話は2月2日(土)の夜になります。
まずは一つ目の山場の少年の残念な姿。しかし一命を取り留めた彼はどうなるのか?
『誰だっ!』
自分の存在を知られ必死に走り逃げ出す男子生徒。慌てるが余り、上体だけが前に出て下半身が付いてこない。
(あの殺気っ! 目にも止まらない早さの剣戟をする奴らだ、捕まったら殺される!)
男子生徒は無我夢中で校舎に逃げ込み、息を切らしながら階段を駆け登り、後ろを振り返ると奴等が追って来ない事に安堵する。
男子生徒は一呼吸をし、乱れた息を整え振り向く。
「ぐはっ!」
しかし振り向き様に、青い男に槍で胸を刺され倒れる男子生徒。
「運が無かったな、坊主…………」
青い男は一言云うと、マスターの指示によりその場を去る。
残された男子生徒は、熱い物が身体から流れ出て行くのを動かせない身体の遠のく意識の中で感じている。
ランサーを追って来たアーチャーは、見たその光景に驚愕する。
アーチャーが倒れた男子生徒を見付けた途端にキャスターが現れ、その男子生徒に付き添い治癒の魔術を掛けているからである。
程無くして遠坂凛も追い付きその光景に目を見張る。彼女は、恐らくはサーヴァントとである何者かに怒鳴り付ける。
「あんた! 何をやってるのよ!?」
「あら、解らないのかしら、お嬢さん。手遅れにならないように治癒の魔術を施しているだけよ。貴女の助力も必要だわ」
思わず怒鳴った遠坂凛の言葉に、キャスターは冷静に答え、一瞥して彼女をこちらに呼び付ける。
男子生徒から流れ出たであろうその血はみるみる拡がり、廊下と魔術を懸けているキャスターを赤く染める。
キャスターは未だにこちらに来ない遠坂凛に語り掛ける。
「この坊やはランサーに心臓を一突きされた様ね。まだ僅かに息はあるけど、私の力だけでは流石に無理の様ね (嘘ですけどね ムフッ)。貴女が持つ強力な宝石を使わないと、この坊や…………死ぬわよ。それともこの哀れな目撃者を見捨てて、貴女はこのままここで看取るつもりなのかしら?」
キャスターの問い掛けに一瞬躊躇する遠坂凛ではあるが、語気を強めるキャスターの言葉に自分を取り戻す。
「早くなさいっ!!」
警戒する遠坂凛だがキャスターに近付きながらアーチャーにランサー追跡の指示を出す。
するとアーチャーはキャスターの脇を通るのと同時にいきなりキャスターを斬りつける。
「チッ、魔女風情が余計な真似を!」
そう言い残したアーチャーはランサーの追跡の為、姿を消す。
「嗚呼、坊やを助け様としただけの…………私を斬るなんて…………どう云う事…………なのかしら、アーチャーのマスターさん──────」
斬りつけられたキャスターは哀しそうな顔を遠坂凛に向け、余多の蝶が四散するかの様に彼女の前から消滅する。
遠坂凛は何故アーチャーがキャスターを斬りつけたのか解らず一瞬呆けるが、看取る事位なら出来ると思い直ぐに倒れた男子生徒を覗き込む。
するとそれが衛宮士郎だと知り、愕然とし力無く座り込んでしまった。
あの娘の大事な想い人でもあり、遠坂凛も少しは気になる存在の衛宮士郎。戦いに巻き込んでしまった責任もある。彼女はあの娘だけは悲します事はしたくないと強く思う。
何としてでも助けるしかないと遠坂凛は決意を固め、握り締めたペンダントの赤い宝石の全魔力を衛宮士郎の心臓に注ぎ込み詠唱を始める。
家宝とも云える宝石の魔力の甲斐もあり、衛宮士郎は取り敢えず一命を取り留める。
未だ意識は戻ってはいないが、衛宮士郎が息を吹き返した事で一安心した遠坂凛は、治癒の魔術を掛けてくれていたキャスターへの感謝の気持ちと供に、衛宮士郎を校舎に残したまま家路に着く。
その一連のやり取りを、使い魔を通した監視テレビで視ていた伊丹は狼狽し気が狂いそうになっていた。半狂乱状態である。
「うおおおおぉぉーーっ!!」
(俺の所為だ、俺の所為だよ────)
自分の立てた作戦に後悔をして号泣しだす。
(嗚呼…………キャスター…………キャスター…………済まなかった…………俺はこれからどうすれば良いんだ────)
キャスター喪失と云う最悪の事態に、伊丹の思考が停止し、光を失した目は虚ろい呆けた口からは涎を唯々垂らす廃人の様になる。
「まさか本当に斬り掛かって来るなんて。まあ一応予想はしていた事なんですけどね。ただいまですわ」
如何にも不機嫌ですと云わんばかりの口調でキャスターが渋い顔をして帰って来る。
「へっ!?」
赤く泣き腫らした目に光が戻り固まる伊丹。
(自分が先程迄視ていた映像はなんだったんだ!?)
しかしキャスターの無事な姿を見て堰を切った様に再び泣き出す。
「うわぁーーーーん! キャスター! 本当に心配したんだぞぉ~!」
帰還したキャスターを嬉し泣きしながら思い切り抱き締める伊丹。
「あらあら、まあまあ。苦しいですわ、落ちついて下さいな、耀司様」
伊丹の涙と鼻水と涎でベトベトに汚れるが、抱き締められている事に満更でもないキャスター。
(確かにキャスターはアーチャーに斬られた筈。なのにぃ…………)
なかなか涙と鼻水が止まらない伊丹は怪訝そうに尋ねる。
「一体どういう事なの? あれ! ねえねえ、教えてよ~」
「あれは分身ですわ、てへ!」
遠坂凛を呼び付けた時に分身を残し霊体化したと説明をする。
「分身って…………そんな話は聞いていないよ~! どんだけ心配したと思ってんの~!! 心が炸裂したんだよ!!」
ブーッと膨れっ面の伊丹。
「申し訳御座いませんでした。始めはそのまま実体化していようと思っていたのですが、アーチャーを見て分身を使う事に致しました」
「やはり奴は危険なオーラを出しているの?」
「ええ、何を考えているのか解らない危険なサーヴァントですわ」
たとえ分身とは云え、いきなりキャスターを斬り付けたアーチャーを伊丹は許せない。
「物語と同じで厄介な奴だなぁ、アーチャー許すまじ」
「その様ですね。私達が物語の流れから外れた行動をした時のアーチャーの動きが読めませんわ」
柳洞寺から分身を操っても良かったとの事に更に驚く伊丹。
「キャスターってもしかして、なんでも有りなのかな?」
「はいっ! 稀代の魔術師ですから!」
(なら、そうしてくれよ~。確かそんな場面もあったしな…………心臓に悪すぎるよ)
時計が深夜を示す時間────
「それはそうと耀司様、そろそろ衛宮士郎の所に行って来ますが?」
立ち上がり仕度をしだすキャスターに伊丹は時間を確認をして自らも立ち上がり問い掛ける。
「おっ、そんな時間か。俺は行かなくていいの?」
「耀司様を知られたくはありませんから、衛宮邸に行くのは私一人で十分ですわ。事を終えたら教会へ行きマスター登録を済ませましょう」
伊丹は自分が参戦した処でメリットは少なく、寧ろ身バレなどのデメリットが多い事で同行を諦め、戦い方をキャスターに指示をする。
「衛宮士郎が土蔵の前に蹴り跳ばされる様にランサーの攻撃を陽動してやってくれ」
「更に貸しを作っておかないといけませんしね」
「ああ、キャスターの暗躍を期待してるよ」
ニヤリと口角を上げる伊丹と、プクリと頬を膨らますキャスター。
「全く暗躍だなんて酷すぎますわ。それは耀司様ですわ!」
キャスターを弄るとつくづく可愛いと思う伊丹。
「冗談だよ。教会に着いたら連絡をしてくれ。使い魔を通じて言峰綺礼と話をするよ」
伊丹からの要請にコクリと頷くキャスター。
「ではその様に」
しかし伊丹はとことんキャスターの身を案じる。
「いいかい! 何か有ったら直ぐに帰ってくるんだぞ! 何も無くてもね」
「はいっ、必ず耀司様の元に帰って参りますわ!」
伊丹は出掛け様とするキャスターの頬を両手で優しく包み、顔を近付け徐に口付けをする。
「キャスター…………チュッ!」
「えっ! あっ、耀司様…………もっ、もう一度お願い致します…………チュッ! あっ」
顔を朱らめるキャスターは、自分から伊丹に顔を近付け口付けを交わし暫し見詰め合う。
「では、行って参ります。耀司様」
「ああ、頼んだよ、キャスター」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
キャスターは敢えて美味しい処を遠坂凛に譲りましたが、以後遠坂凛は果たしてキャスターの想いに応える様な行動をとるのでしょうか?
ではでは…………。
虚空屍