幻想郷の仕立て屋さん!   作:ほりぃー

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遅くなって済みません


6話 針を探せ 中

 今より百年以上昔の話である。

 外の世界は「文明開化」により、妖怪はいられなくなったあと。河童達も例にもれず幻想郷のみでの生活を余儀なくされた。とはいっても元からそこで暮らしていた者が大半なので混乱は殆どなかった。

 そんな激動の時代でも川で泳いだり、相撲したり。興味のあることを探したりと河童達はあくまでのんきであったのだ。それに彼女達を外の世界から締め出した「文明」に殊の外河童達は興味を示した。

 

「湯気」で動く機械。時を正確に告げる機械。暗闇を照らす、妖怪にとっては天敵な機械。

 人間達の作りだした文明は河童達にはセンセーショナルであり、一種の「ブーム」を作り出した。彼らは自分たちでも機械を作ることをやり始めたのだ。

 

 もちろん最初は苦戦した。そもそも外の世界と隔絶した幻想郷であるから、知識は断片的にしか手に入らない。その少ない情報量を河童達は自分で補いつつ、技術を高めていくことになる。情熱に突き動かされる好奇心がそこにあった。

 

 元が趣味のようなものだから河童達はどんどん意味の分からない物を作りだしていった。

 外の世界で人が空を飛んだと聞けば、自動で動く巨大竹とんぼのような物を作る。冷気を閉じ込める箱があると聞けば、きゅうりを冷やすためだけに試作し、腕時計と聞けば、腕型の時計を作ってみた。

 うずたかく積まれていくガラクタの山。それでも河童達は何かを作ることを喜んでいた。外の世界の法則すらも無視できる幻想郷だからだろう、数十年後には人間にも作れない高度な物を作り出す彼らである。

 

 

 それでもどんな社会にもはぐれ者がいる。それは一人の少女だった。

 黒髪をした河童特有の青の合羽のような服を着た彼女。頭には緑の帽子。いつもワイワイと仲間の河童達が何かを作っているのを遠くから、静かに見ている。仲間外れにされているわけではないが、和に入れないわけがある。

 

 名を河東さざめという。

 

 彼女はとても不器用だった。どんなことをしてもうまくできたことがない。

 機械を扱う同胞たちに混ざって、少し自作したこともあるが、途中でやめた。後に残ったのはねじとバネの飛び出た金属の塊である。自分でも何がやりたかったのかよくわからなくなってしまったのだ。楽しくはなかった。

 

 彼女の周りでは楽しげに工作に勤しむ河童達。別に迫害されているわけでもなんでもないが、彼女は焦ってしまう。毎日何か趣味のような物を自分も見つけないといけない、そんな強迫観念めいた気持ちがわきあがってきた。

 

 毎日、自分の趣味を見つける為に彼女は奔走した。

 機械は初めにあきらめた。彼女は細かい作業が苦手でどうしても途中で投げ出してしまうからだ。それにあまり頭の回転が速い方ではない。配線だとかなんだとかは理解自体できない。

 次に挑戦してみたのは読書である。本をどこからか仕入れてきて読んでみた。人間の文字はあまり詳しくなかったが、殆ど関係なかった。読んでいるといつも眠ってしまったからだ。

 それから泳ぎを練習してみた。やはり水の生き物である河童は速く泳げれば尊敬される。しかし、彼女は泳ぎが「人間に比べればうまい」程度でしかなかった。無理に練習するのはすぐにやめてしまった。

 そんな感じで何かをすれば、直ぐにやめ。何かを始めたら、数日で飽きるようなことを繰り返した。本当に何をやってもうまくいかないから、自己嫌悪に陥ったこともある。

 

 彼女にも一つだけ取柄がある。それは能力であった。

 「色をつける程度の能力」それがさざめの力である。いたって単純な能力で手に持ったものに「色」を付けられる程度の力である。それも自分の力であるが、あまり得意でないのと彼女自身は「取るに足らない能力」と自嘲していたから滅多に使わなかった。

 

 

 そんな時に彼女が思いついたのが「人間を驚かすこと」であった。河童は人間を「盟友」と呼ぶほど人間と友好的な妖怪であるが、本質はやはり物の怪なのである。人間を驚かすことはやり妖怪冥利に尽きるのであろう。

 さざめは夕方にそっと、一人河童のアジトから抜けだした。

 

 

 彼女は人里に向かう道、その傍にある大木に隠れた。やってくる人間を驚かせようとしているのだ。日は沈みかけて、茜色の空を鴉が飛んでいく、そんな日のことである。

 人は直ぐに来た。背負子を背負った老婆である。腰は曲がり、よたよたと歩いている。彼女はしめたと思った。「あれ」なら簡単に驚かせられそうである。老婆が近づいたところで彼女はばっと飛び出した。

 

「うおぉ! ふぎゃ」

 

 そして人間の目の前で小石に躓き一回転。情けない声を出して転がっていく。老婆は驚いたが、それよりも驚いたのは彼女である。気が付いた時には世界がさかさまに見えていた。ひっくりかえった状態で止まってしまったのだ。情けなさすぎて彼女は、何もかもが嫌になった。かあかあと鳴く鴉が自分を馬鹿にしているようにしか聞こえなかった。

 

「く、くそ……」

 

 視界が滲む。悔しさと悲しさでついぽろぽろと涙を流してしまった。自分は何もできない。だからこそどこにも居場所がない。河童達は自分を仲間として扱ってくれても、彼女には彼らと「共にする」ことがなにもない。

 

「大丈夫かい?」

 

 そんな彼女を心配する声が一人。しわがれた声。先ほどの老婆である。人間にすら心配されてさざめのプライドはぼろぼろである。彼女は直ぐに起き上がると、「よけいなお世話だ」とつっけんどんに言ってしまう。そしてごしごしと袖で涙を拭って、踵を返す。

 さざめはさっさとこの場を去ろうとしたが、ぐいと後ろに引っ張られる。さざめが見ると自分の肩を老婆が掴んでいる。意外に強い力である。

 

「なんだ人間! ワタシは忙しいんだ」

「……そこ、やぶれているようだけどね」

「あ゙?」

 

 老婆の手をふりほどいて、さらに睨みつけながらさざめは向き直る。人間となれ合おうという気は微塵もない。彼女は警戒しながら数歩下がると、自分のスカートを見た。確かにほつれている。こけた時にそうなったのだろう。

 さざめは服が破れて、頭に血が上っていくのを感じた。だが、ここで怒ればもっと情けない気がして、ぐっとこらえた。

 

「ふ、ふん。こんなんどうだっていいじゃないか! 破れてたって使えるよ。チクショウ!」

 

 言いながらスカートを気にしている。明らかに残念がっていることはわかる。さざめはわかりやすい。嘘をついても、態度をとりつくろえないのである。だから、老婆にもわかった。

 

「どっこいせ。ほら貸してみな」

 

 老婆はいきなりその場に座る。背中の背負子(しょいこ) を下ろして、ゴザを敷いた上ではある。ごそごそと背負子から取り出したのは、糸と針山であった。縫おうというのだろう。

 さざめは歯を剥き出しにして、真っ赤になって老婆を睨みつけた。人間に情けを掛けられる筋合いなどない。

 

「ふ、ふざけんなっ! 人間なんかに」

「ほら、座んな!」

「う、だ、だれがすわ」

「早く」

 

 老婆の眼がギラリと光る。彼女は座っているから、老婆は見上げている形になっている。その眼にさざめはたじろいだ。一歩下がって、何か言おうとしたかが、そこに老婆は言葉をかぶせる。

 

「早く」

 

 静かで、重い。そんな声である。さざめは「ふん」と鼻を鳴らして、老婆の前にどっかり座る。腕は組んで、顔はそっぽを向いている。老婆は苦笑しつつ、背負子に括り付けていたゴザをもう一つ出す。地べたに座るさざめに差し出す。

 

「これを敷きな」

「いらないよ、そんなもん」

 

 老婆がじっとさざめを見つめる。最初は黙っていたさざめも、だんだんと汗を額ににじませ、ちらちらと老婆を見始める。それからもう一度「ふん」といいつつ、ゴザを受け取り。自分の下に適当に敷く。

 

「これでいいんだろっ! なんだってんだ」

「口が悪いねぇ。まあいいさね。破れているところをみせておくれ」

「!? ひ、ひっぱるな」

「仕方ないだろう。着たままで繕うしかないんだからねぇ……。脱いでくれるなら別だがね」

「ぬ、ぬぬ。脱げって」

 

 顔を紅くして老婆を睨むさざめ。だが、その表情は少女としかいいようのないものである。

 老婆は無視して、スカートを見る。ほつれているといっても大したものではない。ただ、放っておけば服の「傷」は広がるものである。

 

「すぐ終わるからねぇ」

 

 老婆は白い糸を通した針を用意する。それをさざめのスカートに一刺し。しわの刻まれた手が器用に動き、「ほつれ」を縫い合わせた。最後に老婆はハサミで糸を切っておしまいである。鮮やかな手並みであった。

 

「おしまい」

「……」

 

 ただ、それだけの話である。ほつれていたから、縫い合わせた。取るに足らないことで、数秒にも満たない。小さなことであった。さざめはぱっと老婆が手放した自分のスカートをまじまじと見る。先ほどまで空いていた小さな穴が、白い糸でふさがれている。

 

「これなら、ワタシにもできるかな……」

「え? なんだい」

 

 さざめの呟き。小さくて老婆には聞こえなかったようである。彼女は首を振って、老婆になんでもないと示した。老婆は首を傾げたが、急におとなしくなった少女に申し訳なさそうに言う。

 

「すまないねぇ。こんな『はいから』な色の糸は持っていないから、目立つかもしれないけれど……」

「ああ、そんなの気にする必要はないよ」

「?」

 

 さざめは片手を剥き出しになった白い糸にあてる、少し手が光ってから糸が「青」色に変わって行く。終わったあと、ふうと息をはくさざめ。能力自体殆ど使っていないから、この程度でも少し疲れる。

 

「色なんてもの、ワタシはつけられるから」

 

 つまらなさそうに言うさざめ。実際使いどころが無くて困っている。いたずらに使えないこともないが、それはさざめは得意ではない。彼女は糸がしっかりと青に変わったのかを確かめる、多少ムラがあるような気がするが細かいことは気にしない。

 それから老婆を見た。ぎらぎらした目でさざめを見ている。正直、河童の少女はぎょっとした。

 

「な、なんだよ」

「すごいじゃないかい! そんなことができるなんて」

「はあ? 馬鹿じゃないのか! 色を付ける程度の能力なんて、何の役に立つっていうんだよ!」

「年寄りに馬鹿とはなんね!!」

「へっ!? そ、そこなのか? い、いや。そんなの」

「全く。あんた」

 

 老婆はさざめの両手をとる。少し熱のこもった言葉を彼女にかけた。

 

「こんなことができればどれだけ、どれだけの人が喜んでくれると思っているんだい! どれだけ必要とされると思っているんだい!」

「??」

「あんた。妖怪なんだろう? だから不思議なことができるんだね?」

「あ、あい」

 

 河童もたじたじである。返事が「あい」になってしまった。流石に老婆も幻想郷の人間ということだろう。不思議な力だとか、妖だとかの存在を疑いもしない。

 

「あんたは世の中に色を付けてあげられるよ。大勢の人があんたを必要としてくれる。役に立たないっていうなら、私が役に立たせるからね!! 付いてきな!!」

 

 老婆はさざめの手を取ったまま立ち上がる。そこではっと我に返ったさざめは、ばっと手を振り払った。殆ど反射的なものと言っていいだろう。

 

「な、にをいっているのかさっぱりわからないね!! 気安く触るなよ人間! ちくしょう!!」

「私は産まれてこの方ずっと人間さね! それが何が悪いってんだい!!」

「う、うぐ。くそ、ば、ばかにしやがって! か、帰る」

 

 さざめは踵を返して、大股である気だした。明らかに強がっている。できるだけ自分を大きく見せたいのだろう。だが、老婆には全く関係がない。

 

「あんた!」

「なんだよばばあ!!」

「人に何かしてもらったらお礼をするのが筋ってもんじゃないかい!? 人間人間言う前に礼儀はしっかりしなさい!」

「く、くそ、か、かってにやったんだろ!」

「……」

 

 無言で老婆はさざめを見る。それは感謝を求めているというよりは「仕方のない子供」を躾けているような、そんなものであった。さざめは何も言わない老婆の圧力に、だんだんと肩が落ちていく。だが、きっと睨み返して叫んだ。

 

「ありがとうございました!! これでいいだろ!」

「よくできたねぇ」

 

 途端に柔和な笑みを浮かべる老婆。明らかに子供を諭すような態度だった。さざめはその笑顔を見て、恥ずかしいような嬉しいような悔しいような、訳の分からない感情が心に渦をまいていくのを感じた。だから、踵を返して駆けだす。

 

 後ろからは「明日もこの時間にここにくるよ!」と追いかけるような声が聞こえる。老婆はさざめに何かをさせたいのだろう。もちろん河童の少女は返事などしない。

 

 

 

 夜の森を駆ける。

 さざめは息を切らしながら、逃げるように走った。早く帰って、眠りたい。こんな「気持ち」を収めてしまいたい。たまに転びそうになりながら、彼女は河童のアジトへ一直線に帰ろうとした。

 

 だが、本当にこけた。

 

「ふえ、わ、わわ。ぎゃぁ」

 

 何に転んだのかは分からない。さざめははっとして、体を起こす。スカートの繕ってもらった部分を見ると、全くそのままであった。無事だった。

 

「て、なんでこんなことをきにするんだよ」

 

 自分に怒るさざめ。訳の分からない怒りが体を包む。彼女は立ち上がることなく、近くの木に背を預ける。黒い髪が彼女の顔を隠す。今日何度もこけて、乱れてしまったのだろう。彼女はぺたんとお尻をつけて座り込む。

 

「くそ、うるさいよ」

 

 そして胸を抑える。右手で左胸を。

 どきどきと胸が高鳴る。さざめにはうるさくて仕方がない。走ったからだとむりやり自分を納得させる。

 

 ――大勢の人があんたを必要としてくれる

 

 暗い森の中でさざめは更に身を小さくする。帽子を深くかぶって、胸を握るかのように押さえつける。どきどきと煩い。

 

「くそ、くそぉ……人間なんかに」

 

 自分を押さえつけるかのようにさざめは吐き捨てる。両手で膝をかかえて、小さく、小さく丸くなっていく。心の表面が、

 

 ☆★★★

 

 

「あれはどのあたりだったかなぁ」

 

 さざめはぴょんと上着をはためかせて、お墓から飛び降りた。くるっと振り向いて、その誰のものか分からない墓に「ごめんよ」と軽く謝る。

 ここは幻想郷に最近できた、お寺である命蓮寺の裏手にあるお墓である。周りは竹林に囲まれて、静かに虫の鳴く声が聞こえる、そんな場所であった。立ち並んでいる墓石も新しい物が多い。それはこのごろこのあたりに改葬(お墓を引っ越すこと) したりしたからだろう。最近死者がおおいとかではない。

 

 さざめが着ているのは白い上着に袖元に凝った刺繍のある、いつもの服である。頭の頭巾を少し締め直して、彼女はお尻のあたりをぱんぱんと払う。お墓に乗って、昔のことをぼんやり思い出していた。人間とは感性が違うのだろう。

 ただ、今乗っていたお墓には手を静かに合わせて「なむなむ」と適当な経文をあげておいた。昔は絶対にやらなかっただろうが、友人に読経を教えてもらってからはできるだけ、お墓とかには敬意を示している。

 

「ふう、しっかし人間も死んでから体の上に石をおくなんて、ほんとばっかじゃないのかな?」

 

 これでも敬意をしめしている。河童の感性などこのようなものである。

 さざめはふうと息をはいた。お墓には他に誰もいない。ただ、どことなく冷たい風が顔を撫でる。人間なら気味が悪いと邪推するだろうが、さざめには心地よい。

 

 彼女がここに来た理由は一つである。友人こと「幽谷響子」から紹介された妖怪に会うために来たのだ。響子もお寺に帰るからと、さざめと一緒に来たのだが、途中で休んでいる時に響子が眠ってしまい、さざめがおぶって帰ってきたというアクシデントはあった。

 ちなみに響子はお寺の境内に「コンサート衣装のまま」さざめが転がしてきた。そろそろ住職に見つかっているところだろう。

 

「あー重かったなぁ」

 

 どうでもよさげにさざめはぼやく。

 耳に聞こえるのは鳥の鳴き声。竹林が風にゆれて、鳴っている。

 眼に見えるのはよく整備されたお墓達。碁盤の目をかたどる様に配置された、彼らは朝露に身を濡らしている。それぞれに鮮やかな花が生けてある。それはこのお墓の親族がしているのか、お寺の関係者がしているのか。

 どちらにせよさざめにはどうでもいいことだった。今日ここに来たのは「針」の情報を持っているかもしれないという、妖怪に会いに来たのだ。さざめはどこにいるんだろうと、少し探してみた。

 

 お墓の一つ。そこに隠れ切れていない紫の傘が見える。

 

「なに……やってるんだろう?」

 

 そんな素朴な疑問が浮かぶほど、隠れ切れていない何かが居る。さざめは両手を組んで、首を傾げる。

 

「たしか、こがさとか言うやつだっけ?」

 

 傘が揺れている。さざめは頭に「?」と疑問符を浮かべたままつかつかと近寄ってみた。

 すると、ばっと傘が動く。そして墓の陰から青い髪の少女が飛び出してきた。

 

「うらめしや~!」

 

 茄のような傘を持っているのは青い髪の少女。その名は多々良小傘。

 印象的なオッドアイ(左右で目の色が違うこと)  右目が水色に澄んで、左目が赤く煌めく。そしてぺろっと出した舌とふふんと得意気な顔。自身に満ちた表情である。

 彼女はくるっと傘を回して、さざめを見る。白いシャツとその上に青いベスト。タイトな水色のスカートが揺れている。

 

「……あんたがたたらこがさ?」

「あ、あれ、うらめしやー」

 

 とりあえずもう一回小傘は言ってみる。足に履いている赤い下駄をカツカツ鳴らす。足自体は素足である。

 

「…………ぷ」

 

 さざめはふと、昔のことを思い出した。こんな形で人を驚かせようとしたことがあるのだ。そう考えると、小傘のことがどうにも滑稽に見えて仕方が無くなってしまう。くす、と小さく口元がほころび、だんだんと笑い声を抑え切れらなくなってしまった。

 

「あ、あははははは!」

「な、なによ。あなた妖怪ね! わ、わちきに驚かないなんて、おかしいと思ったわ」

「わるいね。なんだか懐かしくなってさ。そんなこといってもどうせ、あんたはあんまり人を驚かせていないだろ?」

「ぎく」

 

 小傘は口で言った。それにさざめは更に笑いたくなってしまう。愉快な傘の妖怪である。

 元々さざめは小傘に聞きたいことがあってきたのだが、それよりも仕立て屋としての気持ちが、ぬっと心から顔を出してしまった。ふと、思いついてしまった。それは新しい服のデザインである。

 

「コサガ。ワタシがいい服を仕立ててやるよ。今日の夜から、あんたは恐ろしい妖怪に早変わりさ」

「え、ええ?」

 

 なんのこっちゃと小傘は驚く。しかし、深く考えている暇などない。恐ろしい妖怪になれるというならば、

 

「本当!?」

 

 目をきらきらさせて期待するものだ。

 

 

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