Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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アクセスして頂き有り難うございます。

話は2月10日(日)の日中から11日(月)に日付が変わった頃になります。

この話の後半から少々動き出します。


33 小僧! ここは俺が防ぐからお前は逃げろ!!

 どちらも退かない麻婆豆腐戦争。

 

 戦いも第3ラウンドに突入し、両者共に胃袋の限界を超えている。

 

「言峰、これは大食いの意地の張り合いなのか、それとも戦いなのか?」

 

「もはや意地の張り合いなどと云う範疇を超えているな」

 

「戦いなんだな…………判った」

 

 そう言うや否や、伊丹はテーブルをグイッと押し、言峰綺礼の腹部に押し当てる。

 

「うぐはっ!」

 

 言峰綺礼の胃袋はこの衝撃に耐えられず、内容物が食道を伝い逆流しだす。

 

「ぐぼっ!」

 

 慌てた言峰綺礼が手で口を塞ぐが、逆流する内容物は鼻の穴から噴き出すも、それでは留まらず口を塞いでいる手の隙間からも噴き出す。

 

 諦めた言峰綺礼は口から手を外し、テーブルの上は何とも云えない酸っぱい臭いがする地獄へと変わる。

 仕掛けた伊丹も目を覆う惨状になるテーブル────

 

 

「貴様…………汚い真似を…………」

 

「吐いて汚いのはお前だ、言峰!」

 

 激辛麻婆豆腐を食べ続け、唇が辛子明太子のように腫れている伊丹が言っても締まらない台詞である。

 

 キャスターは慌てて店主から布巾を貰い、伊丹を睨んだ後、事後の始末をし出す。何故にキャスターに睨まれたと不思議に思う伊丹。

 しかしそんなキャスターに言峰綺礼は詫びる。

 

「キャスター、私の嘔吐物の片付けをさせて申し訳ない。後は私がやるので手を洗って来てくれ」

 

 キャスターは手を洗った後、店主にお詫びをしながら伊丹と共に泰山を出るが、彼女は一言も伊丹には話さない。

 

 夕飯の食材の買い物をするスーパーに入る時も無言で、ズンズンと店内を進む。

 

「キャスター、晩飯は鍋でどうかな」

 

「…………」

 

 キャスターは伊丹の要望など無視をして、晩御飯の食材をポイポイとカゴに入れ、レジを通り店を出る。

 

 流石に伊丹もキャスターに理由を聞かないと不味い状況にある事を理解し、キャスターに問い掛ける。

 

「なあキャスター。俺がキャスターの気に障る事をしたのかな?」

 

 キャスターは伊丹に一言だけ、冷たく言葉を発する。

 

「家に帰ってからお話し致します」

 

 伊丹はそんなキャスターの態度を見て、自分自身が何をしたかを考え出すが、心当たりが無い事に焦りを覚える。

 

(一体、キャスターの不機嫌な態度の原因はなんなんだ!?)

 

 帰路、一言も話さないキャスターと、原因を考えても答えが見付からず困り果てる伊丹が、柳洞寺に着き部屋へと向かう。

 

 釣りを終え帰って来ていたランサーは山門付近で伊丹に声を掛ける。

 

「よお伊丹。キャスターがやけに不機嫌そうだけど、何かしたのか?」

 

「ランサーにも不機嫌な雰囲気は判るか。俺にはその原因が判らないんだよ」

 

「まあ、今夜はこってり絞られるこったな。同情するぜ! それと俺が釣った魚を嬢ちゃんに渡してあるから食ってくれ」

 

「ああ、絞られるよ。同情していてくれ、ランサー。魚はありがたく頂くよ。サンキューな」

 

 キャスターより一足遅くに部屋に帰ってきた伊丹は、相変わらず無言で晩飯の下拵えを始めているキャスターを見る。

 かと云って、桜や遠坂凛に対しては今迄と同じ口調で話し合っている。

 

(何で俺だけ無視なんだよ…………)

 

 夜に出来上がった晩飯であるが、桜と遠坂凛そしてキャスターの前には唐揚げやパスタのサラダなどが並べられている。しかし伊丹の前には梅干しの乗ったお粥一膳。

 

「あらっ、なんで俺だけお粥なんだよ」

 

「耀司様は昼に特盛激辛麻婆豆腐を何杯も食べられましたから、少しは胃を休めて下さいまし」

 

 晩飯が終わり、桜と遠坂凛は部屋に戻り何やら楽しげに話をしている様である。

 

 一方、晩飯の後片付けも終えた伊丹とキャスターは、お互いが口を閉ざしている。

 しかし、泰山を出てからキャスターが碌に口をきいてくれない訳を尋ねる。

 

「なあキャスター。泰山を出てから不機嫌なのは判るけど、理由を教えてくれ。そうでないと、俺も自分の悪い所を直せないよ」

 

 キャスターは伊丹を真っ直ぐに見据え話し出す。

 

「耀司様、言峰とのあの決着の着け方は、非常にお見苦しいかと」

 

 暫し考え込んだ伊丹はキャスターに謝り出す。

 

「ごめん。傍に居る君に迄、不快な思いをさせてしまって。確かに店や他のお客にも迷惑掛けたよな。それに食べ物を粗末にしてしまったし…………」

 

「あの様な事は、周囲に人が居たらしてはいけない行為。今迄の耀司様でしたら、時と場所を考えて対処なさったと思います。恐らくは日々の戦いと緊張感が、耀司様の考えを鈍らせたのかと思います」

 

「自分でも知らず知らず歪んでいたんだな。教えてくれて有り難う、キャスター」

 

 キャスターは伊丹にニコリと微笑み出す。

 

「解って下さって私も嬉しいですわ。ええ、耀司様なら解って下さると信じておりました」

 

 

 

 

 

 夜の日付が変わるには少し早い時間の頃に、衛宮士郎は着替えが足りない事に気が付き、自宅まで取りに行く事を考え柳洞寺の山門を通る。そんな衛宮士郎にランサーは声を掛ける。

 

「おい小僧、こんな夜更けにどこに行くんだ」

 

 いきなり姿を現したらランサーに驚く衛宮士郎だが、彼に訳を話した後、石段を降りていく。

 

 この事を山門警備に着いているランサーから聞いたキャスターは、伊丹に報告をする。

 

「日付が変わるには時間もあるから平気だと思うけど、一応ランサーを衛宮くんの警護に着けておいて」

 

 伊丹からの指示により、衛宮士郎に同行するランサー。

 

 

 

 

 

 衛宮邸に向かう途中にランサーの気配に気が付く衛宮士郎。

 

「ん!? ランサーか。どうしたんだよ」

 

「伊丹が一応小僧に同行しろって言うもんだからな」

 

「先生も心配性だな」

 

「違えねえ」

 

 衛宮士郎が衛宮邸に着き、鍵を鍵穴に入れようとするが入らない。

 

「あれっ!? おかしいな? 鍵が入らない」

 

 衛宮士郎は庭に廻り、縁側の戸を開けようとするが、此方もビクともしない。

 

「何なんだよ、一体…………」

 

 様子のおかしい衛宮士郎に、ランサーが問い掛ける。

 

「どうしたんだ小僧」

 

「おかしいんだ。家の扉の鍵穴が塞がれたりして戸が開かないんだ」

 

 衛宮士郎が扉の鍵を一つ一つ確認していた為、かなりの時間が経過していた。

 

「小僧、俺が霊体化して中から鍵を開けてみるぜ」

 

「ああ、頼むよ」

 

 ランサーは霊体化して家の中に入り鍵を動かそうとするが、ランサーの力では鍵を壊してしまう可能性が判明する。

 

「小僧。無理にやったら鍵を壊しちまうがそれでもいいか?」

 

「それは勘弁してくれ、ランサー」

 

「霊体化した状態だと、お前さんの荷物も外には出せないしなぁ」

 

 自宅の鍵が開かないなどと考えもしない事が起きて動揺する衛宮士郎。

 

 それでもただただ時間だけは虚しく過ぎていく。

 

 この鍵が開かないのは、日中に言峰綺礼が鍵穴に瞬間接着剤を流し込んでいたものであった。

 この行為は遠坂邸と間桐邸にも仕掛けられ、間桐邸に至っては間桐臓硯が間桐慎二に扉が開かないとボヤいていた程であった。

 そんな間桐臓硯は間桐慎二に『爺、ボケたことを言ってるな』と一喝されてしまっていた。

 

 そんな言峰綺礼の行動に、衛宮士郎はものの見事に引っ掛かってしまったのである。

 

「おい小僧、いま何時だ」

 

 ランサーに言われ慌てて腕時計を見る衛宮士郎。

 

「まずいぞランサー! そろそろ日付が変わる…………」

 

「謀られたか! 今日は諦めろ。引き上げるぞ!!」

 

 衛宮士郎とランサーが引き上げるその時、午前0時を示す。

 

 すると衛宮邸の屋根の上に二体の人影が有ることに衛宮士郎とランサーは気が付く。

 

「ランサー、休戦の時間は過ぎたのだがな」

 

「誰の赦しを得て我を見ている、雑種」

 

 その声の主は言峰綺礼とギルガメッシュである。

 

 そんな二人に嫌みを言うランサー。

 

「チッ、待ち伏せて居やがったか。寒い中ご苦労なこったな!」

 

「たまたま通り掛かったら、見掛けたので追ってきたんだがな。大体、来るか来ないか判らぬ所には居られまい」

 

 後を付けて来たと言う言峰綺礼に、衛宮士郎は大声を上げて訊く。

 

「鍵穴に細工をしたのはお前なのか、言峰!」

 

「細工とは片腹痛い。細工以前の問題だ。鍵穴に瞬間接着剤を流し込んだ悪戯程度の事だ」

 

「それを細工と言うんだ! セコいぞ言峰!」

 

 ランサーが他のサーヴァントを呼ぶ前に、けりを付けようとする言峰綺礼。

 

「ギルガメッシュ。二人纏めて消してしまえ」

 

「ふんっ、雑種ごときに我の宝物を汚したくは無いのだがな、綺礼」

 

 身構える衛宮士郎とランサーに、ギルガメッシュがその力の片鱗を見せる。

 ギルガメッシュは己が背後の空間に数多の剣を出現させると、ランサーが衛宮士郎に叫ぶ。

 

「小僧! ここは俺が防ぐからお前は逃げろ!!」

 

 

 

 

 

 ランサーから状況を知らされたキャスターは突然、深紫のローブ姿になり、伊丹に衛宮邸での状況を話し指示を仰ぐ。

 

「くっ、まさかこのタイミングで仕掛けて来るとは! キャスター、一緒に衛宮邸に行くぞ!」

 

「駄目です! 向こうは危険ですので耀司様はこちらで指揮を執って下さい!」

 

「いいや、それこそ駄目だ! 言峰の牽制は俺の役割だ!」

 

 二人の慌てぶりに何事かと部屋から出て来た桜と遠坂凛。

 

「お父様どうかなさいましたか?」

 

「話は後だ! ライダーに士郎の保護を任せたい!」

 

 今まで見た事が無い程の伊丹の真剣な表情に、桜は驚きながら答える。

 

「えっ!? はっ、はい!」

 

 伊丹はライダーの使役許可を得て衛宮士郎の保護に向かわせる。

 

「バゼット達をこちらに呼ぶから、桜は遠坂さんと柳洞寺に籠ってくれ。そんな訳で遠坂さん、桜を宜しく頼むよ」

 

 伊丹は遠坂凛に、桜の面倒を看てくれるように頼む。

 

「判りましたわ。先生もお気を付けて」

 

 すると隣家の喧騒が気になったイリヤスフィールが顔を出す。

 

「イタミ、何が起きたの!?」

 

「イリヤさん、衛宮邸で戦いが始まりました。貴女方もこちらに籠って居て下さい。私とキャスターとでランサーの援護に向かいます」

 

「判ったわ。こちらの方は任せて頂戴。私もシロウの家に使い魔を飛ばして、戦いの様子を視させて貰うわ」

 

 更に伊丹はキャスターの使い魔を通して、柳洞寺の守備をバゼットとアヴェンジャーに託す。

 

 伊丹は各員各所に指示を出しながらエアガンを肩に掛け、腰に弾倉の入ったベルトを巻き付ける。

 

「さあ出撃だ、キャスター。但し俺の意識を無くしてから飛んでくれ!」

 

 事情を知らない皆は、伊丹の発言に首を傾げるが、ぽそりと桜が言う。

 

「お父様は高所恐怖症なんです…………」

 

 一瞬の静寂のあと、皆がクスクス笑い出す。

 

「桜、頼むからそれは言わないでくれ…………さあ行こうかキャスター!」

 

 笑われながらの締まらない出動となったが、緊張感が解れた伊丹はキャスターにより意識を無くされる。

 

 意識を無くしグッタリした伊丹は、キャスターに抱えられながら衛宮邸へと飛ぶ。

 

 

 

 

 

 衛宮士郎を遠避け囮になったランサーにギルガメッシュの数多の剣が降り注ぐが、ランサーは俊敏さを持ってそれらを躱し朱槍で弾く。

 

「足掻くな、雑種」

 

「ちっ、なかなか持ってこっちの間合いには入らせてくれ無いって事か…………」

 

 気が付くと、ギルガメッシュと並んでいた言峰綺礼の姿が見えない。ランサーは言峰綺礼が衛宮士郎を追い駆けたのだと判る。

 

(しくじった! 何としても逃げ延びろ、小僧!)

 

 

 

 

 

 衛宮邸から駆け出した衛宮士郎だが、直ぐに言峰綺礼に追い付かれ廻り込まれてしまう。

 

「ちっ、早いな言峰!」

 

「衛宮士郎。貴様が遅いだけだ」

 

 言峰綺礼の拳が向かって来るが、衛宮士郎は紙一重でそれを躱す。

 

(早いっ! 動きが目では追えない!)

 

「ほう、躱すか」

 

 衛宮士郎はたまたま躱せたが、次をも躱せる自信がない。

 容赦なく繰り出される拳を流したり腕でガードするが、それでも当たると腕が悲鳴を上げる程の痛さである。

 ガードしつつも一方的に殴られ弾き跳ばされる衛宮士郎は、ここで倒される訳にはいかない事、周囲の人に助けられ今がある事を思い出していた。

 

 衛宮切嗣に助けられた事、間桐桜が衛宮邸に来る様になり、日増しに笑顔を見せ初め、その明るさに救われた事、遠坂凛が衛宮邸に来て家の中が騒がしくなった事、伊丹やキャスターとの出会いと戦いが走馬灯の様に衛宮士郎の頭の中を巡る。

 

(俺はここでは死ぬ訳にはいかない! まだまだ守らなきゃ為らない者、やるべき事があるんだっ!)

 

 その衛宮士郎の想いの奥底に流れ込んで来た一対の短剣。彼の全身からの魔力が両手に集まる。

 

 衛宮士郎に篭る魔力を感じた言峰綺礼が違和感を持つ。

 

「何をした。衛宮士郎」

 

 そこには両手に干将莫耶を握る衛宮士郎がいた。

 

 




最後まで読んで頂き有り難うございます。

衛宮士郎を覚醒させてしまった言峰綺礼。やっちゃいましたね。

ギルガメッシュと対峙しているアニキはどうなるのか! 果たしてキャスターは間に合うのか!?


ではでは…………


虚空屍
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