話はまだまだ2月3日(日)の未明となります。
「キレイだお!────」
暫し二人の間に気不味い無言の時が流れる。
思わず口にしてしまった言葉とは云え、物凄く恥ずかしい思いをしている言峰綺礼は、それでも眉一つ動かす事無く照れを隠している。
(不覚! この私がこんな奴のペースに嵌まってしまうとは!)
この沈黙を破り先に口を開いたのは、セイラーゴーレムである。
『あ~あ、馬鹿かお前は? 良い歳した大人が《キレイだお》な~んて俺を舐めてんのか!? 臍で茶が沸くってもんだよ』
「ほう、今まで貴様がやってきた事だろうが」
『ん? アベちゃんだお』
(おっと、そろそろだな。凛と士郎が来るか…………いよいよ主役のお出ましって処か!)
バタンと大きな音を立て教会の扉を開ける遠坂凛だが開口一番言い放つ。
「クサっ! エセ神父! 何なのこの臭い!?」
そこには少々引き吊り顔の言峰綺礼と座って寛ぐ竜牙兵がいる。
異臭とゴーレムに顔をしかめながら遠坂凛と衛宮士郎は礼拝堂に入りだす。
ゴーレムを警戒しつつ鼻を摘まむ遠坂凛と若干ほっとした言峰綺礼。
「ねえ綺礼! このゴーレムは何!? そしてこの臭いは?」
「このゴーレムは乱暴はしない様だから安心したまえ、凛。臭いはゴーレムの汚物だ」
遠坂凛から視線を移し、連れてきた衛宮士郎を見つめる言峰綺礼。
「君が七人目のマスターだな。私は言峰綺礼。君の名は何と言うのかね?」
「衛宮…………士郎」
衛宮士郎はセイバーのマスターで有ることを告げ言峰綺礼から聖杯戦争の事を聞く。歩きながら話す事に気をとられていた言峰綺礼は、ゴーレムの出した汚物を踏んでしまっていた。
「ちょっと綺礼! 何踏んでるの? 汚れるし臭いから歩き回らないで! こっち来ないで!」
「くっ、私とした事が」
ここでゴーレムが口を開く。
『なぁ、神父さんよ。あんたの言っている事、おかしくないか?』
遠坂凛と衛宮士郎は喋るゴーレムに驚いた。しかもセーラー月姫のお面にも。
「綺礼! 何なのこのゴーレムは!?」
セーラーゴーレムは立ち上がり遠坂凛達に向き直り一礼をする。
『いや、失礼。驚かせてしまって。私はキャスターのマスターでね、ゴーレムはマスター登録の代理なんだ。凛ちゃんと士郎君って云うんだね、宜しく』
遠坂凛と衛宮士郎は、見た目とは違い一応礼儀正しく自己紹介するゴーレムに驚く。
「こっ、こちらこそキャスターのマスターさん。何故わざわざゴーレムまで遣ってマスター登録にいらしたの?」
『マスター登録しないで参戦するマスターなんて過去にも居たし、今回も全員済ませてはいないんでしょ?』
セーラーゴーレムは形だけのマスター登録の為にわざわざ来てやっていると云う一応の誠意を見せようとする。
「ああ、そうだ」
『だからこんな形で教会に迄来たんだから、それで許して貰えると嬉しいな~ってね』
「そんなの電話一本で済ませれば良いのに、キャスターのマスターさん?」
遠坂凛の思いもよらなかった一言にセーラーゴーレムは唖然とする。
『へっ!?』
「確かに電話一本で事は済んだのだがな。これはこれで認めよう」
セーラーゴーレムの反応に呆れ、電話一本で済ませていればこんなにも小馬鹿にされる事は無かったと思う言峰綺礼。
『…………知らなかった…………取り敢えず登録して貰って感謝致します、神父様。てへっ!』
セーラーゴーレムは散々小馬鹿にしていた先程とは一変し態度と声を変える。
「くっ、貴様! さっきとは随分と態度が違うな!!」
『何を苛ついていらっしゃいますの神父様?…………まあ、それはそれ、これはこれと云う事だ』
「それに私の話がおかしいとはどう云う事かね」
ここに来て先程セーラーゴーレムが話した話題を持ち出した言峰綺礼に対し挑発的に疑問をぶつける。
『今まで行われてきて誰も聖杯を手にしていないのに、何故それが願いを叶える物だと云えるのかな? よっこい庄一っと!』
セーラーゴーレムは座りながら、思わず余計な一言を口にしてしまう。しかし言峰綺礼はそれをスルーして話し出す。
「それは私が知る処ではない。そう伝えられているとでも言っておこう。しかしサーヴァントを英霊の座から現世に遣わす程の強力な霊力を持つ物であるなら、それも可能なのではないかと考えられるのだが」
『あくまでも可能性の話って事ね。しかし第四次で望みを叶えなかったのに大災害を起こすなんて、そんな危なっかしい杯に命を張れってどの口が言うの?』
「それは聖杯のみぞ知る処だ。嫌なら教会に逃げ込めば良いだけだ。サーヴァントを失ったマスターの保護は監督役の最重要事項であるからな」
『それにさっきあんた暈したけど、第四次の参加マスターとその結果を教えてよ?』
「聖杯に手を掛けたマスターは衛宮切嗣だ。しかし彼は己が感傷に流され聖杯に望みを託さなかった愚か者だ」
言峰綺礼の言葉に青くなる衛宮士郎と物語の筋通りの返答内容にガッカリするセーラーゴーレム。
「切嗣!? 切嗣が…………爺さんがマスターだったなんて…………」
セーラーゴーレムは衛宮士郎が受けているショックを気にも止めず言峰綺礼に対し止めの質問をする。
『じゃあ聞くけどさ、この教会の中にマスターは何人居るんだ?』
突然話を変えるセーラーゴーレムは、遠坂凛なら気が付くと思い言峰綺礼に質問する。
「くっ、……………………三人だ」
この一言で言峰綺礼は自分がマスターで有ることを認めてしまった。
『ほ~っ、この教会に居るマスターは 三 人 なんだな。解ったよ、あんたは嘘は付かない正直者なんだな。感心したよ』
「ほう、君から褒められるとは思いもしなかったのだがな」
言峰綺礼の答えに遠坂凛は直ぐに気が付き、唇を噛み締め、もうこいつとは話すことが出来ないと俯く。下手に話すと遠坂凛とアーチャーの情報が漏れるからである。
(衛宮君が余計な事を言わない内に早く此処から連れ出した方が良さそうだわ!)
『あっ、そうそう。聖堂教会と魔術協会に親書出しておいたんで後宜しく~』
「何を書いたんだ!」
『それはヒ・ミ・ツ! テヘッ!』
「くっ!」
セーラーゴーレムは言峰綺礼の知りたがる親書の内容に答える義務も無く、散々やられ放題の言峰綺礼は如何にキャスターのマスターを引き摺り出すかを考える。
セーラーゴーレムと言峰綺礼のやり取りを見ていた遠坂凛は引き出す情報も無く、逆にこちらしか知らない情報が漏れる事を恐れて、衛宮士郎に帰る事を告げる。
「衛宮君、もう帰るわよ!」
「ああ、解った、遠坂」
『じゃっ、俺も帰りますんで。あとよろ~!』
バイバイと片手を挙げカクカクと歩き出すセーラーゴーレム。
礼拝堂から去る遠坂一行とセーラーゴーレムを言峰綺礼は扉まで見送る。
「喜べ少年、君の願いはようやく叶う────」
(はっ!結局、汚物処理は私か…………いや、ランサーにでも片付けさせるか)
教会から出て言峰綺礼と異臭から解放された二人と一体だか、敷地の外に居るセイバーが剣を抜かんと身構える。
「危険ですシロウ! 横に敵が居ます!」
セイバーの反応に、衛宮士郎の背中に隠れるセーラーゴーレム。
(相変わらず空気を読めない堅物だな。状況を良く見てくれよ。でもやっぱり黄色いレインコートを着させられているのか、可哀想に…………)
「セイバー、このゴーレムが敵だったら俺は今頃ここには居ないぞ」
「そうでしたね、シロウ。これは確かキャスターのゴーレムでしたね。しかし何故キャスターのゴーレムが此処に?」
「ああ、キャスターのマスターの代理でマスター登録に来たらしいんだ。戦う気は無い様だから安心してくれ」
セイバーに向かい頭を下げるセーラーゴーレム。
『宜しく、セイバーさんで宜しいのですね。私はキャスターのマスターの代理です。今は訳あって竜牙兵に代わりをして貰っているのです』
礼儀正しく一礼をするセーラーゴーレムに、セイバーも騎士としての礼を取り頭を下げる。
「此方こそ。先程は衛宮邸でシロウをランサーから救って下さり感謝します」
『たまたま偶然、士郎君が殺されそうになる処に出くわしただけで、一般市民の犠牲者が出るのは避けたかったからなんですよ』
あくまでもたまたま偶然を装おうセーラーゴーレム。
すると突然クンカクンカと周囲の臭いを嗅ぎ、次第に衛宮士郎に近付くセイバー。
「臭い! 臭いです、士郎!」
「えっ、ああこれか…………礼拝堂の中が臭くて、俺や遠坂に臭いが移ったのかもしれないな?」
「シロウ! まるで人糞の様な臭さです! 何故神聖なる礼拝堂の中が臭かったのですか?」
セーラーゴーレムが口を挟み嘘を言う。
『なにやら神父さんが粗相をしたらしくてね』
「そうでしたか、その様な糞臭地獄の中を今迄耐えていた訳ですね。流石はシロウです。私のマスターに相応しい!」
教会の敷地を出て暫くした頃に遠坂凛は口を開く。
「衛宮君は気が付いたかしら?」
「何がだ、遠坂?」
呑気に答える衛宮士郎に語気を強める遠坂凛。
「綺礼の答えよ! キャスターのマスターが、マスターの人数を聞いていたでしょ!」
「ああ、確か三人って言ってたな。俺と遠坂とキャスターのマスターだろ?」
考えの浅い衛宮士郎に、遠坂凛は呆れながら説明をする。
「あんたちゃんと考えているの!? あの場所にはキャスターのマスターは居ないのよ! 居 な い のよ!! ゴーレムは代理だって言っていたでしょ! だからマスターは私と衛宮君と…………」
「なら、言峰綺礼がマスターなのかっ!?」
「ええ、そう云う事になるわね」
流石に納得が行かない衛宮士郎。此方も語気を強める。
「それはおかしいだろ! 監督役は中立でなくて良いのか!?」
「ええ、そうよ。しかし立場を利用して他の陣営の情報を集め放題なんて、とことん外道って事ね!」
遠坂凛は衛宮士郎にマスターとしての心得や聖杯戦争の戦い方を教えながら歩き続ける。
「処でキャスターのマスターさん、その格好で何時まで付いて来るつもりなの?」
普通なら有り得ないゴーレムを引き連れ歩いている違和感に、我慢の限界に達した遠坂凛が口走るが、そんな事を気にもしていないセーラーゴーレムは当たり前の様に答える。
『僕は散歩だから気にしないで。ただ、人が居たらおんぶか抱っこして貰えると怪しまれずに済むから、その時は士郎君、お願いするよ』
「ああ、わかった。おんぶで済むのならお安いご用さ!」
「いえ、シロウ! 今は不戦の意を示していても、抱き付いた途端に寝首を攫くとも限りません! おんぶなら私が! いえ、私をおんぶして下さい!」
衛宮士郎の緊張感の無さやセイバーの意味不明な発言、そしてあくまで平常運転のセーラーゴーレムに呆れる遠坂凛は、みんな勝手にしろと思い話す。
「最後におかしな事を言わなかった、セイバー。衛宮君はゴーレムのおんぶをセイバーに任せたら? それでも骸骨をおんぶしていたら十分怪しいでしょうに!」
「良いじゃないか、遠坂。まあ、おんぶはセイバーに任せるよ」
橋を渡り遠坂凛と衛宮士郎が別れる交差点に差し掛かかる。
「最後に言っておくけど、衛宮君、それとキャスターのマスターさん。これから私と貴殿方とは敵同士! それがこの聖杯戦争なんだから!」
(凛は殺る気満々だなぁ、不戦の調停は無理っぽいんだけど。困ったよ~。しかも数少ない大人ってキャスターに見栄切った手前、恥ずかしい…………おおっと、そろそろ来る頃なんだよな)
『一寸は協力出来るかも知れないと思ったんだけど無理みたいだね。なら、僕は散歩するから彷徨くよ』
セーラーゴーレムはそろそろ現れるであろう人物からの一声を待つように時間を稼ぐ。
「あなた! その格好で彷徨いているのを見付かったらパニックになるわよ!」
遠坂凛の言葉など気にも止めず胸を張るセーラーゴーレム。
『その時は何とかなるさっ!』
「────ねえ、お話しはおわり?」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
伊丹の考えていた遠坂凛と衛宮士郎を含めた協力体制の構築に、物の見事に失敗してしまいました。
伊丹とキャスターは誰と手を組めるのか? そして伊丹とキャスターの考える戦いとは?
本文最後に何やら物騒な一言が…………
ではでは…………
虚空屍