ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~ 作:ミドレンジャイ
新参者ですが今年も頑張っていこうと思います。
読者の皆様、本作品を今年も温かく見守っていただければ幸いです。
蛭子影胤は瞳を大きく開いて目の前の光景を凝視していた。
目の前の人物、里見蓮太郎。
会うのはこれで4度目になる。
初めて会った時の印象は面白い玩具といった感じだった。手軽に遊べて、何処にでもいる壊れやすそうな、それでいて何故か自分が惹きつけられる少年。
2度目で自分の実力の一部を晒すと、周りの人物たちは一部を除いて面白いくらいに絶望していた。彼はその一部の人物であり、あの時見て取れた彼の感情には恐怖の中に多大な驚愕が含まれているように思えた。
3度目に会った時は、この心に引っかかる感覚が何なのかを確かめる意味合いも含めて若干本気を出した。殺す気で闘い、並みでは助からないであろう重傷を負わせた。なのに、自分には何故か彼が生きているであろう確信があった。
そして――この4度目。漆黒の四肢を晒す彼の姿を見てついにその確信を、惹きつけられた理由が分かった。
堪らず笑い声が漏れてしまう。
「ヒ、ヒヒヒヒヒヒ!!そうか、そうだったのかッ!一目見た時から何故か気に入っていたが、まさか本当に
「蓮太郎ッ、それはもう2度と使いたくないって…」
「いいんだ……お前も構えろ延珠。決着、着けてこい!」
静かに頷く延珠と、彼女に相対する小比奈はそれぞれ力を解放し、瞳を紅く染め上げる。
一方、蓮太郎は天童式戦闘術の攻防一体の型である『百載無窮の構え』を、影胤は自前のカスタムベレッタ2丁を銃剣展開状態で交差するように構えた。
「ヒヒ、だが分かっているのかい里見くん?序列元134位のこの私に挑むということの意味を」
「安心しろ正しく理解してんよ……願ってもない状況だクソ野郎!機械化特殊部隊、里見蓮太郎――これより貴様を排除するッ!!」
蓮太郎は地を勢い良く蹴り間合いを詰めにかかる。そんな彼に対し影胤は最初から全力で迎え撃った。
「よろしい、ならばキミの全てを私に見せてみろ―――『マキシマム・ペイン』ッ!潰れろおおおおおお!!」
青白い燐光を放つ斥力場が凄まじい速度で迫りくるも蓮太郎は引かない。
右の漆黒の拳を固く握りしめ引き絞る。捩じるような円運動を経て、突き出す拳に更なる力を与える。
同時にカートリッジを解放。腕部から空薬莢が排出された。
「『
カートリッジの推進力が付与された拳は、音を置き去りにするかの如く加速し目前の壁に叩き込まれた。
瞬間、パァンという乾いた音と共に拳が障壁を貫通し、青白いバリアは砕け散った。
その光景に再び影胤は瞠目するが、いきなり足に力が入らなくなる。
堪らず膝を折り、自分の口から流れ出る赤い液体を不思議そうに眺めた。
「パパァッ!」
「………フィールドがダメージを殺しきれなかった?……ヒヒ、ヒヒヒヒヒ!楽しい、楽しいよ里見くん!私は痛い、私は生きてる、素晴らしきかな人生!!」
ジャキリと両手の拳銃の照準を合わせ一斉に発砲する。
「ハレルヤ!!」
咄嗟に延珠が再び蓮太郎を担いで回避行動に入る。
だが、影胤は高速で動き回る延珠に正確に狙いをつけて銃弾を叩き込んでいった。
延珠の体の僅か数cmの所を銃弾が掠めて飛んでいく。
視認すら難しい延珠の速度について行きながら正確な射撃を行う影胤に蓮太郎はもう何度目かになる戦慄を覚えていた。
強烈なGに振り回されていた蓮太郎だったが不意に右腕を振るう。
「パパをいじめるなああああああッ!!」
見ると小比奈が何事かを叫びながら怒涛の勢いで迫ってきていた。
その勢いのままに両手の小太刀を振り抜く。
否、振り抜こうとした。
「?!」
剣戟音の後、小比奈の顔は驚愕に彩られる。
見ると小太刀が丁度交差する位置で蓮太郎の右腕が斬撃を阻んで弾き返していた。
蓮太郎の義眼の演算能力によって攻撃の位置を割り出したのだ。
すぐさまXD拳銃をドロウ、小比奈に向け発砲する。
しかし今度は蓮太郎が驚愕する羽目になった。
バギィンという甲高い異音が響くと同時、放たれた銃弾は全て小比奈によって片っ端から撃墜されてしまった。
体を独楽のように回転させ銃弾を斬っていく様は一種の舞のようにも見える。
影胤はというとまるで余裕とでも言わんばかりに弾倉を交換していた。
改めて目の前のペアの強さに戦慄する。
「蓮太郎」
「ああ、やってやれ」
短いやり取りの後、延珠は
当然小比奈は迎撃しようと小太刀を振るったが虚空を切る。
延珠は小比奈に向かうと見せかけて彼女をスルーし、そのまま影胤の元へと迫ったのだ。
小比奈もその意図を理解し、苦々しい表情を浮かべるとすぐさま延珠を挟み撃ちにすべく振り返ろうとした。
だがそんなことは蓮太郎が許さない。
「悪いがお前の相手は俺だ」
「~~~~~!!弱いくせにぃぃぃッ」
突き出した拳をイニシエーターの膂力に任せて小太刀で力任せに弾き返す。
吹き飛ばされながらも何かを投擲しつつ蓮太郎は笑っていた。
「ああ、弱いからこそ知ってんだよ―――
投擲された円筒形の何かを構わず切り払おうとして影胤が初めて大声を上げた。
「いかん小比奈!それは―――」
直後、円筒形の物体が爆音と閃光を撒き散らした。
「ああああぁぁぁぁぁ?!」
「ぐうぅ…」
間近でそれを浴びた小比奈は目をキツク瞑り、耳を抑えて苦悶の叫びを上げた。
影胤も小比奈ほどではないが諸にスタンを食らってしまう。
(この場面で
そう思いながら眩んだ視界を回復させると、先程までそこにいた少女はいなかった。
ハッとして視線を小比奈に向けると、耳を抑えながら彼女の死角から迫る延珠の姿があった。
一拍遅れて小比奈も気付くが遅い。既に延珠の間合いに詰められていた。
「終わりだ――『ちっちゃいの』」
意趣返しの言葉を吐き、ガードした小太刀を1本砕きながら海まで吹き飛ばす。
その時には既に蓮太郎は影胤の背後に回り込んでいた。
延珠と一瞬のアイコンタクトを交わし、同時に脚部のカートリッジを排出。蹴りを爆発的に加速させる。
「『隠禅・玄明窩』ッ!」
「ハアアアアァァァァッ」
激突の瞬間、青白い燐光が蹴りを阻むが構うことなく蹴り抜く。
インパクトのあまりの衝撃に影胤が大気と共に吹き飛んで海面に沈んだ。
荒い呼吸を整えながら影胤たちが上がって来ないことを確認しようやく一息吐く。
それと同時に延珠が左腕から血を流していることに気付いた。
「だ、大丈夫だ…すぐ治――」
「強がんな、手当するから押さえとけ」
バラニウムはガストレアの再生能力を阻害するが、それはウィルスの恩恵に与る彼女らも例外ではない。バラニウム製の武器に対して彼女らも一般人と変わらない脆弱性を見せる。
手当を受けながら延珠は蓮太郎に問いかけた。
「…蓮太郎、妾たちは勝ったのか…?」
「分からねぇ…だが少なくとも戦闘不能にはしたはず―――」
ゴポンッ
気泡が生まれる音が嫌に大きく聞こえた。
背筋に悪寒が走り、心臓は激しく動悸している。
反射的にXD拳銃を引き抜きながら振り返ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
斥力フィールドで海を割って海底に立つ影胤と小比奈。ダメージはあるようで、それぞれ拳銃と小太刀を片方ずつ失っていたが、戦闘不能には程遠い。瞳から伺える闘志には微塵の揺らぎも感じられなかった。
(これが、超高位序列者…!)
堪らず後ずさりすると延珠に腕を取られそのまま宙に跳んだ。
湾に停泊していた大きめの客船に着地すると、同じように小比奈に担がれた影胤が憎悪の籠った眼差しを向けてくる。
「何故邪魔をするッ!私もキミも他人の都合で生死を決められ、歩く道を勝手に作られた“人ではない人”、新人類創造計画の機械化兵士だ、殺しこそ存在意義だッ!こんな安寧とした世界は我々の存在など必要としないッ!闘争の中でしか我々は存在出来ないッ!」
「まさか貴様……ッ!……そのためだけに…?」
「東京エリアに大絶滅を引き起こし、再びこの世界に戦争の灯をともす!終わらない闘争と戦争の渦の中でこそ我々は自分の存在する理由を手にすることが出来るのだ!」
「フザケんなッ!!
「ならば思い出せ!キミの相棒が『呪われた子供たち』だと露見した時、周りの反応はどうだった?笑顔と共に祝福されたか?鳴り止まぬ歓声に心洗われたか?違うはずだ、キミの言う未来などありはしない!これが最後だ、私と共に来い里見蓮太郎!!」
「既に夥しい量の血を啜りながら更に殺戮を求めるだと…?!そんな未来、断じて許容出来ねぇ!!」
「ならば死ねぇぇ!!」
銃口を向ける影胤に延珠は咄嗟に向かっていったがその動きは小比奈に先読みされていた。
いきなり目の前に出現した小比奈を反射的に蹴りつけるが、深く沈むようにして小比奈は回避、そのまま延朱の軸足を抱え込むとジャイアントスイングの要領で蓮太郎めがけ投げ飛ばす。
延珠を受け止めながらも影胤に視線を向けるとまさにこちらに向け照準を合わせていた。
(まずい…!)
延珠を抱え込むようにして体を半回転させた直後、銃弾が蓮太郎の背中に殺到した。
「蓮太郎?!」
辛うじて即死を免れた蓮太郎は腰につけていたポーチからプラスチック製の注射器を取り出し、キャップを外して中の薬液を注射した。
注射器の中身は『AGV試験薬』。出発前に菫から『出来れば使うな』と釘を刺された諸刃の薬品だ。
これは菫がガストレアウィルスの抗生剤を研究している最中に作り上げた、人間の再生力を飛躍的に向上させる薬だ。その効果はバラニウムの再生阻害を上回るほどだ。
勿論そんな強力極まる薬品には相応のリスクがある。副作用として、20%という超高確率で被験者はガストレア化してしまうのだ。
果たして蓮太郎は賭けに勝った。
心臓が早鐘を打ち、体中が悪寒と猛烈な熱という相反する不快感に支配される。
そうしているうちに肉が内側から盛り上がるような感触と共に、撃ち込まれた銃弾が体の外に押し出される。
少しして体の違和感は消えた。ガストレア化の兆候もない。
その後も続く影胤のフルオート射撃を文字通り肉の盾となり延珠を守っていく。
苦痛に顔を歪ませながらも、これさえあれば乗り切れると蓮太郎はほくそ笑んだ。
だがその慢心のせいで影胤の接近に気付くのが遅れた。
トン、と軽く蓮太郎の脇腹に影胤は掌を乗せた。
「――終わりだ、最後にキミに我が
「蓮太郎…」
「キミの――」
「逃げ―――」
「負けだ」
瞬間、凄まじい衝撃と共に体が一瞬宙に浮いた。
「『エンドレス・スクリーム』――これが、私の『矛』だ」
斥力フィールドが巨大な槍状になって蓮太郎の脇腹を大きく抉り取っていた。
肋骨の断面と内臓が覗き見え、思い出したかのように激しく出血し臓器が零れ落ちる。
血溜まりの中に倒れ伏しながら肉体の再生を待つがここまで損傷が大きいと無理らしい。
「蓮太郎ォォォオオオオオオ!!!!!!」
延珠の絶叫が響き渡る中、異常な寒気に包まれながら蓮太郎の意識は急速に遠のいていった。
◆
所変わって作戦本部。そこでも蓮太郎が巨大な槍に貫かれる姿が映し出されていた。
「うそ……里見…くん……」
「室戸医師。AGV試験薬による再生は―――」
『不可能だ。あのダメージでは残りの試薬全てを投与しても、そこに新しいガストレアが生まれるだけだ』
木更の呆然とする声が響く。そんな中でも聖天子は気丈に振る舞い、菫の私見を聞く。
だがそれに返ってきたのは絶望的な答えだった。
表情に感情が出ないように必死にドレスを聖天子は握りしめた。
モニターの向こうで、菫もまた虚ろな目で虚空を眺めていた。
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ!!
誰も彼もが絶望と諦観に支配されているその時、本部内にけたたましいサイレンが鳴り響く。
何事かと思っているとモニターを管理していた役員が泡を食ったように報告をしてくる。
「ほ、報告いたします!何者かが凄まじい速度で現場に接近中!!」
『?!』
先ほどとは違う意味で場が騒然とする。聖天子に代わり菊之丞が報告の詳細を訪ねた。
「何者だ、該当する民警のデータを照会しろ」
「そ、それが…」
「どうした?」
歯切れの悪い回答に疑問に思う菊之丞。その答えはすぐにもたらされた。
「該当する民警のデータが存在しません……接近中の人物は民警ではありません!!」
「なんだと…?」
「里見、蛭子ペアとの接触までもう間もなくです……来ます!」
「……!これは…!!」
モニターに映し出された光景に作戦本部にいた人物のほとんどが目を疑った。
◆
「では次は――相棒の番だね」
影胤のその言葉と同時に、小比奈は蓮太郎の傍で涙を流しながらへたり込んでいる延珠に獰猛な視線を向ける。
それはさながら獲物を捕食する蟷螂のようだ。
絶えず蓮太郎の名前を連呼する延珠の背後に立つと、残った1本の小太刀を逆手に持った状態で掲げ、躊躇うことなく延珠に振り下ろそうとした。
その直前―――
ドゴォォッッ!!
「?!」
まさに小比奈が立っていたその場所に何かが途轍もない勢いで突き刺さる。
咄嗟に回避できたのは一種の勘が働いたからだ。
事実、その突き刺さった物体の衝撃で延珠と蓮太郎は少し吹き飛んでいた。
濛濛と上がる砂埃の中、その場にいる蓮太郎を除く3人は突き刺さっていた物体が何なのか目撃した。
「あれは……!」
それは全体を艶のある黒で統一しながらも縁取りを血のようなワインレッドで彩った長大な剣だった。
その大きさたるや柄も含めた全長は成人男性の平均身長ほどもあるだろう。
それだけでも異質だというのに他にも奇妙な点が幾つか見受けられた。
まず鍔元にあたる部分から格納された銃器のようなものが覗いている。剣に強引に取り付けたというよりも元から剣の一部といった感じだ。
またその銃の反対側には折りたたまれた巨大な盾が取り付けられている。こちらも運ぶために一時的に剣に取り付けているというよりも、銃と同じように剣の一部といった方がしっくりくる。
極めつけに銃が『生えている』真反対、盾の部分の根元にあたる所には、橙色のコアのようなものを黒い筋肉質の物体に埋めたような塊があった。
時折それはボンヤリと明滅を繰り返し、まるで生きているかのようだった。
しかし、そんな異質の権化とも言える武器にこの場いる全員は見覚えがあった。
影胤たちの脳裏に過るのはとある少年、敵に回すとこの上なく厄介であると思い知らされた存在。
それを証明するかのように再び何かが勢い良く飛んでくる。
「だから―――」
飛んできたのは少年だった。その少年は巨大な刀剣をまるで重さを感じさせずに担ぎ上げる。
「『喰う』のは『俺ら』の専売特許だっつってんだろがぁ……パクってんじゃねぇぞ
暫く更新頻度が乱れそうです。
あまり遅くならないように頑張りますがご容赦ください。