加速世界のヒロイズム   作:くゆり7

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◇2 ~対戦~

 

 

 

 

 

梅郷中ラウンジ内暴行事件は黒雪先輩が次の日も普通に登校してきたため、すぐさま忘れられていった。

 

はて? 直接殴られたハルユキは心配されたのだろうか?

 

いやいや、ハルユキは心配されるどころか一部の人間から妬みの対象となっていた。

なぜなら、才色兼備な黒雪先輩がハルユキに告白をしてその返事待ちであることを公言。

冗談だと思っていた流していた周囲の人間も、登下校を共にしている姿や二人で昼食をとっている場面を度々目撃する事で考えを改める事態が発生しているからだ。

かくいう俺も黒雪先輩がハルユキと腕を絡ませ―――もとい黒雪先輩がハルユキの腕を引いて歩いているのを見たことがある。

 

ハルユキがヒーローなら黒雪先輩はヒロインって訳ですか………。

 

そんな状況が数日続いたある日、学内に再び衝撃のニュースが走った。

それは黒雪先輩が自動車事故に巻き込まれ重傷。近くの病院に搬送され入院してるというものだった。

話しによると命に別状は無いようだが、お見舞いに行った黒雪先輩の友人達が『要観察中』ということで面会できなかったらしい。

ということで黒雪先輩が一般病棟に移ったという話を聞いてから俺もお見舞いに行くことにした。

 

 

何週間後かの土曜日、俺は件の病院の前に立っていた。

手ぶらなのも失礼だと思って道中お見舞いの品として、ゼリーを買っていった。

黒雪先輩の好みが分からなかったのでイメージで選んだが………まあ、何を買ったか当ててみてくれ。

病院の受付に学生IDを提示して「学校の友達です!」といったらあっさり病室の場所を教えてくれた。

 

 

 

指示された場所には患者の名前を入れるネームプレートに一人の名しか入っていなかった。

個室なんだろ? 多分。

 

コンコンッ。

 

黒雪先輩の病室のドアをノックすると顔を出したのは先輩ではなくハルユキだった。

「やあ、ハルユキ! キミもお見舞いかい?」

「あれ……? 千道君……だよね? どうしてここに?」

「誰が来たんだい、ハル?」

ハルユキのことをハルと親しげに呼んだのは長身にメガネをかけた爽やか系イケメン少年だった。

「俺は梅郷中の一年、千道優。黒雪先輩のお見舞いに来たんだ。ハルユキとは一度会ってるよね?」

「そうなのかいハル?」

「ああ………」

「失礼だけど、君はどういった関係の―――」

イケメン君が黒雪先輩と俺の関係を聞こうとしたところで、

「いいんだ、タクム君。彼も私達の仲間なんだ」

病室のベッドで上半身を起こしている黒雪先輩がフォローしてくれる。

「仲間って…………何のですか?」

ハルユキが質問する。

「そんなのっ《ブレイン・バースト》に決まってるじゃないか!」

俺はハルユキの背中をドンドンと叩きながら教えてやる。

「うぇぇ!? 僕達以外に梅郷中にバーストリンカーがいるなんて聞いてないですよ! 先輩!」

ハルユキが黒雪先輩のベッドに駆け寄り説明を要求する。

慌てこそしていないが、イケメン君も目を丸くしている。

というか俺の事教えてなかったんですか………忘れてたわけじゃないんですよねぇ?

 

「うむ。教えていないからな」

当の黒雪先輩はあっけらかんとしているからこれ以上追求しても意味ないな。

 

 

 

黒雪先輩のベッドの横にイスを並べ、代わりに俺からハルユキに自らの素性を明かす。

自分がバーストリンカー《ブロンズ・ファスファラス》である事や、黒雪先輩と4月の時点で出会っていた事などを話してあげた。

 

「それじゃあ、千道君は先輩の事をずっと守ってたんですね」

「ユウでいいよ――――。そんな大層な事はしてないさ。俺は梅郷中にブラック・ロータスがいる情報を秘密にしていただけさ」

「ああ、そのことなんだがなユウ君………キミには言ってなかったが―――――」

 

そこから黒雪先輩は最近正体不明のリンカー《シアン・パイル》に狙われていた事を告白した。

秘密はいつの間にかばれていたのだ。

さらには、その正体がハルユキの幼なじみであり、先輩の入院を狙って襲撃してきた彼をハルユキが激闘の末に改心させたらしい。

しかも《シアン・パイル》はここにいるイケメン君――――黛拓武だというのだからもうびっくりだ。

 

 

「そ、そんな事が………俺は何も知らなかったです」

「気にしないでくれ。キミにこれ以上迷惑をかけたくなかったんだ」

黒雪先輩がすまなそうにする。

 

「それに関しては僕からも謝らせてほしい」

 

入れ替わって今度はタクムが謝罪の言葉を述べ始めた。

真摯に謝る様子は彼が本当に己の行いを反省し、また悔いている気持ちがひしひしと伝わってきた。

俺の横で黙って聞いているハルユキの方がいたたまれないといった感じだ。

浅からぬ事情がおそらくあるのだろう。

「キミの気持ちは十分わかった……でもキミが謝るのは俺じゃない。それにキミは――タクムはもう《ネガ・ネビュラス》の一員だろ? なら俺はタクムを責めないよ」

「ありがとう……流石は加速世界の《勇者(ヒーロー)》だね。これからよろしくユウ」

タクムと握手を交わしこの話はおしまい。

ハルユキの表情もさっきに比べて明るくなっている。

「とにかく解決して良かったですね黒雪先輩。やるねぇハルユキ!」

並んで座っていたハルユキの脇を小突く。

「へへへ……」

照れながら頭をかくハルユキはどこか嬉しそうだった。

その後俺が持ってきたゼリーをみんなで食べながら他愛ない話を続けた。

ハルユキが残りポイントを考慮せずにレベルアップして危うく全損しかけた話や、梅郷中購買にずんだ餅コッペが復活した話なんかをね。

 

 

 

「――コホン。私はこの通りまだ万全でないが、退院後はいよいよレギオンを復活させようと思う」

黒雪先輩があらたまって話し始める。

「新生《ネガ・ネビュラス》ですね」

総勢四名の小規模レギオンは他の王のレギオンに比べ不利であるが、

「ハルユキは黒雪先輩のお墨付きだし、《シアン・パイル》も青のレギオンのホープだったんでしょ? こっちには黒の王だってついてるんだから《領土戦》ですぐに杉並エリアを押さえられるよ」

不利な状況からの方がゲームは燃えるんだ。

 

「あのぉ……一ついいですか?」

 

そこでハルユキが恐る恐る手をあげる。

なんだいハルユキ! せっかく燃えていたのに! 文字通り水を注されたよ。

「何だい? ハルユキ君」

「いや、疑う訳じゃないんですけど……先輩がもうメチャクチャ強いのは分かるし、タク――《シアン・パイル》も実際に戦ったんでその実力は充分体験したんですけど……」

チラチラ俺の方を見ながら話すハルユキはこう言いたいらしい。

 

「つまり、ハルユキは俺の強さを知りたいわけか」

「ええ、まあ……そういうことになるのかな?」

「何言ってるんだいハル!? 《ブロンズ・ファスファラス》は《新世代(ニュージェネ)》の一人で実力ははっきり言って僕達より頭一つは抜けてるよ!!」

タクムが信じられないといった様子でさらに続ける。

 

「そもそも《新世代(ニュージェネ)》っていうのはほぼ同時期に加速世界に現れた強者達のことを指してるんだ。僕が実際に見たことがあるのは、《傭兵(マーセナリー)》の《ミモーサ・ストラトス》と《無鉄砲(トリガー・ハッピー)》の《カーマイン・ガンキッド》だけだけど………」

「う~~ん……そう言われてもピンとこなくて……」

タクムの説明に納得できないハルユキに

「じゃあ対戦すればいいじゃないか。二人で」

俺の言おうとした事を黒雪先輩が代弁してくれる。

「バーストリンカーがお互いを知るなら対戦するのが一番手っ取り早い。ユウ君もそれでいいだろ?」

「どんとこいです! 黒雪先輩が見いだしたハルユキを見極めさせて貰いますよ」

「ふふっ、大変だぞハルユキ君。キミは加速世界の《勇者(ヒーロー)》に気に入られてしまったようだ。がっかりさせてやるなよ」

「ちょっと先輩! ハードル上げないでくださいよぉ! 僕はまだレベル2なんですからぁ」

「何を言ってるんだハルユキ君? ユウ君はレベル4だぞ」

「えっ? タクと同じ? ………なら――――」

「だからって勝たせないけどね」

「ウッ!」

とにかく戦えば全てが分かる。

もう早く対戦したくてウズウズしてきた。

「では私はギャラリーとして見させてもらうからな。お互い頑張ってくれ。特にハルユキ君はな!」

「僕も《勇者(ヒーロー)》の戦い見させてもらうよ」

「は、はい! ご期待に添えるよう精一杯頑張ります!」

「俺も《ネガ・ネビュラス》の一員として恥ずかしくない実力を見せますよ!」

 

そうでなくとも、対戦で手は抜かない。

 

【ヒーローの対戦は正々堂々、全身全霊であるべし】

それが俺のヒロイズムだ。

 

 

 

 

 




次回ようやく対戦です
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