本編中の月日が判らなくなってしまいました。
書き上げた構成書を見付け次第、以前の様に前書きに本文中の月日を書き入れたいと思います。暫くお待ち下さい。
1月23日(水)の話になります。
大してして眠れていない早朝に起き出した伊丹は、令呪を隠す為に手に包帯を巻き、キャスターを伴い零観に挨拶へと伺った。
「零観さん、おはよう御座います。実はお話がありまして…………」
キャスターを部屋の外に待たせたまま、伊丹は零観の前で正座をしだす。
伊丹の挨拶に答えた零観は、早朝からの伊丹の話の切り出しに首を傾げるが、何やら閃いた様な顔をする。
「もしやもしや、これからお突き合いをして頂けるのですかな? いやぁ~腕が鳴りますわ!」
伊丹は零観の勘違いを慌てて正し、本来の用件を切り出す。
「違いますっ、違いますよっ! 朝から勘弁して下さい。話と云うのは、昨晩私の許嫁が来てしまいまして、零観さんのお許しも得ず部屋に泊めてしまいました。申し訳ありません」
深々と頭を下げた伊丹は話を続ける。
「改めて紹介させて頂きます。私の婚約者のキャスターと言います」
キャスターを呼び部屋に招き入れ、零観への挨拶を促す。
「伊丹と婚約しておりますキャスターと申します。昨晩は御当主さま方々の御許しも得ず、伊丹と同泊した事をお許しくださいまし」
キャスターはそう言うと、正座をし三つ指をついて頭を下げる。
口にした茶を吹き出す程に驚いたのは零観である。許可なく部屋に泊めた事などどうでもいい位に、違う事に目を剥いた!
そう、伊丹の婚約者が妙齢の美しい容姿の異国の女性である事に驚く。
「いっ、伊丹さん! 許嫁が寝宿の当てなく頼られたと云う事での同宿でしたら致し方ありません。しっかし反則ですなぁ~、妙齢の異国の美人さんが許嫁などとは!」
「突然な事で申し訳ありません」
的外れな答をして頭を掻く伊丹。
困り顔の零観ではあるが、来てしまった異国からの許嫁を追い返す訳にもいかない。
「許嫁さんなら仕方がありませんな。ただ条件として一つお約束をして頂きたい。此処には若い修行僧が居りますので彼らの前でのイチャイチャはご遠慮願えますか?」
仮初めの許嫁で在るため、お互いがイチャつく事も無いと考える伊丹は零観からの要請に答える。
「勿論それは弁えております」
( 流石に禁欲生活を送る修行僧の前で二人だけの世界を拡げるのは酷ってもんだしな )
「でしたらお二人の同居をお認め致しましょう」
心の中でガッツポーズを決める伊丹。
( 取り敢えず零観さんからの許可は貰った! 言質は獲った!)
「で、その手は如何されましたか?」
零観は包帯を巻かれた伊丹の手を気になり見ていた。
「一昨日にお見せした打ち身の腫れが引かずこの通りです」
伊丹は包帯を巻いた手を零観にみせ、嘘の様な半分本当の事を話す。
「そうですか、腫れが引かぬのですか。ご無理を為さらぬ様に。う~ん残念…………」
伊丹と武術のお突き合いをしたくて堪らない零観は、キャスターに向き直り話し出す。
「処でキャスターさんは何かお仕事をされているのですか?」
( 不味いっ、不味過ぎるっ! こんな事までキャスターと打ち合わせていなかった!)
想定外の零観からの問い掛けに焦る伊丹だが、思い付いた仕事を念話でキャスターに伝える。
するとキャスターは軽く頷く。
「私は自国の大学で世界史学の研究室の准教授をしておりまして、たまたま来日した時に聞いた民話などに興味を抱き、此方では風俗学などを研究しようかと思っております」
( 偉いぞキャスター! 良くやった!)
「いやぁ~女性の歳をお聞き致す無粋な真似は致しませんが、その若さで准教授とは恐れいりますな」
キャスターの答えを素直に褒める零観。
「実は此処、冬木にも昔話と云うか伝承されている話がありまして、もし宜しかったら今度キャスターさんにお話をさせて頂こうかと」
「是非、宜しくお願い致しますわ」
「当家にも伝承の類いの資料など有りますので、調べられるのも宜しいでしょう」
「これはこれは。お力添え感謝いたします」
このキャスターの風俗学研究と云うのは正直、当たりかも知れなかった。零観の許可も得ている為、誰憚る事なく柳洞寺内の資料を閲覧出来るのであるから。其の中には檀家としてのマスター達の系譜などの情報も有るのかも知れないからだ。
これでキャスターが実体化し彷徨いていても誰も不審には思わない。
伊丹は零観への挨拶の後部屋に戻り、徐に携帯電話を取り出しインターネットのショップサイトをキャスターに見せる。
怪しいローブしか無いキャスターの為、この時間に発注すれば明日、明後日の午後には届くだろうと、当座の衣類の発注をする。
朝の支度を済ませた伊丹は、キャスターに後を託し柳洞一成と伴に学園へ向かう。
「驚きました。伊丹先生に妙齢な異国の美女が許嫁に居るなどとは!」
柳洞一成の驚きは本心で、決して侮った発言ではない事は伊丹も判っている。
「おいおい。自分に婚約者が居たらそんなに変かい?」
態と伊丹は自分を卑下してみせた。
「もっ、申し訳ご座いません! 言葉が足りなかった様で…………」
そんな伊丹の言葉に慌てて謝る柳洞一成。
「ごめんごめん。一成の言いたい事は解るよ。少しからかったのは謝るよ」
伊丹は柳洞一成の気持ちを解っていた事を然り気無く伝える。
「しかし一成、この事は生徒には言い触らすなよ」
あえて『絶対に、絶対に言うなよ』と言わなかったのは、『バラして下さい』と同義語の様な物で、当然まだ遠坂凛や衛宮士郎に知られたくはないからである。
「判りました! この事は他言致さぬとお約束いたします。ええ、一成の名に懸けて!」
( だ~か~ら~違ぁ~う! ここはじっちゃんの名に懸けるんだよ! 高校生名探偵のハジメくんを知らないのか?)
そんなやり取りをしつつも学園に着き、柳洞一成と別れ職員室に着き授業の仕度を整える。
程無くして本日の授業の始まりである。
柳洞寺では後を託されたキャスターが、伊丹から聞いたマスターになる可能性のある人物の拠点付近に物見の使い魔をヒラヒラと放ち、柳洞寺には結界を張り陣地の構築を始めた。
柳洞寺の陣地は冬木市の全住人から精気を摂り溜める為だが、伊丹はキャスターに対して老人、15歳以下の子供、妊婦を除いた大人から、一日寝たら回復する程度の量を取る事を約束させている。
弱者に優しく害の少ない精気の搾取である。
「あら、いけない、忘れる処でしたわ。」
キャスターは更に使い魔を空に放ち、とある屋敷と人物を捜し始める。
伊丹は本日の受け持つ授業を終え、振り返る。
衛宮士郎の居るクラスと間桐桜のいるクラスで授業をしたが、やはり衛宮士郎のクラスには伊丹のイメージする間桐慎二が居た。
そう、ワカメ頭の一見優等生の皮被りだが、プライドの高いあの癇癪持ちの間桐慎二だ。
あとは間桐桜だった。大人しめの少し影を纏った少女。此方も変わらずである。
( 確かに《私不幸です》オーラが漂っていたな。でも歳の割にナイスバディだったよな! いかんっ、いかんぞ! 生徒をそんな目で見ては!)
今日の書類仕事も済ませ帰り支度をしながら18時を示した時計を見る。
「お疲れ様でした~。お先に失礼しま~す」
伊丹は職員室を後にすると、ふっと思い出しキャスターに念話で呼び掛ける。
( キャスター、今から霊体で此方に来られるか?)
( 大丈夫ですが。どうかなさいましたかマスター?)
僅かに照れながら答える伊丹。
( え~とっ、キャスター。ネットショップで買った衣類が届くまで替えの下着とかがさぁ~、無いだろ~)
( マッ、マスターが私の下着を直接選んで下さるのですかっ!?)
流石に女性の下着には詳しくない伊丹は、思わず声を出し話してしまう。
「勘違いしないでくれよ! サイズや好みが分からないから選ぶのは君! 自分は君に言われた通りの物を買うだけだよ」
( 嬉しいですわマスター! すぐにお側に向かいますわ!)
( てか、男独りが女性の下着を買うなんてかなり恥ずかしいしあり得ないんだけど…………)
そんな念話のやり取りをしながら伊丹と霊体キャスターはマウント深山商店街に着く。
女性衣類店を見付け周囲に学園の生徒らしき人物が居ない事を確認し、伊丹と霊体キャスターは店に入るが、周囲の客からすると男が一人で彷徨いている場違いな店内である。
伊丹は俯きながら突き刺さる視線に耐え下着売り場まで行く。
( 頼むっ、キャスター! 可及的速やかに決めてくれ~! 速攻だ、いや電撃作戦だ!)
そんな伊丹の悲鳴にも似たキャスターへの問い掛けに、彼女は何処吹く風と言わんばかりに彼を焦らす。
( さぁぁ~て、どれにしましょうかしらぁぁ~。種類が多くて中々決められませんわぁ~。あの下着を拡げて見せて下さいませんか? あらっ、こちらの下着も拡げて良く見せて下さいませ。肌触りはどうかしらぁ? で、マスターはどれが好みかしら~?)
態とキャスターはのんびりと悪戯をしだす。時間にして30分程が過ぎようとしている。
紅潮顔の無言の男が、女性の下着売り場を30分も彷徨いて買い物籠に下着を放り込んでいく姿は少々異様に見える。
( クククククッ。有り難うご座いま~す、マ・ス・タ・ァ~)
素早く会計を済ませ、入店の時と同様に周囲に生徒が居ない事を確認し店を出る。
( ああ~、恐らく俺は変質者の烙印を押されてしまったんだな…………)
こんな経験はした事も無いし今後もしたくは無いと、焦点の合わない空虚な眼が、何処か遠くの世界を見つめる様に心に誓う伊丹である。
伊丹と霊体キャスターは念話をしながら帰途に着く。
( キャスター、もしかして朝の押し掛け婚約者って設定の事の仕返し?)
( それも少しは有りますが………)
( 他にも何か有るってか!?)
( ええ、マスターの困り悶え苦しむお顔がいとおしい位に可愛らしくてつい…………て、冗談ですわ )
「勘弁して下さいよぉ~」
伊丹は思わず声にして呟く。
程無く柳洞寺に着き部屋に入る。
すると零観さんが数個の宅配便の箱を抱えながら部屋に現れた。全て伊丹宛だ。
「済みません、零観さん。一声掛けて頂ければ此方から取りに伺いましたのに」
「いやなに、ついでですから。気になさらずに」
零観は数個の箱を伊丹の部屋に置くと去っていく。
宅配便の送り状を見ると、発送は伊丹が元々住んでいた住所からの物である。
伊丹は誰がこんな事をと思い箱を見ると、手紙の入った封筒が貼られている事に気付き、封筒から手紙を抜き取り読む。
なんとセイバーのコードネームを持つ特戦群の剣崎からでる。
手紙の内容は…………
『いつ戻るか分からない貴様の為、部屋の荷物(衣類と趣味の薄い本やアニメDVD等々)をまるっと詰め込んで送る。
電化製品のプラグは全て抜き、家賃は職場から支払われる事になっており滞納の心配は無用である。
冷蔵庫内を始めとした食料、酒の全てを食…………もとい、処分した! 感謝しておけよ!』
以上で締め括られていた。
勿論ピッキングで伊丹の部屋に入ったのは云うまでもない。しかし伊丹は仲間に感謝していた。
「マスター、一体何が届いたのですか?」
箱の中に興味を示すキャスター。しかし伊丹は少し声を潜めて言う。
「なぁ、キャスター。マスターって呼び方は止めにしないか? キャスターも俺の許嫁って事なんだし、誰かに聴かれたら変に思われるぞ」
「そうでしたわね。では何とお呼びすれば宜しいですの?」
「耀司でいいよ」
「では耀司と呼ばさせて頂きますわ。ねっ、耀司」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
空いている時間を見付けては、メールに残してる本編に手直しを兼ねた加筆、修正もしています。
削除してしまった以前の話と若干差異がありますが、基本的な話の流れの変わりません。
これからも宜しくお願い致します。
虚空屍