あんまりポチポチやって再び全文削除してしまうのは恐いしぃ…………
削除前とは若干文章を変えた所も有りますが、また目を通して頂けたら幸いです。
本編の日付は続き1月22日(火)の夕方から夜に掛けての話になります。
「此処は?」
夜半過ぎに意識を取り戻した彼女は、上体を起こしながら着衣に乱れが無いのを確認し辺りを窺う。
彼女が目を覚ました事に気が付いた伊丹は微笑みながら答える。
「もう大丈夫ですよ。此処は貴女が倒れていた柳洞寺の境内の私の部屋です」
少し話は遡る…………
学園からの帰宅時に柳洞寺の石段下で彼女を見つけた伊丹はその正体を確かめ、お姫様抱っこで石段を駆け登り、誰にも見られる事の無い様に自室に彼女を運び込み意識が戻るまで側に居たのである。
( 彼女を抱っこしての石段登りなんて、あの頃のハイポート走に較べると楽なもんだよなぁ~)
…………そして今に至る。
「で、貴方は?」
彼女は明らかに不審者に向ける眼差し、さながらビームが出そうな程の鋭い目付きで伊丹に問う。
「恐らく…………恐らくなんですが貴女のマスターだと思いますが…………」
伊丹が令呪の浮かぶ手の甲を彼女に見せる。
彼女に見せた物は、石段下で彼女を抱き上げた時、手の甲に有った痣が熱を持ち令呪に成った物の様である。
「あ、貴方が…………貴方が私のマスターなのね…………」
彼女はそれを指でなぞり、伊丹が己がマスターであることを確認する。
「ふふっ、やっとお逢い出来ましたわね」
すると彼女はいきなり伊丹の頬にパパンッ! と平手を打ち放った。一瞬の往復ビンタである。
「アブフッ!」
彼女は手の動きが捉えられる程には力加減をしたが、伊丹は首が飛ぶのを覚悟するがそうは成らず、彼女は泣くのを堪えて話し出す。
「今迄何処に居らしたのかしら!? 裏寂れた旅籠の脇に呼び出され、誰も居ない、マスターとのパスは極細級に細い、何処に居るかも掴めない、散々さ迷った挙げ句、魔力が殆ど無くなり此処で倒れてしまったのよ!」
伊丹は彼女の不満と抗議にオロオロし出し、何を言い訳をしようかと頭をボリボリ掻き始める。
「そのう…………初日は貴女が言う処の旅籠に居ましたが、その後はあちこち行きまして今は此処に落ち着いて居るんですが…………」
伊丹の取って付けた様な言い訳がキャスターに通じる筈もない。
「マスター、貴方は私を召喚した自覚が有るのかしらね!? いい加減過ぎるわ!!」
当に鬼の形相で伊丹を責め立てる彼女。
確かに伊丹の基本思考はいい加減である。そう、良い加減なのかも知れない。
「すんません、自分、魔術師じゃ無いもんで召喚が出来るなんてちっとも思いもしませんでした。本当にご免なさい!」
額を畳に擦り付ける土下座する伊丹。
「そう思うのなら責任をとって頂くわ。マスター」
鬼の様な形相から普段顔にもどる彼女。
「責任をとれって…………まさかの令呪を引き抜くとか…………ですか!?」
伊丹は最悪の事態を想像する。
「それも有りかも知れないわねぇ、それで私の木偶人形にでもしてやろうかしらぁ~」
彼女はニヤリと口角をあげる。
「ちょっ、それも有りかもって!? それってもしかしてとっても痛いんじゃないんですか!? それに木偶人形とか蝋人形の秘密の館とかも止めて下さい! 本当に勘弁して下さい!!」
伊丹はキャスターなら本当に遣りかねないと慌て出す。
「冗談よ、冗談! 蝋人形の秘密の館とやらは知らないわ。でもマスターには何かしらの責任はとって頂こうかしら! それは後のお・た・の・し・み!」
彼女は笑っていない目で少し微笑む。
「とほほ…………処で身体の方は如何ですか?」
伊丹は危険な会話から話を逸らして話題を変える。
「そうね、大分魔力が流れて来たみたいだし調子も戻ってきた様ね。此処まで運んで助けて下さったマスターにお礼を申し上げるわ」
そう言うと彼女はペコリと頭を下げる。
「それは良かった! 本当に良かった! ここ柳洞寺は霊脈の集まる所の様ですから」
「その様ね。魔術師でもない貴方からの魔力供給は絶望的ですしね。でも何故そんな半端な貴方が霊脈の事を知っていたり、私を召喚出来たのかしら?」
魔術師でもない伊丹の話に不思議がる彼女である。
「そっ、それに関しては後程説明いたします!」
「そぉ~願いたいものだわ」
納得のいかない答えにプク~ッと頬を膨らます彼女も、なかなかお目に掛かれない。
「あの~、大事な事を忘れていましたね。お互い自己紹介をしませんか?」
彼女の正体を知りつつも提案をする伊丹。
「そうだったわね、まだ名乗って居なかったわ。改めましてマスター。サーヴァント・キャスター、貴方を護る盾となり伴に戦いに挑み勝利致しますわ」
「自分は伊丹耀司。因みに独身で公務員だ。宜しく、キャスター。実は君を待っていたのかも、むふっ!」
エルフ耳大好きな伊丹である。
「処でキャスター。魔術師でもない自分が此処の霊脈の事や君の真名を知っていたとしたら驚くかい?」
キャスターは伊丹の放った言葉の意味を今一理解しないまま、当たり前の答えを返す。
「霊脈の事は何とか調べる事は出来るかも知れないでしょうが、私の真名? まだ申していないのだけれど」
伊丹はワクワクドキドキしながら口を開く。
「そうですよね、メディア…………さん?」
( こっ、この男は私をメディアと呼んだ! 正確ではないもののメディアと呼んだわ! でも何故に真名に近い名前を知っているの? この男は何かの能力者なの!?)
内心驚くが、辛うじて表情には表さないでいるキャスター。
「あら残念。私はメディアでは無くてメデイアよ。よく覚えておきなさい」
「メデイアさんでしたか、これは失礼しました。しかしこれからは真名を呼ぶのは控えます。誰が聞いているか分かりませんしね」
( 物語の話に出てくるキャスターと違うって云う事なのか? どう見ても同じにしか見えないんだが、メディアではなくメデイアかぁ )
何処で誰が聞いているか判らないので真名を口にするのを避ける伊丹と、その配慮に感謝するキャスター。
「そうして頂けるのなら助かりますわ」
「では、キャスター。自分事、伊丹耀司とこの世界についての話しをさせて貰ってもいいかい?」
伊丹はキャスターに、これ迄の経緯を話しておいた方が良いと思い話す。
「それが私の答えになるならお願いするわ」
伊丹は冬木に来てからの出来事についての話を始める。
「キャスターを召喚したのは恐らくこれなんだけど…………」
早速伊丹は即売会で購入したキャスターのフィギュアとなんちゃって召喚陣シートを取り出し、キャスターに拡げて見せた。
それを見せられたキャスターは拳を握り締め顔を紅潮させブルブル震えだす。
「私は、私はこんな物で召喚されたって云うの!?」
魔術師でもない男に、子供騙しの様な玩具の召喚陣で呼び出されたキャスターのプライドはズタズタに引き裂かれてしまった。
「ですから本当にご免なさい。決して貴女を侮辱した訳ではないんです。でもこのなんちゃって召喚陣シートって3500円もするんですよっ。この紙
キャスターは伊丹の物言いにも苛立つ。自分が召喚されたのが玩具でしかも紙っ
「判ったわマスター。こんなボッタクリ玩具で紙っペラに召喚されようがキャスターはキャスター! 貴方には此のキャスターの実力を嫌って言う程見せて差し上げます! そうです、嫌って言う程見せて差し上げますわ! 此処大事な処ですから二度言わせて貰いましたわ! そう、メデイアの名に懸けて!」
やおら立ち上がり右手の握り拳をプライドを取り戻すかの様に高く突き上げるが、少々痛いポーズに気が付いたのか直ぐに座り込む。
「なんか色々すんません…………」
ひたすら謝る伊丹ではあるが少々不満顔。
(だからそこ違うって、じっちゃんの名に懸けるんだよ。しかも控えようと言った直後に自分で真名バラしてどうするんだよ。自分が知っているキャスターとなんか性格が違わないか…………)
その後、伊丹はキャスターの真名の件を話す。それは硬月の物語についての説明でもある。
「ちょっと待って頂戴。マスターは此の聖杯戦争の行方を知っていると言うの!?」
何故に知っているのかと納得のいかないキャスター。
伊丹は硬月の同人誌、ゲーム、アニメや書籍などの存在と、その物語の粗筋を話す。
「でもねキャスター。自分が知っているのは物語の中の話しであって、自分が居る世界でキャスターが召喚されたり登場人物が居るなんて有り得ないんだよ。でも目の前に居るキャスターが実在している事には些かの疑いも抱いていない。決して夢物語では無く、此が俺にとって現実なんだとね!」
話の流れの中の違和感にキャスターは気が付いた。
「では一つ伺おうかしら。この聖杯戦争が物語として知られているのなら、他の方々も知っているのではなくって」
「へっ!?」
キャスターのデイジーカッターの様な一言に伊丹は愕然とした。全てを刈り取る爆弾発言!
硬月ファンやゲーマー、アニメを見たファンなら知っている、この当たり前の事に気が付いていなかったのである。
伊丹は携帯電話を取り出し、硬月関連サイトや検索サイトを調べ回った。幾ら調べ回っても…………混乱する。
( おかしい、おかしい、確かにおかしい、本当におかしい。この物語が存在していない。アニメにすらなった名作なのに何故だ…………!? 携帯圏外? 違う! 圏内かよっ! 逆に俺が此の世界の住人では無いと云うのか…………なら俺の世界はどうした…………いやっ、俺自身どうなったんだ!?)
伊丹の顔が見てとれる程に青ざめていく様子に、流石にキャスターも心配し出す。
「あの~マスター、お顔の色が優れない様ですが…………」
種々可能性を思案する伊丹。
「え~っと、さっきの物語を皆が知ってる恐れがあると云う件は心配無さそうだ。シラべたがモノガタリそのものがソンザイしていないミタイ」
困った現実に口調がおかしくなる伊丹にキャスターも首を傾げる。
「と、云うことは…………?」
伊丹は散々考えるも訳が解らず、切羽詰まった挙げ句に可能性の一つでもある疑問をキャスターに投げ掛ける。
「キャスター、教えてくれないか。平行世界とか云う物は存在するものなのか?」
「確かに存在致しますわ。それを究めようとする魔術師も居ましてよ」
伊丹は考え付いた一つの可能性に悩み頭を抱えキャスターに聞く。
「そうか…………もしかしたら、もしかしたらなんだけど俺が平行世界に跳ばされて来たのかも知れないんだ。召喚の時のあの目眩がそれだったのかも知れない! それしか思い当たら無い。そう、それしか無いと決め付けた!」
そう云えばと、伊丹は遠坂家の師匠が第二魔法を究めていた事を思い出していた。
「其れなら其れで良かったのではマスター? 物語は私達しか知らないのですからね。まあ周囲の流れが物語通りに進めばですけれど」
キャスターの言う通り、物語通りに進んでしまうと全てに於いて死と云うバッドエンドしか無い事に悩む伊丹だが、まだその事をキャスターには話さない方が良いだろうと考え物語の話から会話を逸らす。
「なら、この世界に居た俺は何処に行ったんだ?」
「さぁ…………解りません。貴方と入れ違いになったか、別の世界に玉突きの如く跳ばされたか…………そんな自分の姿をした他人より、自身の事を心配しなさいな」
伊丹は、自分の姿をした他人かも知れないが、平行世界の自分だし、でも自分自身では無いし、それは他人か、でも自分だし…………と、アンリミテッドパラドックスに堕ちる。
「今一納得するのは難しいんだが、それはそうと割り切るしか無いんだな。そうだ、よしっ、割り切った! うん、割り切ったぞ!! それでキャスターは自分の話に少しは納得なり答えを見出だしてくれたのかな?」
取り敢えず割り切った伊丹は話を戻す。
「まあ、それなりにですが道が見えた気が致しますわね」
「まだ戦闘開始までには時間があると思うから、キャスターには色々と準備をして貰いたいんだけど」
「ええ。何なりとお申し付け下さいまし。マスター」
( クククッ、恐らくは平行世界に跳ばされて来てしまった可愛そうなマスター。このメデイアが令呪を取り上げ木偶人形にして、支配して差し上げなといけませんわね。さて
時間も夜中を示している事もあり、話を打ち切り伊丹は布団を敷こうとするが、キャスターが布団から起き出す。
「私が寝かせて頂いた布団をお使いになられたら宜しいのではなくて、マスター?」
キャスターの残り香の布団に寝られる嬉しさに心踊る伊丹だが、ふと思い付いた疑問を口にする。
「えっ? キャスターはどうするのさっ? 寝ないの!? 徹夜はお肌に悪いって言うし…………」
伊丹は一応気を遣ってみる。
「マスターお忘れ? 私はサーバント。霊体化していれば問題は御座いませんのよ」
フンッと伊丹は鼻をならす。
「貴女がそれで宜しければ今日は良いでしょう。でも次からは布団で寝て頂く事になると思いますよ」
意味が解らないキャスター。
「何故ですの?」
「貴女は柳洞寺でずっと霊体化しているんですか? ちょっと無理がありませんかね? このお寺には多くの修行僧も居ますし檀家の方も来られるます。その中で24時間霊体化は難しいでしょう。たまに実体化しているのを見られ、下手をすると柳洞寺に幽霊が出るなんて迷惑な噂も出て仕舞うかも知れませんしね」
「えっ!?」
「と、言うことでキャスターは僕の婚約者になって貰います。許嫁って奴ですよ。勿論あくまで振りですがね。そうすれば実体化している所を見られても問題ないと思うんですが」
そう考えているのなら仕方が無いと了承するキャスター。
「マスターがそうせよと仰るのでしたらそのように致しますわ」
伊丹は、意外とアッサリ認めたキャスターに驚く。
( あらっ!? あっさり認めたらいかんでしょ~。ここは上から目線で『馬鹿なの! 何であんた見たいな奴と! 勘違いしないでよねぇ! ただのカモフラージュなんだからぁ!』とかがお約束だろ!)
「では、朝にでも零観さんに挨拶に伺いましょう。僕の婚約者が此処まで押し掛けて来てしまったと、ねっ!」
「ちょっ、押し掛けって! そっ、それでは私が色に狂った女の様ではありませんかっ!?」
かなり狼狽するキャスターをニヤリと口角を上げながら見る伊丹。
「申し訳ありませ~ん、生憎と自分には此しか方法が見つからなくって~。ではではお休みなさ~い」
伊丹はバサッと布団に潜り込んで、即寝をアピールする。
(ちょっとお待ちになって! マスター! マスター、マスターァ~────)
伊丹はキャスターの念話を子守唄代わりに聞きながら眠りに落ちて行った。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
少しずつ本編の回復を致しますので、宜しくお願い致します。
虚空屍