話は2月3日(日)の日中になります。
いよいよ時計塔からあの方がおみえになりました。
果たして活躍の機会が有れば良いのですが…………
午前の冬木に一人が男が降り立つ。
男は感慨深げに新都の街並みをキョロキョロと見回している。
待ち人との約束の時間までかなり時間が有る為、彼は新都街を彷徨く。
「この地も十年振りだな…………」
早速この男はお目当ての最新ゲームソフトとプリントTシャツを買い、待ち合わせの喫茶店で軽食を摂り時間を潰すと一人の冴えない男性が近付いて来るのに気が付く。
「ロード=エルメロイⅡ世でいらっしゃいますね?」
「……………………」
得体の知れない男の問い掛けに答えを憚っていると男は自己紹介を始める。
「申し遅れました。伊丹耀司と申します。貴方に手紙を差し出す様に依頼した者です」
伊丹の差し出す手をロード=エルメロイⅡ世は握り返し握手を交わす。
ロード=エルメロイⅡ世は送られて来た手紙と云い、第五次聖杯戦争の参加者に会い少々興奮気味である。
「初めまして伊丹さん。ウェイバーで構いません。しかし驚きましたよ、あの様な手紙を寄越して来るとは!」
「ええ、色々お話したい事も有りますので場所を変えましょう」
伊丹はタクシーを拾い柳洞寺に向かう。車中は運転手が居る事も有り、お互いの趣味など日常会話に華を咲かせる。
程無くして柳洞寺に到着しタクシーを降車する二人。
「取り敢えず私の部屋にご案内します」
石段を登り山門を潜るウェイバー・ベルベットはこの山に巡らせている結界に驚く。
(これだけの結界、いやこんな凄い陣地を構築出来るなんてどんなサーヴァントだ!)
部屋に通されるとキャスターが出迎え伊丹が紹介する。
「こちらが私のサーヴァントのキャスターです。今はカジュアルウェアを着ていますが」
「遠路遥々お越し頂き感謝致します。ロード=エルメロイⅡ世」
ごっついサーヴァントを想像していたウェイバー・ベルベットの期待を裏切り、かくも可愛らしくも美しい可憐なキャスターが居る。
「はっ、初めましてキャスターさん。ウェイバーで結構ですよ。しかしあの魔術を施した書状には驚きました。私以外白紙にしか見えないのですから」
「それ程でも御座いませんわ。お~ほほほほっ!」
「長旅も身体に堪えましたでしょうから少し休まれて下さい」
伊丹に勧められウェイバー・ベルベットは腰を下ろすとキャスターが紅茶を差し出す。
「いえ、やらなくては為ら無い事も沢山有りますので小休止程度に休まさせて頂きます。それと手紙に有りましたバゼット・フラガ・マクレミッツの件ですが、保護して頂き魔術協会を代表してお礼申し上げます」
「今バゼットさんをお連れしますので少々お待ち下さい。ご本人と直接会われた方が良いでしょう」
伊丹はそう言うとバゼット・フラガ・マクレミッツを連れてくる。
「バゼット! 無事で何よりだ!」
「ウェイバー!? ここで貴方に会えるなんて…………」
二人は抱き合い、バゼット・フラガ・マクレミッツは泣いてしまっている。
「ウェイバーさん、バゼットさんは片手を切断されてしまっています。出来れば優秀な人形師を捜されてはと…………」
「ええ、頂いた手紙に書かれて有りましたので、とある人物に裏から接触中なんです」
「それってもしかして封印指定の女性の某さんですか…………」
「詳しくは申せませんが、恐らくは伊丹さんのお考え通りの人です」
ウェイバー・ベルベットはバゼット・フラガ・マクレミッツから事の経緯を聞き、聖堂教会に対する魔術協会の対応に考えを巡らす。
「今後のバゼットさんの住居なんですが、現状が家主に断りもなく住まわせてしまって居るので、お化け屋敷と云われている古い洋館に唾をつけておきましたので、そちらにウェイバーさんとお二人で滞在して頂けたらと」
「お化け屋敷ですか…………」
ウェイバー・ベルベットはお化け屋敷と言われた事で半ば廃墟を想像し若干眉をひそめる。
「実際に幽霊の類いは現れてはいない様ですし、煩わしい者も訪ねて来る事も無いでしょう。それと聖杯に関してなんですが────」
伊丹はウェイバー・ベルベットに大聖杯がこの地に有る事を話しキャスターと共に地下空間に案内をする。
大聖杯前に到着しキャスターはウェイバー・ベルベットを抱えフワリと舞い上がり大聖杯内部を見せる。
只為らぬ大聖杯の内側を見せられたウェイバー・ベルベットは伊丹に話す。
「もしかして十年前もこんなんだったんですかね?」
「はい。第三次聖杯戦争で呼ばれたサーヴァントが取り込まれてこの様になったようです」
「伊丹さん、その辺りの経緯をお聞かせ下さい」
ウェイバー・ベルベットの問い掛けに伊丹は答え出す。
「それは────────」
「呪いに汚された聖杯と言う訳ですね。しかも私が参戦した第四次聖杯戦争では大災害を起こしている。」
伊丹は自分の願望も含めウェイバーに恐る恐る尋ねる。
「この様な大聖杯や内部の呪いの浄化は可能でしょうか?」
「良く調査をしてみない事には何とも…………」
ウェイバー・ベルベットもいきなり見せられた直ぐ後だけに返答に困り頭を傾げるが、伊丹からサポートの話をされる。
「いきなり言われてもそうでしょうね。魔術分野で必要な事に関してはうちのキャスターにお尋ね下さい。それと後もう一人居るのですが…………」
「もう一人魔術師が居るのですか?」
「違うんです。大聖杯を汚した張本人なんですが…………」
伊丹の一言はウェイバー・ベルベットも訳が分からない。張本人が居るなどとは思いもよらなかったので驚きを隠せないで居る。
「えっ? それは第三次聖杯戦争で取り込まれたサーヴァントって事ですか!?」
「そう云う事になります。今回はイレギュラーで召喚されていまして…………」
伊丹が言い終わらないうちに、いきなり湧いてきたサーヴァントに驚いたウェイバーだったが、アヴェンジャーは悪びれる様子も無く片手を上げる。
「わりい、俺だわ!」
ウェイバー・ベルベットはこのサーヴァントと云い、霊脈が集う只為らぬ雰囲気の寺とそこに居るサーヴァントの気配からしてかなりの数のサーヴァントを集めていると判断し伊丹に言い寄る。
「伊丹さん、アンタ滅茶苦茶ですよ! この寺の気配からしてサーヴァントを沢山控えさせているでしょ? 全く有り得ん!! それにこのイレギュラーのサーヴァントと来ましたか!?」
流石に時計塔の名物教授の目は誤魔化せないかと伊丹は頭を掻く。
「ウェイバーさん、彼はバゼットさんが召喚したイレギュラーのサーヴァントでアヴェンジャーと云いまして、私が保護するまで彼女を守っていたのですよ」
「そうでしたか…………非礼をお詫びします、アヴェンジャー。バゼットを守って居てくれて礼を言います、有り難う」
ウェイバー・ベルベットは自分の軽弾みな発言にアヴェンジャーに頭を下げ、彼はそれを受け入れる。
「まあ良いって事よ。気にすんなって」
「と云う訳でウェイバーさんに協力してよ、お願いだよアヴェちゃん、ねっ」
伊丹はアヴェンジャーに両手を合わせてお願いポーズをとる。
「協力も何も俺には解らないぜ。言い換えれば、産まれた子供が母胎を知らないのと同じこった」
「しかし、ウェイバーさんやキャスターにも解らない部分で何かヒントとか出せるかも知れないし。三人寄れば文珠の知恵って言うだろ」
「余り期待しないで居てくれた方が気が楽だ。まあ俺も考えてみるぜ」
アヴェンジャーは仕方がないとばかりに協力を認めてくれる。
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
伊丹はそんなアヴェンジャーにパンパンと柏手を打ち一礼をする。
伊丹の行動に気が付いたアヴェンジャーは、今の所作が何なのか聞き出す。
「ああ、これは柏手を打ったんだ。日本人が神様にお願い事をする時の動作、風習だよ」
この柏手の意味合いを知ったアヴェンジャーは思わず苦笑いをする。
「俺は悪魔だぜ。憎まれはすれど、頼られる様な願い事は初めてだぜ…………しかも神様と来たか────」
伊丹はウェイバー・ベルベットとバゼット・フラガ・マクレミッツの宿泊先について細かく説明をし出す。
「では後程、私が押さえた拠点に案内します。私が押さえたと云っても現状は不法占拠です。元々第三次の時にエーデルフェルト家が所有していたらしく、後に魔術協会に寄贈された様ですからウェイバーさんから協会に話を通した方が良いでしょう」
伊丹の手回しにウェイバー・ベルベットは礼を言う。
「何から何まで面倒を見て頂き有り難うございます。拠点の洋館を案内して頂いた後、調査の準備に取り掛かります」
部屋に戻った一行はキャスターが淹れてくれた紅茶と茶菓子を前に話し出す。
「ウェイバーさんはやはり大戦略ですか?」
「ええ、あれは面白い! 何せ一人でもシミュレーション・ゲームが出来るのですから!」
「ならこれはいかがですか?」
伊丹は段ボール箱から何やら薄い箱を取り出す。それを見たウェイバーは目を見開き驚愕の表情を浮かべる!
「こっ、これは、あの幻の元祖シミュレーションの名作ボードゲーム《TACTIXⅡ》では無いですか!? こんなアナログな物を持って居るなんて伊丹さん、貴方は素晴らしい! 時間が空いた時にお手合わせ願います!」
「こちらこそお願いします。しかもこんな物も有ったりしまして…………」
さらに伊丹はウェイバー・ベルベットに見せる。
「これはアバロンヒルの会員カードではないですか!? しかも専用革ケース付き。伊丹さん、貴方は中々のオタクです!」
「本当はこちらが趣味なんですが…………」
伊丹は薄い同人誌《メイ☆こん》を取り出しペラペラと振るう。
ウェイバー・ベルベットに勝るとも劣らない趣味を持つ伊丹である。
「では拠点に行ってみますか?」
そこの洋館は蔦が絡まり、まさに幽霊屋敷と云うに相応しい佇まいを見せている。
伊丹とキャスターはウェイバー・ベルベットとバゼット・フラガ・マクレミッツを屋敷内へと案内する。
屋敷の中は塵一つ無く手入れされている。
キャスターが口を開く。
「屋敷の掃除は私がいたし────」
「掃除はキャスターのゴーレム達で済ませて有りますのでそのまま使えると思います」
伊丹はキャスターに頼んでゴーレム達を掃除に使役していたのであるが、伊丹に口を挟まれてしまった事でキャスターがプクリと頬を膨らませむくれる。
「もう、耀司様ったら。ちょっと位は私に良い格好させて下さっても…………はぁ~、私はつくづく不幸な女────」
全ての部屋を確認した後、ウェイバー・ベルベットとバゼット・フラガ・マクレミッツは各自の部屋を選び荷物を置き出す。それにしてもウェイバー・ベルベットの荷物の量は半端無く多い。
「ウェイバーさん、荷物多く無いですか?」
「いやいや、これでも最低限の物しか持って来ていませんよ。後日そちらにも荷物が届きますので宜しくお願いします」
「解りました…………届き次第連絡致します…………」
現状でもかなりの量の荷物が有るのに、更に荷物が柳洞寺に届くとは、かなりの荷物の量を想像する伊丹である。
屋敷を後にした伊丹とキャスターは柳洞寺に戻る。
陽は暮れ掛け時計は夕刻を示している。
「大聖杯、何とかなると良いなぁ~、ねっ、キャスター」
「そうですわね、これから調べてみないと解りませんが、ウェイバーさんが見えられてその可能性に一筋の光明が射した気が致しますわ。」
伊丹とキャスターは何らかの進展を期待しつつ今夜に向けて気を引き締める。
「ならば、此方は此方の準備をしないとね」
「そうですわ、敵が攻めて来ても返り討ちにして差し上げますわ」
伊丹はキャスターの少し物騒な発言を訂正する。
「ちょっと待ってキャスター、返り討ちではなく仲間に取り込みたいんだからその辺り宜しくだよ。」
「まあ仕様がないですわね、確かに手駒が多い方が多少有利に事を運べますしね」
「解ってくれて嬉しいよ。流石はキャスター!」
伊丹の一言にキャスターは胸を張って答える。
「なっ、何を仰います。この私程に耀司様を解っている者は居りません! 何せ既に同衿も済ませた許嫁なのですのよ!!」
「確かにそうだね。しかしその同衿を力強く言われると恥ずかしい…………」
程無くして使い魔からの報告で、衛宮士郎と遠坂凛がバーサーカーを倒す迄は同盟を結んだ事を伊丹とキャスターは知る。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
物語には無い流れが出て来ましたが、伊丹とキャスターは上手く乗り越える事が出来るのでしょうか。
ではでは…………
虚空屍