加速世界のヒロイズム   作:くゆり7

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初投稿。


プロローグ 邂逅

 

 

 

 

 

皆さんは《ヒーロー》と言えば誰を思い浮かべるだろう?

 

スーパーマンに蜘蛛男。光の巨人に戦隊ヒーローetc……、十人十色の返答が予想できる。

 

古今東西、老若男女、誰も彼もに憧れのヒーローがいる。

 

悪を滅ぼし、弱きを助ける。常に正しく強くある。

ヒーローとはヒーロー足り得ない人々の希望であり、理想であるのだ。

 

ではそんなヒーローについて、ここでもう一つ問いかけてみよう。

 

 

ヒーローの条件とは何だろうか?

 

 

 

 

 

―――ふむふむ。

なるほど、そんな条件もあるだろう。

ではこちらも一つの回答を出そう。

 

答えてくれるのは一千倍に加速された世界《ブレイン・バースト》にも存在するあるヒーロー。

ある時はポイント全損の危機に瀕したプレイヤーの《用心棒》。

またある時は《エネミー》から瀕死のプレイヤーを守るメシア。

 

いつしかプレイヤー達は口々にこう言うようになった。

 

『彼は加速世界の《英雄(ヒーロー)》』だと。

だが、彼はこう応える。

 

「俺は《英雄(ヒーロー)》なんかじゃない―――なぜなら俺も《ブレイン・バースト》を楽しむ一人の《勇者(ヒーロー)》だから!!」

 

 

勇者(ヒーロー)》の名前は《ブロンズ・ファスファラス》。

またの名を千道(せんどう)優(ゆう)。

加速世界の秩序を守る正義のヒーローである。

 

では彼に訊いてみよう。

―――ヒーローの条件とは何ですか?

 

「自分だけのヒロイズムを持つ。それだけで人はヒーローになれる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キーンコーンカーンコーン。

自由への鐘とともに午前中最後の授業が終わる。

「それじゃ今日はここまで」

初老の数学教師が宿題という置き土産を残し教室から出て行った途端、クラスメイトは各々のランチに移るべくすぐさま行動を開始する。

 

「よいしょ」

固まった背中の筋肉をほぐしながら立ち上がり、俺も俺とて購買にパンを買いに行く。

 

廊下に出ようとすると走ってきた生徒とぶつかりそうになる。

俺が身を引いたので事なきを得たが、こんな事が月に二三度あるから厄介だ。

 

俺が通うここ――東京都杉並区にある梅郷中学校は一年の教室が三階にあり、学年が上がると階数が下がる仕組みになっている。

そして昼休みに生徒達がこぞって向かう購買部は一階にある。

必然的に人気商品は地の利をいかした上級学年の輩に買い占められてしまうが、それでも僅かに残った売れ筋商品を目指して一年生が廊下を走る。

今し方ぶつかりそうになった生徒もそんな一人だろう。

 

 

と、皆が焦る中、俺はゆっくりと一階まで降りていった。

これには理由がある。

いや―――正しくは急ぐ理由が無いのだ。最近俺がはまっている『ずんだ餅コッペ』はいつも決まって売れ残っているからだ。

炭水化物の皮を被った炭水化物の塊みたいな食べ物だが美味いんだからしょうがない。

この良さがわかる人は他にいないようなので俺は悠々と歩くのだ。

 

一階まで降りると入れ違いのごとく両手にパンや飲み物を持った生徒達が階段を駆け上がっていく。

さっとひと通り眺めたが、ずんだ餅コッペを持った生徒はいなかった。よしよし。

 

ひと安心して購買に続く途中にあるラウンジの前を横切る。

すると途中でラウンジに人だかりが出来ているのに気付いた。

梅郷中のラウンジは『一年生使用禁止』の不文律があるため普段は滅多に人が溢れることは無いのだが、この日は違った。

いつもなら二、三年生が醸し出す瀟洒な雰囲気に包まれた空間となっているはずのラウンジがどこか殺伐としている。

気になったので人山の一番後ろの男子生徒に話しかけてみる。

「何かあったんですか?」

「あったもあったよ。二年の《黒雪姫》って知ってるか?」

俺はそう呼ばれている人物をよく知っていた。

「まあ、一応……」

「それなら話は早ぇ。その黒雪が一年のパッとしねぇ男子と《直結》したんだぜ。それでも充分驚きだがその後不良っぽい野郎が出てきて一年の顔を思いっきり殴ったら黒雪も巻き込んでクラッシュしたのさ」

顔の前でグーをパーに変えながらその男子生徒は語った。どうやら事がボーンと爆発したと言いたいらしい。

しばらくして騒ぎを聞いた教師陣が到着。

主犯の男(後で聞いたら同じ一年だったらしい)が引っ立てられていき、続いて巻き込まれたらしい黒雪姫がぐったりした様子で運ばれていく。

 

 

加害者と被害者がいなくなったことで野次馬に集まった者達も三々五々に散っていった。

人がいなくなったラウンジに取り残されたのは俺と、有線ケーブルを握りしめ立ち尽くす丸い体型の一年生だった。

ははあ、さては彼が『パッとしねぇ男子』君だな。

俺は彼に近づく。

「キミが黒雪先輩と直結した人?」

「ど、どうしよう……先輩……上手くやるって言ってたけど………血が…出てた……」

うーん、どうやらショックを受けたみたいだ。

 

―――多分こんなとこかな? 半ば確信を持った問いを投げかける。

 

「多分怪我は大したことないと思うよ? 大方キミは黒雪先輩に『殴られたら大袈裟に吹っ飛べ~~……』とか言われてたんでしょ?」

俺の言葉に目の前の男子生徒は目を見開く。

どうやらずばり当たってたらしい。

「な……なんで、その事を!? あっちには僕と先輩しかいなかったのに!」

彼の応え方で疑う要素はゼロになった。

「その答えはすぐにわかると思うよ。―――ところでキミの名前は?」

「有田……春雪…です」

「そうかハルユキ君か……。キミが黒雪先輩が待ち焦がれたヒーローなんだね」

「ヒーロー……?」

「ううん、こっちの話だよ! ちなみに、俺の名前は千道優。まあすぐに違った自己紹介をする事になると思うけど」

「???」

ハルユキ君の頭の理解が追いついてないな。

今は顔を覚えて貰えればいいか……。

「それじゃ! またねハルユキ!」

 

ラウンジを軽い足取りで抜け出し、購買にダッシュする。

「思わぬ巡り会いだったけど……」

ちらりと、不思議そうな顔でラウンジに突っ立っているハルユキを見返す。

 

「ようやく時が来たんですね黒雪先輩―――いえ、ブラック・ロータス」

 

自然と上がる口元を自覚しながら、今度こそ昼食を調達しに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ずんだ餅コッペは不人気につき販売を終了します》

「なん………だと……」

その日、俺の昼食は水となった。

 

 

 

 

 





作中でヒロイズムを『ヒーローの掟』という意味で使用しています。
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