ブラック・イーター ~黒の銃弾と神を喰らうもの~   作:ミドレンジャイ

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第3話 蜘蛛

久しぶりの休暇だ。

最近立て込んでいた任務も粗方片付いたし、ギクシャクしていたチームの輪も先輩が戻ってきたおかげで元に戻った。

むしろ前よりも連携がうまくいっているような気さえする。

隊長が不在の間は書類仕事が増えて面倒だったが、それももう終わりだ。やはり自分には現場の方が向いているのだろう。

と言うより、あんな面倒な仕事はこれ以上増えないで欲しい。

やれ撃破数だの、任務所要時間だの、使用した道具に関する経費だの面倒な項目のオンパレードだ。

隊長はあんな涼しい顔でよくやれるな。

そんなことを思いつつ『彼』は東京エリアの街中をブラブラしていた。

休暇とはいっても『彼』には特別趣味のようなものは無い。

なので暇つぶしがてら適当に一方的な狩りでも楽しんでこようかと思ったのだが、整備班の女性に「メンテナンスだから」と相棒を取り上げられてしまった。

ならチームの皆と過ごそうかとも思ったが、隊長は書類の山と無言で格闘しているし、先輩は第一部隊の隊長とアイドル(シプレ)について熱い議論を交わしている。正直両方とも混じりたくない。

チームの頼れる兄ちゃんは第四部隊の隊長と一緒にハードボイルドな雰囲気を漂わせているし、作戦参謀はカピバラ(カルビ)相手に至福の表情でモフッている。こっちも加われない。

残るは同期だが、あいつの料理の試食係(テロの標的)にはなりたくない。

他の人も任務で大体いないので、こうして一人で街を散策している。

 

「まっ、偶にはこういうのも悪くないか」

 

夕日に沈みゆく街を歩きながら誰にともなくそんなことを呟いていると―

 

ドゴォォォン!!!―――ドンドンドンドン!!

 

腹の底から揺るがすような大きな音が響いてきた。かと思うと何かの炸裂音。恐らく銃声だろう。

それを聞くと『彼』は暫し考えた後、

 

「―――面白そうだ」

 

ニヤリ、と悪そうな笑みを浮かべて音のした方に向けて走りだした。

 

 

 

 

 

 

―――数分前

『こちら捜査班第一班、目標発見できず』

『第二班、こちらも発見できません』

『第三班、同じく確認できません』

『こちら第四班、誤報が飛び交っています。注意してください』

『第五班、担当地区での感染源及び感染者は確認できませんでした。多田島警部、指示をお願いします』

「クソッ!感染者はともかく、馬鹿でかい感染源まで見つからねぇってのはどういうことだ?!」

 

203号室にて状況を確認して後、すぐに行動に移したが感染者も感染源も見つからない。

見つからない焦りと感染爆発の危機の恐怖でイラつく多田島は、思わず電柱を殴りつける。

 

「そうでもなさそうだぜ警部。見てみな」

 

蓮太郎が指示した先にはあるものがあった。

 

「…血痕?まさか被害者の―――」

 

 

ドゴォォォン!!!

 

 

「な、何の音「あっちだ!」」

 

考える間もなく走り出す。

そのまま進んでいくと、家であったものに突っ込んでいた巨大な『何か』が目に入ってきた。

毛が生えた8本の長い脚、頭部で真っ赤に光る4対の単眼、大きく膨らんだ腹部、口からは濡れ光る2本の牙が生えていた。

全体の体色は黄色をベースとし、そこに黒の斑模様が散らばっている。

人間の生理的嫌悪を呼び覚まして止まない体色のそれは巨大な蜘蛛だ。

 

「ガストレア―モデルスパイダー・ステージⅠを確認!これより交戦に入るッ!」

 

XD拳銃を構えそのまま発砲しようとしたところで―

 

「蓮太郎!!」

 

場違いにも一人の少女が飛び出してくる。

裏地にチェック柄が刻まれたお洒落なコートにミニスカート。底の厚い編み上げ靴を履き、長い髪は兎の模様の入った髪留めでツインテールに纏められている。

10歳前後と思われる活発そうな少女には良く似合っていた。

 

「延珠!無事か!」

 

そのまま両手を広げ感動の再会――

 

「こ・の・薄・情・者・めぇぇぇ!!」

「ぐあああああっ?!」

 

になるはずもなく、延珠と呼ばれた少女は助走の勢いを殺さぬまま、蓮太郎の股間に向けて強烈な飛び蹴りを放った。

膝から崩れ落ちる蓮太郎。

あまりにもあんまりな光景に、状況を忘れて多田島は青い顔で思わず内股になって股間を押さえた。

 

「な、何しやがる…」

「妾を自転車から放り出しておいて、よくもぬけぬけと顔を出せたな!」

「お、怒ってんのか?」

「当然っ」

「し、仕方ねぇだろ。この仕事取れなかったら俺が木更さんに尻を蹴り回されるんだぞ?」

「妾を捨てていったから妾が蹴り回す」

「ふざけんなっ、じゃどうすりゃよかったんだよ?!」

「大人しく尻を蹴られろ。後は蹴られたい方を選べ」

「んなマゾみたいな選択あってたまるか!」

「お前ら漫才してないで仕事しろ!」

 

ショッキングな光景から立ち直った多田島が、怒鳴りながらガストレアに向けて発砲する。

生まれて間もないガストレアの皮膚は脆いため、被弾したところから血を吹き出していた。

 

だがそれも一時のこと。

 

次の瞬間には凄まじい勢いで治癒が始まり、多田島の撃った銃弾を傷口から吐き出す。

そのまま多田島の方を向き―

 

「ッ!」

 

相手が何かアクションを起こす前に蓮太郎は多田島を体当たりで押し倒していた。

その直後、巨大蜘蛛が低い姿勢でジャンプし、二人の上半身があった位置を恐ろしいスピードで通過していった。

青い顔をする多田島に注意を促す。

 

「警部、こいつは単因子・ハエトリグモのガストレアだ」

「は、ハエトリグモ?」

「オリジナルは自分の体長の何十倍もの距離を跳躍する蜘蛛だ。そうやって餌を狩る。あと、ガストレアに普通の銃弾は効きが悪い。下手に興奮させるだけだから使うな」

 

そう言いながら蓮太郎は多田島の銃を取り上げる。

そうこうしていると巨大蜘蛛に動きがあった。

尻にある出糸突起が震えたかと思うと、その先から緑色にぬめ光る糸を吐き出した。

岡島の部屋で見たものと同じものだろう。

そしてその糸の先にいるのは延珠だ。

 

「ぬわっ?!な、なんだこれ、ねばねばする!気持ち悪いぃぃ!!」

 

予想外の攻撃にさらされるも、なんとかしようと腕に力を込める。

だが緑の糸はあり得ない粘度でもって少女の動きを封じる。

 

「!しゃがめ延珠!」

「え?」

 

そのまま蜘蛛が延珠に突っ込む。華奢な体が凄まじい勢いで20m近く吹き飛ばされる。

 

「延珠ッ!…くそっ」

 

蓮太郎は立ち上がりながら目標を見据える。

 

「おいおい、銃は効かねぇってのにどうやって倒すんだよ!」

「それは」

 

ズンッ!と

再び巨大蜘蛛がこちらを向いていた。

 

「こうすんだよ!」

 

蓮太郎は自分の拳銃の照準を合わせると躊躇なく引き金を引いた。

着弾するとガストレアは大きく悲鳴をあげた。

しかも

 

「傷が再生しない…?」

 

そのまま発砲を続け脚を一本吹き飛ばす。

弾切れになるまで撃ち尽くし、改めて相手を観察する。

動きが無いことを確認してから近づき、ダメージの具合を確かめる。

 

(頭部に若干のダメージを確認。急所の腹部背面には着弾痕―)

 

ピクッ

 

(…ッ!無し!)

 

まるでその思考を合図にするかのようにガストレアが起き上がった。

距離は1mも無い。

そのままウィルスを流し込むべく大口を開けて蓮太郎に襲い掛かる!

 

(しまっ…)

 

咄嗟のことに反応できない蓮太郎。

やられる、と思った瞬間目の前のガストレアが横にブレた。

次いで聞こえるのは凄まじいインパクトの音。

気が付けばガストレアは横に大きく吹き飛び、地面に1度強烈にバウンドしながら石塀に突っ込み、電柱なども薙ぎ倒し、大量の粉塵を舞い上がらせながら視界の隅に消えた。

 

「まったく、蓮太郎はすぐに油断するな。危なっかしくて見ておれんぞ」

 

先程までガストレアがいた位置には、延珠が飛び蹴りを終えた姿勢でドヤ顔で立っていた。

相変わらずの頼もしさに安堵する一方で、あの蹴りを先程放たれていたらと思うとゾッとする蓮太郎。

 

「そうか、このガキがイニシエーター…」

「ガキではない。蓮太郎の相棒、藍原延珠だ。覚えておけ公僕め」

 

ニヤリ、と勝ち気で不遜、それでいて美しい笑顔で延珠は笑いかける。

大の男2人して思わず見惚れていると

 

[ジ、ジィィィ……!]

「…おいおい、まだ動くのかよ!」

 

先程吹っ飛んで行ったガストレアが身を起こしていた。

だが明らかに最後の足掻きとわかる。

頭部は延珠の蹴りの影響で大きくへこみ、吹き飛ばされている間に足の数も更に2本ほど減っていた。

放っておいても、あと十数秒の命と言ったところだろう。

だがそれでもあと十数秒危険なことには変わらない。

止めを刺すべく構える蓮太郎だが、ガタッと妙に響く音が鳴った。

何気なくそちらに目を向けるとそこには――

 

「……なっ?!?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供が、いた。

延珠よりももっと幼い5,6歳ほどの子供が。

ガストレアの、4,5m横に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げ遅れたのであろう、その子は恐怖でへたり込んでしまっている。

 

 

 

ガストレアの目がギュルリッッ!!と子供の方を向く。

 

 

 

蓮太郎と延珠も急いで仕留めようとするも

 

 

 

到底間に合わない。

 

 

 

そのまま

 

「クソッ…」

 

 

 

ガストレアは大きく開いた口から

 

 

 

何かの液体を滴らせながら

 

「クソッ……」

 

 

 

躊躇なく

 

 

 

子供に

 

「クソォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!」

 

 

 

飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮血が

 

 

舞った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……はっ?」

 

何が起きたか理解するのに数秒時間が掛かった。

いや、数秒時間をかけてもまだ理解しきれたかは疑問だ。

とにかく分かるのは子供が助かったこと。

ガストレアが頭部から電柱を生やして死んでいること。

そして―――

 

 

「『喰う』のは俺らの専売特許だ。パクってんじゃねぇよ蜘蛛野郎」

 

 

刺さった電柱の頂点で、黒い腕輪をした見慣れない人物がいたこと。

 

 

 

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