俺ガイル短編集   作:さくたろう

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大人のキスだ……

 

今日の終業式が終われば明日から冬休みだ。

奉仕部も今日は休みらしいので今日は午後から家でゴロゴロできる。最高だ。

 

終業式も終わりルンルン気分で廊下を歩いていると「比企谷」と声をかけられる。

おい、比企谷呼ばれてるぞ。俺も比企谷だがこんな廊下で呼ばれるはずもないので振り返らない。

それがたとえよく聞く声でも振り返らない。なぜなら振り返った瞬間、俺の平穏が終わることを知っているからだ。

 

その場を立ち去ろうと足早になると後ろから肩を掴まれる。やばい捕まった。殺される。

 

「比企谷、逃げるとはひどいじゃないか?そんなに死にたいのか?」

 

「ひっ、平塚先生じゃないデスカー、どうひたんですか」

 

オーケー大丈夫いつもと変わらない。平常心だ。

 

「まったく……。君に頼みがあるんだ」

 

「すいません、今から俺大事な用事が」

 

「ふむ、用事とはなんだね?」

 

「家であれしなくちゃいけないんですよ」

 

「なるほど。それなら大丈夫だな。20分後に奉仕部に来てくれ、依頼人もその頃に行くと思うのでな」

 

なんでいつも用事があるといっても俺は暇なことになるの?おかしくない?

「いや、今日は奉仕部休みなんですけど……、雪ノ下も由比ヶ浜もいないですし」

 

「だからだよ比企谷」

 

何言ってんだこの人。俺だけで話聞いたって上手くいきっこないのに。

 

「君は必ず来ると信じているがこない場合は君の成績がどうなるかわかるまい?」

 

この人俺の成績を人質に取りやがったぞ。それ教師としてどうなんですかね。

 

「わかりましたよ……、行きます」

 

「うむ、では私は用事があるので失礼するよ。依頼内容については依頼主から直接聞いてくれたまえ」

 

この人自分は来ないのかよ……

 

 

遅れるのもめんどくさいので俺は早めに奉仕部の部室に行く。

とりあえず依頼人が来るまでいつもの席で読書をし、時間を潰す。

20分を過ぎたあたり扉ろノックする音が。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

挨拶をして部室に入ってきたのは黒髪ロングの綺麗な女子だった。

系統で言うと雪ノ下が近い。目元は雪ノ下よりキリッとしている。

それに雪の下にはない膨らみがある。むしろそこは由比ヶ浜レベル何この子スペック高すぎじゃない?

こんなに美人なら校内で噂になっているのと思うのだが知らないな。あ、そもそも俺に噂とかこないじゃん。ぼっちだし。

 

「2年の塚平爽子です」

 

「塚平さんね……、んで今日は何を依頼しに?」

 

なんかどっかで見たことある気がするのだが……

喉元まで答えが出かかってるのにあと少しが出ないこの嫌な感じあるよね?

「実は今日一日、私と恋人になってほしいんだ」

 

え、何言ってんのこの人。見ず知らずの人と恋人?ないない知ってる奴でも厳しいというか不可能レベルなのに。俺にはこの依頼無理ゲーすぎるわ。よし降りよう。

 

「すまん。俺にはその依頼に答えられそうにもない。他を当たってくれ」

 

「断るなら平塚先生に報告するけど……?」

 

その言葉を俺に告げ彼女はニヤっとする。

……こいつ、卑怯だ。それに不覚にも今の表情に少し見惚れてしまった。

 

「オーケーわかった。今日一日だけでいいんだよな?つまり恋人の振りのようなことをすればいいと」

 

「そうなるね。ではさっそくデートをしよう?よろしくね、八幡」

 

あれ?俺こいつに名前言ったっけ……

塚平は容姿からして俺が知っていてもおかしくないレベルなのに俺は知らない。

逆に俺は目立たない。自分のクラスの奴らにすら名前ヒキタニと覚えられてるレベルだ。

 

「はやくいこう?」

 

塚平は俺の腕を取り腕組をする。柔らかいの当たってるんですけどね!なんだこいつビッチか!?ていうか若干タバコ臭いんだけど!不良かよ。

距離が近くなり横目でチラッと塚平の顔を見るとやはり美人だ。学校一と名高い雪ノ下と比べてもなんら遜色がないと言える。

というか先程も言ったがスタイルでいうなら塚平の圧勝。こんなやつがこの学校にいたなんて……

ましてやそいつと俺が一日恋人とかこれなんてエロゲ?

「お、おいどこいくんだ?」

 

「うーん、決めてないな。八幡はどこか行きたいところあるの?」

 

「俺は家に帰りたい」

 

ドンッ!!

腹パンされた……。何この子まじでめちゃくちゃ痛いしどこかのレディースかなんかなの?もういやだ八幡おうち帰る……

 

「八幡、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないんだけど……」

 

「とりあえずお昼にしない?私お腹すいたな。この辺でどこか美味しいラーメン屋ってないの?」

 

え?俺の心配ってそれだけ?というかこいつラーメン食べるのか。ちょっとだけ八幡的にポイント高いな。

しかしこの辺は俺のラーメンテリトリーではないんだよな。塚平に無理やり引っ張られながら歩いて来たので場所も把握しきれていない。

 

「すまん、この辺はあまり詳しくないわ」

 

「仕方ないな君は……。それなら私のお勧めのラーメン屋でいいかな?」

 

塚平に連れられて来たラーメン屋は「かいざん」という店だ。

とりあえず塚平に習いネギとんこつを注文する。

 

「ここはご飯にも、麺にもネギが合うからネギ付きは基本」という塚平のアドバイスを受けこれに。

豚骨ベースながらしっかりと出汁が出ていて、味と脂のバランスも優れていて旨い。

中太ストレート麺との相性もいい。すぉして分厚いチャーシューの満足感がやばい。

こんな名店知らなかったな。今日はこれだけで満足した気がする。よし帰ろう。

 

「「ごちそうさま」」

 

「どうだった?」

 

「いや、かなり良かったよ。また来るレベルだ」

 

「そうでしょう、ここのスープと麺の絡みは絶品だからね」

 

塚平は満足げに語ると、携帯を取り出し何かを確認している。

 

「よし、次は本屋に行ってもいいかな?」

 

「そうだな……、俺も新刊のほしい本があるしいこうか」

 

「決まりだね」と言い塚平がさり気なく腕を組んでくる。

 

気づいて回避しようとするとまた強引に来るので仕方なく片腕を生贄に捧げる。

本当こいつ自分のスタイルとかわかってるのか?歩くといちいち柔らかいものが俺にあたるんですよ?

しかし隣でニコニコと機嫌よく歩く彼女を見るとなかなか言い出せなかった。

だって凄く綺麗なんだもの。八幡ドキドキしちゃう。

 

 

本屋に入ると俺は目当ての新刊がないかチェックする。どうやらここには置いてなかったようだ。

目当てのものがないので塚平と合流し、本屋を出ようとしたときだった。

 

「あれ……?ヒッキー何してるの?」

 

……最悪だ。この状況を今最も出会いたくない人物の一人と出会ってしまった。というかなんでこいつが本屋になんかいるの?キャラ違うでしょ?ここでエンカウントするとしたら雪ノ下じゃないの?

「由比ケ浜さん、どうかしたのかしら?」

 

いたよ。なるほど二人でいたのね。仲良いなこいつら。

ジーッと俺の横にいる塚平を見つめる二人。

雪ノ下が口を開く。

 

「ところで比企谷君?そちらの女性はどなたかしら?」

 

雪ノ下も知らないのか。同じ2年なら知っていると思ったんだが。由比ヶ浜のことも知っていたわけだし。

ところでなんで君たち俺を見るときは睨んでるの?こわいんだけど。

 

「はじめまして、八幡の彼女の塚平です」

 

「か、か、か、かにょじょ!?」

 

落ち着け、由比ヶ浜何言ってるかわかんねえからそれ。

 

「私の聞き間違いかしら?彼女と聞こえたのだけれど?塚平さん、あなた大丈夫かしら。こんな男を彼氏にしてしまって」

 

「どういうことかな?八幡は最近の男子の中では中々骨のある良い男だと思うが?それを君たちが知らないわけではあるまい?」

 

まただ。こいつは俺のことを確実に知っている。だが俺は全く知らない。ここが引っかかるんだ。

雪ノ下は塚平に言われたあと眉をピクピクさせながら黙っている。

ちょっと怖いんですけどそれ。

 

「何を言ってるのかしら?そんなこと会ったばかりのあなたに言われる筋合いはないと思うのだけれど?」

 

「そうだよ、あなたよりあたしたちの方がヒッキーのこと理解してるし!!」

 

「理解していてそれか……、少しは君たちも素直になりたまえ。用はそれだけかな?私たちはこれからデートの続きがあるのでこれで失礼するよ」

 

「「あっ……」」

 

二人の声を振り切った塚平は俺の腕を取り本屋をでる。

少し二人には申し訳ないことをしたのか?

いや別に俺が悪いわけじゃないけど。

しばらく歩くと塚平はまた携帯を取り出し何かを確認している。

 

「八幡、次はスポーツ用品を見たいんだけどいいかな?」

 

ほう、こいつ何かスポーツやるのか。確かに見た感じ運動神経も良さそうだし、何よりあの馬鹿力だ。

格闘技でもやらせたら世界取れるんじゃないか。

特に断る理由もないので、塚平の誘導でスポーツ用品店に向かう。

 

「何が欲しいんだ?」

 

「ん……?そうだな……、強いて言うならグローブとサンドバッグ?」

 

マジで格闘技とかやっちゃう系ですか。怖い。

 

「そ、そうなのか……」

 

二人で塚平のお目当てのモノを探していると茶髪のロンゲが声をかけてきた。戸部だ。こいつはどうでもいいや。

 

「あんれぇ?ヒキタニくんじゃね?こんな所でなにしてるん?」

 

戸部がそう言うと横にいた塚平が「デートなんですよ」と答える。余計なこと言うなよこいつ。

 

「え、……あ。ごっめ、マジ邪魔した?わり、わりー俺もう行っから」

 

そう告げ戸部がその場から去ろうとしたときだった。出会いたくない奴の三人目がそこに現れた。

しかもこちらに気づくと一瞬で距離を詰め俺の耳元で囁く。てかこいつ相変わらず速い……

 

「先輩、こんなところでどうしたんですー?ていうか隣の女だれですかー?あ、先輩の彼女さんとか?でも先輩にこんな美人の彼女とかありえないですよね。それに先輩年下好きですし、私の方が先輩にふさわしいと思いますけど?」

 

声ひくっ。怖いんだけどしかもお前最後のそれ勘違いしちゃうよ?

「すまない、一色さん。あまり私の彼氏にくっつかないでもらえるかな?」

 

「は?え、……本当に付き合ってるんですか?え?冗談じゃなくて?」

 

「いや、じつ「見て分からないかな?只今絶賛デート中なのだが……」

 

俺の声をかき消し塚平がデート中だということを強調して抱きついてくる。

当たってます、当たってますから!!

「…………」

 

一色は機能停止している。

 

「ほらいろはすー。俺らもう行こうぜー、なあ?」

 

戸部は動かない一色を無理やり引きずりながら連れて行った。

しかし塚平のやつあの三人を相手に完全勝利してるんだけどこいつマジ何者なんだ。

雪ノ下、由比ヶ浜。一色の三人を圧倒できるなんて俺は雪ノ下さんか平塚先生くらいしか知らない。

つまりの女子はそのレベルだということだ。

いつの間にか俺は塚平に興味を持ち始めていた。

 

「次はゲーセンにでもいこうか」

 

「じゃあいくか」

 

二人でゲーセンに向かう。

 

「八幡はゲーセンには結構行くの?」

 

「まぁ時間つぶしにちょうどいい場所だしな。よく麻雀とかクイズ系のをやる」

 

「麻雀できるんだ。私も麻雀得意だから二人で店内対戦しない?」

 

「お、おう、なんか二人で店内対戦ってシュールだな」

 

「確かにそうかもね」

 

ふふっと笑う塚平。お互いお金を入れてゲームを始める。

 

店内対戦なんてしたこともないのにしかも初めての相手が女子高生ってどうなの……?

やっぱりこいつなんか今時の女子高生とは若干違う気がするんだよな。

まあそのせいなのか一緒にいて変な気遣いをしなくて済む。

あの三人とは少し違うが一緒にいて悪くないな。

 

そんなこと考えてると隣から「ロン」の声が。

塚平の跳満が俺に直撃する。何こいつ強くね?

「ふふん」と得意げな表情でこちらを向く塚平。

その表情に不覚にも見惚れてしまう。

こんなシチュエーションでときめいちゃうとか俺大丈夫?

しばらく麻雀をしたあと塚平がプリクラを撮りたいというのですることに。

 

「最近のプリクラはこんなに種類があるんだね」

 

「俺はさっぱりわからんから塚平に任せるぞ?」

 

「私も最近のは全然わからないんだ。適当にそれっぽいの選んでしまおう」

 

意外だ。今まで話した感じ、最近の女子高生としては若干違和感はあるがこいつのコミュ力は低くない。それにこの容姿なら間違いなくクラスのトップカーストに所属しているだろう。ならばプリクラなど慣れていそうなものだと思ったのだが。

 

「とりあえずこれにしようか」

 

そう言い、塚平が選んだ設定で撮る。

 

「綺麗に撮れるんだね。じゃあこれは八幡にあげるから。携帯に貼ってくれてもいいんだよ?」

 

取り出したプリクラをハサミで切り半分を俺に渡す。

 

「それはない」

 

「ふふっ、恥ずかしがるな」

 

「恥ずかしいに決まってんだろ。それにこの関係は今日だけだしな」

 

そうだ。この関係は今日限定なのだ。あまり深入りしても仕方ない。

 

「そうか……、そうだな。すまない、少し調子に乗ってしまった」

 

少し落ち込みながら塚平が言う。

 

「い、いや悪い。別にお前が良いならまたこうして遊んでもいいぞ……」

 

何言っちゃってんの俺?しかもこれ若干上から目線じゃねえか、我ながらキモイ。

 

「……意外だな」

 

キョトンとした顔でそう告げる。ちょっとその顔可愛いなおい。

 

「わりぃ、今のは気にしないでくれ」

 

「そうか。そうだな。時間も時間だし帰ろうか。途中まで送ってもらえないかな?」

 

気づけば割といい時間だ。

 

「わかった、家どの辺なんだ」

 

「ここからそう遠くはないよ。歩いていこう」

 

自転車で後ろに乗せてささっと帰ろうと思ったがまあ歩いて帰るのも悪くないだろう。

塚平はここが指定席と言わんばかりにまた俺の隣に来る。

しかし今度は腕を絡めるのではなく手を握ってきた。やだちょっと恥ずかしい。

いわゆる恋人つなぎだ。え、ナニコレメチャクチャキンチョウスル。

しかも手柔らかいし、俺手汗かいちゃわない?大丈夫?

「八幡ここでいいよ。今日はありがとう」

 

しばらく歩くと家の近くまで来たのだろう。塚平がそう言う。

 

「今日は楽しかったよ……。ありがとう」

 

「いや、俺も意外と楽しめたぞ。それじゃあ、また学校でな」

 

そう言って俺は振り向き家路に向かう。

しかし彼女の依頼とは結局なんだったのだろう。

あの依頼には何か別の意味があったんだろうではないかと考え始めた時だった。

 

「八幡」

 

呼ばれて振り返る。

塚平がこちらに向かって走ってきていた。

そして俺に抱きつき、彼女は俺の肩に手をかけ、彼女の唇が俺の唇と触れ合う。

 

「んっ、……っあぁ、ん」

 

彼女の舌が俺の舌に絡まる。

一瞬何をされたのかわからなかった。だけどそれはとても気持ちよくて……。

 

 

 

「大人のキスだ……卒業したら続きをしよう……ではまた今度……」

 

 

ニッコリと微笑みながらそう言い、左手で手を振りその場を離れた。

 

俺はというと、何が起きたのか理解するまでに時間が掛かり、理解したあとまた思考停止してその場に留まった。

 


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