらも飲み会を終えたのだろう。

 それにしてもなんでこのタイミングなの? めちゃくちゃ気まずいんだが……。

 一色も同じ心境なのだろう。一瞬こっちを見たが直ぐに目を逸らした。

 

「あれれ? 木村さんじゃないですか?」

 

「おー、碧ちゃんじゃん。偶然だね。何? 飲み会?」

 

「そうなんですよー」

 

 ???

 こいつら知り合いなの? やけに親しそうなんだが。

 

「そっか、じゃあ碧ちゃんたちの分も俺ら出しとくよ」

 

「え、いいんですかー? ありがとうございます!」

 

「いいっていいって。それよりこれからみんなで飲まない?」

 

「それいいですねー! あ、でも……いろはったら既に酔っ払っちゃってて……」

 

「そっか、それじゃいろはちゃんは帰ったほうがいいね」

 

「ですね。だけど、もう時間遅いですし、流石に女の子一人で帰るのは危ないと思うんですよ」

 

 そう言うと、碧ちゃんと呼ばれている女の子がこちらをチラ見してきた。

 なんだよ。何が言いたいんですか。

 

「確かにそれは碧ちゃんの言うとおりだね。誰か一緒に帰ってあげれる人いないかな?」

 

 今度は木村が俺をガン見してきた。

 うん……もうわかったわ。お前のガン見で察しがついた。 

 

「……はぁ。送ってきゃいいんだろ……」

 

「わー! ありがとうございます! いろは良かったね!」

 

「え? え? え?」

 

 一色は現状をまったく理解できていないようだった。こいつどんだけ飲んだんだ?

 や、ぶっちゃけ俺もこの状況を理解したくないし、夢だと思いたいわけなんだけど。

 

「それじゃ、比企谷、また来週なー」

 

「いろはーまたねー!」

 

 一色の友人と木村たちが早々に店を出ていき、俺と一色はぽつんと取り残された。

 ……さっきまでのあれのせいでめちゃくちゃ気まずいんだけど、どうしたらいいのこれ。

 

「あー、えっと一色……」

 

「待ってください、少し整理させてくださいお願いします!」

 

「お、おう……」

 

 一色は頭を抱えながら何やら独り言をぶつぶつと唱え始めた。

 

「……わかりました」

 

 

 しばらくすると、一色がこちらを向いてボソッと呟いた。どうやら整理は終わったらしい。

 

「あれもこれも全部先輩のせいです。悪いのは先輩です」

 

「いや、何でだよ……。全く意味がわからないんだけど」

 

「大体、先輩が未だにわたしに振り向いてくれないのが悪いんですよ! だから酔っ払っちゃったときに、あ、あんな恥ずかしいことをみんなの前で……」

 

「それは俺が悪いのか……?」

 

 大体、俺だってお前と同じくらい恥ずかしい内容暴露されまくったんだけど?

 勘の良さそうなこいつなら俺の気持ちばれるレベルなんだけど。

 

「そうですよ! わたしは、私はこんなに先輩のことが好きなのに……って、なんで今先輩にこんなこと言っちゃってるんだろ~~! せっかく来週の誕生日に先輩がわたしのこと好きになってくれるための作戦考えてたのに……!」

 

「……ああ」

 

「わたしばっかり先輩のこと好きなのは悔しいです。先輩も私のこと好きになってください」

 

「むちゃくちゃすぎんだろそれ。……つうかもうなってるっつうの……」

 

「えっ……?」

 

 ……何言っちゃってるの俺? ああ、そうだこれはあれだ、酒のせい。そう酒のせいだ。

 

「せ、先輩今なんて言いました? もう一度言ってもらえません?」

 

「近い近いんだって!」

 

 俺の言葉に反応した一色が、先程まで曇っていた目をきらめかせ顔を近づけてくる。

 吐息から漏れる酒の香りに頭がくらくらしてきて理性の箍が外れたような気がした。

 

「あー……、だから俺もお前のことがだな、その……なんだ、好き、だ」

 

 酒の力を借りなければおおよそ一生かかっても言えないような台詞を言い終えた瞬間、唇を柔らかい感触が襲った。

 

「おっ、お、お、おおおまえ……」

 

 何が起きたか理解するのに数秒かかり、目の前の一色に焦りながら問う。

 一色は顔を真っ赤にさせながらも、今まで見てきた中で一番の笑顔で、

 

「えへへ……、少し早いですけど、わたしからの誕生日プレゼントです」

 

 そのまま一色が俺の身体にぎゅっと抱きついてきて、その身体を両手で包み込む。

 

「えっと……なんつうか……さんきゅう」

 

「いえいえ、あ、当日も別にプレゼント用意してありますからね?」

 

「……楽しみにしとく」

 

「ふふ……きっと驚きますから」

 

 一色の言葉に柄にもなく期待しつつ、自然と手をつなぎながら帰路についた。


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