話は2月8日(金)となります。
伊丹の体調不良も良くなりましたが、まだ様々な出来事が湧いて来ます。
陽が昇り始めた頃目覚めた伊丹は、一晩イリヤの元で看病された甲斐も有り体調もかなり良くなっていた。
付きっきりで看病してくれたセラが、目覚めた伊丹に気が付き声を掛ける。
「イタミ様、熱もだいぶ下がられた様ですね」
身体のダルさも無くスッキリと目覚めた事もあり、伊丹は病がピークを越え回復したのだと実感し上体を起こす。
「セラさん有り難うございます。大分身体が楽になりました」
寝汗をかいた伊丹にシャワーで流すように勧めるセラ。
「では朝食前にシャワーを浴びられては如何ですか? 呼び鈴を鳴らして頂ければ食堂までご案内致します。シャワーはこの部屋の浴室をお使い下さい」
セラは浴室の使い方を伊丹に教えるとテーブルに手を向ける。そこにはアイロンを掛けられ綺麗に畳まれた伊丹の服が置かれている。
「失礼とは思いましたが、お召し物は洗濯させて頂きました」
伊丹は夜中の数時間で洗濯、乾燥、アイロン掛けを行うメイドに驚く。
「ここまでして頂き有り難う御座います。セラさんやリズさんは寝ていないんじゃないんですか?」
伊丹の問いに答えるセラ。
「私たちにとっては些末な事ですのでお気に為さらずに」
セラが一礼して部屋を出ていくと、伊丹は着ていた寝間着を脱ぎシャワーを浴び汗を流す。
(そう云えば寝間着を着せてくれたのはセラさんなのか?恥ずかしいな…………しかしこの部屋は凄いな。アメニティーも揃っているしまるでホテルだ)
伊丹はシャワーから出た後、髪を乾かしながら今日の予定を考える。
(先ずは学校に行かないとな。社会人は辛いなぁ~。しかも聖杯戦争が動き出してからは暇が無いしで…………)
取り敢えず伊丹は出勤する事を決め、キャスターと念話で話をする。
(おはよう、キャスター!)
(おっ、おはようございます耀司様。お身体の方はかなり良くなられた様ですね)
二人はお互いの声を聴けて安堵するが、キャスターは伊丹に夜の出来事の顛末を話す。
(キャスターありがとう。心配掛けて申し訳無かった。あの時の事は意識を保つのに精一杯で、よく覚えていないんだよ。帰ったら詳しく教えてくれ)
(それで今日はこちらにお戻りになられるのですか?)
伊丹はさも当然の様に答える。
(こちらから学園に出勤して仕事してから帰るよ)
流石にキャスターは、伊丹の身体を心配し語気を強めて言う。
(ちょっと耀司様! いくら体調が良くなられたからと云って仕事など、ご無理が過ぎますわ!)
(社会人としては仕事に穴を空けられないんだよ)
この答えにキャスターは、今一度伊丹にマスターとしての自覚を促す。
(教員としての仕事の責務も御座いましょうが、マスターとしての責務も御座いますのよ!?)
(判っているよ、キャスター。君が俺を視ていてくれているからここまで出来たんだよ。これからも見続けてくれないかい?)
この一言にキャスターはいきなり顔を朱くする。
(なっ、何を仰います! いきなりその様な事を言うなんて、耀司様は卑怯ですわ。私は耀司様のサーヴァントになった時から貴方を見続け、これからもそうする事には変わりはご座いません!)
今度は伊丹の顔が朱くなる。
(あっ、ありがとう、キャスター)
(こちらこそ、耀司様)
キャスターとの念話を終え呼び鈴を鳴らすと、リズが迎えに来て食堂まで案内をしてくれる。先導するリズがチラリと伊丹の顔を見る。
「イタミ、元気そう」
「リズさんにも迷惑掛けて済まなかったね」
「気にしない」
伊丹はふっと疑問に思っていた事を聞く。
「そう云えば寝間着を着せてくれたのはセラさんなの?」
「私が着せた」
伊丹は僅ばかりの記憶に残っているリズの豊かな胸を思い出し、そんな人に着替えをしてもらう事を妄想し赤面する
「あっ、ありがとう、リズさん…………」
リズは伊丹の赤面に気が付く。
「イタミ、また朱い。熱上がった?」
既に料理を前にして座っている主の居る食堂に案内された伊丹は、イリヤスフィールに挨拶を済ませセラに席まで案内される。
食事が始まるとイリヤスフィールが愉しげに伊丹に話し掛ける。
「イタミ、昨日の貴方の陣地は大変だった様ね」
「正直、朦朧としていて自分が何をしたか覚えていないんですよ」
「あらあら、キャスターに感謝しなさいよ。彼女、頑張って貴方の代わりを務めていたわよ。でもチョッとしたトラブルも有ったみたいだから後で彼女に聞いてみるといいわ」
伊丹は食事に宿泊、そして看病までしてくれた事をイリヤスフィールに丁重に礼を言い、タクシーを呼び学園に向かう。
学園に着き授業が始まり、そこで伊丹は衛宮士郎と遠坂凛そして間桐桜の欠席を知る。
伊丹はキャスターから念話で呼び掛けられる。
(耀司様、アーチャーのマスターと坊やがアインツベルンの森に向かっている様ですわ!)
(解った! 監視と連絡を密に頼む!)
(了解ですわ!)
(それと桜は学校を休んだ様だが彼女の身体は大丈夫かのか?)
(熱があり少々朦朧としてしています。昨日の影響かと…………)
(桜のあの影がこちらに向かって来なければ良いが、彼女が制御出来ないならルールブレイカーで決めてくれ)
(御意────)
伊丹はあの二人にセイバーが居ない今、何をしに行ったのか興味が湧くが仕事を抜け出せないでいて歯痒さを感じている。
遠坂凛と衛宮士郎は、イリヤの居城であるアインツベルン城を目指しその敷地内の森を進んで行く。
「なあ遠坂、この先にイリヤが居るんだよな?」
衛宮士郎と遠坂凛は、イリヤスフィールとの同盟の話し合いに向けて、郊外のアインツベルンの森に来たのである。
「その筈よ。恐らくこの道づたいに行けばイリヤの屋敷があると思うわ」
途中には軽いトラップ等が有ったが大事には至っては居ない。
するとアーチャーが遠坂凛に念話で呼び掛ける。
(来るぞ、凛!)
遠坂凛は判ったとばかりに衛宮士郎に伝える。
「士郎! 来るわよ!!」
遠坂凛と衛宮士郎の前方には、イリヤスフィールを肩に乗せたバーサーカーが現れる。
「招待した覚えが無いのに、貴方たちは何しに来たの?」
勝手に敷地に入り込むなとばかりに二人に冷たく言い放つイリヤスフィール
「頼むイリヤ、聞いてくれ! 俺達は戦いに来たんじゃ無いんだ!」
必死に話を始める衛宮士郎。ここで敵意を見せたら終わりだが、彼には見せる敵意すら無い。
すると遠坂凛が口を挟む。
「そうよ、私達は戦いに来たんじゃ無くて同盟を提案しに来たの。」
イリヤは彼等の言葉にふんと鼻を鳴らす。
「あらそう。シロウにはセイバーいないんだっけ? そんなシロウは私が守ってあげてもいいのよ」
衛宮士郎は、昨日の事をイリヤスフィールに言われ驚き落胆する。
「サーヴァントが居なくても、俺は聖杯に選ばれたマスターとして戦いには参加し続ける。そして前回の様な皆が不幸になる様な結果にだけはさせない」
イリヤスフィールは衛宮士郎の答えにため息を着く。
「シロウが不幸になっても?」
イリヤスフィールは衛宮士郎に、蜘蛛の糸程の助け船を出すが彼はそれを拒む。
「俺が不幸になるなんて判らないじゃないか!」
流石に同盟成立に必死な遠坂凛も間に入り出す。
「イリヤ、せめて私達の話だけでも聞いてくれないかしら!?」
同盟を持ち掛けられた方は、提案した側以上の利益が無いと同意しない。
「良いわ、聞いてあげる。同盟って何の同盟なのかしら? 私が貴方達と組んでどんなメリットが有るのかしらね」
すかさず遠坂凛は、キャスター陣営の話を持ち出す。
「イリヤはキャスターのマスターがサーヴァントを三騎配下に納めているのは知ってる?」
「な~んだ、そんな事? 知っているわよ。それに私はキャスターのマスターとも顔見知りよ」
このイリヤスフィールの一言に二人は凍り付くが、遠坂凛はそれを表情に出さずに問う。
「ま、まさかと思うけど、貴方とキャスターのマスターとで組んだのかしら?」
イリヤスフィールは頭を横に振り否定をする。
「いいえ、同盟なんて組んでいないわ。ただあのマスターとキャスターに興味が有るだけよ。それに貴方達にサーヴァントはリンのアーチャーしか居ないでしょ。何で今更負け組と組まなくちゃいけないのかしら?」
「まっ、負け組ですって~!?」
遠坂凛は、イリヤスフィールの言葉に激しくプライドを傷付けられるが、衛宮士郎が言葉を繋ぐ。
「待て遠坂! イリヤ、何でキャスターのマスターと顔見知りなんだ?」
「そんなのどうだって良いじゃない。シロウも私の云う事を聞かないみたいだし、貴方達は今ここで死んじゃうんだから!」
イリヤスフィールの言葉に、取り付く島も無い衛宮士郎と遠坂凛。
「えっ、イリヤ!? 待ってくれ!!」
バーサーカーの肩から降りたイリヤスフィールは戦いの開始を口にする。
「シロウ、貴方の考えが変わらないならここで潰すわ。やっちゃえ、バーサーカー!!」
イリヤスフィールの一声でバーサーカーが斧剣を構え挙げ吠える。
するとアーチャーが二人を守る様に現れ、衛宮士郎と遠坂凛はイリヤスフィールとバーサーカーから駆け離れる。
アーチャーは二人が充分に離れた事を確認すると干将莫耶を投影しバーサーカーの懐に入り込み双剣で斬り懸かる。
「流石はバーサーカーだけの事はある。一撃一撃がかなり重いな! 斧剣を受け流しても太刀がどれだけ保つやら…………」
力と俊敏さに於てバーサーカーに劣るアーチャーではあるが何度も双剣を砕かれては瞬時に双剣を投影して隙を窺う。
千日手の様な状況に痺れを切らしたイリヤスフィールは戦う二騎を残し、森の中を通り回り込み遠坂凛と衛宮士郎に近付き、使い魔を使い襲い始める。
遠坂凛はガンドと宝石を使い反撃するが、魔力も技量もイリヤスフィールの方が上で有る為、簡単に躱され防戦一方になる。
突如、二騎のサーヴァントが戦っている地面に黒い影の様な物が拡がりだし、アーチャーはその場から咄嗟に跳び下がる。
バーサーカーも同じく跳び下がろうとするが、それを阻む者が居る。
それを見た全員が眼を剥く!
誰であろう、黒い甲冑を身に纏ったセイバーである。しかも影の塊に付き添っているのである。
セイバーはバーサーカーが逃れられ無い様に攻撃を畳み掛けると、進退窮まったバーサーカーはそれでも足下の影に坑うが、影の塊が放つ触手に身体を捕えられ吠えながら影に呑み込まれてしまう。
「バッ、バーサーカー? バーサーカー!? 嫌っ! 嫌ぁーーーーっ!!」
一部始終を観ていたイリヤスフィールは半狂乱になり、取り乱し戦意を喪失し、茫然自失となり地面に倒れ込み、意識を失う。
バーサーカーを影に沈めたセイバーは、無表情にアーチャーに斬り掛かると、防御したアーチャーはそのまま弾き跳ばされてしまう。
次いでセイバーは、紙一枚程で空を斬る様に衛宮士郎の顔前で、セイバーからの別れ、そしてセイバーオルタとしての敵対の挨拶であるかの様に剣を振り下ろす。
死を覚悟したが、訳が解らず腰を抜かす衛宮士郎の眼前に、剣の切っ先を突き付けるセイバーオルタ。
「セイバー? セイバーなのか!? 無事だったのか!?」
衛宮士郎が問い掛けるも無表情のまま答えない。
業を煮やした衛宮士郎がセイバーオルタに近寄ろうとした時、アーチャーは声を掛け彼を遮る。
「ぐっ、止めておけ衛宮士郎! あれはもう貴様の知っている嘗てのセイバーでは無い。あれを見てみろ!」
アーチャーが指すセイバーオルタの後には、黒い影の塊が触手を動かしながら佇んでいる。
遠坂凛は弾き跳ばされたアーチャーの元に駆け寄る。
「アーチャー!」
しかし、近寄ろうとしる遠坂凛にアーチャーは怒鳴る。
「戯け! 来るな、凛!」
セイバーオルタの、アーチャーに近寄ろうとした遠坂凛に向かう気配を察したアーチャーは、空かさず遠坂凛の前に跳びだし、彼女を守る。
「凛! 小僧と一緒に此処から逃げろ!」
「アッ、アーチャー!?」
「ふっ、足手纏いが居ると戦えないのでな。早くしろ」
後が無い事が判っているアーチャーの、遠坂凛達を身を挺して逃がす死を覚悟した指示に、苦渋の思いでそれに応える。
「わ、判ったわアーチャー! 後を頼むわ!!」
「ああ、任せておけ」
遠坂凛は、気絶したイリヤスフィールを背負った衛宮士郎と共に、アインツベルンの森から撤退を始める。
この緊迫した状況において、セイバーオルタが口を開く。
「ほう、貴方が
皮肉を込めた口調で返すアーチャー。
「私では不満らしいな、セイバー」
「私には満足も不満も無い。邪魔な者をただ排除するだけ」
嘗ての騎士としての行動規範から解放されたセイバーオルタ。戦いのためなら何でも有りだろうと推察するアーチャー。
「全力を出した君にはとてもじゃないが、勝てる気がしないんだがな」
アーチャーが言い終わると、その両手には一対の干将・莫耶が投影されており、それを見たセイバーオルタは剣を握り締め構を取る。
さきに攻め行ったのはアーチャーである。セイバーオルタの間合いに入るために走り寄った。
「まだまだだな、アーチャー。」
アーチャーは手数の早さで攻撃を仕掛けるが、セイバーオルタは余裕の力押しで弾きかえしてしまう。
攻守を変え、セイバーオルタが、アーチャーを力押しで剣を叩き付ける様にねじ伏せようと攻撃を繰り返すが、アーチャーの手数か上回り何とか凌いではいる。
アーチャーは初めて対戦するセイバーとの戦いに、勝算が見つけられない。頭の中でシミュレートしてみても、全てにおいて負ける結果にたどり着く。
「やれやれ、せめて相討ちでも良いんだが…………」
セイバーオルタの攻撃に、防戦一方のアーチャーの足元に影が拡がり始める。
「むっ、いかん!」
咄嗟に退こうとするアーチャーに、そうはさせじとセイバーオルタが攻撃を畳み掛ける。
このセイバーオルタからの攻撃に、影から逃れるすべを失ったアーチャーは、最後に遠坂凛に念話を送る。
(これが最期だ、凛。済まない…………)
結局、アーチャーは影に呑まれてしまう。
「私の役目は終わりました。あとは貴方に任せます」
影の塊に一言云うと、セイバーオルタは自ら影に沈んでいく。
すると、影の塊もこの場所から消えていく。
アーチャーからの最期の念話を受けた遠坂凛は、全身の力が抜けたのか座り込んで呆けてしまう。
「どうしたんだ遠坂? 疲れたかのか、なら少し休もう」
「違うの衛宮君、アーチャーがやられた…………」
アーチャーがやられた事に驚いた衛宮士郎は、遠坂凛の腕を引っ張り更に逃げる様に言う。
しかし遠坂凛はやや呆けた様に言う。
「もう手駒は無いのよ。勝てる訳無いわ。もうお終いって事よ」
アインツベルンの森から出た所で、言峰綺礼と出会う遠坂凛と衛宮士郎。
遠坂凛は言峰綺礼を睨みながら言い放つ。
「なんであんたがこんな所に居るのよ、外道神父!」
言峰綺礼は静かに答える。
「君達を待っていたのだかな。その様子だとサーヴァントを失した様だな、凛」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
気が付くと、あらっ? 取り敢えず伊丹の陣営以外のサーヴァントが居なくなって仕舞いました。
こんなんで、この先の展開はどうするつもりなんでしょうか?
いやいや、まだ居るでしょ。
ではでは…………
虚空屍