Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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話は2月6日(水)の夜から、日付が変わり7日(木)の深夜に架かる展開になります。暫くは2月7日の話が続きそうです。


21 先生は…………魔術師…………なんですか?

 熱にうなされ寝入った間桐桜は、黒い影が新都の街の裏路地で人々を捕食していく夢を見る。

 

 自分ではない黒い影だが、そればかりか自分の指示で動き空腹感を持ち、裏路地に入り込んだ哀れな人間を食べていく。しかし幾ら捕食しても空腹感は無くならない。

 

(これじゃ足りない…………)

 

 しかし間桐桜はこの異様な感覚に嫌悪し始める。

 

(嫌っ! 私じゃない! 私が…………私がこんなことする筈…………)

 

 一気に意識を取り戻し目覚めた間桐桜は部屋を窺い、安心したのか大きく溜め息を付く。

 

(はぁ~、幾ら熱ぽいとは云え、凄くリアルで嫌な夢…………)

 

 

 

 

 

 アヴェンジャーに言われ、間桐桜に張り付けていた使い魔から黒い影の動きを捉えたキャスター。

 

「さて、どうしたものかしら。ねえ、耀司様」

 

 その脇でキャスターと一緒になって使い魔からの映像を視ていた伊丹は溜め息を付いた。

 

「はぁ~…………本当に最悪のシナリオになっちゃったよ」

 

 この事を間桐桜が無自覚だったのがまだ良かった。

 

「明日学校で会わないといけないな。今なら何か手立てが有るかも知れないしね」

 

 そんな伊丹の廻り口説いやり方をさも面倒臭いと言いたげに、キャスターは指でチョイチョイと刺す仕草をする。

 

「そんな者、私の宝具で一刺しで決まりますわ」

 

「キャスター、桜君に刺すつもりかい? それは関心しないよ。桜君に刺したらライダーまで離れてしまう恐れが有るだろ! かと云ってあの黒い影に突き刺すのは至難の技だしなぁ~」

 

 確かに伊丹も、キャスターのルールブレイカーで間桐桜を刺せば、簡単に解決する事は知っているが、ライダーへの対応に頭を悩ます。ライダーが果たしてそれを許すかどうか?

 

「明日にでもうちに連れてきて話し合おうよ。やはりキャスターの云う通り、恐らくは桜君に刺す事しか出来そうにないからね。あとはライダーの反応と説得次第だよ」

 

 

 

 

 

 翌朝、出勤前に伊丹はキャスターに昨晩の話の件で念を押す。

 

「今日桜君を連れて帰って来るから、何かあったら対処出来る様にしておいてね」

 

 キャスターも伊丹の言葉に頷き、最悪のシナリオも考えている。

 

「畏まりましたわ。想定出来る可能性のある事象総べてに対策を立てておきますわ」

 

 

 

 

 

 登校した伊丹だが、数日前から校舎の廊下を歩いているとチラチラと少女が視界の隅に入る様になった。それも伊丹の後を追う様に。そして今日もチラつく。

 

 伊丹は、生徒が入り込まない場所に彼女を誘導し、優しく諭す。

 

「え~と、イリヤさん。学内に無断侵入はいけまんよ」

 

 いきなり名前を呼ばれ、何故判ったとばかりに驚きを表すイリヤスフィール。

 

「えっ、バレてたの!? イタミヨウジ、流石キャスターのマスターね」

 

 伊丹も名前と顔が一致してバレている事に諦め顔をする。

 

「こっちも身バレかぁ、あの時名前を言ったし…………もしかしてイリヤさんは偵察かな?」

 

「う~ん…………貴方に興味があるだけよ。前にした約束もあるし」

 

 以前バーサーカーと邂逅した折、伊丹は話をしたい旨を伝え、それをイリヤが了承したからであった。

 

「明日の仕事が終わったらそちらに伺うってのはどうかな?」

 

「あらっ、貴方がアインツベルンに来るの? 意外と勇気が有るじゃない!」

 

「貴女と戦う為に行くのではなく、私の話を聞いて貰えたら嬉しいなぁ~ってね。だから1人で伺わせて貰っても良いかい?」

 

 バーサーカーと云う猛者が居る事を知っているにも関わらず、単身アインツベルンに乗り込んでくる無謀とも云える話に、イリヤスフィールは何故だか少し嬉しさを覚える。

 

「解ったわ。貴方一人で来るならバーサーカーは出さないでおくわ。それとセラとリズに言ってお客様として晩餐を用意させる。ではお待ち致しております、イタミヨウジさん」

 

「あの~イリヤさん、私の事はイタミで良いですよ」

 

「じゃあイタミと呼ばさせて貰うわ。ではまた明日ね」

 

 イリヤはコートの端を摘まみ一礼をして去って行く。

 

 

 

 

 

 伊丹は昼休みに、一人で廊下を歩く間桐桜を見付け話し掛ける。

 

「間桐さん、最近は体調の方はどう? よく眠れているかい?」

 

 間桐桜は突然伊丹に話し掛けられ、しかも体調や睡眠の事に付いて訊かれ少々面食らっていた。

 

「先生、何でその様な事を…………」

 

 確かに微熱が続き、おかしな夢を見て目を覚ましたりして顔色が悪いのかと考える間桐桜と、それを察したのか答えを暈す伊丹。

 

「間桐さんの顔色が良くないし、何かあったのかと思ってね」

 

 伊丹に言われ話し出す間桐桜。

 

「最近微熱があったり、変な夢を見て起きたりとかが有りまして…………」

 

 間桐桜が自身に起きている事を素直に話し出した事で伊丹も少しは安心し彼女に切り出す。

 

「俺の許嫁さんに相談してみるのはどうかな? そう云うのに詳しいみたいだし」

 

 学校内で誰が聞いているか解らないのでキャスターと言わず、敢えて許嫁と言う伊丹。それを知っている間桐桜は少々考えた後、伊丹の提案に同意する。

 

「先生が宜しければお邪魔させて頂きます。」

 

「なら善は急げとも云うし、今日学校終わったらでどうかな?」

 

 間桐桜の放つ黒い影が力を付けない内に、早急に何とかしたい伊丹は少々強引に彼女を誘う。

 

「私は構いません。先生がお帰りの時に一緒に寄らせて頂きます。」

 

「なら決まりだ! 私の仕事が終わるまで申し訳無いけど待っていてね」

 

 伊丹は間桐桜と放課後の約束をした後、他愛もない話をして別れた。

 

 

 

 

 

  夕方、仕事を終え雨の中、帰路に着く伊丹と間桐桜。生憎傘が伊丹の物しか無く、伊丹に胸を押し付ける様に寄り添う間桐桜。

 

(うふふ、私とても嬉しいんです。伊丹先生が私の事を気に掛けて下さってくれて)

 

 そんな間桐桜の想いを知ってか知らずか伊丹は戸惑いをみせる。

 

(またかい桜君! でも先生は嬉しいぞ!)

 

 鼻の下を伸ばしながら歩く伊丹は、彼女にこれから起こる事に、決してライダーを出さない様に言うが、何の事か解らない間桐桜は伊丹の言う事を信じ了承する。

 

 夕方から夜に差し掛かる薄暗がりの中、二人が道の脇にある廃墟の前に差し掛かるその時、突然何かを撃ち込まれる。

 

「きゃっ!」

 

 突然の事に悲鳴を上げる間桐桜。

 

(仕方がない、下手な芝居でもするか)

 

 伊丹は咄嗟に間桐桜を突き放し庇い、自身も躱すも差していた傘にそれが当たり燃え上がる。そして態とらしく腰を抜かし転び、あわわっと地面を這い着く張って見せる。

 

 すかさずキャスターと念話で話す伊丹。

 

(キャスター、凛と士郎の密談を知らせてくれたお陰で心の準備が出来て助かったよ。でもこっちに来たら駄目だよ。そちらでおれの三文芝居でも観ていてくれよ)

 

 キャスターは伊丹と間桐桜の事を心配するが、柳洞寺から抜け出せない事態が起きてもいた。

 

(些か心配ではご座居ますが、耀司様の仰せの通りに。こちらは何やらアーチャーが偵察をしている様子ですので、柳洞寺に籠っていますわ。ではご無事のご帰宅をお待ちしております)

 

 

 

 

 

 すると衛宮士郎が物陰から伊丹の前に出て来る。しかし間桐桜が居ることに驚く。

 

「何で桜が…………」

 

 そんな衛宮士郎を見て間桐桜も信じられず驚く。

 

「先輩が何でこんな事を…………」

 

 そんな驚き顔の衛宮士郎に伊丹は少々語気を強めて言う。

 

「衛宮君か!? 何て事をするんだ! あわわっ、傘が燃えちゃった…………先生に撃ってきたのは打ち上げ花火なのか?」

 

 勿論遠坂凛のガンドである事は解っている。

 

 雨で濡れた路面に転がった為、スーツが擦り切れ泥だらけの伊丹が立ち上がると、衛宮士郎が躊躇いがちに問いかけてくる。

 

「先生は…………魔術師…………なんですか? それと何で桜が一緒に…………」

 

「間桐さんの事は君には関係ないよ。それに衛宮君、質問は先生が先にした筈だよ。何でこんな事をするんだ、とね。それと打ち上げ花火を私に向けて撃ったのかどうかもね。さあ、答えてくれ、衛宮君!」

 

 すると今度は遠坂凛が物陰から出て来る。

 

「先生に向けて撃ったのは私です。それにしても間桐さんまで一緒だったとは…………」

 

 物影から出て来た遠坂凛とその言葉に、更に驚く間桐桜。

 

「これは遠坂さんが撃ったのか! それで何を撃ち込んだんだ?」

 

 キャスターのマスターかどうか確かめる為にガンドを撃ちました、など言える訳も無く押し黙る遠坂凛。

 

「……………………」

 

「何故黙っているんだ? 君達に聴いているんだ。それとも何かい? 君達はただ私を傷付けたいだけなのかな?」

 

 押し黙る遠坂凛に、普段は大人しい間桐桜が語気を強め言い放つ。

 

「姉さん!! 何でこんな事をするんですか!?」

 

 間桐桜が遠坂凛を姉さんと呼んだことに驚くも、伊丹の言葉を衛宮士郎は強く否定する。

 

「先生! それは違います! 桜、違うんだ…………」

 

「咄嗟に避けたから良かったけど、一歩間違ったら大火傷だよ! それに間桐さんが怪我したらどうするんだ! 後、そこの茂みに誰か居るでしょ? 出て来なさい!」

 

 伊丹は青年期のトラウマで、危機を察知する能力がかなり高い。所謂、虫の知らせと云うやつだ。遠坂凛のガンドを避けられたのもこの能力に依る処が大きい。

 

 伊丹が茂みの主に声を描けると、伊丹から目を逸らす事無く茂みから出て来るセイバー。

 

 間桐桜はそれがセイバーと直ぐに解った。

 

「なんでセイバーさんまでここにいるの…………」

 

「あらっ! 一昨日の外人さんだ!」

 

 態とらしくセイバーに驚く伊丹だが、衛宮士郎はそれを聞き流すかの様に問い掛ける。

 

「何で茂みに隠れて居るのが判ったんですか?」

 

 衛宮士郎があり得ない事だと思い訊いた。

 

「これでも自衛隊のとある部隊に居たから、気配は感じるんだよ。さて、最初の質問に答えて貰うよ」

 

 彼はアッサリと答える。

 

「先生が魔術師だと思ったからです」

 

「先生は魔術師ではないよ。でも攻撃されたって事は悪い魔術師と思われたのかな?」

 

「はい…………申し訳有りませんでした」

 

 伊丹は知りつつも、態と遠坂凛に訊ねる。

 

「それと遠坂さんが撃ってきたのは何だい?」

 

「伊丹先生が言われた通り、50連発打ち上げ花火を撃ちました…………」

 

「本当に? 市販ので50連発なんて有りなのか! それに取扱い説明に人に向けてはいけませんって書いてあるでしょ! 本当なのかな~…………ん~?」

 

「はい…………」

 

(この娘はかなり頑固だな。まあ魔術は秘匿する物だから仕方がないか)

 

「嘘はいけないなぁ~、まず発射の際の閃光が無い、立ち上る煙も無い、そして火薬の臭いがしないんだよ。こんなんでも元自衛官だよ、先生は!」

 

 ここまで言われたら否定の仕様が無いと諦めた遠坂凛。

 

「済みませんでした。一応魔術を撃ちました………………」

 

 そこにすかさず間桐桜が口を挟んで来る。

 

「姉さんや先輩は、何で伊丹先生を目の敵みたいに襲うんですか? 信じられません。こんなに親身になって生徒の事を考えて下さる先生は居ません。」

 

 この言葉に言い返せない遠坂凛に、伊丹は畳み掛ける様に言い放つ。

 

「やっぱり打ち上げ花火じゃ無いじゃん! なら魔術を撃った遠坂さんって魔法少女なの!?」

 

 遠坂凛は魔法と魔術は別物として捉えている為、少々可笑しな答えをする。

 

「いえ…………魔法少女ではなく魔術少女かと…………」

 

(ぷっ、自分で少女って云う柄じゃないだろうに…………凛ちゃんは可哀想な子だよ)

 

「でも先生と間桐さんが、君達の事を魔術師とかそこの鎧を纏った異国の美少女を知ってしまって良いの?」

 

「この娘はセイバーと云います。父の切嗣を頼って日本に来たのですが、父が亡くなった事もありうちで宿泊して貰っています。それに桜の事は大丈夫です」

 

 取り繕った説明をする衛宮士郎の話を受け流し、伊丹はすかさず関係の無い突っ込みをする。

 

「セイバーさんはコスプレ趣味なんだ。でも凄く精巧に作られているね。しかもメタル製? さぞや値が張ったんじゃないかな」

 

 伊丹と衛宮士郎のやり取りに、魔術の秘匿の問題も絡み遠坂凛は衛宮士郎を制する。

 

「ちょっと衛宮君! ペラペラ喋らないで!! それになんで桜が先生と一緒に柳洞寺に向かっているんですか?! 先生は私達の事を口外すると仰るんですか? それ次第でこちらも対処させて頂きますが?」

 

 何故か逆ギレをしだす遠坂凛の言葉に、嫌味っぽく答える伊丹。

 

「はは~ん。それってもしかして脅迫~? 別に口外する気も更々無いし黙っているよ。さあ、これでどうするの~?」

 

(さあ、どうするのかな?無抵抗の人間を?)

 

 案の定、彼女は伊丹が到底呑めない要求をして来る。

 

「今起きた出来事の先生の記憶を消させて貰えますか?」

 

「いいや、断る! 君達は有った事や起こった事実を無くせと云うのか!? それこそ神に弓を引く行為だよ!! ねぇ、セイバーさん?」

 

 セイバーの恐らくは聖杯に託すであろう望みを否定する伊丹に、セイバーは答えに窮する。

 

「そっ、それは…………」

 

 遠坂凛は話をあちこち逸らす伊丹を睨み付ける。

 

「伊丹先生! セイバーさんは関係ないです。今は私と先生が話しているんです」

 

「では何故私や間桐さんの記憶を消さないといけないんだ。黙っているって言ったけど、信用出来ないのかな?」

 

「先生の信用の問題では無いんです。一般人には魔術の存在自体を知られてはいけないんです」

 

 魔術の秘匿を頑なに守ろうとする遠坂凛を相手に、伊丹は些か面倒臭くなり話を暈し始める。

 

「君たちの云う一般人って何だい? 魔術を知らず、行使出来ない人を指して居るのかな?」

 

「はい。その様に理解して頂ければ」

 

「なら少なくとも私は、君達が云う処の一般人ではないよ。これなら記憶を操作され無いんでしょ?」

 

 あり得ないと言いたげな顔をする彼女。

 

「先生、それはどう云う事ですか!?」

 

「私は魔術の存在を知っているって事だよ。何も魔術師だけが魔術を知っている訳でも無いしね」

 

 これには遠坂凛と衛宮士郎、そしてセイバーも驚いた。

 

「何故先生が魔術を知っているのですか!?」

 

 伊丹は話を暈す様に事実を話す。

 

「メイ☆こんを読んでるからだよ…………と云うのは冗談だけど、私の知人にそう云う人が居てね、本当だよ。それに君達は今、何だかとても大変な事に巻き込まれて居るって聞いたりもしたよ」

 

「先生は何を知っているんですか!?」

 

「知っている事全てを知っている、とでも言うしか無いんだけどね」

 

 流石に遠坂凛は暈しまくりの伊丹の言葉に気が付く。

 

「煙に巻いて誤魔化すつもりですか?」

 

「いいや、事実しか言ってないよ。魔術は一般人には秘匿される物だがしかし私は違う、と云う訳で帰らせて貰うよ。それと燃えた傘と擦り切れたスーツ代を請求させて貰うから。あの傘は一万円もしたんだぞ! しかもスーツは五万円位かな。合わせて六万円、覚悟しておきなさい。それとこの襲撃の件で君達を責める気は無いからね」

 

 最後に間桐桜は、衛宮士郎と遠坂凛に一言言い放つ。

 

「先輩も姉さんも、伊丹先生に対して酷すぎます。幻滅しました。正直一緒にやっていく自信がありません!」

 

 伊丹は参った参ったと呟きながら、フラフラと仕出す身体を間桐桜に支えられる様に帰って行く。

 

 

 

 

 

 

 取り敢えずホッとした衛宮士郎が口を開く。

 

「なあ遠坂、どうするんだよ。伊丹先生はああは言ってくれたけど、普通だったら大問題だぞ! それに桜が遠坂を姉さんって呼んでいたし」

 

 冷静になり、事の重大さに気が付き始めた衛宮士郎。しかし悪いのは他人の所為と云う遠坂凛。

 

「あんまり身内の事を話したくはないんだけど、桜はもともと遠坂の娘で私の妹だったの。一子相伝の魔術師の家系では、桜は一般人として生活する他ない事に目を付けた間桐臓硯が、桜に間桐家の魔術の存亡を託して養子に出され迎えられた訳よ。でも伊丹に関しては柳洞寺に住んでる紛らわしいアイツが悪いのよ!しかも六万円だなんて。アイツ鬼よ!!」

 

「でも良かったじゃないか、伊丹先生はマスターじゃ無いみたいだし」

 

 しかしどうにも遠坂凛は納得がいかない。

 

「でも伊丹は魔術を知っているのよ! それだけでも充分怪しいわよ!! それに最近は桜とよくつるむみたいなのよね」

 

「でも一般人みたいな俺でも、取り敢えず半人前だけど魔術師だろ。なら伊丹先生みたいな人も居るんじゃないか?」

 

「アイツは怪しいの! 怪 し い の!! 判らない!?」

 

 遠坂凛は念話で、柳洞寺に偵察に行かせたアーチャーと話す。

 

(アーチャー、柳洞寺の方はどうなの?)

 

(ああ、結界のガードが固くて境内の状況はよく判らないが、山門にサーヴァントが一体居るな。恐らく結界の穴を守って居るのだろう)

 

(攻めるなら山門からしか無いのね?)

 

(そう云う事だ。おっ、凛の学校の教師が帰って来た処だ。伊丹とか云ったな。おや、桜も居るが良いのか?)

 

(解ったわアーチャー。帰ってらっしゃい)

 

(ああ、そうさせて貰おう)

 

 怒りの収まらない遠坂凛は、それを衛宮士郎にぶつけるかの様に言い放つ。

 

「衛宮君、此処は引き揚げましょう。もう用は済んだわ。それと六万円は折半よ!」

 

 伊丹襲撃を立案し衛宮士郎を巻き込んだ遠坂凛は、しれっと伊丹に支払う弁償金について話の中に滑り込ませる。

 

「ああ、引き揚げよう。それにしても桜の事が気になるな…………ちょっと待てよ、折半!? しかし三万円はキツいな」

 

 抗議にも近い衛宮士郎の折半の言葉を無視して、間桐桜と伊丹の関係性を考え込む遠坂凛。

 

「そうだったわね。桜が急に伊丹なんかとつるむなんてどうしたのかしら?」

 

「しかし桜は伊丹先生の事では本気で怒っていたな。」

 

 衛宮士郎と遠坂凛が、間桐桜を心配している雰囲気を打ち壊すセイバー。

 

「シロウ、お腹が空きました! 帰って晩ご飯にしましょう。そして私には温かい食事を食べさせないといけません。私が食事を待っています。そうです、私がシロウの食事を待っているのです! 後はうちに帰ってから考えましょう。さあ、早く帰りましょう、シロウ!」

 

 

 

 

 

 一連のやり取りを使い魔を通して視ていたキャスターは、遠坂凛と衛宮士郎の態度に鬼の様な形相で苛立ちを覚える。

 

「耀司様にガンドを撃ち込んだんだ挙げ句、論破されるまで知らを切るなんて! しかもそれをお許しになるなんて耀司様は優し過ぎますわ!」

 

 程無くして伊丹と間桐桜が帰って来る。

 

「ただいま、キャスター。ホント参ったよ~」

 

「お邪魔しますキャスターさん」

 

 キャスターは二人の帰宅により普段の顔を取り戻す。

 

「よく入らしたわねお嬢さん。あんな事もあった事だし、良かったらお風呂で身体を暖めなさいな」

 

 キャスターの申し出に対し、間桐桜は泥塗れになった伊丹からの入浴を勧める。

 

「有り難うございます。私はずぶ濡れの先生の後で構いません。」

 

 伊丹は泥塗れのスーツを脱ぎ、雨ざらしで冷えた身体を暖める為、風呂に入りだし、伊丹が済んでから間桐桜も冷えた身体を暖めるため風呂を借りた。

 

 風呂上がりの耀司と間桐桜を待っていたのはキャスターお手製の鍋料理である。

 

「お疲れ様でした、耀司様、お嬢さん。お身体もさぞ冷えた事でしょう。しかしそこまでしてあの様な出来損ない共に斯くも優しく接する必要がご座居ましょうか?」

 

 三人は鍋を突つきながら話す。

 

「出来損ないは酷い言い方だね。彼等はまだまだ人格形成の途上なんだよ。これからどう花開くかも判ら無いんだから、綺麗な花が咲く様に手入れをするのが大人の責任でも有るんだよね」

 

 キャスターは、酷い目に会わされてもなを衛宮士郎と遠坂凛を思いやる伊丹の気持ちに疑問を呈する。

 

「大人の責任であって、教師としての仕事から逸脱してはいませんか?」

 

「そうだね。正直教師なんて者は子供に知識を与えるだけの存在でも良いと思っている。但し社会の中での在り方やルールは家庭で教えなくては駄目だ。これは教師の業務ではなく親の責任だ」

 

「ならば彼等が勝手に自滅するのを、傍観していれば宜しいのでは?」

 

「衛宮士郎や遠坂凛、そして桜君はその家庭環境が欠けている。第四次で大災害が起きた所為で冬木市はそう云う環境の人が多いいんだよ。

 だから教師としてもそうだけど、社会のルールを教える大人の責任も果たしたいなと思っていてね。しかし俺も彼等の事を云えた環境で育った訳でも無いんだよな…………」

 

 話の最後を曖昧に答えた伊丹に若干の陰を見た間桐桜は尋ねる。

 

「伊丹先生の育った家庭環境も私達と似ていたと云うのですか?」

 

「う~ん…………俺も親が居なくて育った時期があったし…………」

 

 この伊丹が濁した言葉に、少なからずキャスターは戸惑った。

 

(耀司様の生い立ちを私は知らなかった。いったいどんな環境で育ったのかしら…………)

 

 伊丹は自身の過去を思い出して答えを暈し、気分を切り替えるかの様に大きく溜め息をつく。

 

「つはぁ~! しかし教師って大変だよ! 仕事から逃げる隙が無いんだよ。前の職場ではこんなに大変な事は数える位にしか無かったんだけど…………」

 

 まだキャスターすらも知らない、伊丹の暗く重い過去が有る事を彼女は改めて認識する。

 

(耀司様…………)

 

 

 

 

 

 食事も終え一休みした後、伊丹は間桐桜を呼んだ事の説明をキャスターから切り出す事にしてもらう。

 

 




最後まで読んで頂き有り難うございます。

凛と士郎の暴挙に、彼等の在り方に疑問を持った桜はどうなるのでしょうか?


ではでは…………


虚空屍
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