話は2月4日(月)になります。
「俺はこの聖杯戦争で強ぇ奴と戦えりゃぁそれで満足だ。だから聖杯に叶えて貰う願いはねえぞ!」
ランサーの答えにやっぱりだなと納得した伊丹とキャスター。
すると突然キャスターが、しまった! と云った感じの顔をしだす。
「耀司様、もうお時間が…………」
キャスターに釣られ時計を見ると、時間は深夜を示している。
「がはっ、しまった! もうこんな時間だったんだ!? 寝ないといかん! 朝に起きられないよ! 仕事だよ!!」
伊丹はランサーとの戦いでアドレナリンが過剰分泌し、疲れも眠気も感じていなかったのである。
「申し訳御座いません。私も時間の概念が欠けておりました。耀司様の許嫁失格ですわ。ランサー、貴方も霊体化して休みなさいな」
「へ~い、マスター」
キャスターの一言で消え行くランサー。
伊丹はキャスターに許嫁失格なんてあり得ないと言い、むしろ自分が気付いていなかった時間に気が付いた事を褒める。
「何を言っているんだい。君が居るから俺が居るんだよ。こうして俺の身体や仕事の事まで気を使ってくれているしね」
伊丹の言葉にキャスターは顔を朱らめる。
「耀司様に誉めて頂き私は嬉しゅう御座います。人を愛し愛されると云うのはこのような事を云うのですね」
布団を敷きお互いの愛情を想いながら、手を繋いで寝だす二人である。
朝方、かなり遅めの就寝だった伊丹は、なかなか睡眠からの意識が戻らない。
キャスターが伊丹に起床時間の呼び掛けをするが、寝惚けた生返事が返ってくる。
「ん? もう5分だけ…………」
5分後に再びキャスターが起こしに伊丹に声を掛けると、布団に潜り込みながらまた寝惚けた生返事。
「んあ? あと10分…………」
流石にキャスターは伊丹が仕事に遅れる事を心配し、魔術で紡いだピアノ線の様な物で伊丹の身体を括りマリオットの様に起こしだす。
「あわわわわっ、頼むよ~キャスター…………こんな事で魔術を使わないでよ~。自分が未熟な某魔術師の坊やみたいじゃん!」
「いえ、これ位しないと遅刻なさってしまいます。耀司様の許嫁として、きちんと生活管理をさせて頂きますわ」
この日の月曜日の朝の衛宮邸では、日課の様に訪れた藤村大河と間桐桜が、突然のセイバーと遠坂凛の同居に驚き、特に藤村大河が一暴れしたのは云う迄も無い。
セイバーは衛宮切嗣を頼って来て宿泊場所が無く、遠坂凛は家の改築でホテル住まいよりは安く上がる衛宮邸での間借りの事を理由に話すが、間桐桜は最後まで反対する。
しかし藤村大河は遠坂凛の隙の無い話に丸め込まれ同居を認めてしまっていた。
伊丹はキャスターの手荒な生活管理の甲斐もあり遅刻せずに学園に着いたが、間桐慎二が無断欠席している事に気が付く。
(本当に面倒臭い奴だな。此方の事情も考えろっつーの、全く何を考えているんだか───)
放課後、学園内を彷徨いていた伊丹は女生徒の悲鳴を聞き声のした方に向かうと、そこには衛宮士郎と遠坂凛が倒れている女生徒を介抱している。
遠坂凛と衛宮士郎は、学園内に張られている結界を弱めている最中にこの件に巻き込まれたのである。
するとキャスターから念話が入る。
(耀司様、ライダーが近くにおりますわよ)
(ああ、恐らくあの展開だ。キャスターは手を出さないでくれ。凛や士郎の手前、君を出す訳にはいかないからな)
しかし伊丹はこの事態を知っては居るが何か違和感を感じた。
(畏まりましたわ。手傷を負ったら治癒の魔術を懸けますが余り無理はなさらないで下さい)
(その時は宜しくだな)
「君達、どうしたんだい?」
生徒達の側に寄るべく歩きだす伊丹が突然駆けだした!
「危ない!!」
伊丹は身を挺して三人の生徒を庇ったが、腕には鎖付きの金属製の杭が刺さっている。
「先生! それっ?!」
遠坂凛の驚きと質問に対し答えになっていない応えをする。
「くっ、これは流石に痛いよ…………君達に怪我は無いかい?」
すると腕に刺さった鎖付きの杭は消え去った。
「君達は倒れている生徒を連れて、此処から離れなさい!」
「でも先生は…………」
「私の事はいいから! 保健室に連れて行きなさい!!」
衛宮士郎と遠坂凛は意識の無い生徒を背負い校舎に入ったが、保健室には衛宮士郎に連れて行かせ、遠坂凛は物陰から伊丹の戦いの様子を窺う。
正体を現したライダーと対峙する伊丹は、腕に鎖の着いた杭が刺さったままで有る事を知っている。
(さぁて、どうしたもんかな。鎖で繋がれているから逃げられ無いし回避に専念だな!)
伊丹が校舎から離れ人が居ない林へと走り込むと、逃がすまいと追うライダーだが、突然伊丹は止まり振り返り言い放つ。
「そこの黒いボディコンのお姉さん! あんなに危ない物を投擲しないで下さいよ。あれが生徒に刺さったら貴女どう責任を取るつもりなんですか!?」
「……………………」
「黙秘ですか? 傷害罪で訴えま────ひっ!」
突然、グワっと眼前に得物を構え躍り出し、更には木に登り上から杭を投擲したりするライダーだが伊丹はその攻撃を紙一重で躱す。
(くっ、はっ、速い! こんなのが当たったら身体を貫かれちゃうよ!)
「驚いた。躱すのですね、貴方?」
感情の籠っていないライダーからの問い掛けに、伊丹は暗に訓練している事を含ませた答えをする。
「生憎、陸上自衛官だったもんでね。あんたの攻撃って意外と躱せるもんなんだね、やべっ!?」
伊丹は思わず余計な事を言ってしまったと後悔をする。
「私が他のサーヴァントに劣って居るとでも云うのですか? では、私もやり方を変えましょう。貴方を優しく殺してあげる為に」
鎖を振り回しながら蹴りを放つライダーを伊丹はなんとか躱し続けるのだが、具現化させた腕に刺さった鎖を引っ張られ、木に絡め吊り上げ伊丹の自由を奪う。
「まずは貴方の眼を頂きましょうかしら?」
ライダーがいたぶる様に伊丹の目に手を掛け様としたその瞬間、物陰から遠坂凛がガンドを撃ち鎖を断ち切りライダーを牽制する。
もう充分とばかりに間桐慎二からの指示もあり、消え去るライダー。
遠坂凛も伊丹に気付かれない様に秘かに校舎に戻る。
独り取り残された伊丹は安堵した為に膝から崩れ落ちる。遠坂凛がガンドを撃つ可能性が100%では無かったからである。
(助かったぁ~信じて良かったよ~。流石に凛ちゃん、出来る子!)
自分の止血と意識を失っていた生徒の事もあり、伊丹が保健室に行くと衛宮士郎と遠坂凛、そして意識が戻った女生徒が居た。
伊丹は取り敢えず止血をしてそこに遠坂凛が包帯を巻く。伊丹は女生徒に何が起きたのか訊くが、彼女は何も覚えてはおらず、自分で帰れると礼を言い保健室を出て行く。
すると包帯を巻き終えた遠坂凛が伊丹に尋ねる。
「伊丹先生、先程チラッと見たのですがあの黒い服の人は何者なのでしょうか?」
(知ってて聞くんだもんなぁ…………でもこの二人はライダーとはまだ知らないんだったな。しかし俺の返答次第で記憶消したり殺そうとするのかなぁ…………)
「誰なんだろうねぇ、あの紫色のロン毛に黒のボディコンの人。ビックリだよ先生は! でも強かったよなぁ~。ありゃ、武道の達人だよ!!」
伊丹は話を暈す様な答えをするのだが、衛宮士郎がしなくてもいい様な質問をしてくる。
「先生に刺さった鎖が消えなかったですか?」
衛宮士郎の呑気な問い掛けに、青くなる伊丹と慌てる遠坂凛。
(ばっ、馬鹿な質問をするな衛宮君! 折角先生も魔術の秘匿の手伝いをしているのに、しなくていい質問をするとバッドエンドになるからね!)
「えっ、そうだったかい? ずっと刺さっていたと思ったけど? きっと目の錯覚だよ。」
消える鎖など一般人に知られたら大変な事になると判断した遠坂凛は伊丹の答えに同調する。
「そっ、そうよ、刺さりっぱなしだったわよ! 衛宮君は何を言ってるの? 貴方、目が悪いの?」
自分の発した質問が如何に危ういかを悟った衛宮士郎。
「そっ、そうだよな遠坂! 俺今度眼科でも行こうかなぁ…………」
伊丹は二人に下校を促し、自身も帰宅の途に着いた。
「ただいまだよ、キャスター」
「耀司様、お帰りなさいませ。全く持ってお疲れ様ですわね」
少々不機嫌そうなキャスターは伊丹に治癒の魔術を懸けだす。
「全く耀司様ったら、サーヴァント相手に無茶をなさらないで下さい! 使い魔を通して視ていましたが、心臓がキリキリ致しましたわ。」
「心配懸けてすんません。マスターである慎二が魔術師としてのスキルも無いから、ライダーのスキルも大幅ダウンかと思って余裕をかましたらこのザマだし。腐ってもサーヴァントって事だね!」
このザマの痕を、伊丹はライダーに刺された腕をキャスターに指し示した。
「しかし何故あの二人を庇ったのですか? あの現場に介入しなくても話の流れでは特に問題は無かったと思いますが?」
「確かにキャスターの言う通りだね。でも目の前で生徒が血を流すのを見たくなかったんだ。一応教師だし、それに国民を守る為に働いていた事もある訳だし…………」
伊丹は日本国民の生命、財産を守らなくてはいけない仕事柄、つい身体が動いてしまっていたのだった。
「耀司様が自衛官だった事は承知致しております。しかし限度と云う物も有りましてよ」
「俺も無闇に命を危険には晒したくは無いけど、若者にこんな危険な戦いで傷を負って貰いたく無いんだよね。それに参加マスターが兄弟姉妹だったり、学友や先輩後輩だったりおかしな程集中し過ぎて居るでしょ。それにも納得いかないって、実際そこに身を置いてみて感じたんだよ」
伊丹が今まで守ってきた、将来の日本を担うであろう若者同士が、命を懸けた危険な戦い、しかもそれが血縁者や知人同士の殺し合いとは流石に見過ごせ無い。
「確かに耀司様の言われる様に、マスターに選ばれた者達にはかなり偏りが有りますわね。耀司様と言峰綺礼以外はみんな子供ですし物の考え方も…………」
「そんな設定だから売れるのかも知れないんだけどね─────俺も買ちまったし…………」
伊丹の発言に思わず睨むキャスター。
「はぁ~? 今、何と仰いました!?」
「ごめん! 不謹慎だったな、許してくれ」
伊丹は自分の不用意な発言を反省し土下座して謝ると同時に、ライダーに襲われた時の違和感を話す。
「今日の出来事で話があるんだけど」
「襲われた一件ですか?」
「ああ、あのイベントはセイバールートに無いんだよ。UBWルートのイベントなんだよね」
キャスターはこの伊丹の一言に、ハッとした表情を浮かべ纏めたタイムテーブルをチェックし出す。
「確かに仰る通りですわ。何故その様な事態が起きたのでしょうか? 物語のルートが確定していないとでも…………」
「困った事になんでも有りの様だね。対策が後手に回っちゃうよね」
やや困り顔の伊丹に、キャスターは微笑みながら心配無用とばかりに言う。
「胸を張って下さいませ。耀司様には決めの一言が座居ますでしょ」
「ああ、何とかなるさっ!」
衛宮邸では晩飯を終え片付けを済ませた間桐桜が自宅に帰ろうとするが、衛宮士郎は日中の学園内でサーヴァントに襲われた事も有り、物騒な夜道を帰るよりは泊まっていった方が安全だと思い彼女に泊まる様に提案する。
間桐桜はこの提案に、衛宮士郎の傍に居られる嬉しさもあるが、家に許可を貰わなくてはならない事を考え答えを躊躇っていると、この提案に藤村大河が賛同し、早速間桐家に電話をし間桐臓硯から宿泊の許可を取り付けた。
深夜、キャスターの使い魔がライダーと間桐慎二、そして間桐臓硯の動きを捉える。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
伊丹は社会人である為に、学生のマスター達と違い、かなり肉体的に辛い毎日を送らねばなりません。
明け方までマスターとして活動しても翌朝の仕事には、穴を開けられません。
辛いぜ、社会人。そう、辛いんだ…………
栄養ドリンクを飲んで頑張れ、伊丹耀司。24時間戦えますか?
ではでは…………
虚空屍