話は虚空屍のメールに残して有りますし、此方のバックアップ機能も有りますので、順次話を回復させて行きます。
ご迷惑を掛け申し訳御座いません。
本編での日付は1月20日(日)~21日(月)の話になります。
虚空屍
01 はっ? 辞令って何ですか?
冬木市で開催された同人誌即売会にこの男は休暇を充てて来ていた。
「初めての冬木の開催って言っていたけど、どんだけ混んでいるんだよ、全く! 徹夜の列びは禁止だろ!!」
他の同人誌即売会場で慣れているとはいえ、いつもいつもの販売会の人の多さには眉をしかめる。
そんな雑多を極めた会場内でも彼はスルスルと群衆をすり抜けながら色々なブースを回り、別名『
晩飯の為に買い込んだコンビニ弁当を狭い室内で食べ、これまた狭いトイレ併設のユニットバスに湯を張り浸かり一日の疲れを取り除き、日付が変わるか変わらないかのそんな時間には冷えた缶ビールをグビグビッと飲んでほろ酔いの伊丹。彼はブツブツと呟きながら拳を突き挙げる。
「冬木に来たらやるしかないでしょ! 否、やらなきゃ! その為に召喚陣シートも買った訳だし! いつやるのっ!? 今でしょ!!」
伊丹は購入したなんちゃって召喚陣シートを拡げエルフ耳の魔術師フィギュアをその中央に置くと、隣の部屋に声が漏れてしまう気恥ずかしさもあり、彼はカンペを見ながら囁く様に唱える。
「────告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者
我は常世総ての悪を敷く者
汝三大の言霊を纏う七天
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────」
( やばっ! なんか目眩がする…………ぐるぐる回~る…………)
ぐるぐると回った目眩と一瞬のブラックアウトと共に詠唱が終わるが、当たり前の様に特に変わった事も起きない。
( 数日前に手の甲を打って痣が出来たからもしやと思ったけど、当たり前だよな………… 現実世界に有名物語のキャラが現れる訳無いし………… ハァ~、解ってはいたけどやらずに居られない自分のこんな性格が、嫌だ!)
伊丹は少々の不満と当たり前の現実を感じ、缶に残ったぬるいビールを飲み干し寝床に就いたのである。
翌朝、ホテルのフロントでチェックアウトを済ませると同時に伊丹の携帯電話が鳴り出す。着信通知が彼の上官を表示している。
「はいっ! もしもし!」
『おうっ、伊丹か? 急で悪いがいきなり辞令が降りたんでな』
「はっ? 辞令ってなんっすか?」
『お前、文部科学省に出向だとさ。しかも今日付けだ』
「文科省? なんで文科省なんすか? おかしくないっすか!?」
『そう言われても俺は知らん。既に冬木市の教育委員会に行く事も決められてる。お前さん、休暇申請書に冬木市に行く事が記載されているじゃないか。丁度いいんじゃないか?』
( ありえない! 絶対ありえない! 文科省に教育委員会なんて!)
しかし伊丹は命令ならば従わなければならないと諦める。
「了解しました~、はぁ…………伊丹三等陸尉、本日付けで文部科学省に出向、冬木市教育委員会に上番いたしま~す」
嫌々辞令を復唱する伊丹。
『因みに教育委員会への上番時間は
「了解しました~」
通話を終えた伊丹だが、どうも釈然としない。
( 防衛省と警察庁同士の出向は良くあるけど、文科省とは意味が判らん!?)
休暇を取り冬木市に行った事への嫌がらせか冗談か何かとも思ったが、教育委員会の住所が記載されたメールが直ぐに届く。
「やっぱりマジなのね…………」
携帯電話に送られて来たメールに書かれた住所を元に冬木市の教育委員会に上番し挨拶を済ませるが、事態は更に伊丹を困惑させる物となる。
穂村原学園に講師としていきなり教鞭を取れとの事。
( 確かに俺は教員免許を持ってはいるが、おかしいだろ? なぜ教鞭を? はぁ? しかも戦場に子供を送らない会の日教組の中に自衛官を放り込むなんて…………もしかて『馬鹿なの、タヒるの、自衛官なの!』ってイビり殺されるかも!)
しかも急な事だった為、市の伝で柳洞寺に下宿の手配を済ましてしまっていると云う。
何もかもが伊丹の想像を越え進み過ぎている。
( しっかし穂村原学園とか柳洞寺って本当にあったのかぁ~。流れ的に聖杯戦争突入ってかぁ? ふんっ、ゲームやアニメじゃあるまいし )
伊丹は硬月のゲームやアニメも好きでストーリーもキャラも良く知っている。しかも彼の所属していた特戦群内でこのコミック本を布教のように隊員達に読ませ、隊員のコードネームには、このキャラの名前を付けた程である。
説明を一通りされた後、伊丹は教育委員会の職員に柳洞寺に車で送ってもらう。
揺られる事数十分、柳洞寺山門下の道路脇に停車し、車を降りながら長い階段を見上げる。
( おおっ、ここが例の山門に続く石段か。しかし実物はかなりの長さなんだな。既に小次郎アサシンが居たりはしないよな?)
黙々と石段を登り山門を過ぎるが、当然アサシンが居ない事に少々落胆する伊丹だが、一人の人物に目が止まり驚く。
( バッ、バーサーカー!?)
其処にはアサシンの代わりにバーサーカーと見紛う程の、体育会系のガタイの良いお坊さんが出迎えに来ていた。
伊丹を案内した教育委員会の職員が、作務衣を着たバーサーカーの様な人物に挨拶をし出す。
「急で申し訳ありませんでした、零観さん。こちらがお電話でお話をした伊丹さんです」
教育委員会の職員に続き伊丹も挨拶をする。
「伊丹耀司といいます。急な事で柳洞寺さんにお世話になる事になりましたが宜しくお願い致します」
( れっ、零観さんって本当に居たんだ!)
バーサーカーの様な柳洞零観は穏やかな笑みを浮かべ答える。
「これはご丁寧にどうも。私は柳洞零観と申します。住職は父がやっておりますので私は住職代理って所です」
「では零観さん、伊丹さん。後は宜しくお願いします」
伊丹と柳洞零観さんが挨拶を交わすと、教育委員会の職員は初対面の二人を残しさっさと帰ってしまう。
いきなり二人残された伊丹と柳洞零観であるが、その気不味さを吹き飛ばす様に柳洞零観が口を開く。
「ところで伊丹さん、穂村原学園で教鞭を執られる身と聴き及んでおりますが、私の愚弟も穂村原学園に通っていましてね」
「ほう~、では後程弟さんにご挨拶をしなければなりませんね。してお名前は?」
「一成と申しまして、学園の生徒会の会長をしておりますよ」
( えっ!? イッセイってもしかしてあの一成? 何だか状況が不味い方に流れているかも…………)
「せっ、生徒会長ですか! 学園生活向上の為、生徒達の最前線に身を置いている訳ですね。自分は食う寝る遊ぶ、その合間の人生って感じな物で、一成君の様な真似はとてもとても…………」
伊丹は少々青く成りながら頭をボリボリ掻く。
「まあ伊丹さん、此処で立ち話も何ですからお部屋にご案内致しますよ」
柳洞零観は伊丹の為に割り当てた離れの住居に入り部屋へと通す。
その離れの部屋は8畳と6畳の二部屋の和室であり、テレビと座卓と箪笥が備えられていた。
「いかがですか? 手狭ではご座いませんか?」
「いえいえ、十分過ぎる広さです。有り難うございます」
「押し入れには布団が、箪笥は空にしていますので自由に使って下さい」
「有り難く使わさせて頂きます」
「処で伊丹さん、話は変わりますが元は自衛官とお聴きしたのですが…………」
「あちゃ~、ご存知でしたか」
「ええ。ではそこでは武道なり武術などをたしなまれた訳ですよね? 出来れば手合わせを願おうと思っているのですが」
「武道ですか~? 柔道、剣道は素人さんに毛が生えた程度ですよ。指導を貰わない程度に逃げ回っている位しか出来ませんが、銃剣術は職場が職場だけにやってはいますが」
柔道、剣道や銃剣道などの武道はスポーツ的要素が多分に含まれているが、銃剣術は実戦に於いて相手を壊し、殺す、自分の生命が懸かっている格闘術である。
面倒臭い事に煩わされたくなく少々困り顔の伊丹に対し、武具の問題で伊丹が困り顔をしたのだと勘違いをする柳洞零観が言う。
「もしかして得物の事でお困りですか? 棍で宜しければご用意致しますが如何ですか?」
( 違うんだ! そもそも得物が無いなら無いで諦めてくれ! どんだけこの人は手合わせしたいんだか…………全く持って面倒臭いな…………)
しかし伊丹はそんな考えを顔には出さずに痣の有る手の甲を零観に見せる。
「流石にこんな訳で得物も握れませんので、ちょっとご遠慮させて頂きたく思います」
「それは残念。最近身体が鈍っておりまして少々
( ちょ~っと待て! 今この人、お付き合いじゃなくて
「いやいや無理っす。絶対に無理っすよ」
「怪我をされている方にお相手願うのは良くないですな。いやいや失礼致しました。しかし伊丹さんの手の甲の腫れが引きましたら一声掛けて下さい。おおっ、いかんいかん! つい話込んでしまいましたな。仕事に戻らないと。夕食の時にはお声をお掛けしますのでゆっくりしていて下さい。では失礼致します」
伊丹を残し下駄の音を響かせながら柳洞零観は部屋を出て行った。
独り部屋に残された伊丹は少ない荷物を解きに掛かり出す。下着の類いの替えと、教壇に立って恥ずかしく無い様な衣類は、柳洞寺に来る途中の洋服品店で調達していた。
「明日から先生かぁ!? そんな柄じゃ無いんだけどな。まぁ、なんとかなるか!」
夕刻に若い修行僧から夕食の知らせを貰い、今日は逗留初日と云う事で急遽食事処にされた、修行僧達の集まる大広間に通された。
( ぐはっ! 人数多過ぎ!)
五十人は下らぬであろう皆の視線を浴びながら伊丹は自己紹介を済ませる。
食事も済ませると一人の青年が伊丹の傍に来ているが、どうやら修行僧では無いようだ。
「初めまして伊丹先生。 私は柳洞一成と申します。以後宜しくお願い致します」
ぺこりと頭を下げる柳洞一成であったが、伊丹は訓練でよく聞いていた、迫撃弾の炸裂音を聞いた様な気がした。
( キタァァーーーーッ! いかんいかん! 先ずは落ち着かないと!)
「いっ、伊丹耀司です。君が一成君かい? 此方こそ宜しく」
伊丹が手を差し伸べるとそれに気付いた柳洞一成も手を差し出し、お互い握手をする。
( 驚いた! 一成って本当に居るんだな。凛や士郎も居るって事なのか? ゲームなの アニメなの? そんな世界に入っちゃたのぉ~? 正直、一成に二人の名前を聞きたいけど、会った事も無い人の名前を口にしたら絶対に怪しまれるしな。ここは止めておこう )
他愛の無い会話をした後、伊丹は柳洞一成と別れ部屋に戻り明日の準備に取り掛かる。
( しかし今のところあの話の登場人物が二人実在しているのは確かな事だよな? 明日、凛や士郎に出会ったらどうしよう…………詰みだな…………はぁ~ )
そんな虚構の様な現状に夜空を見上げる伊丹は頭を痛める。
( はぁ~、何処に来ちまったんだろう…………)
呟く伊丹は布団を敷き深い眠りに就いたのだった。
全てに於てモチベがダダ下がりの虚空屍です。
回復させる話ですが、一部に加筆、修正を加えてより良い表現と読み易さを目指しますのでご理解下さい。
虚空屍