話は2月5日(火)となります。
ここ数日夜中の活動も多く充分に睡眠の取れない伊丹だが、朝はキャスターにマリオネットの様に強引に起こして貰い、お手製の栄養ドリンクを飲みファイト一発となる。
「キャスター凄いよ。こういう物を調合して作っているなんて!」
「かつての私は神の巫女でもありましたのよ。これくらいの薬草の調合位お手の物ですわ」
「薬草ってこの辺りに生えているの?」
伊丹はレンジャーの経験で多少の薬草の知識は有るものの、特に必要も無い時世でもあり、この山の草花に特に注意を払ってはいない。
「日中時間が空けば、この寺のお山に分け入って使えそうな草木の実や葉、そして地下茎を集めていますわ」
「使えそうな草木って。なら使えないのってどんなの?もしかしてトリカブトとか?」
「そうですわね。耀司様の仰る通り毒の有る草木ですわね。でも微量ならば薬になる物も有りますのよ」
「それを俺で試すのは勘弁して下さいね」
昼間のマウント深山商店街。ここの酒屋でホワイトリカーと氷砂糖を買うキャスターが居たとか居ないとか────
学園に出勤した伊丹は間桐慎二の欠席を知る。
(昨日士郎にあんな目に合わされたら、学校で顔を会わせられないよな)
淡々と仕事を済ませ、放課後には部活の無い生徒達を追い立てる様に下校させていく。
これも放課後に結界を処理して回る衛宮士郎や遠坂凛への配慮でもあるが、それでも翌日には処理した以上に増えていくのである。
(思った以上に面倒だな。慎二とライダーを黙らすには大事にならない内に結界を発動させてみるのも手だなぁ。恐らくセイバーも来るだろうし。どう慎二を
伊丹が弓道場に顔を出すと、早速出迎えてくれたのは間桐桜である。
「伊丹先生、どうされました?」
「一寸見学させてもらうよ」
そう言うと然り気無く間桐桜の脇に近付き小声で言葉を繋ぐ。
「申し訳ないけど、話たい事が有るから一緒に帰って貰えるなか? 偶然を装って校門で落ち合う感じでね、どうかな?」
小声の伊丹に、小声で返す間桐桜。
「解りました。先生がそこまでなさるなんて重要な事なんですね?」
「そう云う風に解って貰えると嬉しいな! 間桐さんは出来る子だよ!」
暫し弓道場で見学をした後、学園内を彷徨き、弓道部の活動が終わった事を知り、伊丹も帰り支度を済ませ間桐桜との下校に合わせ、偶々出会って一緒に下校する様にみせる。
「伊丹先生、お話しって何ですか?」
伊丹は間桐桜の問い掛けに、如何にも困り顔で答える。
「ん~、慎二くんが学校中に魂喰いの結界を張っているのは知っているかな?」
「兄がですか!? 知りませんでした! その結界ってどうなるんですか?」
間桐桜は兄である間桐慎二がライダーを使って結界を張っている事は容易に想像出来たが、魂喰いなる結界と言われ一瞬戸惑った。
「結界内の人達の魂と云うか生命力を吸い取ってライダーの魔力にするんだよ」
「じゃあ、結界内の人達は…………」
間桐桜は最悪の結果を想像し、伊丹は彼女が想像したものを肯定する。
「ああ、最悪死んでしまうだろうね」
「どうしたら良いのですか?」
みるみる青ざめていく間桐桜に、態と伊丹は最悪の決断を提案してみる。
「張られた結界はライダーしか消せないから、まだ結界の効力が強く無い内に発動させてしまった方が良いかなってね。だから今夜にでも間桐さんに、お兄さんを明日結界を発動させる様に突っついて貰いたいんだ」
「でもどうやって良いのか…………」
「例えばなんだけどこうしたらどうかな、お兄さんに遠坂さんと────」
伊丹は間桐桜に計画を話し協力を得て二人はそれぞれの家路に着いた。
間桐桜は間桐邸に帰り、衛宮士郎に今日は衛宮邸に戻らない事を電話で話す。
(私が、私が兄さんと話し合わないと────)
一方、自宅に着いた伊丹。
「キャスター、ただいま~」
「お帰りなさいませ、耀司様! お風呂になさいますか、それともご飯になさいますか?」
キャスターはとうとう夫婦の様な言葉を発し頬を朱らめる。
「先に風呂を済ませるよ、んっ! 顔が朱いけど大丈夫?」
「だっ、大丈夫ですわ。ではその間に夕食の仕度を致しますわ」
風呂も済ませキャスターと晩飯を食べながら伊丹は話す。
「使い魔で間桐さんとのやり取りは視ていた?」
「はい、あの様な計画で宜しいかと。しかし耀司様、随分と回りくどい事をなさりますのね」
「桜君には今の内に結界を発動させればって言ったけどね、キャスターには解っちゃった?」
伊丹の考えなどお見通しとばかりに答えるキャスター。
「私には丸解りですわ。あのお嬢さんが想い人を巻き込んで結界を発動する訳ありませんもの」
「あと別件なんだけど、どうやらここが怪しいと遠坂凛が気が付いた感じなんだよ。てか、アーチャーが何か吹き込んだのかも。アサシンに気を付ける様に伝えといてね。もしセイバーとアーチャーの二騎で攻め込んで来る様ならランサーも出撃だよ」
遠坂凛とアーチャーは霊脈が柳洞寺に集まり流れ込んでいるのを感じ、昏睡事件もキャスターの仕業であると踏んでいた。
「ええ、お任せください。耀司様のご指示通りに致しますわ」
「まあ、キャスターとアサシンの関係も良いみたいだから、アーチャーが境内に侵入して居るなんて起き無いと思うけど」
一方衛宮邸では衛宮士郎、遠坂凛そしてセイバーとで意見が交わされていた────
「なあ遠坂、俺はバーサーカーを先に倒した方が良いと思うんだ」
「シロウ、リン! 言峰綺礼のサーヴァントはどう対処し────」
「何言ってるのよ? 柳洞寺のキャスターを先に倒すべきよ!」
「シロウ、リン! 言峰綺礼のサーヴァントはどう────」
「キャスターには助けて貰ったろ。それにあのゴーレムの姿をしたマスターだって悪くは感じなかったぞ。それに比べてバーサーカーのマスターはいきなり攻撃したろ!」
「くっ、シロウ、リン! 言峰綺礼のサーヴァ────」
「でもキャスターは冬木市民から精気を奪う網を張っているし、また昏睡事件が起きたらどうするの? 確実に魔力を溜め込んでいるのよ!」
遠坂凛も敵対行動を取らないキャスターへの攻撃は気が退けている事もあり二人の会議は纏まらない。
「では、シロウ、リン! 言峰綺────ちっ!」
夜遅くに山門のアサシンからキャスターへ報せが届く。
(マスター、お客人で御座るがお通ししても良かろうか?)
キャスターがアサシンを通して見てみると、間桐桜が恐らくはライダーを連れて来た様である。
(お通しして差し上げて、アサシン)
(畏まった)
程無くして部屋の入り口で間桐桜の声がする。
「今晩わ、伊丹先生。間桐です。お話しがあるのですが、宜しいでしょうか?」
「いらっしゃい、間桐さん。こちらへどうぞ」
伊丹は間桐桜を部屋へ案内する。
「キャスターさん、今晩は。お邪魔します」
「良いのよ、お嬢さん。もしかして貴女なりの覚悟は出来たのかしら?」
「はいっ、決めました! 改めて紹介します。私のサーヴァントのライダーです!」
間桐桜が云うや否や、困り顔のライダーが実体化する。
「えっ、あっ、貴方がキャスターのマスターでしたか………………知らぬ事とは云え、先日は失礼な事をして申し訳ありませんでした。
改めまして桜のサーヴァント、ライダーです」
ライダーのお詫びを含めた挨拶に、素早く反応し語気を強める間桐桜。
「ライダー! 貴女何をしたの!?」
咎める彼女を伊丹は制する。
「いや、気にしないで。あの時の傷もキャスターに治して貰いましたから」
伊丹が間桐慎二の指示でライダーに攻撃をされ、怪我をした事を知り間桐桜はひたすら謝る。
「それでお兄さんの件はどうなったんだい?」
「はいっ! 偽臣の書を取上げてライダーのワンパンで黙らせました!」
「へっ!?」
思いもしない間桐桜の行動に、伊丹とキャスターは飲んでいたお茶を吹き出す。
「きっ、君はまた随分と過激なことを!」
「先生から聞きました結界の件を兄に訊ねたら、その目的の大半が衛宮先輩への当て付けでした。
魂喰いと云われる程に危険な中に、衛宮先輩や他の人達を入れる訳にはいきませんし、何よりも私との約束を破っています」
伊丹は間桐桜がライダーを貸し出す代わりに衛宮士郎を傷付けず、万が一に備え身を守る為だけにと間桐慎二と約束していた事を思い出す。
「君との約束って、彼自身が他のサーヴァントから身を守る為にライダーを使う事かな?」
「そうです。それを度々破り、更には衛宮先輩にまで危害を及ぼすなんて私、許せないんです。もう兄には渡しません」
「間桐さんは強いね。それで学校の結界はどうする? ライダーが使わなければそのまま残して置いて良いかも、むふふっ」
伊丹はライダーの管理を間桐桜が行う事になれば結界の発動は無いと考える。
「結界を残しても良いんですか?」
「うん、あるある詐偽って感じかな。遠坂さんや衛宮君には面倒かけて悪いけどね」
伊丹は遠坂凛と衛宮士郎に、発動させない結界と云う囮を見せ、注意を逸らす積もりで居る。
「さあて、今夜も遅いから家まで送るよ」
「有り難うございます。伊丹先生!」
何やら頬を朱らめ嬉しげな間桐桜。
「ではキャスターさん、お邪魔しました」
「お嬢さん、何時でも来て下さって良いのよ」
山門を出た所で間桐桜は伊丹の腕に自分の腕を絡ませてくる。
「夜道は怖いんです。でもこんな姿を他の人が見ると親子に見えますかね? それとも恋人同士とかですかね、うふふっ」
そう言い終わると胸をグイっと押し付けてくる。
(頼むからそれは止めてくれないか、桜君…………)
二人が歩くこと暫し、間桐邸に着いく。
「今日は重大な決意を聞かせて貰って有り難う。しかし、お兄さんの方は大丈夫なのかい?」
「大丈夫です。暫くは大人しくして居ると思います。ただ学校には行けるかどうか解りません、うふふっ」
帰路の伊丹は、柳洞寺の石段を登り山門が見える所まで来ると、フードを目深に被ったキャスターが山門に居るのに気が付く。
「お出迎え有り難う、キャスター。どうしたんだ、そのフード姿は」
「お帰りなさいませ、耀司様。あらっ! 随分と鼻の下が伸びていらっしゃいましてよ!」
使い魔を通して腕を組んで胸を押し付けられている光景を観ていたキャスター。
キャスターの言っている事の意味を直ぐに理解した伊丹は慌てて否定をする。
「勘違いしないでくれっ! あれは桜君から腕を組んで来て、決して
「あらあら、そうかしら? 昨日送った時も同じ様な事になっていたと思いますが…………」
伊丹は昨日に間桐桜を送った時の事を思い出した。確かに今日と同じだったと────
「二度に渡って耀司様に粉を掛けるような真似をされて、私も些か忍耐の限度を超えようかと」
フードに隠れた顔ではあるが、口角が上がるのが見える。
「待ってくれキャスター、誤解だよ! 彼女の想い人は衛宮士郎だと知ってるだろ? それに彼女は殆んどお父さんと呼べる人が居なかったら、それが俺に向けられただけだよ、きっと!」
間桐桜の身の上も理解しているキャスターはフードを外しニッコリと伊丹に微笑む。
「冗談ですわ、耀司様。私も彼女の境遇を知っています。ただ、この様な事で鼻の下を伸ばす耀司様は如何なものかと」
「済まなかった、キャスター。節度有る大人の対応をします」
山門前でキャスターに土下座する伊丹である。
ヤレヤレと呆れ顔のアサシンが山門の影から観ていたのは云うまでもない。
(主殿も大変御座るな。これは関わらない方が身の為! 許せ主殿!!)
伊丹も寝静まった夜中にキャスターとランサーの二人が何やらやっている。
「さあランサー、この摘出した蟲をこの広口の瓶に入れなさい。そうしたら氷砂糖とホワイトリカーをブチ込むのですよ。お解り?」
「へ~い、マスター」
気の抜けたランサーの生返事をキャスターは聞き流し、作業の様子を見ている。
「きっさまぁ~! 契約を反故にすり積もりか!? あっ、頭は! 儂の頭はどうするのだ!?」
「そんな事は御座いません。私が手を下さないように契約も致しましたので、ここはランサーに執り行って貰っていますのよ。それに結んだ契約には貴方の頭の事には触れていませんので好きにさせて貰うわ、ふふふっ」
「くっ、奸計を用いたと云うか! ウワプッ、プクプク─────」
焼酎に呑まれアップアップする蟲臓硯。
「奸計などとは心外ですわ。私は契約通りの事しかしてはいませんのよ」
ここに稀代の銘酒、魔蟲焼酎《臓硯》が完成するのである。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
と云う訳で、臓硯さんは焼酎漬けにされてしまいました。一応、この魔蟲焼酎に付いての設定も有りますが、特に本文中には載せません。悪しからず。
ではでは…………
虚空屍