話は2月11日(月)に日付が変わった深夜になります。
言峰綺礼の目の前には、干将莫耶を構える衛宮士郎がいる。
「衛宮士郎。貴様は投影を使う魔術師か」
言峰綺礼が言うや否や衛宮士郎目掛けて拳を繰り出すが、衛宮士郎は干将莫耶を交差させて構え防ぐ。しかしがら空きの胴体に蹴りを喰らい跳ばされる。
「言峰、お前強いんだな」
「貴様が弱いだけだ。そんなんでは貴様が目指す頂きには届かんぞ」
衛宮士郎は言峰綺礼からの蹴り技にも注意を払いながら構えを取る。
干将莫耶で斬り掛かる衛宮士郎の攻撃を身体を反らす様に躱し、彼の得物に拳を横から当て粉砕する言峰綺礼。
衛宮士郎は粉砕された傍から新に精度の粗い干将莫耶を投影する。
暫くは言峰綺礼の攻撃を躱し、粉砕される干将莫耶を投影するといった事が続く。
しかし衛宮士郎が投影を繰り返す毎に、その干将莫耶の精度が高まっていく事に内心驚きを感じる言峰綺礼。
「ほう、この短い時間で投影の精度を上げたな」
肩で荒く呼吸をしながら答える衛宮士郎。
「そりゃ…………どうも」
言峰綺礼からの攻撃に防戦一方の衛宮士郎。そろそろ体力の限界を感じ始めたその時である。
「シロウ!! 遅くなって済みません」
ライダーが現れ、衛宮士郎と言峰綺礼の間に入り込む。
「桜の許可を得て参りました。あとは私に任せて下さい」
(キャスター、シロウと合流しました。指示をお願いします)
ライダーから連絡を受けたキャスターは、言峰綺礼を無視して衛宮士郎を柳洞寺に連れ帰り、山門の守備に当たるように指示を出す。
(解りましたキャスター。そのように)
流石に言峰綺礼もサーヴァントに立ち向かう程愚かではなく、ライダーに対し構えつつギルガメッシュに念話を送る。
ランサーの間合いに入って来ないギルガメッシュとの戦いは、ランサーの持つ矢避けの加護があるものの、その加護を越える量の槍剣をギルガメッシュが制圧射撃の様に射ち出して来る。
ランサーもギルガメッシュの物量に物を云わせる攻撃に手傷を負うが、度々間合いを詰められたギルガメッシュも負傷をしていた。
「貴様の加護も我の物量の前では形無しだな、雑種」
「ちっ、つくづく面倒臭い奴だな」
ランサーがギルガメッシュとの間合いを詰めようと動く度に無数の槍剣が辺り一面に降り注ぎ衛宮邸をも壊していく。
ランサーは俊敏さでギルガメッシュの槍剣の直撃を避けてはいるが、青い装束が紅く染まる程の切傷を受けて体力を削いでいく。
(こりゃ長い事持ちそうにないな。せめて相討ちにでも持ち込めないか…………)
「待たせたわねランサー」
空中にグッタリとした伊丹を抱いたキャスターが現れる。
「遅いぞキャスター!」
「おのれ雑種! 王たる我を見下ろすとは万死に値するぞ! ん? 貴様のマスターは既に死んでおるのか?」
「失礼な! 死んでなんかないわ! ただ寝ているだけよ!!」
ここでキャスターは浮遊中に伊丹を起こしてしまうミスを犯す。
意識の無い伊丹にキャスターが口付けをし、目を覚ます伊丹であるが、直ぐに自分の身体が浮遊しているキャスターに抱えられている事に気が付きキャスターにガシリとしがみつく。
「あわわわっ! キッ、キャスター~!!」
「嗚呼、今はいけませんわ耀司様! 帰ってから好きなだけ抱いて下さいませ! 今ここでは危のうご座います」
これでバランスを崩したキャスターと伊丹は地面にゆっくりと墜落してしまう。
墜落してもなを抱き合ったままの伊丹とキャスター。
「よ、耀司様。この続きは帰ってからお願いします…………」
顔を朱らめるキャスターに何が起きたの気が付いた伊丹は、キャスターから飛び退きギルガメッシュに構える。
「済まんキャスター…………」
「嬉しゅうございました」
この二人のやり取りをニヤニヤと観ていたギルガメッシュは口を開く。
「夫婦漫才は済んだのか、道化」
「ああ、楽しんで貰えたか? しかし何故攻撃してこなかった?」
伊丹は素直にギルガメッシュに問い掛けると彼は答える。
「なあに、王たる我が道化の余興に手を出す訳にもいかんのでな」
古代に於ける道化とは、王の前で唯一王を虚仮にできた職業であり、ギルガメッシュはそれに倣っただけなのである。
「ランサー、ズタボロの身体で悪いが、キャスターが上空に上がる為の牽制をしてくれ」
「了解したぜ」
ランサーは満身創痍の身体に鞭を打ちギルガメッシュに向かい出す。
(今だキャスター! 空中に上がって死角からランサーの援護を頼む!!)
ギルガメッシュの攻撃がランサーに向いたと同時にキャスターは空中に陣取りギルガメッシュの背後に回る。
指示を出しながら伊丹はギルガメッシュの顔に向けてエアガンを連射する。
強化BB弾がギルガメッシュの鎧にカンカンと音を立てて当たる。
「その様な玩具、役には立たぬぞ道化」
その内の一発がギルガメッシュの顔面に当たる。
「うがっ! なにっ!!」
傷を付ける事は出来ないが、平手打ちを受けた程の衝撃をギルガメッシュに与えた。
一瞬、何が起きたのか信じられない感じで当てられた頬に手をやるギルガメッシュは、羽虫程度の存在としか考えていなかった伊丹からの一発に、怒りを露にする。
「己れ己れ己れ己れ己れーーーー! 道化の分際でよくもこの我に!!」
ランサーに向けられていた攻撃が、羽虫だった筈の伊丹に向けられようとしている。
それを察した伊丹はギルガメッシュに言い放つ。
「王の中の王が、玩具とか見下した物に当てられた位で怒るもんなのかねぇ~。あぁ~あ、恥ずかしいなぁ。これが王だとか名乗るなんて悲しいね、あ~ぁ悲しいね~」
口八丁での伊丹なりの牽制である。
「ぬぐぐっ!」
今迄、ギルガメッシュが戦ってきた相手に、伊丹の様な事を言う者が居らず、その対応を考えてしまうギルガメッシュ。
(この道化の様な考えをした者は我の傍には居なかったな…………なかなかもってこの道化、我を愉しませる)
「ふっ、道化。貴様はつくづく我を愉しませてくれるな。この戦い、道化は見逃してやろう。しかし他の雑種共はそうはいかん」
ギルガメッシュは伊丹に対して矛を向けないと宣言をするが、伊丹は更に言い返す。
「俺がこの玩具で当てても文句は無しだぞ!」
「我に当てられるならば好きにしろ、道化。罪は問わん。道化は道化の役を果たせ」
一連のやり取りを聞いていた言峰綺礼は、ギルガメッシュの気紛れに苛立ちを表わす。
(ギルガメッシュの慢心が過ぎる。敵マスターを倒す好機を自ら放棄するとは…………)
そんなギルガメッシュに言峰綺礼からの念話が届く。
(ギルガメッシュ。衛宮士郎はライダーに保護され帰った様だ。今からそちらに向かう)
(綺礼、貴様は道化と相対するが良かろう)
キャスターの参戦によりギルガメッシュの攻撃の方向が定まらなくなる戦いになるが、そこに衛宮邸に戻ってきた言峰綺礼が加わる。
「伊丹耀司、貴様の相手は私だ」
「望む処だ、言峰!」
伊丹はエアガンに銃剣を取り付け言峰綺礼に構えるが、既に言峰綺礼の拳が伊丹の顔めがけて向かってくる。
伊丹は身体を反らし拳を躱し、後ろに飛び退き間合いを取りつつエアガンを撃つ。
言峰綺礼は左右に跳び躱しながら伊丹との間合いを詰め様と向かって来る。
伊丹も向かって来る言峰綺礼を回り込みながら撃つが当たらない。
間合いを詰める言峰綺礼に銃剣での突きを繰り出すが躱され、逆に拳を繰り出されるがエアガンの銃床で防ぐ。
それでも伊丹は急所を躱しながらも言峰綺礼からの攻撃を喰らい、言峰綺礼も銃剣で斬られたり銃床で殴られたりと伊丹からの攻撃を喰らい、お互いがかなりの痛手を負い始める。
一方のギルガメッシュと対しているランサーの動きはかなり鈍くなり、キャスターはギルガメッシュのみならず、伊丹と言峰綺礼との戦いにも注意を払わなくてはならなくなってしまった。
そんな中、言峰綺礼の拳と蹴りを喰らい、バックステップで体制を崩し倒れ込む伊丹に、言峰綺礼が黒鍵を放つ。
「伊丹!」
咄嗟にランサーが伊丹と言峰綺礼の間に身体を入れる。
そこにギルガメッシュの無数の槍剣が射出するされる。
「ぐはっ!」
ランサーの身体を無数の槍剣が貫く。
伊丹と言峰綺礼はお互いが後ろに飛び退く。
「ランサー!」
「主の危機に飛び込むとは忠義よのう」
ランサーとの戦いでかなりの傷を負ったギルガメッシュが言い放つ。
「礼を言うぞ道化。こいつはなかなか隙を見せぬので、随分と我の手を焼かせていたのでな」
「大丈夫だったか伊丹。俺も焼がまわったって……こったな、らしく……もねえや。テッペン…………目指せよ────」
「ランサァーーーーッ!」
叫び声を上げ、明らかに自らの失態のよるランサー脱落に動揺を隠せない伊丹。
周囲の危機的状況と伊丹の精神的動揺を察したキャスターは、瞬時に伊丹を抱き、慌てる伊丹の意識を奪い空中へと上がりつつ、数多の蝶が四散する様に戦場からの離脱を図る。
キャスターを逃したギルガメッシュも遂に地面に方膝を着く。
「これ程までに我の手を焼かせるとは…………ここは一旦退くぞ、綺礼」
言峰綺礼とギルガメッシュは教会へと戻って行った。
一方、柳洞寺に無事戻りキャスターと意識を戻された伊丹は、篭っていた皆から明るく迎えられたが、ランサー脱落の報せに一転、皆が落ち込む。
そんな中、虚ろな目をした伊丹はひたすら同じ事を繰り返し呟いている。
「俺の所為だ、俺の所為でランサーが…………」
伊丹は自分の失態によりランサーが殺られた事に責任を感じ、自分自身が許せなかった。
周囲の皆も酷く落ち込んでいるそんな伊丹に声の掛け様がないでいる。
「イタミ、貴方馬鹿じゃないの!」
突然のイリヤスフィールの言葉に、皆の目が彼女に向けられる。
「聖杯戦争に於けるサーヴァントの存在とは何! 聖杯戦争を勝ち抜く為の、そしてマスターを護るための駒なのよ!」
イリヤスフィールとてバーサーカーを駒とか言いたくも無いし失った心の傷が癒えている訳でも無い。望みを託した伊丹に試練を乗り越えて貰いたいからこそ心を鬼にしての言葉である。
その事は伊丹も充分に承知している。
「だからランサーは駒になって貴方を助けた。ただそれだけの事よ」
筋の通っているイリヤスフィールの話しに理解は出来ても感情的な部分が追い付かない。
元幹部自衛官として、自分の失態で部下を死地に追いやったとも考えてしまう伊丹。
「まあ、今晩はキャスターに慰めて貰う事ね。それとサクラとリンは私の家に来て泊まりなさい」
イリヤスフィールの誘いを不思議に思い、思わず訊いてしまう桜。
「えっ? 何故ですか。イリヤさん」
「大人の事情よ、大人のね」
「済まない、イリヤさん…………」
これが伊丹が言える精一杯の言葉である。
キャスターに抱えられる様に部屋に戻った伊丹は、部屋の灯りも点けずにキャスターを抱き寄せ、彼女の胸に顔を埋め自分の不甲斐なさに涙を流す。
キャスターはそんな伊丹の頭を撫でながら、その顔を上げさせ口付けをする。
二人は抱き合い、夜が更けていく。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
とうとうランサーが退場してしまいました。
アニキファンの方、申し訳ありません。
ではでは…………
虚空屍