既に読まれた方々、ご免なさい。
1月22日(火)の話になります。
寺の朝は早い。
日の出前に修行僧は起床し、修行を始めているのである。
修行僧のスケジュールに縛られない伊丹は5時に起き出し、寝惚けた頭で昨日の出来事を思い返し今日の予定を確認する。
( 確か今日は
零観等に朝の挨拶を済ませ、伊丹の為に用意されている朝食を頂く。
一通り出勤の仕度を終えると柳洞一成が伊丹の部屋にやって来た。
「伊丹先生、少々早いですが一緒に登校させて頂いても宜しいですか?」
「ああ、一成君が構わないなら、同道して案内でもして貰おうかな」
こうして二人で山門から石段を下り学園に向けて歩き出す。
伊丹は歩きながら然り気無く、学園に居るであろう物語のキャラクターの名前を誘導させてみる。
「処で一成君。学園の生徒の中にはいかにも優等生みたいな子やパーフェト云々みたいな子は居るのかな?」
「先生、私の事は一成と呼び捨てで構いません。それに今言われた所謂優等生みたいな
( 確かに一成は
「じゃあ、プライベートでは『一成』で、学校では『柳洞君』と呼ばせて貰うよ。で、その優等生さんについて少し話を聞かせて貰ってもいいかな?」
「はい。彼女は
( ぐはっ! キタァァーーーーッ!! 居たんだ! 存在したんだ! 凛ちゃんが! どうしよう? 東京に帰りたい、原隊に戻りたい! いや! 戻らせて下さい!)
「先生、お顔の色が優れぬ様ですが…………」
「そっ、そうかなぁ? 初めての職場で緊張しているんだよ。きっとそうだよ!はははははぁ~ぁ、はぁ~」
( いや、同姓同名の別人かも知れない! 実際に会うまではわからないんだぞ!)
「しかし凄いね、ミス・パーフェクトだなんて! でも一成はその彼女の事を奴と呼んだけど? 嫌いなのかい?」
「全く持って嫌悪の対象ではあります。物凄い猫被りですよ。成績も良く、皆の前では涼し気に『オホホホホ』と笑みを浮かべますが、其の面の下には般若が居ます。しかも嘆かわしくも彼女の容姿に惑わされる男子学生も余多におります」
「容姿端麗、学業優秀って事なんだねぇ」
「ええ、外面は…………ですが。おっと寒気が…………はっ! おのれ女狐めの呪いか? ええいっ、喝っ!」
ブルッと震えた柳洞一成は突然の悪寒を九文字で切り祓う。
同時に自宅でくしゃみをした遠坂凛が居たのは云う迄もない。
( 恐らく自分の知っている遠坂凛で間違いないだろうなぁ。今後の展開を知らぬ存ぜぬで躱せないかなぁ?)
柳洞一成と話しつつも穂村原学園に着いた伊丹は、彼に事務室に案内をされ別れる。
柳洞一成に案内された事務員も、伊丹が本日付けで赴任する事を分かっており学園長室に案内をする。
そこに学園長始め教頭や学年主任の先生方が集まりだした。
「ひっ!?」
伊丹は悲鳴に成らない声を上げてしまった。
( 虎だ、虎だ、虎が居る! 紛れもないあの冬木の虎が! しまった、目が合ってしまった。正に虎の穴だ!)
「初めまして伊丹先生。英語を担当しています藤村大河と申します。学園の事で解らない事がありましたら何でも聞いて下さいね」
ニコリと微笑み一礼をする藤村大河は至って真面目であり、礼儀を弁える大人であった。
( あれっ? 四六時中竹刀を振り回し、ガォ~と吠える姿しか思い浮かばないんだが…………偏見は良く無いな。流石にロリブルマは…………居ないな…………)
「伊丹耀司です。宜しくお願い致します、藤村先生」
( そうだよっ! タイガがダメダメなのは士郎の前だけなんだよな! てかっ、既に衛宮士郎が存在している事前提かよっ!?)
自己紹介の後に打ち合わせが始まり、伊丹の担当教科が社会科系である事を告げられる。
( 確かに社会科の教員免許を持ってはいるけど、此ってもしかして葛木宗一郎の替わりって事か? 絶対マズイ立場だよ! しかし俺の前任者はどうしたんだ?)
流石に伊丹は危機を感じ取った。目の前の現実がゲームやアニメの流れと同じならば、確実に殺されてしまう立ち位置であると。
しかし彼はまだ望みを捨ててはいなかった。なにせ衛宮士郎に会っては居ないのだから。
( 確かに藤村大河には会い、一成の話だと凛ちゃんも居るかも知れないが、だからと言って衛宮士郎が存在して居るとは限らないからな。まだ慌てる事も無い。凛ちゃんとてこの目で確認した訳じゃ無いしな )
打ち合わせも終わり伊丹が廊下を歩いていると、深紅のコートを羽織り髪を二つに分け結んだ女生徒とすれ違う。
「おはようございます。新任の先生でいらっしゃいますか?」
( こっ、この娘は俺の知っている、赤い悪魔の二つ名を持つあの遠坂凛だ…………まんま凛ちゃんだよ、どおするよぉ~)
「えっ、あっ、おっ、おはよう…………君の名前を教えて貰ってもいいかい?」
恐らく伊丹の想像通りの答が返って来る。
「遠坂凛と申します。宜しくお願い致します」
( ぐはっ!)
ゲイ・ボルクで心臓を突かれるのはこんな感じなのかと思う程の遠坂凛の答えに自己紹介する伊丹。
「わっ、私は伊丹耀司。社会科系を教えるからね。ヨロシク」
伊丹と遠坂凛はお互いに頭を下げ、取り敢えず別れる。
( まんま凛ちゃんが存在しては居たが、衛宮士郎が存在して居なければな~んにも問題は無いんだよな。居る訳が無いし居てはいけないんだよ! そうだ、きっと居ない! いや、居る筈がない!!)
現実逃避にも近い妄想を抱いていた伊丹だが…………
「あっ! 伊丹先生!」
伊丹は背後から声を掛けられた。この声の主は柳洞一成であろうと声を掛けられた方を振り返ると確かに柳洞一成が居た。
一成が居た。一成が居た。一成が居た。一成が居た。一成が居た。一成が居た。一成が居た。一成が居た。恐らくは衛宮士郎と思われる生徒と一緒に…………
( 詰んだ…………いやまだ判らん! まだ名前も聞いていない。確かに自分が知っている衛宮士郎の様な姿をしてはいるが名前すら知らない! そうだ、まだ知らないんだから! きっと別人だ!)
現実から逃避しまくる伊丹であるが────
「こちらは私の親友の
( げふっ!)
伊丹に止めを刺し柳洞一成の一言。
ゲイ・ボルク2本目である。
「なあ衛宮、此方は新任の伊丹先生だ」
柳洞一成から紹介を受けた衛宮士郎が頭を下げる。
「衛宮士郎と言います。宜しくお願い致します。伊丹先生。」
( 嗚呼ぁ…………あああぁ…………ああああぁ…………逃避を抱いて溺死しそうだよ…………)
「コチラコソヨロシク、エミヤクン」
血の気の引いた少し壊れた伊丹は、挨拶もそこそこに切り上げ、フラフラと職員室に歩を進めていた。
初日の授業も何とか終え、放課後は書類仕事と明日の授業の準備、そして巡回と称して学園内を
仕事を終え、帰宅の途に就いたのは19時前後であった。
歩く事数十分、柳洞寺の山門下に着くと、濃い紫色をした物が視界の隅に入り、それを視界の中心に捉えた途端、伊丹の頭の中で警報が発令される。
( 見たら駄目だ駄目だ駄目だぁ~っ! 関わってはいけない いけない いけなぁ~い! 危険だ危険だ危険だぁーーっ!!)
しかし身体が勝手に動き紫のそれに近づいて行く。
それは恐らく伊丹の知っている物ではあるのだろうが、一応その紫色の正体を確認してみる。
( 嗚呼…………やっぱりか…………やっちまったかも────)
その時伊丹は悟る。あたかも地雷を踏んでしまい脚を外せば爆発してしまう様な状況を…………
しかも周囲も地雷だらけで逃げ道が無い────
最後まで読んで頂き有り難うございます。
投稿初期の頃の文体を見ると、かなり恥ずかしい出来ですね。少々手を加えての投稿になりました。
ではでは…………
虚空屍