Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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アクセスして頂く有り難うございます。

2月14日(木)の朝から15日(金)に日付が変わるか変わらないかの深夜の話になります。

生き残りキャスト復習その4

●言峰綺礼=ギルガメッシュのマスターであり元聖堂教会の外道神父。悪としての愉悦を求めている。泰山の激辛麻婆豆腐が好物。
●ギルガメッシュ=第四次聖杯戦争で遠坂時臣に召喚されたサーヴァント。聖杯戦争に勝ち残っても自害させられる事を知り言峰綺礼と組む。最後に聖杯の泥を浴び受肉して第五次聖杯戦争に飛び入り参加。慢心王。


40 我はこれより柳洞寺に攻め入る

 伊丹は午前中の授業を終え、いつもの様に売店でパンでも買おうと職員室の席を()とうとした時、藤村大河に呼ばれる。

 

「伊丹先生。フィアンセのお客様がお見えですよ~!」

 

 藤村大河が一際大きな声でフィアンセを強調したが為、一気に職員室中にキャスターが来たことが知れ渡り、その場にいた皆が一目キャスターを見様と集まり出す。

 

 集まり出した教員に

『伊丹のフィアンセのメデイアでございま~す』

 と、やたらと連呼するキャスター。

 

 伊丹はキャスターの周りに集まる人垣を掻き分け、群衆の輪の中心に辿り着く。

 

「どうしたんだ。キャスター? しかも真名連呼かよ!」

 

「耀司様、お弁当でございます。そうです、サプライズと云う事ですわ! それにもう真名を言った処で然して戦局には影響しませんわよ」

 

 またも職員室が割れんばかりにどよめく。

 

(わし)のかみさんなんか弁当作ってもくれない』

 

『伊丹先生、美人な外国の方と何処で知り合ったのですか?』

 

『俺なんか日の丸弁当だよ…………』

 

『禿げろ! リア充』

 

 伊丹に痛い程に突き刺さる教員達の羨望(せんぼう)の眼差し。

 

「しかしこの弁当はどうしたんだ?今迄弁当なんか作らなかったじゃないか!?」

 

 伊丹の問い掛けにキャスターは小声で答える。

 

「桜と坊やに作って貰いました…………」

 

「子供達は起き出したのか?」

 

「はい。11時頃に起き出してお弁当を作り終えたらまた寝てしまいましたが」

 

 伊丹はキャスターに彼が帰るまでは魔術を使ってでも寝かせて置くように頼む。

 

「では耀司様、お帰りをお待ち致しておりますわ。皆様、お騒がせ致しました」

 

 キャスターが持って来てくれた弁当は風呂敷に包まれており、伊丹はその結び目を解き風呂敷を拡げるとそこには二段の重箱に色採(いろど)り鮮やかなおかずが並べられていた。

(一人前にしては多過ぎるぞ、桜)

 

 藤村大河の視線が突き刺さる事に気が付く伊丹は、彼女におかずの幾つかを分け、藤村大河はそれを有り難く頂戴してもぐもぐと食べる。

 

「メデイアさんの味付けって、士郎や桜ちゃんに似ていますね」

 

 ドキリとする伊丹は適当な言い訳を口にする。

 

「メデイアは日本での滞在が短くまだまだ和食を勉強中なので、衛宮君や桜に教えて貰っているんですよ。だからじゃ無いですかね」

 

(うらや)ましいですわ。伊丹先生」

 

 

 

 

 

 午後の伊丹の授業では生徒達がキャスターの事を話題に出して(ほと)んど授業が進められない。

 

『先生の恋人ってチョー美人』

 

『愛妻弁当なんて(うらや)まし過ぎるぅ』

 

『学校で何見せ付けてるんだ!』

 

『もげろ! リア充』

 

『出会った切っ掛けを教えて下さ~い』

 

 色々な声や質問が飛び交うが、出会った切っ掛けなど話せる筈もない。

 授業にもならない事もあり、伊丹は一つの話をし出す。それはイアンソとメーデイアに(まつ)わるギリシャ神話である。

 

「神からある信託を受けた、イアソンの叔父であるペリアスと云う王が、王位継承権を持つイアソンにコルキスにある金羊皮を手に入れたら王位を譲ると約束する。そしてイアソンはアルゴー探検隊を(つの)ってアルゴー船で一路コルキスに向かうんだが────

 

 

 

 

 

 ────メーデイアは放浪すると云う訳だよ。彼女はどんな想いで居たんだろうね。しかし、イアソンは不誠実な男だよ。赦せん!」

 

 生徒の一人が質問をする。

 

「結局メーデイアは放浪した後、故郷には帰れなかったのですか?」

 

「いや、彼女の父である王アイエテスが伯父ペルセスに依って王座を簒奪(さんだつ)されたと聞いてコルキスに戻ったんだ。そして父アイエテスを追放した伯父のペルセスをメーデイアが殺して再び父を王にしたんだよ」

 

 別の生徒が発言をし出す。

 

「そう云えば先生の恋人もメデイアさんって言っていましたよね。まさか神話の話に引っ掛けてメデイアさんと故郷に凱旋とかするんですか」

 

 この発言を伊丹は肯定の意味を込め頷く。

 

「必ず彼女の故郷に行くよ! いつになるか解らないけど先生は彼女と故郷を訪れるつもりだよ。そして彼女と故郷の海を観るんだ」

 

 伊丹の答えに教室がざわめく。

 

『キャァ~! 先生ロマンチック~~!!』

 

『ラブラブ~~!』

 

 授業にならない授業を終えた伊丹は事務仕事を終えて夕方の帰宅の途に着く為に校門を出ると、ギルガメッシュが塀に寄り掛かっているのを目にする。

(無視無視───)

 

 伊丹に気が付いたギルガメッシュは伊丹を呼び止める。

 

「いつまでこの我を待たす、道化」

 

 伊丹は仕方無く校門脇に立ち止まりギルガメッシュの話に付き合う。

 

「俺を()りに来たのか!」

 

「ふっ、構えるな道化。貴様などいつでも踏み潰せるぞ。それにまだ陽が落ちておらぬ」

 

 ここで戦う気の無い事が判り伊丹は胸を撫で下ろすが、ギルガメッシュが朝に続き自分に会いに来る理由が判らない。

 

「なら何だ? コンビニで買い物か!」

 

下賜(かし)して(つか)わす。飲め」

 

 ギルガメッシュは伊丹に暖かい缶コーヒーを放り渡す。

 彼はギルガメッシュの態度に驚く。

 

「セイバーと同じだな、道化。あやつも我の妃を断りおった」

 

 二人で缶コーヒーを開けだし、伊丹はチビりと口を着ける。

 

「サンキューだ、ギルガメッシュ」

 

「礼には及ばん。しかし綺礼は我に(なび)いたが、何故道化やセイバーは靡かんのだ」

 

 伊丹にとって至極当然の答えをするが、彼は改めて言峰綺礼の歪んだ心の一部の弱さを知る。

 

「それはギルガメッシュがたまたま言峰の心の隙間を突いたからだろ」

 

「ならば道化には心の隙間が無いのか?」

 

「人間なんて心の隙間がありまくりだよ。但、ギルガメッシュは俺の心の隙間を突いて来なかっただけだ」

 

 伊丹は自分自身が隙の無い人間では無い事を充分承知しており、またそんな聖人君子が居たらお目に掛かりたい物だと思う。

 

「そうか、しかし道化の頑固さにも我は呆れた。因って道化と組む件は無い事とするぞ」

 

「言峰はこの件を知っているのか?」

 

「この件とは何だ? この件もあの件も存在せぬ! 今我が言ったばかりだ」

 

 何故だか伊丹はギルガメッシュと話し、ギルガメッシュも伊丹と話す。

 そこで伊丹は気が付く。

 ギルガメッシュは退屈で仕方が無いのだと。

 

 周囲もかなり冷え込み始め、伊丹は話を切り上げ様とギルガメッシュに話す。

 

「残りの日数的にそろそろ決着を着けないといけないな」

 

「そう云う事だ。最後に一事言っておく。今宵は熱くなるぞ、道化」

 

 ギルガメッシュは一言残し去って行く。

 

「えっ!? それって────」

 

 伊丹がギルガメッシュの言葉の意味を理解した時には彼の姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 柳洞寺に戻った伊丹は今晩に襲撃があるとキャスターや他のマスターとサーヴァントに伝える。

 

 伊丹が天気予報を見ても今晩が暖かくなるなどとは言っておらず、むしろ冷え込むとの予想である。

 

(やっぱり今晩か…………)

 

 伊丹は迷彩服に着替えて各マスターとサーヴァントを会議室に召集する。

 

「え~、三等陸尉の伊丹耀司です。これからブリーフィングを始めます。先ずは此方を観てください」

 

 伊丹はテーブルの上に大きな模造紙に描いた柳洞寺境内の見取図を開き載せる。

 

 袋からは各マスターの名前とサーヴァントのクラス名が書かれた駒を取り出し見取図の上に並べる。

 

 伊丹は先が小さな《Y》字の形をしている差し棒で各々の駒を押したりしながら見取図の上に配置させる。

 

「まずはこの陣形で敵を迎え撃ちます」

 

 今迄黙っていた各人がいきなり笑い出す。

 

「なに、三等陸尉って?」

 

 イリヤと遠坂凛、そして桜が不思議そうに口にすると衛宮士郎が答える。

 

「軍隊で云う処の少尉と云う下級将校だよ。小隊を率いる部隊長だ。大体40人位を指揮する筈だよ」

 

 するとイリヤスフィールは驚きの声を上げる。

 

「え~、イタミって指揮官だったの? 意外だわ!」

 

 続いて遠坂凛も驚く。

 

「オタクの指揮官!? 有り得ないわ!」

 

 しかし桜と衛宮士郎には好評価である。

 

「お父様は筋金入りの軍人さんだったのですよね。頼もしい筈です」

 

「先生は国や国民の平和と安全を守るために戦っているのかぁ、格好良いな!」

 

 伊丹は衛宮士郎の言う『戦う』に敏感に反応する。

 

「衛宮君、まだ戦後の日本では戦闘が伴う戦争はないから!」

 

 伊丹は戦いの前の雰囲気や緊張感を皆に持って貰おうとこの様な大袈裟な事をしたのだが、失敗に終わり意気消沈する。

 

「ええっい、こんな物!」

 

 伊丹は指し棒をへし折り、並べた駒ごと見取図の模造紙をくしゃくしゃに丸め出してゴミ箱に放り込む。

 

()めだ()めだ! 柄じゃ無かったな。いいか皆、良く聞いてくれ。恐らく聖杯戦争も今日で終わる…………いや、終わらせる。これは遊びでもゲームでもない命の()り取りだ。負ければ死ぬしかない事を頭の中に叩き込んでくれ。言峰とギルガメッシュに絶対に聖杯は渡さない!」

 

 とは言った物の、子供達を巻き込みたく無い伊丹でもある。

 

「桜、遠坂さん、衛宮君。君達はこの戦いから降りてディーロさんの所に行って良いんだよ。無理して俺と言峰の戦いに付き合う事は無いのだから」

 

 伊丹の言い様に遠坂凛が感情を(あら)わにして怒り出す。

 

(ふざ)けないでっ! ここまで来て戦いから降りろってどの口が言ってるのよ! 『俺と言峰の戦い』とか勘違いも(はなは)だしいわ。 私や士郎はこの戦いでサーヴァントを失っているのよ! 聖杯に選ばれたマスターとして最後まで戦う権利が有ります!」

 

 伊丹は遠坂凛の剣幕に押されながら衛宮士郎に問い掛ける。

 

「衛宮君はどうなんだい?」

 

「俺は難しいことは解らないけど、遠坂の言っている事は判ります。今まで遠坂の言われるがまま、それが正しいのか考えも無く戦って来ました。今度は自分の意思で最後まで戦わないといけない気がします」

 

 二人の決意の硬さを確認させられた伊丹は桜にも問い掛ける。

 

「お忘れですかお父様。未だ私はライダーのマスターです。私もマスターとして最後まで戦う権利が有ります。お父様やお姉様が戦う限り私もそれに続きます」

 

「桜…………皆、済まない。有り難う…………」

 

 伊丹は子供達の決意を知り、自分自身を奮起させる。

 

 伊丹の気持ちの(たかぶ)りが収まったのをみたキャスターは各マスターを呼び寄せる。

 

「これからは皆さんの魔力を共有したいので皆さんが私を含めた全員とパスを繋ぎます。ライダーとアヴェンジャーはこのネットワークに加わらなくても良いわよ」

 

 キャスターがライダーとアヴェンジャーを除いたのは、ライダーは桜と直接繋がっている為であり、アヴェンジャーが現界出来ない程の魔力をバゼットが使う恐れが無いと見越したからである。

 

 キャスターが行うパスを繋げての魔力の共有ネットワークは、魔術師同士が行う一部魔術回路を相手に移植する物とは違い、云うなればただホースを繋げ合う程度の簡単な物である。

 しかも霊気の流れが集まる柳洞寺から魔力を吸い上げるキャスターや大聖杯からの無限とも云える魔力を流し込まれている桜が居る為、使用できる魔力は計り知れない。

 

「さあ、皆さん。パスは繋ぎ終えました。存分に戦って下さいな」

 

 

 

 

 

「なあ綺礼よ。支度をせい」

 

「ん? なんの支度だギルガメッシュ」

 

「我はこれより柳洞寺に攻め入る」

 

 唐突に戦いを始めると言い出すギルガメッシュと飲んでいたワインを吹き出す言峰綺礼。

 

「昨日話した作戦はどうするのだ!」

 

 前日から実行している作戦を無にされる言峰綺礼は、今更の作戦変更に納得が行かない。

 しかしギルガメッシュは今晩を恐らくは最後の戦いにするつもりでいる。

 

「今更あの様な事をしても大して意味がない。ならば我が自ら乗り込み此の手で聖杯を掴むまでの事」

 

 ギルガメッシュの決意の硬さに言峰綺礼も動く。

 

「是非もないか…………ならば暫し待てギルガメッシュ。支度をして来る」

 

 

 

 

 

 深夜、柳洞寺の石段を誰憚る事無く登り山門に向かう二つの人影がある。

 

 




最後まで読んで頂き有り難うございます。

伊丹が生徒達に話すギリシャ神話は割愛しましたが、彼はヘラクレスやアキレスなどの神話の登場人物を持ち出して話したと想像して下さい。

次回が恐らく最後の戦いになると思います。

ではでは…………


虚空屍
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