Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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話は2月8日(金)の夜から9日(土)に掛けての出来事になります。


29 なあ遠坂。俺考えたんだけど、こんなのどうかなぁ────

「キャスター! イリヤを連れて逃げろ!!」

 

 伊丹はキャスターに叫ぶが、キャスターは伊丹を守ろうと、ルールブレイカーを構え、彼の前に出る。しかし伊丹は、キャスターの脇から桜に跳び付くと、彼女を抱き締め優しく頭を撫でる。すると桜はポロポロと泣き始める。

 

「お父様、お姉様、ご免なさい。まだ私が影を操れる処を見せ様と、冗談半分にこんな事をしてしまい、ご免なさい、本当にご免なさい」

 

 流石に冗談にしても度が過ぎていると、キャスターが桜の頬を叩こうと手を上げるが、伊丹はキャスターの手首を掴み止めさせる。

 

「桜、あの影の塊を仕舞ってくれないか」

 

「はい、お父様」

 

 伊丹の願いを素直に聞き、影の塊を仕舞う桜。そんな彼女に伊丹は優しく話をする。

 

「桜。私はキャスターを妻の様に愛し、君を娘として愛して行くつもりだよ。人を試す様な悪戯をして、何か得るものが有ったかな」

 

「いえ。只、お父様とお姉様が、私の事を本当に心配して下さって居たことを知らされました」

 

「本当は、私は桜に聖杯戦争に関わって欲しくは無いんだ。でもライダーと云う戦力を持つ桜を抜いては、現状を維持出来ないもどかしさもある。申し訳ない、桜」

 

 伊丹は現状を見て、ライダー抜きの守備が成り立たない事を、桜に話し謝る。

 

「私もお父様とお姉様の娘として、何よりも魔術師としてこの戦いに参加させて下さい。それは前にも話をしました」

 

 桜の決意は固い。そんな桜に伊丹は一つの提案をしてみる。

 

「ライダーと衛宮邸の警護に着かないか? 桜はあの家の事情にも詳しいし、君とライダーがセットで行けば鬼に金棒なんだけど」

 

 伊丹の提案に、一瞬顔を朱らめる桜。

 

「わっ、私がそんな重要な仕事を任されても良いのてすか?」

 

「構わないよ。それに士郎君のあの落ち込み方じゃ、桜じゃないと慰められないよ。恐らく、士郎君は以前とは違って、少し逞しくなったかもしれないよ」

 

 伊丹の話に益々明るさを取り戻す桜。

 

「私、先輩の家に行きます! 以前の様に通っても宜しいのですか?」

 

「いやいや、寧ろ聖杯戦争が片付く迄、泊まり込んでもいいんだよ。そうじゃないと警護が出来ないだろ」

 

 端から観ていても、そわそわしているのが解る程に喜ぶ桜に、伊丹は父親らしい一言を加える。

 

「士郎君が好きなのは構わない。只、節度あるお付き合いをしなさい。それさえ守れば応援するよ」

 

「有り難うございます、お父様」

 

「何だかんだ言っても、桜は士郎君の事が好きなんだね。お父さん嫉妬しちゃうな」

 

 伊丹の発言にキャスターが慌てて食い付く。

 

「よっ、耀司様には私が居ますでしょ!?」

 

 すかさずキャスターの手を握り、話を続ける伊丹。

 

「冗談だよ、キャスター。こんなキャスターを嫁さんに迎えられるんだから、俺は三国一の幸福者だよ!」

 

 そんな伊丹等の会話に笑顔で答える桜だが、一つの気掛かりな事を思い出し、表情を暗くする。

 

「お父様、私はイリヤスフィールさんのバーサーカーを倒して仕舞いました。この事を彼女に謝らなければ…………」

 

「そうだね。彼女が目覚めたら私が謝罪しておくよ。桜は心配しなくていい。彼女が目覚めたら知らせるから、それから謝りなさい」

 

「はい、お父様。宜しくお願い致します」

 

「うん。任せなさい。もう遅いから寝る仕度をしようか」

 

 寝床の準備をし出す伊丹に、キャスターが話し掛ける。

 

「では耀司様。私がイリヤスフィール嬢の様子を看ていますわ」

 

「宜しく頼むよ、キャスター」

 

 こうして伊丹家の夜が更けていく。

 

 

 

 

 

 場所が変わり、衛宮邸での話し。

 

 聖杯戦争を一週間と保たずに脱落した衛宮士郎と遠坂凛の二人は、通夜の如く落ち込み、暗い雰囲気を醸し出す。

 

 そんな雰囲気を破るかの様に口を開く衛宮士郎。

 

「なあ、遠坂。伊丹先生も善い人で良かったな。警護にサーヴァントを回してくれるなんて」

 

 何故か捻れた答えをする遠坂凛。

 

「ふんっ、どうせサーヴァントの数の違いを見せ付けたいだけよ!」

 

「なあ、遠坂。そう云う見方止めないか。何だかんだ言っても俺達は、助けられてばかりじゃないか」

 

 衛宮士郎に正論を言われた遠坂凛は、気不味く顔を朱らめ俯く。

 

「それに伊丹先生は、自分には関係のない部分でリスクを犯して居るのが判らないか?」

 

 この衛宮士郎の話に興味を持った遠坂凛が反応する。

 

「あいつがどんなリスクを背負っているって言うのよ!?」

 

「戦力の分散だよ。そんなの遠坂にも判っているだろ! それでも先生は警護を付けてくれたんだぞ」

 

 するとランサーが二人の前に現れる。

 

「ほう、坊主。勉強してんじゃねえかよ! 見直したぜ。俺もあの伊丹が不思議でなんねえんだよ。意味も無く懐が広いって云うか、馬鹿って云うか、変な野郎だぜ! まあ、何か有ったらあいつを頼るんだな」

 

 そんな言葉を残して消え去るランサー。

 

 暫し考え込んだ遠坂凛が口を開く。

 

「確かにそうよね。意味も無く桜やライダー、そしてランサーがあいつに付く訳無いものね。それにキャスターとの関係も羨ましい位だわ。本当はあいつ、物凄い魔術師なんじゃないかしら。なら教えて貰う事も、有るかもしれないわね…………」

 

 物凄い勘違い妄想が拡がる遠坂凛に、衛宮士郎が口を挟む。

 

「なあ遠坂。俺考えたんだけど、こんなのどうかなぁ────」

 

 

 

 

 

 いつも通りの朝を迎え目覚める伊丹。

 なんとそこには意識を取り戻したイリヤスフィールがいる。

 

 イリヤスフィールが伊丹を見るや否や、開口一番の言葉を発する。

 

「これだから庶民の屋敷は狭くて嫌なのよ!」

 

 伊丹は心の中で『そこかよっ!』と、思わず突っ込みを入れるが、表情には表さずに朝の挨拶をする。

 

「おっ、おはよう。イリヤさん」

 

「ええ、おはようイタミ」

 

 素っ気無い彼女の挨拶に、伊丹は先ずはバーサーカーの件を謝罪し出す。

 

「イリヤさん。バーサーカーの件は申し訳ありませんでした。私の管理不足です」

 

 土下座をして頭を下げる伊丹に、イリヤスフィールは口を開く。

 

「そうよ! 私は貴殿方に敵対行為すらして居なかったのに、随分と酷い仕打ちをしてくれたわね!!」

 

 イリヤスフィールは立ち上がり、腰に手を当て捲し立てる。

 

 そんな喧騒に気が付き起き出す桜。

 

「お父様、どう致しました────イリヤスフィールさん!!」

 

 起き出し居間に顔を出す桜は、意識を取り戻したイリヤスフィールを見て驚き、慌てて頭を下げ謝り出す。

 

「イリヤスフィールさん。この度の件は私に責任があります。私で償う事が出来るなら仰って下さい」

 

「サクラ! 貴女、勘違いも甚だしいわ! 誰にもバーサーカーの代わりなんて出来ないのよ!! それを貴女は…………貴女、何様のつもりかしら!?」

 

「…………」

 

 イリヤスフィールからのキツい叱責に答えを詰まらせる桜。

 

 そんな桜を見て、やれやれと表情を緩めるイリヤスフィール。

 

「サクラはお馬鹿さんね。軽々しく責任を取るとか言わない事よ。私が貴女の命を貰うと言ったら差し出すつもりなの!」

 

 イリヤスフィールの優しさを感じた桜は、ポロポロと涙を流しイリヤスフィールに謝り続ける。

 

 そんな桜の気持ちを受け入れたイリヤスフィールは桜に話し出す。

 

「サクラ、あれは戦いなのよ。伊丹と同盟を結んでいた訳でもないから、誰の責任でもないわ。私が甘かっただけよ」

 

 イリヤスフィールは踞って泣いている桜の傍に寄り添い、優しく頭を撫でる。

 

「サクラ、胸を張って頂戴! 貴女は最強のサーヴァントであるバーサーカーを倒したマスターなんだから! そうしてくれないと私が悲しくなるでしょ!!」

 

 イリヤスフィールの激励に応え、桜は顔を上げ、彼女と抱き合う。

 

「有り難うございます、イリヤスフィールさん」

 

「イリヤで良いわよ」

 

 二人の様子を見ていて、最悪の事態にはならなかった事に胸を撫で下ろす伊丹。

 

「処でイタミ。貴方には、サクラの親代わりとしての保護者としての責任を果たして貰おうかしら」

 

 いきなり伊丹に責任を取れと要求し出すイリヤスフィール。

 

「あの~、どう責任を取ればいいのか…………」

 

「先ずは私とセラとリズを守ること。貴殿方がバーサーカーを倒したんだから当たり前でしょ。それとここに住まわせて貰うわ。だからその交渉をここの家主にして頂戴!」

 

「わっ、判りました! 早速零観さんに交渉してきます」

 

 キャスターとイリヤスフィールを連れて零観の部屋へと向かう伊丹が大きく深呼吸をして、零観の部屋をノックする。

 

「おはようございます、零観さん。伊丹です。少し宜しいでしょうか」

 

 早朝からの伊丹の訪問に応える零観。

 

「どうぞお入り下さい、伊丹さん」

 

 先ずは伊丹だけが入室し、キャスターてイリヤを部屋の外で待たす。

 

「実は零観さんにお願いがございまして…………」

 

 話を濁し始める伊丹を不審に思いつつ応える零観。

 

「はて、どの様なお話しですかな」

 

「実は私のドイツの知り合いがこちらに来まして、暫く宿を貸して頂きたいと…………」

 

「…………」

 

 流石に零観も、また外国人かと思い、伊丹の世界を股に掛けた顔の広さに面食らう。

 

「伊丹さんからのお願いでもあるし、ここを頼るとは余程困られているのでしょう。判りました。離れを一つ使って下さい。但し条件があります」

 

 まさか条件を出されるとは思いもしなかった伊丹は狼狽するが、それを呑まない事には許可が出ない事もあり、無条件に呑む決心をする。

 

「条件とはどの様な事でしょうか」

 

「時間が空いたらで宜しいのですが、私とお突き合いの手合わせをして頂こうかと」

 

 流石にここまで来て手合わせをしろとは呆れる伊丹だが、それを了承する。

 

「判りました、零観さん。時間が空きましたらお手合わせ願います」

 

 これには零観も顔を綻ばせ喜ぶ。

 

「とうとうその気になって頂けましたか! いや~、腕が鳴るな!!」

 

 半ば脅迫だろうと心の中で毒突きながら、伊丹は話を本題に戻す。

 

「零観さん、此方としては腕を鳴らさなくて結構なんですが…………では紹介をさせて頂きます。イリヤスフィール・フォン・アインツベルン嬢です」

 

 キャスターに付き添われたイリヤスフィールが入室し、彼女はスカートの端を摘み一礼をする。

 

「ご紹介に預かりましたイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します」

 

 零観はフォンの貴族称号を知っており、その貴族が逗留するに辺り、どの様なもてなしをすれば良いのか判らず慌てるが、伊丹がどれだけの交遊関係を持っているのかに驚く。

 

「イッ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン嬢、狭い部屋で申し訳ありませんが、宜しかったらお使い下さい」

 

「ご当主様でいらっしゃいますか? この度の急な申し出に応えて頂き、アインツベルンを代表し御礼申し上げます。私を呼ぶのもイリヤで構いませんわ」

 

 更に一礼するイリヤスフィールに戸惑う零観は、その矛先を伊丹に向ける。

 

「イリヤさん、私は当主代理なのですが、一応。しかし伊丹さん! 全く貴方と云う方は、許嫁さんと云い、こちらの貴族様と云い、顔が広いですなぁ~。羨ましい限りだ…………」

 

 そんな伊丹はポリポリと頭を掻く。

 

「そうでも無いんですが…………」

 

 イリヤスフィール達の住まう離れの件が解決し、彼女は早速セラとリズに連絡して柳洞寺に来る様に指示を出す。

 

「さあてと。後はしっかり守って頂戴ね、イタミ」

 

「はい、お守りいたします…………はぁ~」

 

 伊丹の口から発せられる言葉は、これが限界であった。

 

 早朝からゴタゴタが続き、何とか朝の仕度も済み、桜と一緒に登校となった時、イリヤスフィールも一緒に学校に行きたいと言い出す。

 

「イリヤさん、学内で気配を消して大人しくしていられますか?」

 

 伊丹のこの言い様に、若干の苛立ちを覚えたイリヤスフィールは答える。

 

「ええ、気配を消して校内を彷徨くから、心配してくれなくて結構よ!」

 

「一応キャスターの使い魔を着けておきますので、安心して下さい」

 

「では皆さま、学園とやらに出向きましょう。」

 

 全てがイリヤスフィールの行動に引き摺られている伊丹と桜である。

 

 三人でたわいもない話をしながら学園に着く。

 

「イリヤさん、私は職員室に、桜はクラスに向かいます。イリヤさんはどうしますか」

 

 そこまで深く考えては居なかったイリヤスフィールは泣き出しそうな顔をして困り果てる。

 

「判りましたイリヤさん。気配を消して、今日一日中私と一緒に居ましょう。どうですか?」

 

 伊丹の対応に安心したイリヤスフィールは、伊丹と一日中学内で過ごす事を決める。

 

「イタミさん。今日一日のエスコートをお願い致します」

 

「任せて下さいよ、イリヤさん!」

 

 今日一日の伊丹の仕事振りを観たイリヤスフィールは、マスターと社会人の掛け持ちがいかに大変な事であるかを認識する。

 

 

 

 

 

 同じく学園内で柳洞一成を見付けた衛宮士郎は、彼に頼み事を持ち掛ける。

 

「なあ、一成。話が有るんだけど、ちょっといいか?」

 

「ああ、何かと思えば衛宮か。話とは何事だ?」

 

「一成の生活サイクルに準じてでいいんだが、暫らくの間、お寺に住まわせて貰えないかな? もちろん生活費とかの諸経費も入れさせて貰うけど、どうかな?」

 

「はて、どう云う心境の変化かな? 私は問題なく受け入れたいのだが、こればかりは兄の零観に聞いてからでないと即答はできんぞ。早めに決めたくば、今日一緒に下校してお寺に寄らないか? そこで兄に話せば良かろう」

 

「ああ、そうだよな。そうさせてもらうよ。じゃあ放課後に宜しくな」

 

「ああ、しかと賜った。安心せい!」

 

 

 

 

 

 今日は土曜日と云う事もあり、授業も午前中で終わった放課後、職員室で書類仕事をしている伊丹を遠坂凛が訪ねる。

 

「先生、相談したい事がありますのでちょっと宜しいですか」

 

 珍しい事もある物だなと驚く伊丹に対して、小声で言葉を繋げる遠坂凛。

 

「人気が少ない所でお願いしたいのですが…………」

 

「あ、ああ。分かったよ」

 

 困り顔の伊丹が席を起ち職員室から出ると、何故か彼の脇に少女が付いてくることに気が付き驚く遠坂凛。

 

「えっ! イッ、イリヤ!?」

 

 伊丹は慌てて、遠坂凛に黙る様に言う。

 

「しっ! 静かにしなさい。遠坂さん」

 

「済みません…………」

 

 伊丹は遠坂凛とイリヤスフィールを社会科準備室に招き、席を勧め口を開く。

 

「話って何だい? 大方、聖杯戦争絡みって事だろうけど」

 

「ちょっと待って下さい。何故イリヤスフィールさんがここに居るのですか!?」

 

 遠坂凛は自分の相談より、何故ここにイリヤスフィールが居るのかを伊丹に聞こうとするが、話す順番が違うと伊丹に言われる。

 

「いや、先ずは君の相談事が先だよ。その後でイリヤさんの事を話すよ」

 

 話をしてくれるのならと納得した遠坂凛は話し出す。

 

「先生に相談とは…………」

 

 

 




最後まで読んで頂き、有り難うございます。

虚空屍のつくるこの話、戦いの描写が少なく、展開がホームドラマの様を呈していると感じたのは虚空屍だけでしょうか?

そんなアットホームな伊丹家の話に和んで頂けたら幸いですが…………


ではでは…………


虚空屍
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