せんぱいっ、しりとりしましょ!
放課後の生徒会室。俺は今、一色に頼まれて生徒会の仕事の手伝いをしている。
生徒会の仕事なのに俺と一色しか居ないっていうのは毎度のことながらどうなのこれ?
まあ、今日の仕事はそんなに多くはないから二人でたりるといえばたりるのだが。それならそれで俺じゃなくて生徒会役員がやれというものだ。
「せんぱい、せんぱーい」
ラストスパートに向け集中していると一色に呼ばれる。
「なんだよ、もうそっち終わったのか?」
「いえ、まだです!」
なんでこいつはドヤ顔なわけ? 終わってないなら早く終わらせて帰りたいんだけど。まああれだ、俺の分の仕事が終われば先に帰っても何の問題もないだろう。
「俺はもう終わるから帰っていいか?」
「え、じゃあ私の分やりませんか?」
いや、なんでこいつは、それが当然のことのように聞いてくるわけ? やるわけないだろ。もう散々手伝ってるわけだし。
「断る。自分の分くらい自分でやれ。むしろ俺が半分手伝ってるだけありがたいと思うべきだぞ」
本当にそうだ。まぁ確かにこいつを生徒会長にさせたのは俺だから? 多少なりと一色の負担は減らしてやりたいというのはあるが、こうも頼られすぎると流石にこいつのためにならないし、俺もなんか勘違いしそうになっちゃうし?
「ぶぅ~……、先輩のケチ……。それじゃ先輩、少し休憩にしてしりとりでもしませんか?」
頬を膨らませこちらを睨んでくる。何それ可愛いなお前。
……いやいやいや、俺は何変なこと言っちゃってんだ。しかもあいつなんつった? しりとり? やるわけないだろ。
「なんでいきなりしりとり? やりたくないんだけど」
「いいじゃないですか! 終わったら私頑張りますから!」
まぁそれでこいつのやる気が上がるなら少しくらい付き合ってやるか……
「わかったよ」
「さすが先輩、なんだかんだ遊びに付き合ってくれる先輩……好き、ですよ? じゃあ普通のしりとりっていうのもなんなんで、10回しりとりっていうのやりましょう!」
そういう好きとかいうのやめろよ、しかもその部分だけ上目遣いとか勘違いしちゃうから!
「何、その10回しりとりって」
「10回目にでた単語を実行するんですよー、ただそれだけです!」
ふーん。なんか聞いたことないしりとりだな。あ、俺友達いないから基本のしりとりすらほぼしたことねえや。
「じゃあいきますね。とりあえず最初は先輩からどうぞ!」
俺からでいいのか。てっきり一色からかと思ったけど、まあいいか。
「そうだな……、じゃあマックスコーヒー」
まあ、最初はこんなもんでいいだろ。
「ひ、ですねー。うーん、ヒルナンデスで!」
「す、か。そうだなー、スイカ」
なんか普通にしりとりしてるだけだよなこれ……。楽しいのか?
「か、ですね。かき氷です!」
「り、なぁ。隣人部」
「……なんですか隣人部って?」
「いやあるんだよそういうのが。まあ気にすんな」
「まぁいいです。ぶ、ですか。部室ですかね」
「罪と罰」
「先輩の存在が割と罪ですよね、つくしでお願いします」
そういえば10回目に言ったことっていうことは一色が10回目になるよなこれ。順番変わるわけないし。あいつ何か企んでんのか?
「あ、先輩、藤沢さんって生徒会のなんでしたっけ」
なんだこいつ?いきなりどうしたんだ?
「書記だろ?」
「書記ですね、じゃあ10個目は……、キス、で」
えっ、と思った時には一色の顔が目の前にあった。
一色はゆっくり瞳を閉じて、唇をこちらの唇に近づけてきた。
何この子……、流石に可愛すぎてヤバイ。
というかこれこのままいくと本当にキスしちゃうけどいいの?
唇があとちょっとで触れ合う位置まで近づき、一色の息遣いが聞こえる……
理性の化け物でもこの雰囲気に飲まれてしまったのか、俺も一色の唇に近づける。
そして二人の唇が触れ合う……
「……しちゃいましたね、先輩とのキス、マッカンの甘い味がしました」
えへへっとこちらを上目遣いで覗き込む一色に不覚にも見惚れてしまってしばらく思考停止してしまった。
ヤバイヤバイヤバイ、雰囲気に飲まれたとはいえこれは完全に俺のミスだ。これからこれをネタに脅される未来が見える……
「せんぱい、今のわたしのファーストキス、なんですよ……?責任、とってください、ね?」
……俺はなぜこの状況になったかを考える。10回しりとり、10回目をわざわざ一色の番になるようにしたこと、そして書記を俺に言わせたこと。
つまり全部こいつの計算どおりだったってわけか……。