加速世界のヒロイズム   作:くゆり7

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◇ 3 ~全力~

 

 

 

成り行きで急遽、《ブロンズ・ファスファラス》との対戦が実現した。

先輩は彼の事を加速世界の《勇者》と呼んだ。

由来は分からないが実力は確かなのだろう。

それでも、ハルユキ――《シルバー・クロウ》はどうしても自分でその強さを肌で感じたかった。

それに確かめたかった。

 

自分は先輩について行ける実力が本当にあるのか?

 

そういった意味でこの対戦は願ったり叶ったりだった。

全身を光が包み、丸く太った体は銀色に輝く痩躯へと変貌する。

デュエルアバターへの移行が終わり、開けてきた視界にはまるで火事で全てが焼け落ちた後のような風景が広がっていた。

 

 

「なるほど……《焦土》ステージか」

 

 

その声にハッとし、ハルユキは横を見る。10メートル程離れた場所に対戦相手《ブロンズ・ファスファラス》が立っていた。

 

すぐさま思考を対戦モードに切り替える。

拳を構え、間合いを計ろうとしたがブロンズに制止される。

 

「まあ慌てるなシルバー・クロウ。屋内じゃやりにくいだろ? 外に出よう。ブラック・ロータス達もその方が見やすいだろうし」

 

そのまま、柱と床しかない病院だった建物から外に出て行ってしまう。

確かに《シルバー・クロウ》が持つ、加速世界唯一のアビリティ《完全自立飛行》を活かすならば屋外の方が都合がよい。

なのでハルユキもブロンズに続いて建物を飛び降りた。

両足で着地すると焼き尽くされ剥き出しの土が、灰とない交ぜになりながら土煙になる。

先に降りていたブロンズは既に病院の駐車場だったであろう開けた場所に移動していた。

 

ハルユキもそこに移動しながらブロンズのアバターをじっくり観察する。

ハルユキは個人的にこういった相手を観察する事は対戦ゲームで重要なスキルの一つだと考えている。

 

既に戦いは始まっているのだ。

 

ブロンズの体は自身と比べて頭ひとつ分ほど背が高い。

顔は《シアン・パイル》のような西洋騎士の甲冑を思わせる造りだが、額の辺りから頭頂部にかけてライオンのたてがみの様な筋が走っている。

 

そして特に目を引くのが太い両の腕だ。

明らかに僕の二倍、ひょっとしたら三倍はあるかもしれない。その他には要所に装甲があったがこれは僕とあまり変わりがない。

《ブロンズ》の名を冠すようにその体は青銅色に包まれている。

 

ここまでの観察でブロンズはハードパンチャータイプの近接型だと予想する。

ぶっとい腕から繰り出される一撃必殺級のパンチで相手を沈める戦法だ。

ただ、そういう戦車みたいな奴はスピードが無いのが常だ。

 

対してこちらはスピードには自信がある。当たらなければどうということはない。

 

 

「(相手のパンチに注意しつつ、懐で高速戦闘をしかける!)」

そう結論してブロンズと相対する。

 

「準備はいいか? クロウ」

 

「よし! いつでも来い!」

 

かくして戦いの火蓋が切って落とされた。

 

僕は作戦通り一気にブロンズとの距離を詰める。

しかし、ここでブロンズが奇妙な行動にでた。

 

「……クラウチングスタート?」

 

そう陸上のスタートの時の体制を取ったのだ。

 

「いくぞ! 《螺旋移動(スプリング・ムーブ)》!」

 

それはほんとに偶然だった。

ハルユキの脳内に『避けろ!』という命令が駆け巡り、とっさに横に飛び退いた。

「くっ……!」

 

そのすぐ後に青銅色の弾丸―――違う、青銅色の砲弾が空気を切り裂いた。

ゴッ! と目の前をブロンズが高速で過ぎ去る。

あのまま走っていたら間違いなく吹き飛ばされて終わりだっただろう。

背筋にヒヤリとしたものがつたう。

 

「今のをよく避けたなクロウ! 初見で受け止められた事はあったが、完璧に避けられたのは初めてだ!!」

ポンポン小刻みに上下しているブロンズから賞賛されたっぽいが―――それどころじゃない!

 

今のはそれこそ完璧にまぐれだし、次避けられる自信はなかった。

 

再び、ブロンズが動き始める。

僕を取り巻くように高速移動し、前後左右どこから仕掛けてくるのか判断できない。

 

かといって、その速すぎる挙動は影すら掴むことを許してくれない。

 

見えるのはブロンズが踏み切ったであろう場所に立ち上る土埃だけで………

 

 

 

 

「(―――おかしい……土埃が少なすぎる)」

ハルユキが気付く。

もし、ブロンズの移動方法が目にも止まらぬ速さで“走って”いるなら僕を中心として円状の土埃ができるはずだ。

「(今ブロンズが作っている土埃の数は………1…2………5箇所!)」

 

ブロンズの姿を点でなく線で見る。

 

「(わかった! ブロンズは僕を中心とした五角形の頂点から頂点への対角線上を一足飛びに移動しているんだ)」

もし今飛ぶ事ができたら、ブロンズがキレイな星形を描いているのを見られるだろう。

 

いくら速かろうと来る方向が限定されているのだ。

まだ対処できるはずだ。

 

「(思考を加速しろ! 加速しろ! 加速しろ!――)」

気を抜く事無く、呼吸を落ち着かせる。

少しの間、ブロンズが一定間隔で踏み鳴らす土音に耳を澄ませる。

そしてついに、一定のリズムを保っていた音が変化する。

 

「そこぉ!!」

足音の方向を頼りに、左斜め後ろの頂点から攻撃と判断。

振り向く遠心力をも利用した右ストレートを瞬間的に放つ。

半身が振り向き終わった所でブロンズの姿を捉える。

タイミングはドンピシャ。

ブロンズ自身のスピードも相まって、ハルユキの拳は必殺のカウンターと化す。

 

 

「(よし! 入っ―――)」

た、と確信するほんの少し前。ブロンズの体が僅かにズレる。

 

「惜しいな―――」

 

 

僕の拳の先がブロンズの頬を掠める。

 

シャリィィ―――ン。

 

メタルカラー同士のぶつかりが金属が擦れる鋭い音を奏でる。

そこから先は見ていることしかできなかった。

 

 

「だが―――」

 

 

勢いそのままのブロンズが軽く跳ぶ。

 

「ハズレだ!!」

 

必殺のカウンターをカウンターするブロンズの跳び膝蹴りが顔面に直撃。

無理な体勢で技を繰り出していたので、ハルユキは踏ん張りもきかずに盛大に吹っ飛ばされる。

HPがゴリゴリと削れながら転がっていき、数十メートルはそうしていただろうか?

ようやく停止した時にはハルユキのHPゲージはもう三割しか残っていなかった。

 

「(まずは追撃を貰わないよう移動しなきゃ……)」

ふらふらと立ち上がる。

幸いダメージを貰った事により必殺技ゲージは充分たまっていた。

ハルユキがぐっと背中に力を込め、銀翼を展開。一気に飛翔する。

 

空中でブロンズの位置を確認。

彼はホバリングして静止するハルユキをを見上げている。

 

「さて……ここからどうしようか……?」

状況を俯瞰してみよう。

相手の体力は満タン。対してこちらは残り三割強。

勝てる見込みはもう殆ど無いだろう。

数回の攻防でハッキリ分かった。《ブロンズ・ファスファラス》は間違いなく強い。

 

「(僕よりも断然………)」

 

途方に暮れていると、病院の屋上に一体のデュエルアバターを見つける。

「先…輩………」

《ブラック・ロータス》。

変えることを諦めていた僕の日常を破壊してくれた人。

自らを犠牲に僕を助けてくれた人。

僕には飛べる強さがあるんだって教えてくれた人。

 

―――こんな僕を好きだと言ってくれた人。

 

 

 

そんな彼女が見ている。

 

それだけで力が湧く。

もっと速くなれる。

 

「(だから見ていて下さい先輩――)」

 

高度を下げブロンズに最後の勝負を挑む。

「ブロンズ・ファスファラス! 勝負だ!」

ハルユキは我ながら単純な売り言葉だと思ったが、ブロンズはそれに応えた。

「望むところだシルバー・クロウ! 【ヒーローは逃げない】!! それが俺のヒロイズムだ!」

 

「(ああ……あなたは本当に《勇者(ヒーロー)》だ)」

 

一度地上を掠め、スピードをつけて病院に沿って上昇する。

病院の屋上を通過する一瞬、《ブラック・ロータス》と視線が合う。

口では何も言いはしなかったが、ハルユキにはハッキリ聞こえた。

 

――――見せてくれ! 《シルバー・クロウ》の本当の“速さ”を!

 

 

「そうだ! 僕はまだ一度も攻撃を当てていないじゃないか。このままなんて、終われるわけないだろ!!」

 

地上の建物が小さくなる程の高度でハルユキは上昇をやめる。

 

「(僕ができるのはただ一つ………ここからもてる限りの速さを乗せてブロンズを叩く! )」

 

銀色に光る翼を一層大きく広げる。

 

 

「いっけえぇぇ――!!」

 

頭から遥か下の地上目掛けて突貫していく。

途中、何度も羽で空気を叩き、その度に爆発的な推進力を得る。

空気の層からの反発を感じる。

 

「まだまだァァアッ!」

 

最後の力を振り絞って羽をうつ。

地表が段々と鮮明に見えてきた。ブロンズは最後に見た位置から寸分たりとも動いていなかった。

 

拳をぎゅうと握り混み、前方に差し出す。

「―――勝負!!!」

 

次の瞬間、ブロンズと激突。

宣言通りブロンズも逃げずにパンチを放ってきた。

拳と拳がせめぎ合う。

衝撃が辺りの地面をひび割れたものへと変える。

 

そして―――

「うおぉおおおっ―――!」

ブロンズの体が後退を余儀なくされた。

青銅色の足が地面を抉り、引きずられていく。

だが、ブロンズも負けまいとして拳に更なる力を込めていく。

 

 

このまま押し切れるかと思ったが………

 

ガシャンと音を立てて、ハルユキの腕が崩れてしまう。

先の攻撃でダメージの蓄積した腕がブロンズとの押し合いに耐えられなかったのだ。

 

《部位欠損ダメージ》により《シルバー・クロウ》のHPが0となり対戦は終わっ―――

 

 

「―――らないっっ!」

まだっ! まだ終わらない!

HPが0になる前にハルユキは己のもつ唯一の必殺技を発動させる。

 

「くらえぇっ! 《ヘッド・バッド》ォオォ!」

 

高所からの《ヘッド・バッド》。これこそが本命だった。

 

流石にここまでは予想していなかっただろう。

驚くべき運動エネルギーを持った頭突きが確かにブロンズの額に一撃を叩き込んだ。

 

 

バンッと弾かれたブロンズが吹き飛んでいく。

「どうだ………! これが……ぜんりょくだぁ……」

 

着地しようとしたが無様に倒れ伏してしまう。

視界の端のHPゲージがとうとう消滅する。

遅まきに《LOSE》の文字が出てきた所で、《シルバー・クロウ》対《ブロンズ・ファスファラス》の激闘が幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やられた………」

仰向けになり俺はそう呟いた。

「まさかクロウが最後の最後であんな攻撃をしてくるなんて……」

 

空からのダイブアタック。

地上の俺からすれば銀翼が反射する光が一条の光線となり降り注いで来たのではと錯覚する光景だった。

視神経の全てを光線の先端のみに集中させ、ようやく捉えたクロウにありったけの力で反撃した。

初撃であるパンチはだいぶ押し込まれ、後退したもののクロウの腕が限界を迎える形でなんとか凌ぐことができた。

クロウの腕を砕き、俺の勝利だと思ったんだが……。

 

手のひらで顔を押さえる。

「いてて………顔の装甲、半分も吹き飛んでるや」

ムクリと体を起こせば、体中に薄く積もった《焦土》ステージの灰がサラサラと落ちていく。

 

 

そもそもクロウが俺の《陣》を見抜き、あまつさえカウンターをしてきた事も驚くべき事だった。

「いくらそうなるよう仕向けたって言っても……ホントにやられるなんて……流石? と言うべきなのかな」

少なくともあの一瞬においてクロウは完璧に俺を“視ていた”。

それは疑いなかった。

 

「黒雪先輩が認める有田春雪……彼は普通のバーストリンカーとはどこか違う」

具体的にどう違うのかは説明できないけど―――。

 

「これから探せばいいか―――」

 

 

《シルバー・クロウ》有田春雪と《ブロンズ・ファスファラス》千道優は同じレギオンの仲間なんだ。

 

 

 

 

 

 





やってしまいました・・・
ロマン技である飛行からの頭突き。
ハルユキ君はそれだけやってればいいんじゃないかな? と思わせる威力ですね
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