Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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話は日付が変わり2月7日(木)の深夜です。


22 こんな…………こんな年下の私では…………駄目なんですか

 伊丹は間桐桜を呼んだ事の説明を、キャスターから切り出す事にしてもらう。

 

 キャスターは紅茶を一口飲むと間桐桜に話し出した。

 

「お嬢さん、体調が良くないそうね。微熱とおかしな夢を見るって耀司様から聞いたのだけど、どんな夢かしら?」

 

 キャスターは努めて優しく間桐桜に話し掛ける。

 

「はい、凄くリアルで生々しく嫌なんですが、お腹の空いた黒い影が街の人を襲い取り込んで仕舞うんです。でも満腹にはならなくて…………」

 

 間桐桜の答えは、伊丹やキャスターが使い魔を通して視ていた物と同じであった。予想通り黒い影は間桐桜から出て来た物であるが、本人にはその自覚がない。

 

 キャスターは影が間桐桜の意思に基づいて行動するのか聞いてみる。

 

「黒い影が街の人を襲って捕食してしまう夢なのね。その黒い影は、夢の中でお嬢さんの思う通りに行動するのかしら?」

 

 間桐桜は夢を思い出しながら答える。

 

「はい、私が夢の中で思った通りに行動するみたいです」

 

 ここまでの会話で伊丹とキャスターは、まだ間桐桜が暗黒面に堕ちてはいない事を確信したが、今後の展開に依って黒桜に豹変する事を危惧する。

 

 キャスターは覚悟を決め間桐桜に言う。

 

「以前貴女の心臓から刻印蟲を取り除いた時、聖杯の欠片が取りきれず残した話をしたけど覚えているかしら?」

 

「ええ、覚えていますが…………」

 

 キャスターの問い掛けに、不安げに答える間桐桜。

 

「その欠片とこの敷地の地下に有る大聖杯が繋がった様なの。正確に言うと大聖杯の中身となんだけど」

 

 キャスターの言っている事が理解出来ないでいる間桐桜は、沈黙しているが何とか言葉を見付け聞き返す。

 

「それってどういう事ですか?」

 

 キャスターはその問には答えずに、一先ず聖杯戦争と聖杯について語り出す。

 

「桜さん、聖杯戦争でサーヴァント同士が戦って聖杯を得るのは解っているとは思うけど、倒されたサーヴァントの魂と言うかエネルギーは何処に行くかご存知かしら?」

 

 キャスターからの問い掛けに恐らくは聖杯であると確信する間桐桜。

 

「聖杯…………ですか」

 

 キャスターはこくりと頷いて話を進める。

 

「では、その聖杯は何処にあるか判るかしら?」

 

 間桐桜も流石に聖杯が何処にあるかまでは知る由もない。その所在が判らず沈黙しているとキャスターは言葉を繋げる。

 

「心臓よ。アインツベルンが用意したホムンクルスの心臓が聖杯になるのよ」

 

 このキャスターの一言に、間桐桜は驚きを露にし口を開く。

 

「アインツベルンは聖杯のシステムを作り出した三家の一つで、聖杯戦争の参加者じゃないですか! その参加マスターが聖杯に成るのですか!?」

 

 間桐桜の驚きも当然とばかりにキャスターは話を続ける。

 

「そう云う事よ。今回もアインツベルンのマスターが聖杯になる筈なのだけど、貴女のお爺様が第四次聖杯戦争で手に入れた聖杯の欠片を、貴女の心臓に埋め込んで貴女を聖杯に仕立て上げ様としたの」

 

 間桐桜は聖杯の欠片を埋め込まれていたのは承知していたが、自分自身が聖杯になる可能性が有るなどとは露にも考えてもおらず酷く動揺する。

 

「私が聖杯に成ったら私では無くなると云う事ですか?」

 

 恐る恐る聞いてくる間桐桜に、キャスターはキッパリと事実を伝える。

 

「そうよ。大聖杯を起動させる為のサーヴァントの受け皿になるだけよ。そんな物を臓硯は貴女に埋め込んだのよ」

 

 間桐桜は自分が間桐臓硯にとって、只の道具であった事を再確認させられショックを受け茫然とする。

 

「そこで話を最初に戻すけど、貴女に埋め込まれた聖杯の欠片が動き始めているのよ。貴女の夢で見る黒い影は夢ではないのよ」

 

 間桐桜は間桐臓硯に怒りを感じ、キャスターの話に混乱して茫然自失となっている。ましてやあの黒い影が夢では無いなどとは。

 

 伊丹は空かさず間桐桜の肩を揺さぶる。

 

「桜君、桜君、大丈夫かい?」

 

 この伊丹の行動で我に返る間桐桜。一旦お茶でも飲もうとの伊丹の提案に微かに頷く間桐桜。

 

 紅茶を飲み若干落ち着いてきた間桐桜は、キャスターに問い掛ける。

 

「あの黒い影が存在し私が動かしているならば、どうしたらいいのでしょうか?」

 

 やっと本題に入る事が出来ましたとばかりにキャスターが微笑む。

 

「桜さん、ライダーを呼んで頂けるかしら?」

 

 何故にライダーがと思いながら間桐桜はライダーを実体化させる。するとキャスターはライダーに向かい問い掛ける。

 

「ライダー、貴女にとって桜さんは只のマスターかしら?」

 

 当たり前過ぎるキャスターの問い掛けに、ライダーにも間桐桜にも質問の意味が解らない。ライダーは当たり前の答えをする。

 

「私のマスターはサクラです」

 

 このライダーの答えに伊丹は空かさずキャスターの質問の意味の補足に入る。

 

「こんな事を聞くのは失礼だと承知した上で尋ねるけど、臓硯はサーヴァントとして今のライダーを召喚しようとはしなかった筈だよね。寧ろ外れを引いたって感じだったと思うんだけど」

 

 伊丹にはバイザー越しではあるが、ライダーが物凄く睨んでいるのがひしひしと伝わる。

 

(不味い、ライダーを怒らせたみたい…………バイザー越しでも石化しそうなんだけど、キャスター助けてくれ)

 

 そんな伊丹にライダーは語る。

 

「確かに間桐翁にはその様な思いを持たれた事は事実です。それでも私が召喚されたのは、一重にサクラの想いが私に伝わって来て共鳴したからではないでしょうか」

 

 一時、偽臣の書で間桐慎二にライダーを取り上げられてはいたが、ライダーの桜に対する態度は付かず離れずの親鳥のようでもある。

 

 伊丹は以上の考えを元にライダーに聞く。

 

「ライダー、君は桜君とライダーのパスがきれても、彼女を護り従い続ける事ができるかい?」

 

 本来ならパスの切れたサーヴァントは、嘗てのマスターに牙を向く事も多々ある事なので、伊丹は敢えてこの問をライダーにしてみた。

 

 しかしライダーはキッパリと答え、自分の存在の何足るかを理解している。

 

「私はサクラとのパスが有ろうが無かろうが、彼女を護るために召喚に応じました。世間を敵に回そうともサクラが望めば、私は最大限に彼女に応える誓いを立てました」

 

「パスが有っても無くても、彼女に寄り添うと考えていいのかな?」

 

「はい、仰る通りです」

 

「君の桜君に対する想いが伝わったよ。ありがとう、ライダー。失礼な事を聞いて申し訳無い」

 

 一通り話が済むと伊丹はライダーと間桐桜に頭を下げ謝罪をする。

 

 これらライダーの発言で、伊丹とキャスターは一つの方向性に傾く。それは間桐桜にルールブレイカーを突き刺す事でもある。

 

 するとキャスターは、話を間桐桜の黒い影に戻す。

 

「先程も言った様に例の黒い影は、現在は桜さんから無意識の内に飛び出て活動しているの。当然貴女に責任は無いわ。ただ…………」

 

 取り敢えず責任は無いと言われ安堵したが、キャスターが言葉を詰まらせた事に違和感を感じた間桐桜はその続きを彼女に促す。

 

「ただ、なんなのですか」

 

「そうね、前にも話したけど貴女の心の持ち様なの。例え今、影を始末しても貴女の心が揺らいでいると再び影は現れてしまうわ」

 

 以前に言われた事を思い出すが、間桐桜はキャスターの言う影を出してしまう程の心の揺らぎの意味が今一解らない。

 

「桜さん、貴女にとって懸け替えの無い程に大切な物はあるのかしら? もしくは貴女が想いを寄せるに値する人は居るのかしら?」

 

 ここに来て間桐桜は、キャスターの言わんとしている事の意味を悟り、今迄自分の心の奥底に歪な形で封印している物と見つめ合った。

 

「私にとって大切なものは…………ライダー、遠坂先輩、衛宮先輩、キャスターさん、そして伊丹先生…………」

 

 この間桐桜の答えに、キャスターと伊丹は飲み掛けていた紅茶を噴き出す程に驚き狼狽し、特にキャスターはみるみる顔色が青くなるが直ぐに真っ赤になる。

 

(くっ、この小娘! よもや耀司様に惚れたなどとは言わせないわ!)

 

 このキャスターの反応に敏感に気付いたライダーは、然り気無く間桐桜をいつでも守れるように彼女に寄り添う。

 

 ライダーの僅かな動きに気付いたキャスターも、やや冷静さを取り戻し、間桐桜に話し掛けるがどもってしまう。

 

「でででででもね、お嬢さん。貴女が名前を出した方々をどう大切に想って居るのかしら?」

 

 間桐桜は名前を挙げたそれぞれについて自分の胸の内を語り出す。

 

「ライダーはお母さんみたいな感じで────」

 

 まずはライダーが微かに顔を歪める。

 

(私がサクラの母ですか? そんな年格好ではないのですが…………ショックです…………サクラ…………)

 

「遠坂先輩は血の繋がっている姉ですが、衛宮先輩は大事な…………憧れの好きな人ですけど、姉さんが居ますし正直衛宮先輩の気持ちが解りません。キャスターさんは近所の世話好きおば……いえ、お姉さん────」

 

 今度はキャスターが額に青筋を立てる。

 

(ちっ、この小娘! 私を今、オバサン呼ばわりしようとしたわね!!)

 

「そして伊丹先生はお父さん────」

 

(俺は親父とか云う歳か?! 悲しいぞ桜君!!)

 

「いえ、もしかしたら衛宮先輩かそれ以上に好きかも知れません!」

 

 この間桐桜の最後の言葉に、伊丹は驚きの余りポカンと口を開け、ライダーは思わず口角を上げ、キャスターは更に額の青筋を増やす。

 

(こ む す め ~! 私の耀司様に粉を掛けるつもりかしら~、マジ許すまじ…………)

 

 プルプルと拳を握り締めているキャスターの異変を感じたライダーは、彼女に小声で耳打ちをする。

 

「貴女のマスターが、サクラに汚物の様に嫌悪されるよりは良いと思いますが…………」

 

 この一言で非常に複雑な心境になるキャスター。

 

(確かにそうですわね。教師として人として嫌われるよりは、好意を持たれた方が或る意味、その人の人柄を表すし私も嬉しいのですが、こうも露骨に好きだと言い放たれてしまうと、どうにも腹の虫が収まりませんわ!)

 

 そこで当の伊丹が口を開く。

 

「間桐さん、君の気持ちは嬉しい。しかし私は教師だしキャスターと云う許嫁もいる。君にはもっと相応しく歳も近い相手が居る筈だよ。」

 

 至極真っ当な事を言う伊丹であるが、それを承知で間桐桜は両腕で胸を挟んで押し上げ、潤んだ瞳で彼を見つめ問い掛ける。

 

「こんな…………こんな年下の私では駄目なんですか…………」

 

 これには伊丹も堪らず鼻血を垂らし、キャスターは立ち上がりライダーを呼び寄せる。

 

「ちょっとライダー! 貴女からもなんか言ってやって頂戴!!」

 

 しかしライダーは冷たくキャスターに言い放つ。

 

「私はサクラの望むがままに」

 

 ライダーのこの一言で、キャスターの中の何かが弾けた。

 

「この小娘がぁーー!!」

 

 このキャスターの言葉が開戦の合図となり、間桐桜が応戦する。

 

「女房面するなぁーー! この押し掛けがぁーー!!」

 

 キャスターと間桐桜はお互いを掴み合い、キャットファイトの様相を呈してくる。流石に伊丹が間に入り込んで止めに懸かるも、二人は止める処か益々ヒートアップしだす。

 

「耀司様は私の許嫁なのが判らないのーー!!」

 

 ガッシリと伊丹の右腕を掴むキャスター。

 

「伊丹先生は私の身を案じ、身を呈して守って下さった人なんだからぁーー!!」

 

 伊丹の左腕を掴み引っ張る間桐桜。

 

 終いにはそれぞれが伊丹の腕を掴み、右や左へと引っ張り合う事態に迄発展する。

 

 たまらず間桐桜はライダーに命令をする。

 

「ライダー! 私と一緒に伊丹先生の腕を掴んで!!」

 

「へっ?! わっ、判りましたサクラ…………」

 

 この間桐桜からの命令に半分呆れながら従い、伊丹の左腕を軽く引っ張るライダー。

 

 今度はキャスターがランサーを呼び出し、一緒に右腕を掴む様に命じる。

 

「ちっ、仕様がねえなぁ…………」

 

 ランサーも呆れた感じで軽く伊丹の右腕わ掴む。

 

 両陣営の中心で腕を引っ張られ、苦悶の表情を浮かべ叫ぶ伊丹。

 

「俺は生身の人間なんだ! サーヴァントに引っ張られたら腕が千切れるからぁ~~、ホント止めてくれ!! やばい!! マジ痛いぞ…………うがっ!!」

 

 ポクッとした音と共に伊丹の両肩の腕の関節が抜け、彼は苦悶の表情を浮かべガクリとへたれ込む。

 

 この音の異常さにキャスターは気が付き、咄嗟に伊丹の右腕を離し彼に寄り添い、身体の異常箇所を確認し外れた右肩をはめ込む。

 

「ご免なさい耀司様、ご免なさい、ご免なさい、ご免なさい…………」

 

 彼女はポロポロと涙を流しながら、ひたすら伊丹に謝り続ける。

 

 涙ながらの顔を間桐桜に向けて、キャスターは優しく丁寧に語り掛ける。

 

「桜さん、どうか耀司様の左腕を離して下さいませんか」

 

 伊丹が倒れ込んでもなを、彼の左腕を掴んでいる事に気が付いた間桐桜は、慌ててその手を離す。

 

「有り難うございます。桜さん」

 

 キャスターは間桐桜に礼を言い、外れた左肩をはめ込んだ後に両肩に治癒の魔術を掛ける。

 

 事の重大さに気が付き、座り込み両手で顔を覆い泣き出す間桐桜。

 

「伊丹先生ご免なさい。本当にご免なさい…………」

 

 伊丹に寄り添いながら、キャスターは泣き出した間桐桜に謝り出す。

 

「桜さん、ご免なさい。私が大人気ない事をしたばかりに、貴女に嫌な思いをさせてしまって。耀司様、桜さんには責任は御座いません。咎は私が負いますので、桜さんを許して上げて下さいませ」

 

 痛みが退いてきた伊丹は二人に話し掛ける。

 

「勿論だキャスター。しかし別に誰が悪い訳でも無いから、二人とも気にしないでくれ。キャスターも桜君も泣くのを止めて涙を拭いてくれ」

 

 二人の女性を泣かせたバツの悪さもあり、伊丹は伊丹で、この事をさっさと水に流したいと感じている。

 

 

 

 

 

 程無くして二人は泣き止み、落ち着きを取り戻すが、間桐桜は伊丹の肩が外れてからのキャスターの行動に、自分ではキャスターに敵わないと敬服すらしだす。

 

「キャスターさん、申し訳ありませんでした。暴言の数々をお許し下さい。私ではキャスターさんには敵わないと気が付かされました」

 

 素直に謝る間桐桜にキャスターは言葉を掛ける。

 

「こちらこそ貴女を子供扱いしたりして申し訳なかったわ。大人気なかったわね。しかし私も桜さんの心の強さの一面を知らされたわ」

 

 暫し考え込んだキャスターは、間桐桜と二人きりで話しがしたいと伊丹に言い、彼もそれを了承し二人は別室で話し合いを始める。

 




最後まで読んで頂き有り難うございます。

こんなの桜じゃない、と思う方々、申し訳ございません。でも桜です。今後も桜です。


ではでは…………


虚空屍
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