聖堂教会と言峰綺礼の絡みは数日前となりますが、イリヤを背負った衛宮士郎と遠坂凛が、言峰綺礼に出会うのは2月8日(金)の話の続きとなります。
話しの日付は暫し遡る。
聖堂教会は、伊丹から届いた手紙を最初は気にも留めてはいなかったが、同じ様な内容の手紙が魔術協会にも届いている事が判りその対応に追われている。
魔術協会から派遣されたマスターが、言峰綺礼との接触を最後に連絡が絶った事もあり、聖堂教会は言峰綺礼の過去のデータを集め身辺調査をしていた。
集められた情報から聖堂教会内では言峰綺礼の罷免、更迭が決まりつつあり、その後任にディーロ司教が内定し、更に事の真偽を確かめ言峰綺礼を査問する為に、審問官と警護の代行者を冬木市教会に派遣する。
審問官一行は冬木の街に降り立つと、事前に言峰綺礼とアポイントを取っていた事も有り、真っ直ぐに冬木市教会に向かいその門をくぐる。
門をくぐり礼拝堂の扉を開けると、正面の祭壇に立つ言峰綺礼を目にするが、彼から声を掛けらる。
「審問官の御一行、遠路遥々ご苦労」
審問官は挨拶もそこそこに話を切り出す。
「言峰神父。貴方にはとある嫌疑が掛けられている。ここでは何なので君の自室で用を済ませたい」
礼拝堂で話す事では無いので、個室で用件を済ませようとする審問官に言峰綺礼は言う。
「いや、ここで結構。礼拝堂には他に人は居らず、いや、入れないと言った方が正しいか────」
この言峰綺礼の言葉に異様な不信感を持った警護員は、言峰綺礼と審問官との間に立ち塞がり審問官を護る様に壁を作り、そして警護員の一人が口を開く。
「言峰神父! 大人しく我らに従いなさい!」
「無駄な事を」
すると何も無い天井空間から無数の剣が現れ、警護員を原型を留めないほどに貫く。この奇異な出来事に狼狽する審問官は悲鳴を上げながら礼拝堂の扉に走り出す。
彼は礼拝堂の扉に手を掛けるが扉はビクともしない。すると彼の顔の横を掠る様に剣が扉に突き刺さる。審問官は恐る恐る振り返ると、言峰綺礼の脇に一人の青年が立ち、威圧的に言い放つ。
「我に跪け! 雑種!」
審問官は、恐怖と青年から発せられる威圧感に呑まれ、その場に座り込んでしまう。
恐怖を与えた言峰綺礼は、審問官に話し掛ける。
「さて、貴様は何を審問しに来た。そして聖堂教会の意向を聞かせて貰おう」
座り込んだ審問官は言峰綺礼の弾劾と解任、更迭、そして恐らくは教会の内々で事を処理し、言峰綺礼を処分する積もりであろうと話し出す。
「神に遣え続けた私を処分するか…………しかし処分されるのは審問官、貴様の方だ」
この言峰綺礼の言葉を合図に、審問官の身体は余多の剣に貫かれてしまう。
「これで良いのだな、綺礼」
余多の剣を繰り出した青年の問い掛けに言峰綺礼は答える。
「ああ、予想通りの話を聞けたものでな。彼等には用は無い」
審問官が連絡を絶つと云った事態に、聖堂教会はその対策に追われる。再度審問官を送るが、やはり連絡を絶ち行方不明となってしまう。
この異常とも云える状況に、聖堂教会は言峰綺礼に対し代行者から成る部隊を送り込むが、帰還者が居ない。
聖堂教会は、言峰綺礼の聖杯戦争での監督役を解任する事を魔術協会には伝えるが、身内の恥を広めるのを嫌った枢機卿会議が、聖杯戦争参加マスターにこの事を伝える事をしなかった。
最近の教会での出来事を監視していたキャスターは、この事を伊丹に伝えていた。
「なあキャスター、言峰綺礼が教会から事実上の破門を言い渡されたけど、奴はどう出るかなぁ」
伊丹は、自分の中では答えが出ている事をキャスターに聞いてみる。
「恐らくはこの聖杯戦争の行く末を最後まで見届けると思いますが」
物語の展開を知っているキャスターは、その知識を元に答えると伊丹はそれに同意し頷く。
「ああ、俺もそう思っているんだ。奴も聖杯の中身の誕生を望んでいる一人だからな。果たしてどのタイミングでギルガメッシュを投入させて来るかが問題だな」
「仰る通りですわね。なかなか先が読めませんわ」
「ああ、一寸先は病み、いやっ、闇って奴だな…………最近憑かれ、いや、疲れが溜まっているなぁ」
度重なる聖杯戦争絡みの問題に、伊丹もストレスを溜め始める。そんな彼はついついボヤきが多くなる。
「しかし、うちらしか知らない情報とは云え、なんで聖堂教会は事実を公表しないかねぇ~」
「そうですわね。言峰綺礼は相変わらずあの教会に居座って、ギルガメッシュも居る所為で聖堂教会側も下手に手を出せないのでしょうね」
「第四次の時みたいに討伐イベントを開催すればいいのに、ねぇ~キャスター」
伊丹はこの状況を他人事の様に話し出す
「仮に討伐イベントが開催されたら、耀司様は先陣を切って行かれるのですね」
「んなの行かないよ。危ないし、キャスターが怪我でもしたらどうすんの!」
他人事の様に答える伊丹ではあるが、彼の想いに朱く照れるキャスターである。
こうして今日に到るのである。
「君達を待っていたのだが、その様子だとサーヴァントを失った様だな、凛」
言峰綺礼の言葉に、言い返せない遠坂凛。言峰綺礼は言葉を繋げる。
「君達に話したい事がある。教会まで来てはくれないか」
流石にランサーを隠し持っていた神父を信じ切れない遠坂凛と衛宮士郎は、返答を躊躇う。
「そうか、君達はここで聖杯戦争から脱落と云う訳だな。期待外れか」
言峰綺礼の最後の一言に火が着いた遠坂凛。
「期待外れって、どう云う事よ!?」
「私の師でもある時臣師の娘であり、我が弟子でもある君の事だから期待もしていたと言ったのだ」
言峰綺礼は遠坂凛を煽り、彼女は簡単に乗ってしまう。
「期待を裏切る様な事でご免なさいね! でも、期待を裏切ったからって何かあるの! あんたが此処に居るって事は何か有るのね?」
勿体振った言い方をする、言峰綺礼。
「無くは無いから君達の前に居るのだが、無理強いしない。わたしの話に興味が有るのなら付いて来たまえ」
遠坂凛、イリヤスフィールを背負う衛宮士郎は、言峰綺礼が待機させているタクシーに乗り込み教会へと向かう。
言峰綺礼と遠坂凛の一行のやり取りを使い魔を通して観ていたキャスターは、念話で伊丹に知らせる。その話を聞き、伊丹は一抹の不安を抱きキャスターに指示を出す。
(キャスター。ライダーを借りてランサーと三騎で教会に向かってくれ! 何にも無ければ手を出さなくても良いけど、彼等の身に危険が及びそうならキャスター援護の下、ランサーとライダーで救出して、柳洞寺で身柄の保護を頼む!)
(救出のオペレーションの発動と云う訳ですわね。畏まりました)
教会に着いた一行は、礼拝堂に入り、衛宮士郎はイリヤスフィールを下ろし長椅子に横たえる。
早速、遠坂凛が言峰綺礼に問い掛ける。
「さっきの話はどう云う事かしら?」
礼拝堂の祭壇の前に立つ言峰綺礼の口から思いも寄ら無い答えが返ってくる。
「凛、再び聖杯戦争の舞台に立つ気は無いか?」
「はっ? 綺礼、貴方何言っているか判ってるの? 私達にはサーヴァントが居ないのよ!」
言峰綺礼は遠坂凛の正面に立ち、彼女の目をじっと見詰めながら話す。
「居ないから言っているのだ。最強のサーヴァントを渡すとな」
「ちょっとあんた! どんだけサーヴァントを隠し持ってるのよ! そんなの可笑しいじゃない!!」
流石に遠坂凛は、言峰綺礼がサーヴァントを何体かを所持している出鱈目さをぶつけたが、平然と答える言峰綺礼。
「別に隠し持っていた訳ではない。誰も私に問わないだけだ」
「ふ~ん、まだサーヴァントが居るんだ…………」
「ああ。さあ、どうする凛?」
流石に怪しいと感じる衛宮士郎が、遠坂凛に疑問を述べる。
「遠坂! ちょっと待てよ。話が旨過ぎないか?」
遠坂凛は、衛宮士郎の言葉など聞く耳を持たないかの様に彼を黙らせる。
「士郎は黙ってて! ねえ綺礼、貴方はそのサーヴァントを私達には使わせて、何をしようとしてるの?」
「何もかにもない、私はこの聖杯戦争の行方を見届けたいだけだ」
言峰綺礼の提案に、衛宮士郎同様に胡散臭さを感じている遠坂凛。
「なら聞くけど、そのサーヴァントとの契約はどうするの? 私と契約し直すの? それとも所有権はあんたで、私にレンタルする形なの?」
「レンタル移籍と云う奴だな」
言峰綺礼のレンタル発言に、何時でも遠坂凛を裏切る事が出来る可能性に彼女は気が付く。
「なら、この話は無しよ! 所有権があんたに有るなら、自分で戦いなさいよ! 私達はあんたの駒じゃないって云うの!!」
「残念だな。私も聖杯戦争のマスター、敵対するマスターとして、君達を生かしておく必要が無くなった。処分させて貰おう」
すると教会の奥から一人の、見るからに外国人である青年が出て来て、言峰綺礼に確認する。
「良いのだな、綺礼」
「ああ、構わん。好きにしてくれ」
言峰綺礼が口にした、遠坂凛達の処刑命令。
「雑種、我自ら貴様らを処刑する栄誉を受けよ。それとも抗う気概を見せるか?」
空間に余多の槍剣を出現させ、今にも遠坂凛達の頭上から降り注がんとしたその時、何処からかキャスターが青年をビームで牽制攻撃する。
彼が一瞬怯んだ隙を突き、ランサーとライダーが礼拝堂に突入し、遠坂凛、衛宮士郎とイリヤスフィールを担ぎ上げると、直ぐに撤収した。
キャスターは追手が居ない事を確認し、最後に教会を後にする。
キャスター達に救出された遠坂凛、衛宮士郎とイリヤスフィールは柳洞寺に連れて来られる。イリヤスフィールは相変わらず意識が戻らず、布団に寝かされている。
今まで散々敵対行動を取ってきた相手のサーヴァントに救われた屈辱にまみれる遠坂凛と、素直に感謝する衛宮士郎。
しかし、遠坂凛は毅然とした態度でキャスターに話す。
「貴方達のマスターさんにお礼を言いたいんたけど、宜しいかしら」
「あ~ら残念。マスターは此処にはいらっしゃらなくてよ。恐らく夕方にはお戻りになるわ」
遠坂凛は、サーヴァントを連れずに行動している、キャスターのマスターについて考えを巡らす。
「あんた達のマスターって何者? 日中とは云え、サーヴァントを置いて居なくなるなんて」
「マスターはお忙しいの! 貴方達出来損ないみたいに、本来やるべき事を放り出しては抜けられないのよ」
キャスターは、遠坂凛や衛宮士郎の様には、本業をサボれない事を暗に仄めかす。
「ふ~ん、キャスター。貴女のマスターは社会人な訳ね」
遠坂凛は、キャスターとのやり取りで、キャスターのマスターの正体に、論理的に辿り着いた
(やっぱりあいつしか居ないじゃないのよ!)
「まあ、そう云う事よ。で、貴方達はどう為さるのかしら。マスターが戻る迄居ても構わないし、帰ってもいいのよ」
すると衛宮士郎がキャスターに問い掛ける。
「桜は…………桜は元気にしてますか?」
「あらっ、坊や。桜の事が心配?」
衛宮士郎の問い掛けに、この様な状況で自分の事より桜を心配し出す彼に、キャスターは驚いた。
「はい。夜に見た桜が、いつもの桜と感じが違っていた様に見えたんで…………会わせて貰えないですか?」
「無理ね。桜は今、体調を崩して寝込んでいるのよ。そっとしておいてあげて」
キャスターの答えに衛宮士郎も、大人しく引き下がる。
「そうですか…………判りました。桜が目覚めたら、宜しく伝えて下さい」
「それで貴方達はお帰りになるの、それともマスターがお戻りになる迄、何時迄もここに居残るつもりなのかしら?」
キャスターは、暗に帰るように言うが、彼等は残ると言い出す。
「私も衛宮君も、貴女のマスターさんにキチンとお礼を申し上げたいので、お戻りになる迄ここにお邪魔させて貰います。」
(如何いたしましょう、耀司様)
空かさず念話で事情を話すキャスターに、伊丹はそれで良いと答える。
(仕方がないよ。何れ正体はバレただろうしね。仕事が終わったら、普通に帰るから)
仕事も終え帰宅する伊丹は、柳洞寺の山門を守備しているランサーに話し掛けられる。
「伊丹も面倒臭い事に巻き込まれちまったな」
「それを云うなら聖杯戦争自体が面倒臭いぞ!」
山門を過ぎ自宅に戻る伊丹。
「ただいま帰ったよ」
そこにはキャスター、読みが当たったと勝ち誇った顔の遠坂凛、そして驚き顔の衛宮士郎が居る。
「こらっ、君達! 学校をサボっちゃ駄目じゃないか!!」
冗談混じりに注意する伊丹に、先ずは遠坂凛が口を開き、頭を下げる。
「今日は言峰綺礼から救って頂き有り難うございます」
継いで衛宮士郎も口を開く。
「伊丹先生、有り難うございます。まさか先生がマスターだったとは…………」
「士郎君、何を言っているんだ! 散々私達を攻撃した人間の云う言葉じゃ無いぞ!! あっ! 六万円!!」
「あの時は申し訳ありませんでした。遠坂がどうしても先生がマスターだって言い切るものでしたから、それに俺も流されて仕舞いました。お金の方はもう少し待って下さい」
衛宮士郎の発言に、異議を唱える遠坂凛。
「ちょっと待って衛宮君! それは貴方と話し合って決めた事でしょ! なんで私一人悪者みたいな言い方して…………」
「俺、桜やセイバーが居なくなった時に分かったんです。只々言われるがままに行動を決めてしまって良いのかどうか? 自分でも情報を集め、検証し判断する事が出来て居ればと…………」
伊丹は、衛宮士郎の今までに無い考え方に、彼の成長を感じる。
「成長したね衛宮君。しかし私に言わせれば、まだまだ君達は発展途上の子供だよ。君位の若者が、早々その様な考えに到らなくて当たり前だよ」
伊丹は遠坂凛に話を向ける。
「処でサーヴァントが居なくなった今、遠坂さんは暫く衛宮君の所に居るのかい?」
「まだ何も考えては…………」
アーチャーを失ったショックから立ち直り切れていない遠坂凛は言葉を濁す。
「言峰もあんなんだから、今迄通り衛宮君の家にご厄介になっている方が良いね。その方が警護がし易いんだよ。一応、ランサーを衛宮邸の警護に着かせるからさ」
伊丹は、キャスターとアイコンタクトを取り、ランサーに依る衛宮邸警護の了承を得て、山門の警戒はライダーに依頼をする。
「ライダー、申し訳無いけど、山門の警戒に当たってくれないか」
伊丹の問い掛けに、実体化するライダー。
「私で宜しければ警戒の任に当たります」
そう言い残すと、ライダーは再び霊体化し、山門に向かい出す。
ランサーの護衛の下、衛宮士郎と遠坂凛が帰ると、部屋には伊丹とキャスター、そして未だ目覚めぬイリヤスフィールが残される。
キャスターは、アインツベルンの森での事と、教会での出来事の詳細を伊丹に話す。
「士郎のセイバーに続き、凛のアーチャーまで居なくなっちゃったね。しかし言峰が、凛と士郎を殺そうとしたのは想定外だな…………で、イリヤさんと桜の様子はどうだい?」
伊丹はやはり黒桜になって仕舞うのか心配しキャスターに問い掛ける。
「はい、桜もイリヤスフィール嬢も何れ目覚めましょうが、桜の方は目覚めた時、今迄の桜でいるかどうか…………」
かなりのサーヴァントを取り込んだ反動の大きさに、キャスターも予想がつかない。
「臓硯も脱落したし真アサシンも居ないから、かなり桜とライダーの負担も減る筈だけど、あの桜の影の塊とライダーはどうなんだろう?」
寝ている桜に、バーサーカーを飲み込み、赤い弓兵を飲み込みむ場面が脳内に流れ込んでいた。
寝汗をかき目覚た彼女は、バーサーカーとアーチャーを襲った事を夢ではなく、現実の物であると感じる。それは彼女と繋がっている影の塊から送られてきた映像からも理解する。
すると桜の部屋の襖越しに、伊丹が声を掛けて来る。
「桜、入っても良いかい?」
乱れた寝間着を整え、入室しても良いと伊丹に伝えると、伊丹とキャスターが顔を見せる。
桜の様子を見た伊丹とキャスターは、取り敢えず普段の桜と変わりがない事に胸を撫で下ろす。
「身体の調子はどうかしら?」
キャスターからの問い掛けに胸を押さえながら話す桜。
「はい、身体全体が熱く、特に胸の当たりが一番熱い感じがします」
伊丹は今日のアインツベルンの森での出来事を認識しているか、桜に語り掛ける。
「もしかして、黒い影の夢でも見た?」
「ええ、鋼色の大きなサーヴァントとアーチャーを呑み込む夢、いいえ、映像を見て、呑み込むのを感じました」
伊丹は判ってはいるが、桜と黒い影の繋がりを確認し、放って置けない事を理解する。
「そろそろ限界だよ、桜。これ以上の危険を君に犯させる訳にはいかない。君はサーヴァント四体を取り込んでいる。セイバーオルタを除くと三体だけど、そろそろ自分を保てなくなる筈なんだ」
「これ以上サーヴァントを取り込むと私はどうなるのですか?」
伊丹の言葉に顔を青くする桜は、彼に問い掛け、伊丹は答える。
「桜の溜め込んで抑え込んだ感情が表面に出て来て、黒い影を暴走させて、聖杯になっちゃうよ」
俯きながら、一瞬ニヤリと笑う桜。
「私が私で無くなると云うのですね、もしかしてこんな風にですか────」
突然、黒い影の塊を出し、黒い瘴気を纏い薄ら笑いを浮かべ、黒い筋を首周辺に浮かび上がらせる桜。
「キャスター! イリヤを連れて逃げろ!!」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
伊丹達に影の塊を出す桜!
ではでは…………
虚空屍