まだまだ2月7日(木)の未明です。
疑似伊丹家の家族会議が始まる。
議事進行はお父様の伊丹耀司であるが、呼び慣れない事に照れが出てしまう伊丹。
「え~っと、さ、桜。桜とライダーは伊丹一家に全面協力と云う事と思って良いのかな?」
桜は伊丹の言い方に少々の不満を漏らしながら言う。
「もう、お父様ったら。私を呼ぶのに変な緊張や照れは止めて下さい。それに私は伊丹家の娘。私とライダーは、お父様やキャスター姉様と共にある事を誓います」
伊丹は桜に対し伊丹とキャスターの戦い方、戦う理由そして聖杯戦争の落とし所を話す。
「二人の愛の為に戦い残るなんて素敵ですね。私もその一員に加えて頂き有り難うございます」
一員に加えるのは構わないが、聖杯に託す望みに大きな違いが有ると、争いの元となる為に確認をとる。
「桜やライダーは聖杯に託す望みは無いのかい?」
桜は今まで聖杯戦争から距離を置いていた為、託す望みなどは考えてもおらず困惑する。
「今まで考えもして居ませんでした。ですから望みは特に有りません…………いえ、お父様やお姉様の望む事に私を加えて頂く事が望みかも知れません」
桜は伊丹とキャスターとの三人での生活を望み、伊丹とキャスターはこの桜の望みならば問題なしと考え了承する。
伊丹とキャスターは、桜がゆくゆくは養女になりたいと考えている事も知っているので、聖杯戦争の後に法的な手続きをする事について決め、桜もそれに同意をする。
一番の問題でもある桜の住まいについて話が出る。
「私はお父様とキャスター姉様と暮らしますので、お爺様が仰られた様に、間桐の魔術関連の物はお姉様が入り用な物を全て持って行って下さい。」
桜の同居発言に困り出す伊丹。法的な手続きも済ませてはおらず、生徒と同居とは教師として学園としても問題があるし、何せこの状況を零観さんにどう説明をするか頭を悩ます。
「いきなり同居は不味くないかい。桜のお兄さんである慎二君にも話さないといけないし、学園の絡みや零観さんにも…………なあ、キャスター」
伊丹はキャスターに助けを求めるが、流石にキャスターも困り出す。
「魔術で取り敢えずの偽の記憶を植え付けるにしても、その対象となる人が多すぎて手間が掛かり過ぎますわね。柳洞寺と学園だけでは済みませんし、この冬木市規模の物でないと…………でもやってみますわ! 大袈裟な魔術でもありませんし、冬木市規模で市民の皆さんから霊力を頂いていますから、その繋がりを使えば可能かと」
伊丹は取り敢えず可能ならば試す様にキャスターに頼む。
「しかし桜は衛宮君の家に行かなくても良いのかい?」
いきなり生活環境を変えて、精神的に不安定な状況を作る事に懸念を示す伊丹。しかし桜はそんな伊丹の心配を一笑に伏す。
「大丈夫です。彼方にある私物位は取りに行きますが、以前の様にお邪魔は致しません。それともお父様が引き続き内偵しろと仰るのでしたら、毎日通ってみせます」
伊丹とキャスターは桜の割り切り方と内偵もい問わない姿勢に驚くも、内偵は不要であるし、通う必要が無いなら通わなくても良いと桜の意思に委ねる。
キャスターは伊丹に間桐臓硯の頭について話をしだす。
「耀司様、いつまでも臓硯が行方不明では些かの厄介かと。最悪、司法警察関係が動き出す恐れがありますわ。」
キャスターの言う事は至極当たり前の事なので、どうすれば良いか彼女の考えを聞く。
「流石に人を生け贄にして、身体の再生を行わせる訳にもいきませんから、それ以外の方法を取ります。成功するか解りませんが、先ずは実験がてら試してみます」
キャスターの実験と云う言葉に些かの不安を感じた伊丹だが、全てをキャスターに一任する。しかし途中経過の報告をするように指示をする。
「さあて始めますわよ、耀司様」
キャスターは街中に放っている使い魔からの情報を得る。その使い魔の一つからの情報に飛び付いた。
「可哀想に。車に跳ねられ死にそうな犬を見付けたわ」
キャスターは現場に赴き、余命幾ばくも無い哀れな犬を大事そうに抱え上げ、工房にしている部屋に運び込み頭を撫でながら優しく語り掛ける。
「ワンちゃんには可哀想だけど許して頂戴ね」
そう言いながら取り出したのは、先日ランサーが持ち帰ってきた臓硯の頭。
「さあ臓硯さん、こちらに乗り替えても宜しくってよ」
「くっ、貴様、儂に犬に成り果てろと云うか!」
「貴方の頭が犬に喰らい付いた処で、よもや犬のままと云う訳ではありますまい。少し身体が小さく成っても身体を取り戻すのではなくって? それともその頭のままで一生瓶詰めで居るのかしら?」
良い研究材料でもある頭臓硯に、瀕死の犬や猫などの人以外の生き物を喰らわすとどうなるのか、キャスターは試したかったのである。
仕方がないとばかりに犬に喰らい付いた蟲とその頭がキーキーと不満を言い出す。
「くっ、不味いぞ! もっと若く鮮度の良い物を寄越さぬか!!」
「あらあら、まあまあ。今の貴方にはそれでも充分過ぎる程ですわ。大体そのワンちゃんに失礼よ。貴方の為に身体を提供しているのですよ」
程無くして頭臓硯は骸となった犬に取り付き頭をすげ替え始めた。
「毎度の事じゃが、この頭のすげ替えだけは辛いのう───」
ぐちゃぐちゃになった体内に蟲達が入り込み、臓硯としての身体の構築を行い始める。そこに老人の頭が乗っかるのだから見ていたキャスターも眉をしかめる。
「ふっ~、何とかなったわい。やはり身体の大きさはこの犬サイズじゃな。しかしなかなか身体が馴染まんのぅ…………まだ犬のままじゃぞ! 犬臭くて敵わんわい」
「馴染むまで時間が掛かるのではなくて。暫くは経過観察で様子見ですわ。ただ馴染んだとしても、普通の人間の形になっているかどうかも解りませんし。もしかして人面犬で終わったりするかも…………くっくっくっ」
明らかにキャスターの知的好奇心を満たす実験に臓硯は小言を言う。
「一皮剥けば鬼畜な魔女よのう…………」
待つ事暫し、臓硯の身体がかなり馴染んだ所為か
「ホラー映画に出てくる小人みたいですわね。決して可愛い小人さんではないわね」
間桐臓硯の身体は、頭は普通の人の大きさで顔は老人、しかも身長が1メートル程なのである。言い方を変えると、幼児の身体に老人の顔が乗っかっていると云うバランスの悪さなのだ。
そんな間桐臓硯の身体を隈無く調べ、大した魔力も無い事を確認し、伊丹に報告をする。
「耀司様、一応の成功を修めました。魔力も殆んど無く間桐邸に返しても問題は無いかと思います。」
伊丹はキャスターの報告を聞き、間桐臓硯を間桐邸に返す事に決める。伊丹は臓硯を返すに当たり、今後新しい身体が必要な時はキャスターに話をして対処するように念書を書かせた。
帰宅の許可を得て自分の屋敷に戻った間桐臓硯は、屋敷の中の惨状に目を見張り、崩れ落ちるように膝を着く。
キャスターと約束をしたとは云え、間桐の魔術の一切合財が無くなっており、地下の蟲蔵も桜の意向によりキャスターが焼き払い、間桐慎二に到っては桜の恐ろしさに引き籠りとなってしまっていた。
小人の様になった間桐臓硯はそんな間桐慎二にドア越しに優しく声を掛ける。
間桐臓硯に声を掛けられた間桐慎二は、自室のドアを開け間桐翁を見て絶句する。正直その容姿に恐怖すら感じる。
「ど、どうしたんだ、その姿は!?」
間桐慎二が驚くのも無理はない。
「キャスターとそのマスター、そして桜の怒りを買った成れの果てじゃ…………慎二よ、あの陣営に関わるでない。貴様の命の保証はできんぞ! 嗚呼、間桐の魔術も完全に終わってしもうた…………」
「それで桜はどうなったんだ!?」
桜が私物の全てを取りに来た事は知っていた間桐慎二が間桐臓硯に聞く。
「桜か、奴はもうここには戻ってこんじゃろう」
何事か、柳洞一成が伊丹の部屋を訪れ、衛宮士郎が連絡を欲しがっている事を伝えに来る。
やれやれと思いながらも伊丹は、衛宮士郎に電話を掛ける。
衛宮士郎との電話でのやり取りを済ませた伊丹は、桜に彼が相当心配していると伝えるが、暫くは放って置けば良いと彼女は頑なな姿勢を示す。
伊丹もキャスターも、桜を含めた今後に大枠を嵌めたので取り敢えず寝ることにする。桜の計らいで今日は伊丹とキャスターは二人きりの同室で枕を共にする事ができる。
伊丹もキャスターも多くを望まない。二人は握りあった手を頬の近くに持ってくるだけで充分だった。そして二人は深い眠りに落ちていく。
話しは少し遡る。一方の衛宮邸の衛宮士郎と遠坂凛は、遅くになっても帰宅しない桜の事を心配し出す。
「なあ遠坂、桜から連絡は有ったか?」
衛宮士郎の問い掛けに遠坂凛は、桜からの連絡は無いと答える。今日の一件が絡んでいる事は察しが付く。
「実家に帰っているなら安心なんだけど…………」
かと云って間桐邸に桜の在宅を電話で聞くのも大事になる。困り果てた衛宮士郎は遠坂凛に助けを求める。
「どうしよう、遠坂…………」
「そんな事を考えていても仕方がないでしょ! 取り敢えず、慎二に電話してみればいいじゃない」
遠坂凛の答えに衛宮士郎は、大事にならない様に桜が在宅している事を祈りながら間桐邸に電話を掛ける。
しかし20コールしても電話に出ないので、一旦切り再び掛け出す。すると10コールした頃に相手が電話に出る。
「夜分遅くに失礼します。衛宮士郎と申します。」
すると電話の相手は間桐慎二だった様である。
『なんだ、衛宮かよ! 衛宮のクセにこんな時間に電話かよ! 非常識じゃないか! 一体何の用なんだよ!?』
衛宮からの電話と判り、苛立つ間桐慎二。
「すまん慎二。桜はそっちに居るか?」
衛宮士郎は、桜が間桐邸に居る事を願いながら間桐慎二に聞くが、彼はそれを否定をする。
『はぁ~、桜? そんなの知らないね! 大体お前の所に居るんじゃ無いのかよ!?』
この間桐慎二の答えに、衛宮士郎は桜の身を心配し出す。
「すまん慎二。桜が帰って来て居ないんだ! 慎二には桜が行きそうな所に心当たりは無いか?」
『そんな場所は無いし知らないね~。それに今後、桜の事で僕に関わらないでくれるかな』
間桐慎二は衛宮士郎に言い放つと電話を切る。
間桐慎二の最後の言葉に、何か引っ掛かる物を感じた衛宮士郎は、遠坂凛に電話の内容を話す。すると彼女は桜が伊丹の所に居るのではないかと衛宮士郎に話し彼は考え出す。
「確かに桜を見たのは、伊丹先生と一緒に柳洞寺に向かっている処だったし…………」
衛宮士郎と遠坂凛は困り果てる。先程襲撃した相手に桜の所在を尋ねる、これ以上無い程のバツの悪さ。しかし桜の身の安全の為ならそんな事に構っては居られない。
衛宮士郎は伊丹直通の電話番号を知らないので、柳洞寺の柳洞一成に電話を掛ける。
こちらは直ぐに電話に出る。
「夜分遅くに失礼します。衛宮士郎と申しますが一成君に繋いで頂けるでしょうか?」
程無くして柳洞一成が電話に出る。
『どうした衛宮、こんな夜更けに』
柳洞一成も夜遅くに電話を掛けてくる衛宮士郎に、何かが有ったと推察する。
「すまん一成。伊丹先生と連絡を取りたいんだけど…………」
柳洞一成も、個人の電話番号を許可無く教える訳にもいかず衛宮士郎に言う。
『なんなら伊丹先生からそちらに電話を掛けて頂く様にお伝えするが、それでも構わんか?』
取り敢えず伊丹と連絡が取れる事に懸け、柳洞一成にお願いをして電話を切る。
待つ事暫し、衛宮邸の電話が鳴り響く。衛宮士郎は直ぐに受話器を取り伊丹からの電話に出て話し始める。
『私に用とは何かな?』
衛宮士郎は先ずは謝罪をする。
「先生、先程は申し訳有りませんでした」
伊丹は衛宮士郎の謝罪の言葉に答える。
『そうかい、君の先程の謝罪は受けておくよ。でもそれは君個人の物であって遠坂さんは含まれては居ないよね?』
伊丹のキツい問い掛けに、衛宮士郎は必死で答える。
「そうですがそれを含め申し訳有りませんでした。それに破けたスーツ代も遠坂と必ず払います」
衛宮士郎からの電話の意図を感じた伊丹は、割りと素直に彼に話し掛け対応する。
『ああ、頼むよ。安いものではなかったからね。処で衛宮君、もしかして間桐桜さんの事での話しかな?』
正直面倒臭い伊丹が本題を切り出す。
「はい。桜はそちらにお邪魔して居ますか?」
伊丹は、衛宮士郎の問い掛けに桜をチラリと見て答える。
『ああ、うちに居るよ。今日はうちに泊まる様だから心配はしなくていいから。話しはそれだけかな?』
さっさと電話を切ろうとする伊丹に、衛宮士郎は彼に頼む。
「桜と話をさせてもらっては頂けませんか?」
伊丹は桜に、衛宮士郎が話したがっている旨を伝えるが、彼女は今は話す気になれないと拒否をする。
『衛宮君、間桐さんは話したく無いそうだ。彼女の心中を察して尊重してあげてくれ』
伊丹の言葉にショックを受けるも、衛宮士郎は電話をして来てくれた事に感謝の言葉を述べ、受話器を置いた。
取り敢えず桜が無事で伊丹の所に居る事を遠坂凛とセイバーに告げる。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
取り敢えず、臓硯さん復活(?)です。今後の臓硯さんはキャスターに依存しなくてはなりません。辛いぜ、臓硯さん。
ではでは…………
虚空屍