2月4日(月)の夜から5日(火)の未明に架けての話になります。
深夜、キャスターの使い魔が間桐臓硯の動きを捉える。
「耀司様、ライダーと間桐慎二、そして間桐臓硯が動き出した様ですわ。新都の公園に向かっています」
「よっし、一遍に片付けるぞ!ランサーは公園で臓硯の牽制、何なら切り伏せても構わない、但し頭は持ち帰る事。キャスターは少々強引だが桜を引っ張って来てくれ。彼女は衛宮邸で寝ている筈だ。このまま衛宮邸に置いておく訳にはいかなくなった様だ」
「判ったぜ旦那!」
「畏まりましたわ」
キャスターは寝ている間桐桜に魔術を懸け、操り人形の様にし柳洞寺に連れてくる。
意識を取り戻す間桐桜だが、何故自分が此処に居るのかが判らない。しかも身体にはピアノ線の様な魔術の糸で括られている。
一番驚いたのは目の前に伊丹耀司が居た事である。
「伊丹…………先生…………?」
「ゴメンね、間桐さん。いきなりこんな事をして。自分はキャスターのマスターなんだ」
この伊丹の発言に、この先の自分の姿を想像する。
「先生がサーヴァントのマスターなら、私はここで殺されるのですか?」
伊丹は何とか落ち着かせ様と優しく語り掛ける。
「やっぱり君はサーヴァントの存在を知っているんだね。それにそんな物騒な事はしないよ。そりゃこんな状況じゃ不安にもなるよね。実は──────」
衛宮士郎とセイバーは深夜の見回りの最中に、新都の公園で間桐慎二の命令で一般人を襲うライダーを見付けそれを阻止に掛かる。
セイバーはライダーに深手を負わせ、衛宮士郎が逃げ腰の間桐慎二に詰め寄ると、孫を庇うかの様に杖をついた翁、間桐臓硯がそこに現れる。
「これでも儂の可愛い孫でな。ここでむざむざ死なす訳にもいかすまい」
そこに居た皆が間桐臓硯に注意を向けている隙に、間桐慎二は公園から逃げ延びる。
間桐慎二のライダーに襲われた被害者も居る事も有り、ただならぬ雰囲気の間桐臓硯を見逃し被害者を教会に運ぶ事を選んだ衛宮士郎とセイバー。
しかし衛宮士郎とセイバーに見逃された間桐臓硯をランサーは捉えている。
「よぉ爺さん、あんた只物じゃねえなぁ。こんなの旦那の指示が無くても殺っちまった方が良いってもんだ!」
「やれやれ依りに寄ってまたサーヴァントか。今日は厄日の様じゃのう。貴様はか弱い爺を襲うつもりかの?」
「はっ、言ってくれるぜ。こんな腐臭のする奴は大抵善からぬ事をしでかした奴なんだがな。それに旦那の命令でもあるしな」
間桐臓硯は使い魔である蟲を放ち牽制をするが、ランサーは彼を槍で凪ぎ払い一瞬で三つに斬る。苦しんではいるが死んではいない。すると間桐臓硯の切り口からゾワゾワと多数の蟲が湧き出てくる。
その吐き気を催す様な光景に驚くランサーを尻目に、蟲達は四散して住みかに向かい逃げて行く。
「おらよっと!」
ここだけは逃がすまいと、切断した首の辺りに槍を突き刺しスナップを利かせ頭を放り上げると、キャスターから渡された袋にスポンと入れる。
「ちっ、全く。俺の得物が汚れちまったぜ」
袋の中でキーキー、ギャーギャーと五月蝿く悪態を付く頭臓硯。
「黙ってろって~の!」
袋に一発のランサーの蹴りが入る────
キャスターは間桐桜に眠りの呪文を懸け横たえる。
「耀司様、殿方は出て行って下さいまし」
胸を露にする事から男性の退室を促すキャスター。その時伊丹は、キャスターの背中に某心臓外科医の龍の様な物を見た様な感じがした。
「キャスター、お立ち台を要求する麻酔科医は居ないけど巧くやってくれよ」
「耀司様、私を誰だと思っていらっしゃいますの? これはオン・ビートでいきますわ!」
服を脱がし術を始めるキャスター。開胸した後、胸中に巣食う蟲を摘出し、最後に心臓を優しく両手で包み込み内部に居る疑似神経系と化した刻印蟲を確かめると、心筋を切開しルールブレイカーで刻印蟲を突き刺す。
「いい加減この娘を貴方との繋がりから解放なさい」
その後キャスターはそっと刻印蟲を取り出すと、再び両手で心臓を優しく包み切開部位を閉じ、心拍に異常が無い事を確かめ胸を閉じ刻印蟲の摘出を終える。
「貴様ら! 儂をどうするつもりじゃ!?」
取り出されてもなをピチピチ動き続け言葉を発する蟲を、キャスターはピンセットで摘まみ小瓶に放り込む。術後に入室した伊丹が想像以上のグロテスクな蟲に嫌悪の表情を浮かべ呟く。
「うぇ、キャスター、この蟲喋ったよ。気持ち悪っ!」
「さて、どうしてくれましょうかしらね? コンロで串焼きや、沸き上がった湯で熱湯風呂なんてどうかしら。そうそう電子レンジに放り込んで加熱なんていいかしらね。あらっ、レンジ内で爆発されても掃除が面倒ですわねぇ~」
(焼酎に漬け込めばさぞや精の付くお酒になりますわね、まむし酒以上ですわ。うふふっ────)
恐らくは殺されるであろう事が解っている蟲臓硯はそれでも足掻く。
「止めろっ、止めてくれ! 我が家に伝わる五百年に渡る魔道を記した書籍や遺物をお前に全てくれてやっても良い! それで収めてはくれまいか!?」
「今まで随分と酷い事をした割には、往生際が悪いですわね。でも貴方がそこまで差し出す誠意を見せてくれたのですから私は殺しませんわね」
「なら儂とお主の会話を録音し孫の桜に聴かせるが善かろう! なんなら契約書も書くぞ!! そうすれば奴も我が家の遺物を差し出そうぞ!」
「なら、そうさせて頂くわ。でも次のご当主は慎二ではないのかしら?」
「あやつには魔術は無理じゃ、形だけの当主じゃ。間桐の魔術は桜に任せるつもりじゃ!」
キャスターは蟲臓硯との会話を録音し自己強制魔術の魔術契約書を作成する。
「契約成立じゃな!?」
「ええ、成立致しましたわ。これで私は貴方を殺せませんわね」
伊丹はキャスターが蟲臓硯をどう扱うのか心配するが衛宮切嗣のやり方を思い出す。
「はぁ~ん、そう云う事ね! で、この後はどうするの?」
「耀司様には秘密ですわ。悪い様には致しません。既にランサーには指示を出しておりますので」
(後程、ホワイトリカーと氷砂糖を買わないといけないわね。)
間桐臓硯の本体摘出を終えた間桐桜は、治癒の魔術を懸けられ、傷も塞がるが、完全に癒えるまではしばし時間が必要である。
「耀司様、重要な事が…………」
キャスターは間桐桜から離れた所で伊丹に話す。
「聖杯の欠片から作られたと思われる刻印蟲が一匹居まして、半ば心臓と同化している為、摘出は危険と思い残して仕舞いました。蟲としての活動の反応が有りませんでしたので恐らくは無害かと。」
「でもそれって桜君がアレに成る可能性があるって事だよね?」
「はい、彼女がそうならない為にも、精神的なケアも欠かしてはならないかと…………」
新都で爺姿の間桐臓硯を倒したランサーが戻り、出来事を報告し頭臓硯の入った袋をドスンと置くと間桐臓硯が何なのかキャスターに聞く。
「あれは間桐の魔術の根幹で臓硯の使い魔の集合体って事かしら。これがその本体よ」
ランサーは心臓から摘出され瓶詰めにされたピチピチと動く蟲臓硯をキャスターに見せられ眉をしかめる。
「そして貴方が持って帰って来た頭は、臓硯としての形を簡単に作りだすものよ。」
「結局どいつもこいつも蟲ってか…………それでこっちの嬢ちゃんはどうなんだ?」
ランサーはクイッと顎で間桐桜を指す。
「摘出は無事完了したから、後は回復待ちって処よ。」
伊丹が二人に労いの言葉を掛けてくる。
「ランサーもキャスターもお疲れ様。間桐桜は夜明け前に俺が送って行くよ」
程無くして間桐桜は目を覚まし自分の体を確認し、キャスターから説明を受ける。
「そんなっ、私の身体の中にお爺様が寄生して居たなんて…………キャスターさん、私を治して下さって有り難うございます」
キャスターは間桐桜に重要な一件を話す。
「お嬢さん、確かに貴女の心臓に寄生していた蟲臓硯は取り除いたのだけれど、唯一取り除く事が出来ないのが有るのよ。正直に言うわ。それは恐らく臓硯が貴女に埋め込んだ聖杯の欠片」
聖杯戦争の事も間桐臓硯から聞かされ間桐桜は参戦を了承してはいたが、まさか自分の身体に聖杯の欠片が埋め込まれていたと言われ俄には信じられないでいる。
「何で!? 聖杯の欠片が私の心臓に有るのですか?」
キャスターはこの間桐桜の問い掛けに、物語のゲームで調べた事を踏まえ優しく答える。
「これは私の推測なのだけど、臓硯は貴女を聖杯にしようと考えていたのではなくって。ただ今回の聖杯戦争が想定外に早まったのが誤算でしょうけど、それ以上に間桐の魔術様式に貴女が適合してしまったから参加したのかしらね。」
「私は今のままで居られるのですか?」
間桐桜の質問にキャスターは微笑んで答える。
「貴女が大事に想うものを守る決意が有れば大丈夫よ。自信を持ちなさいな、お嬢さん! 必ず最後に愛は勝つわ!!」
話の最後で拳を突き上げるキャスターに誰も反応せず、顔を朱らめ俯いてしまう。
伊丹はそんなキャスターのフォローもせず、スルーまでして間桐桜に話し出す。
「間桐さん、立てるかい? 大丈夫な様なら家まで送るよ」
「有り難うございます、先生。ではお願いします」
「じゃっ、キャスター、行ってくるね」
「はっ! いっ、行ってらっしゃいませ! お嬢さんも無理をしては駄目よ。困った時は私や耀司様を頼りなさいな」
柳洞寺を後にした二人は他愛もない会話をしながら衛宮邸へと向かう。
「間桐さん、今日の事や私がマスターだって話は秘密にして貰えるかな? 勿論衛宮君や遠坂さん、そしてお兄さんにもね」
「はい、伊丹先生と私だけの秘密ですね」
「ありがと! そうしてくれると助かるなぁ。私も君がライダーの真のマスターとは誰にも言わないからね」
彼女は伊丹の一言に驚く。
「伊丹先生! 先生はどこまでご存知なんですか!?」
「そうだねぇ、今のライダーは君のお兄さんにいい様に使われているって処かな、ちょっと可哀想かなぁって。それと君が戦いたく無い事もね。そこで私からの忠告だよ、ライダーは君が使役すべきだ。大切な人を守る為にね!」
「……………………」
黙り込む彼女に、自分で決めるように然り気無く話す。
「まあ、私が口を挟む事でも無いかなっと」
「はい…………兄と話し合ってみます…………」
柳洞寺を出て暫く歩き、もう少しで衛宮邸に着くと云うその時、衛宮士郎とセイバーそして遠坂凛が走り寄って来た。
衛宮達が教会から帰宅した時には間桐桜は家に居らず、今まで捜していたのだった。
「桜! 無事か!?」
「間桐さん、あなた大丈夫なの!?」
(先輩…………セイバーさん、遠坂先輩まで、なんで…………三人で…………)
衛宮士郎が凄い剣幕で伊丹に食らい付く!
「伊丹先生! こんな時間にあんたは桜に何をしていたんだ!?」
伊丹は彼の剣幕よりも、今にも剣を振りそうなセイバーをチラ見して注意を払う。
間桐桜は彼の剣幕に驚き、慌てて止めに入る!
「止めて下さい先輩! 誤解です。私が寝付けないから夜風に当たり散歩していたら、伊丹先生と鉢合わせしただけなんです!」
伊丹も間桐桜の話に合わせ、話の腰を折る様な事も言う。
「君達に変な誤解をさせてしまったなら謝るよ。私も散歩していたら間桐さんに会ったんだけど。それとそちらの外人さんはどちらの方?」
(なんで、なんでいつも先輩は遠坂先輩と一緒なんですか…………そしてセイバーさんまで…………)
「それとも先輩達は伊丹先生が私に何かしたと言うのですか? 心配だからとこうして先輩の家まで送って下さってくれただけなのに…………」
そう言うと伊丹の腕に間桐桜は腕を絡ませ胸を押し付けてくる。恐らくはこの三人から伊丹を守ろうとしている。
(桜君、それを押し付けてくるのは反則だ! 勘弁してくれ…………)
「君達が迎えに来たのなら、私はここで失礼させて貰うけど。で、そちらの外人さんはどち────」
「桜がそう言うなら判ったよ。伊丹先生、疑って済みませんでした」
「ちょっと衛宮君、おかしいわよ!」
「桜が何でもないって言っているし、学校で先生に助けて貰ったろ」
遠坂凛は今一納得がいかないが、衛宮士郎も間桐桜も解決済みとする態度に諦める。
「それはそうだけど…………」
伊丹は何事も無く帰れる事に安堵し、一同に別れの言葉を放つ。
「なら私はこれで。間桐さん、お身体お大事にね、身体冷やしちゃ駄目だよ。じゃあみんな、学校でね! こんな時間まで起きて居たからって遅刻は駄目だよ。んで、そちらの外人さんは?」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
段々と色んな人物を巻き込み始めました。
桜が、士郎と凛そしてセイバーの関係になにやら………
ではでは…………
虚空屍