2月7日(木)の夜から8日(金)に日付が変わる辺りの話になります。
倒れアインツベルン城で臥せる伊丹の留守を預かる柳洞寺の司令官代理のキャスター。
彼女は、態と隙を作りそこに相手マスターを誘い込んで包囲する作戦を立案する。
伊丹の予想通りセイバー・アーチャー連合が柳洞寺の石段を登りやって来たが、それを山門で阻む様に陣取るアサシン。
「アーチャー、サーヴァントが入れるのはここしか無いのね?」
遠坂凛が昨日のアーチャーの偵察を元に問い掛ける。
「そうだ、ここを通らなければならない」
何故か俄然やる気の遠坂凛がサーヴァント二騎に指示を出す
「アーチャー、セイバー行くわよ!」
それにアーチャーとセイバーが応える。
「ああ、端からそのつもりだ」
「ええ、山門を突破しましょう!」
山門の入り口中央に陣取るアサシン。
「あいや待たれよ、ここを通しては為らぬとマスターから言われておってな。力ずくで押し通ると云うのなら、この無敵の斑鬼がお相手いたす」
「セイバーがアサシンの相手よ! アーチャーは支援! その隙を突いてアーチャーは山門から突入! 力ずくで行くわよ!」
「判りました。騎士の名に懸けて!」
「ああ、判った、凛!」
しかし何故か今一気乗りのしない衛宮士郎。遠坂凛に言われるがままである。
一番槍を賜ったセイバーは、アサシンに猛然と向かい不可視の剣を振り上げ斬りに懸かる。アサシンはセイバーの剣を刀の峰を向けて受け流す。
「本気では無いのかアサシン! 貴殿は後悔するぞ!」
舐められていると感じたセイバーは、今までに無い程の力を込めて剣をアサシンに叩きつける。
力で押すセイバーではあるが、なかなか持ってアサシンも退かない。
「舐めてはおらぬ! 先ずは不殺が主殿の考えでござるのでな!」
アーチャーは両手に干将莫耶を投影しアサシンに斬りかかるが、それを阻む様に朱槍が繰り出されるが寸でで躱し、驚くアーチャー。
「くっ、これは…………」
「お~っと、お前さんの相手はこの俺だぜ!」
腰溜めで槍を繰り出してきたランサーが現れる。
「ラ、ランサー!?」
突然現れるランサーに驚くアーチャー。
ランサーの出現に、有り得ないと呟く遠坂凛に衛宮士郎が声を荒げる。
「遠坂、アーチャー! どう云う事だ!」
衛宮士郎は怒鳴り、そして予想外のサーヴァントに苛立つ遠坂凛。
「私は知らないわよっ! アーチャー、一体どう云う事!?」
「すまん凛! 私の不手際だ」
セイバーとアーチャーは、アサシンとランサーの反撃にジリジリと押され始め、気が付くと石段の中程まで押し下げられている。
すると山門前を守護するサーヴァントが居なくなり、遠坂凛と衛宮士郎はこの隙に境内に突入して令呪を使い、アーチャーとセイバーを瞬間転移をさせてキャスターとそのマスターを倒そうと考える。
そして遠坂凛と衛宮士郎は石段脇の林を登り、サーヴァント同士の戦いを避けて山門に近づくが二人は目を見張り驚愕する。
山門にライダーを従える桜とキャスターが現れたからである。
衛宮士郎と遠坂凛は、桜に向かい叫ぶ。
「桜! 何しているんだっ!!」
「貴女! どう云うつもりなの!?」
しかし桜は二人の問い掛けには答えず冷たく話し出す。
「遠坂のお姉様、衛宮先輩。ここに何しにいらしたのですか? 昨日の夕方の様に伊丹先生がマスターだと決めつけて襲いに来たのですか?」
桜の問い掛けに何にも答えられない衛宮士郎と俄然言い返す遠坂凛。
「桜っ! 貴女には関係無い事だわ! そこを退いて貰うわ!!」
しかし桜は冷静に話を続ける。
「仮に伊丹先生がキャスターのマスターとしても、先生は出掛けていて不在です。マスターが夜にサーヴァントを連れずに出歩きますか?」
桜の一言と目の前に居るキャスターを見て、遠坂凛が考えている伊丹のマスター説が揺れ出す。更に桜は、遠坂凛に追い討ちの言葉を言い放つ。
「それとも遠坂のお姉様と先輩は、境内に突入してマスターと思われる方々を見境無く殺めるのですか?」
遠坂凛は桜とキャスターを睨むだけで話す言葉を無くし、衛宮士郎は戦意を無くしつつある。
遠坂凛と衛宮士郎は境内への特攻に失敗し、眼前のキャスターとライダー、後方には戦闘中のアサシンとランサーに挟まれる最悪の状態に追い込まれる。
この状況を見たセイバーとアーチャーは、彼等の退路を開きたくても各々が戦っている為、どうにも出来ないでいる。
セイバーの動揺を感じたアサシンは峰打ちを止め、刀の刃を向けてセイバーに斬りかかる。
アサシンこと斑目久太郎は人を斬る事が出来なくなって以来、全ての戦いに於て峰打ちで相手を倒して来た。しかしこの戦いに於て主とマスターの為、セイバーに刃を向ける。
「我が主とマスターに誓いしこの戦い! 斬らせて頂くぞ!!」
明らかに命を狙いに来たアサシンにセイバーは更に窮地に追い込まれる。
「くっ、早い! 本気のアサシンの剣捌きがこれ程とは────」
ランサーも手数ではアーチャーの剣捌きに負けてはいない。
「おらおら弓兵! どうした!! 本気を出せよ!!」
ランサーに挑発されるも双剣の回転速度を早めて、繰り出される朱槍を躱す。
桜はキャスターに言う。
「お姉様、私限界です。私のお父様に対して先輩方は酷すぎます。何も解っていないクセに、何にも知ろうとしないクセに…………」
この桜の言葉の意図が判り、キャスターは彼女に落ち着く様に言うが遅かった。
桜の想う父親である伊丹に、姉である遠坂凛、そして想い人でもあった衛宮士郎が襲い掛かる。そんな彼らに対し桜の想いの心が歪み闇が開く。
「キャスター姉様、安心して下さい。私は自我を無くしていませんから」
桜がキャスターに言うや否や、桜は黒い樟気を纏い出す。するとセイバーの居る辺りに影が拡がりアサシン共々侵食し始める。セイバーは異常な感じが発せられる影から逃れようとするが、アサシンはそれを許さず、己が影に呑まれ様ともセイバーに対する攻撃は止めない。
「くっ、アサシン! 貴殿も呑まれるぞ!!」
「承知! 拙者は端からそのつもり! 逃れる事を考えて居ると我が刃の露と消えるぞ!!」
影からの脱出はアサシンの攻撃により叶わない。そんなセイバーにアサシンが言い放つ。
「
斑目久太郎の剣戟に同調する玉之丞は、懐の中からクリクリの潤んだ瞳で彼を見詰めゴロゴロと喉を鳴らし、彼と共に逝く決意を表す。
更にアサシンの剣筋が鋭くなり、完全に退路を断たれたセイバーは自身の最期を悟りアーチャーに叫ぶ。
「リン! アーチャー! シロウを頼みます────」
セイバーを道連れにアサシンと玉之丞が影に呑まる。
キャスターはランサーにアーチャーとの戦闘を止めさせ、山門まで後退するように指示をする。
影の異常さを感じたランサーは素直に指示に従いキャスターの脇まで戻る。
セイバーを背にしていた衛宮士郎と遠坂凛は何が起きたのか理解していない。
セイバーとアサシンの剣檄の音が止んだので振り返ると、二騎のサーヴァントが影に呑まれ込む瞬間を見ただけであった。
「セイバー!? セイバーァァァーーー!」
信じられない状況に衛宮士郎は呆けるがアーチャーが叫ぶ。
「小僧! 呆けるな!!」
アーチャーは飛び上がり、遠坂凛と衛宮士郎が対峙している所に、二人を庇うように立ちはだかる。
口を開いたのは桜である。
「せんぱ~い、驚きましたかあ~。セイバーさん、呑まれてしまいましたね~。申し訳無い事にアサシンさんまで呑み込んでしまいました~」
キャスターと桜を睨みつけていた遠坂凛は、背後で何が起きたのか知る由も無かった。
セイバーとアサシンが呑み込まれた辺りに、黒く闇を纏った蛸の様な烏賊の様な物体が現れる。
すると桜以外はキャスターを含めた全員凍り付く。
遠坂凛も、黒い物体から溢れだす樟気に恐怖を感じずには居られない。
「ア、アーチャー、何が起きたの? セイバーはどこ!? 何なのよ、あの黒いイカは!?」
キャスターは桜に優しく話し掛ける。
「さっ、桜、大丈夫なの? あれを制御できるの?」
キャスターの心配を他所に桜は微笑みながら答える。
「うふふふっ、心配はご無用です。お姉様、負ける気が致しません」
キャスターは黒い影を出した桜の行動を警戒し始める。
「桜。あれを動かすときは私に言ってからにしなさいね」
一体のゴーレムを連れた濃紫のフードを纏ったキャスターが山門前に出る。
「そこまでよ、アーチャーとお嬢さんと坊や。みんな良くやったわね。アサシンは残念でしたが…………」
身体の重心を下げ、魔力を込めた宝石を握り締め構える遠坂凛。
「出て来たわねキャスター!」
フードでキャスターの顔は見えないが、口振りからしていかにも面倒臭そうに言い放つ。
「あらそう、此方はお呼びじゃ無かったのに。私のマスターがお話が有るそうよ」
キャスターがそう言うと、傍らに居たゴーレムが話始める。勿論ゴーレムはアインツベルンの伊丹と繋がっている。
ゴーレムを見た遠坂凛はからかい半分に言う。
「あらっ、今夜はセーラー月姫のお面は要らないのかしら?」
伊丹も体調の悪さから、さも面倒臭そうに答える。
『あれは無くしてしまってね。処で凛君、士郎君。何故キャスターを倒そうとするのかな? キャスターが何かした?』
(不味いな、さっきまで意識が無かったりしたからクラクラする…………)
伊丹の辛さがキャスターに伝わって来る。
(耀司様、余り無理を為さらずに)
(ああ、そうだな。凛と士郎が直ぐに帰ってくれれば良いんだけど…………)
「そんなの決まってるじゃない! 敵だからよ。しかも新都の昏睡事件の首謀者だし、冬木市民から精気を奪いまくっているじゃない!」
『やっぱり喰らい付いたんだね。なら聞くが、キャスターが精気を採った所為で誰か亡くなった? 新都の昏睡事件で死者は出たのかな?』
「それは出ていないわ! でも何れ死ぬ人が居るわ!」
『それはただ寿命が尽きただけで、こちらには関係無いな。キャスターは弱者からの搾取はしていないからね』
「何で関係無いなんて言えるのよ!」
『私は人死にしたり後遺症が残る程の魂喰いには賛同しないよ。キャスターは一日寝れば回復する位の量しか採ってはいない。ただほんの僅かを頂いているだけだ。そう、献血みたいなもんだよ』
「くっ、貴方には関係無くても私には あ る の!」
『どんな関係があるの?』
「冬木のセカンドオーナーとして、この地で好き勝手やられて見逃せる訳無いでしょ!」
『戦争とはそんなもんだよ。使える物は全て使うよ』
「だからキャスターが市民から精気を奪っても構わないって訳なの?」
『そうでも有りそうでは無い。そうでも有るって言ったのは期間限定の聖杯戦争だから、弱者以外から少しの精気を分けて貰っても問題無いでしょ。そして君はそうでは無い部分に喰らい付いたんだよ』
「そうでは無い部分って何よ!?」
『弱者への配慮だよ。それに君達はキャスターの手加減した実力を甘く見ていた。それとも何かい? キャスター相手なら、一撃で斬り伏せられるとでも考えたのかな? 剣戟では致命的にか弱いキャスターが何時までも一人で居ると思うかい?』
「第一、人道的じゃ無いやり方でしょ! 許せないわ!!」
『君の云う処の《人道的》とは何を指して居るのかな? この聖杯戦争には周囲の知人や住人を巻き込み、死なせてしまう状況も有り得る。現に学校にも魂喰いの結界が張られているよね。これは凛ちゃんの人道的観点から見てどうなの? それに君は人の死を承知で、聖杯を目的とせず勝つ為に参加するなど可笑しくは無いかな?』
「……………………」
事実しか話さない者と、義憤に駆られた者とでは話が噛み合わない。
遠坂凛は言い返すも、事実しか話さないゴーレムには歯が立たない。黙らされてしまった遠坂凛は別の話を切り出す。
「だから侍サーヴァントのマスターやランサーのマスターと同盟を結んだのね」
『違うな、アサシンのサーヴァントはキャスターの配下だった』
アーチャーはこのゴーレムの発言に何やら気が付き語気を強めて言う。
「キャスター! 貴様、ルールを破ったな!?」
アーチャーの言葉に、キャスターではなくゴーレムが答える。
『ルール!? この様な戦いにどんなルールが必要だと云うのかな? これでも人道的な部分での事は守って来たつもりだが。そしてもう一体…………』
青タイツのサーヴァントのランサー。遠坂凛は、アーチャーとランサーの戦いを忘れはしない。
『先日、アーチャーと学校で戦った時は言峰のサーヴァントだったけど、故あって出奔しキャスターの配下になってくれたんだ。だから学校での戦いは私の指示じゃ無いからね。後はライダーのサーヴァント』
遠坂凛はキャスターのマスターが四体ものサーヴァントを使役していた事に驚きを隠せない。狭い山門の攻防では勝ち目が無いのである。
「そんなっ!? 有り得ないわ! こんなの聞いて無い!!」
『いいや、この事実こそがキャスターの実力だよ。今君が見ているじゃないか』
芝居掛かった様に大きく両腕を開いた後にビシッと遠坂凛に指を指す。
「あんなにサーヴァントを…………セイバーもやられて不利だわ。くそっ、不利過ぎるわよ!」
『悪い事は言わ無いから今日の処は退きなさい。私達は追撃しないから』
つられてキャスターも言い放つ。
「お~ほほほっ! 次に来る時はアーチャー1人ね。寂しいわねぇ~お嬢さん」
「くっ、アーチャー、ここは一旦引くわよ」
「それが良さそうだな、凛、士郎」
『バイバ~イ、凛ちゃ~ん、士郎く~ん…………』
流石に不利を悟った遠坂凛はアーチャーに撤退を指示し石段を下り去る。
『キャスター、みんな、良くやってくれたね。ありが────』
突然伊丹からの言葉が途切れ、キャスターは涙を溜めて慌てふためく。
「耀司様? 耀司様、如何なされました!? 耀司様ぁぁ~────」
「お父様? お父様、桜も戦ったのですよ、お父様ぁぁ~~」
イリヤの使い魔から告げられる。
『落ち着きなさいキャスター、イタミは気を失ったけど特に問題は無いみたい。無理のし過ぎよ!』
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン嬢、耀司様の面倒を看て頂き感謝致します」
『別に感謝には及ばないわ。私はイタミと貴女に興味が湧いただけだから。今晩はこちらに泊まって頂くわ。何にもしないしセラ達に看病させるから安心なさい』
「重々感謝致します。何卒耀司様の事、宜しくお願い致します」
衛宮邸に戻ってきた一行はセイバー脱落と云う事実を俄には信じられない。そしてそれは衛宮・遠坂陣営の戦力の半分以上が失われたに等しい。
衛宮士郎は如何程のショックを受けているのか。遠坂凛もセイバーを失った衛宮士郎に懸ける言葉も見当たらない。
暫くして落ち着いた頃に遠坂凛は、相変わらずのウッカリで、言峰綺礼が立場を利用してサーヴァントを持つ外道である事を失念し、教会に身柄を保護して貰う事を衛宮士郎に勧めるが彼はそれを拒否する。
衛宮士郎は、サーヴァントは居なくとも聖杯を行使する権利は残されている、その自分の立場を考えての事である。
今後の対策を考える遠坂凛と衛宮士郎は、バーサーカーのマスターであるイリヤスフィールとの共闘を模索し始める。
取り敢えず話も出尽くし、明日に備え眠りに着く衛宮士郎。彼は最近の戦いの在り方に考えを巡らせる。
確かに魔術師としては遠坂凛の方が格は上でもあり魔術関係にも詳しい。しかし衛宮士郎は、そんな遠坂凛の指示で動かされていた事に今更ながら気が付く。
「俺は遠坂の掌から出られないんだな…………情けない。もしかして桜はそれに気が付いたのか?」
衛宮士郎は今後、基本的には遠坂凛と行動を共にする事には変わりがないが、果たしてお互いの関係が今のままで良いのかと考え始め深い眠りに着く。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
全く持って悔しい凛さん。そして失意に打ちひしがれる士郎君。
士郎の心に何かが芽生えるのか?
ではでは…………
虚空屍