Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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アクセスして頂き有り難うございます。

話は2月7日(木)の日中になりました。



25 えっ、シロウは義理の弟なの!?

 朝方起きた伊丹は、身体のダルさと若干の寒気に襲われていた。

 

 昨晩の衛宮士郎と遠坂凛との件で、冬の冷たい雨に晒され風邪を引いたのである。

 

「出来損ないのあの坊やと小娘は、耀司様や文科省が許してもこの私が許しませんわ! 指の二~三本でもへし折ってやろうかしら!!」

 

 激しくお怒りのキャスターと、そこに冷静に口を挟む桜。

 

「お姉様、ぜひそこに私も立ち会わせて頂きたいです」

 

 キャスターに当てられたのか、桜まで過激で物騒になりつつあると伊丹は困惑し、更には桜が一瞬黒くなった様に見える。

 

「キャスター、桜も頼むから止めてくれ。それにキャスター、額に青筋厳禁ね。君の美しさが台無しだよ。襲撃は予期していたけど、まさか風邪を引くとは想定外だな」

 

 キャスターは伊丹の一言に、朱らめた顔を両手で覆い腰をくねらせる。

 

 風邪の根治は自分の免疫力に依るが、取り敢えず伊丹は風邪の症状を抑える治癒魔術を施して貰う。

 

「耀司様、ご無理を為さらずとも今日のお話し合いをキャンセルされては如何かと」

 

「こんなチャンスはなかなか無いからね」

 

「しかし本当に宜しいのですか? サーヴァントを連れて行かないなんて…………」

 

「それは自分から言い出した約束だし」

 

「それはそうと、仕事は休まれた方が良いのではありませんか?」

 

 畳み掛ける様に心配してくるキャスターに、伊丹は平気な振りをする。

 

「そうもいかないよ。これ位の風邪で休んでたら社会人失格だよ。しかもキャスターが治癒魔術を懸けてくれたから大丈夫だよ」

 

「でしたら私が調合した薬をお持ち下さい。お昼御飯の後に一包お飲み下さい」

 

「有り難うキャスター」

 

 伊丹の出勤時間となり、桜は伊丹と一緒に登校すると云う。

 

 出勤の為、三人で部屋を出て山門前に来るとお互いにバグをする。

 

「じゃあ、行ってくるよキャスター」

 

「お姉様、私も行って参ります」

 

「行ってらっしゃいませ、耀司様、桜。ご無理は為さらずに」

 

 こんな三人の前にチラリと実体化したアサシンと玉之丞は、伊丹と桜をキャスターと一緒に見送る。

 

「主殿、娘。今日も一日励まれよ!」

 

 

 

 石段を下り切ると桜は伊丹の手を繋ぎ、にこにこと微笑み出す。

 

「お父様とお出掛けですね」

 

 桜は心底嬉しそうである。

 

「お出掛けかぁ~、でも学校への登校だぞ」

 

「それでも良いのです。お父様と一緒なのですから」

 

 歩く事暫し、学校に近づくとお互い手を離し、教師と生徒になり、そのギャップに馴れる。

 

「え~、間桐さん、今日は良い天気だね」

 

 昨晩の雨で今朝は曇り空である。

 

「伊丹先生、おはようございます」

 

 ややズレた二人の会話である。

 

 ややギクシャクした会話をしながらも、校門を入ると教師と生徒としてそれぞれの場所へと別れて行く。

 

 

 

 

 

 今日の授業には、遠坂凛と衛宮士郎のクラスがある。

 

(さあて、昨日の今日であの二人はどんな顔をするのかな?)

 

 それぞれのクラスでの授業中、顔を上げず終止俯いたままである二人に、伊丹は同じ事を言っていた。

 

「先生の授業がつまらなくて眠いのかな? ダンベルでも持って、万歳みたいに両腕を上げてグランド十週するかい?」

 

 そんな事を言われ、顔を上げても目が泳ぎ、決して目を会わせない。

 

「メイ☆こんの販売と購入に対する物流が、京都議定書に日本が示したCO2の排出量削減に与える影響を答えなさい」

 

 伊丹は訳の解らない意地悪な質問をし、それぞれの生徒に苦悶の表情を浮かべさせ口角を上げる。

 

 

 

 

 

 仕事も済ませアインツベルン邸に向かう為タクシーを呼び、街からかなり離れた森へと行き先を言う。

 

 事前に了解も得ている事なのでタクシーで森の中まで入り込むが、伊丹はアインツベルンの城を目立たたせる事を控える為、城までの残りの距離を計算し徒歩でも苦に為ら無い所でタクシーを下車する。

 

 

 

 

 

 徒歩十数分後、伊丹が城の入口に立つや否やその扉はセラとリズにより開かれる。

 

「アインツベルン邸ようこそいらっしゃいました、イタミ様。お待ち申して下りました。さあ、お入りになって下さい」

 

 セラが挨拶を述べリズと共に深々とお辞儀をする。

 

 セラに案内された一室は伊丹用の控えの部屋。その割には落ち着かない程広い。

 

(もっとこじんまりとした部屋の方が良かったんだが…………)

 

 するとリズが温かい紅茶を運んで来て一言云う。

 

「イリヤ仕度中。暫く待って」

 

 ソファーに腰を下ろし温かい紅茶で身体を暖めながら窓の外の景色を見る。

 

(イリヤはメイドと三人で、こんなにも広い屋敷に住んで居るんだよな。世間一般からすると可哀想とか寂しいで済まされそうだけど、それ位聖杯を手にする悲願は並大抵の事じゃ無いって訳か)

 

 暫くするとリズが部屋を訪れる。

 

「イタミ、こちら」

 

 リズは伊丹をイリヤの居る部屋へと案内する。

 

 その部屋はまた逆に伊丹を驚かせた。小さなテーブルを挟んでソファーが2脚しか置かれて居ない、割りとこじんまりとした部屋であったからだ。

 

(さっきの控えの部屋の方が広かったぞ)

 

 部屋の主、イリヤが口を開く。

 

「さあイタミ、此方へどうぞお掛けになって」

 

「イリヤさん、この様な場を設けて下さってお礼申し上げます」

 

 ふわっとソファーに腰を下ろす。

 

「リズ、お願い」

 

 イリヤは立ち上がり自分が座っていたソファーを伊丹に対して90度の位置になる様な場所にリズにずらさせる。

 

 これでお互いが正面ではなく、右か左を見て対話する様になる。

 

「これで少しはフレンドリーにお話しが出来るわね」

 

「お心使い感謝致します」

 

 伊丹はアインツベルン城の凄さ、セラとリズの仕事振りを褒め称え本題を切り出す。

 

「イリヤさん、貴女が衛宮切嗣さんを恨んでいるのは判ります。それは本当に貴女の意思なのですか? ただただ刷り込まれた物ならば何故そうなのか考えて頂きたい」

 

 フンっと鼻を鳴らしイリヤスフィールは答える。

 

「キリツグは、アインツベルンを裏切った不逞の輩とお爺様から聞かされたわ。アインツベルンを裏切ったキリツグは敵だし、その息子シロウも敵よ」

 

 イリヤスフィールの考えでは、一族全てを切り捨てる連座的な処断である。

 

「衛宮士郎君の存在もご存知の様ですが、彼は実子ではなく養子なんです。あの第四次聖杯戦争で発生した大災害で両親を亡くされ、そのまま放置されていたら死んでいたでしょう。

 そんな火事の中、切嗣さんが生存者を捜し、見付け出したたった一人の子供なんです」

 

 流石に血が繋がっていない事までは知らなかった様である。

 

「えっ、ならシロウは義理の弟なの!?」

 

「そうです。それにその後も切嗣さんは、貴女を取り戻そうと何度も貴女の元に向かいますが、結界に阻まれたり追い返されたりして居る筈です」

 

 伊丹の話しはイリヤスフィールにとり全て初めて聞かされる事ばかりである。

 

「そんな話は初耳だわ」

 

「そうでしょう。度々切嗣さんが来られた事をイリヤさんが知れば、お爺様の言っている事が嘘であるのが判ってしまいますし、第五次聖杯戦争に向けての行動指針が狂ってしまいますからね」

 

 今までイリヤスフィールが聞かされ、信じていた事を否定する話を第三者の伊丹から言われ戸惑う彼女。

 

「お爺様がそんな事を…………」

 

「第四次で聖杯から溢れた泥を被った影響で、日に日に命は削られ体力は無くなり、貴女を取り戻す事も出来ず五年前に亡くなられて仕舞いました。それから士郎君は一人で生活を送って来ました。」

 

 孤独に耐えたイリヤスフィールは、衛宮士郎の孤独に敏感に反応する。

 

「シロウが独りぼっちで暮らして居たなんて知らなかったわ!」

 

「貴女が両親の愛を知らないで育てられた様に、彼も両親の愛を知らずここまで育っています。義理とは云え、どうか姉弟の絆を切らないで貰いたい。そして争いは止めて頂きたい」

 

「……………………」

 

「確かに切嗣さんは、アインツベルンに聖杯をもたらさなかった。しかし聖杯に手を掛けた彼の願いはご存知でしたか?」

 

 フルフルと頭を横に振るイリヤに言う。

 

「争いの無い世界です。第四次聖杯戦争の冬木での流血が世界で最後だと!」

 

 

 

 

 

 一方、学校から伊丹邸に帰ってきた桜は、キャスターに案内をされ地下空間の大聖杯を見せられる。

 

 その中身を見るや顔を青くする。

 

「私はこの黒い物と繋がっているのですか?」

 

 桜はキャスターに尋ねる。

 

「そうね、桜と繋がっている可能性はかなり高いわ。貴女の心が落ち着かないと、あれが出てくるわ」

 

 桜はいまだ断ち切れていない事に落胆するが、キャスターは言葉を繋げる。

 

「まだその可能性が高いから、耀司様と私が桜の心のケアもするのよ。最後まで面倒見させて貰うわ。家族でしょ」

 

 桜はキャスターの言葉に涙を浮かべ微笑み頷く。

 

 

 

 

 

 一方、アインツベルン邸の伊丹は、晩餐の仕度が整えられた広間に通される。

 

(客一人にこんな広間! このテーブルだけで二十人は座れるぞ!)

 

 黙々と仕事をこなしていくセラとリズ。

 

 会食が始まりイリヤが口を開く。

 

「固い話しは抜きにしましょ。何でイタミはこの戦いに参加したの?」

 

 空かさず痛い所を突かれる伊丹。

 

「うっ、成り行きでキャスターを召喚してしまって…………」

 

 伊丹の反応にニヤリと口角を上げ、突っ込むイリヤスフィール。

 

「うふふっ。なら、聖杯に懸ける望みは無いの?」

 

「最初はそうでした。キャスターには、冗談半分に同人誌即売会の先頭に徹夜しなくても並べる事とは言いましたが、本当に聖杯が願いを叶えてくれるなら、キャスターと何時までも一緒に居たいですね。」

 

「まあ、のろけてるわよ」

 

 顔を朱くする伊丹に微笑むイリヤスフィール。

 

「いやいや、お恥ずかしい。ただ、聖杯を手にする以上に、自分とキャスターが死なない様にするのが一番です。それと今回参加しているマスターの流血を避けたいんですよ。」

 

「聖杯戦争に参加するなら、流血や死人は仕方がないわよ。」

 

 魔術の争いに死は当たり前と言うイリヤスフィール。

 

「大人同士の戦いなら、其々の責任で仕方が無いと云えますが、今回のマスターは子供ばかり、しかも兄弟姉妹で親友と云う間柄です。何か歪んでいる感じがして嫌なんですよ!」

 

「イタミは結構調べているのね、感心したわ。」

 

「ええ、戦いに於て情報は重要ですから。」

 

 イリヤとの食後の会話の途中、伊丹は身体が火照り重くなるのを感じる。

 

(不味いな、身体が言う事を利かない。風邪の症状が出て来たのか?)

 

 顔を紅くし目眩が仕出し、息遣いも周囲の者が判る程に荒くなる。

 

「どうしたの、イタミ? 顔が紅いわ!」

 

「お嬢様、イタミ様はお身体の加減が宜しく無いのでは…………イタミ様、失礼します」

 

 伊丹の額にセラは手を当てる。

 

「お嬢様、イタミ様の熱がかなり高い様です!」

 

 イリヤは二人のメイドにテキパキと指示を出す。

 

「リズ、イタミを客間のベッドに寝かして! それと控えの部屋に有る彼の荷物も運んで頂戴!」

 

「セラは氷枕をイタミに充ててあげて!」

 

 リズにお姫様抱っこをされる伊丹は、その豊かな胸の柔らかさに赤面する。

 

「イリヤ、イタミの熱が上がった。顔も紅くなった」

 

 薄れる意識の中、伊丹は心中で叫ぶ!

 

(これは違うんだ、リズの胸の所為だ。俺は悪くない!しかし恥ずかしい…………)

 

 伊丹は氷枕を置かれたベッドに寝かされ、傍には伊丹を不安そうに見守るイリヤが居る。

 

(何でイタミはこんなにも体調が悪いのに来たのかしら? それ程今日の話し合いが重要だったの?)

 

 

 

 

 

 伊丹の不調はキャスターにも伝わる。

 

(耀司様、いかがなされましたか…………)

 

 イリヤはキャスターに使い間を放ち伊丹の現状報告をし、キャスターが伊丹を引き取りに来るならバーサーカーは出さないと約束する。

 

 少し戻った意識で伊丹はイリヤに礼を言い、キャスターとの念話で話す。しかし熱で不調の伊丹は念話での発言を口に出してしまう。

 

(耀司様、大丈夫なのですか!?)

 

「参ったよ、意識が飛んだよ」

 

(アインツベルン側から、私が耀司様を迎えに来るのであれば、バーサーカーを出さないとお約束を頂きましたので、直ぐにでもそちらにお伺い致します)

 

「いや、駄目だ。今の君は柳洞寺守備の要であり指揮官だ。恐らく遠坂・衛宮陣営が攻めて来る可能性が有るのに、君の不在は戦闘に混乱をもたらす筈だ」

 

 伊丹の指示に慌てるキャスター。

 

(そんな私に指揮など出来ませんわ)

 

「いや、キャスターにはその素質が充分有るんだよ。冷静に対処すれば撃退できる。なんたって君は稀代の魔術師なんだから、自信を持って…………」

 

 そこまで言うと伊丹の意識が途絶えた。

 

 そんな伊丹とキャスターのやり取りを眺めていたイリヤは、二人の絆の強さや深さを感じた。

 

(何故イタミはサーヴァント相手にそこまで任せる事ができるの?)

 

 イリヤは本格的に伊丹に興味を持ち出す様になるのである。

 

 




最後まで読んで頂き有り難うございます。

イリヤと士郎の個人的事情に口を出す伊丹。程々にしておいた方がいいぞ。


ではでは…………


虚空屍
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