Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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2月15日(金)の夜明け少し前から伊丹が出勤するまでの話になります。

前半は伊丹が聖杯が作り出した世界に入り込み、アヴェンジャーとの会話が直に頭の中に入る感じとなるので書き方を変えてみました。


42 ああそうだ、俺達は勝ったんだ、そして生き延びた!

 アヴェンジャーは消える前に自分自身に呪いを掛け、伊丹に黒い小石を遺す。

 

 これを飲んだら思い出す。自分自身に掛けた呪いを────

 

 ただ自分自身がその呪いに掛かったと思い込むだけで良い、ただそれだけの事────

 

 ただそれだけの事────

 

 それが俺の願いだ────

 

 

 

 

 

 気が付くと辺り一面の黒い(かすみ)の中に(たたず)む伊丹は、辺りをキョロキョロと見回す。足元もしっかりとはせず、敢えて表せば雲の上を歩いている感じだと思う伊丹。

 

 ────ここはどこだ?

 

 ────待ってたぜ、おっさん!

 

 聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはアヴェンジャーがいる。声がすると云うよりは、直接頭の中に入ってくる感じである。

 彼の周囲は特に黒い樟気(しょうき)が漂い、その表情からは邪気が感じられる。

 

 アヴェンジャー、無事だったのか? 処でここはどこなんだ──

 

 伊丹の質問にアヴェンジャーは首を横に振りつつ答える。

 

 俺は聖杯に呑まれた存在だ。最後の瞬間を見ただろ──

 

 確かにアヴェンジャーが消え去る処を目撃していたのを伊丹は思い出す。

 

 聖杯はおっさんを勝利者と認識した。おっさんの望みは何だ?──

 

 ニヤリと口角を上げるアヴェンジャーに伊丹は問い掛ける。

 

 なあアヴェンジャー。今のお前は聖杯が作り出した分身であり、聖杯本体でもあると考えてもいいんだな?──

 

 ああ、そういう事だ──

 

 伊丹は握り締めていた拳の中の黒い小石をアヴェンジャーに差し出す。

 

 アヴェンジャー、先ずはこれを飲み込んでくれ。話はそれからだ──

 

 別に構わねえけど。何だこりゃ──

 

 アヴェンジャーは差し出された黒い小石を飲み込む。

 すると彼は(うずくま)り胸を押さえ叫びだす。

 

 うぐっ、ぐあぁぁーー! 伊丹ぃぃ! 何を飲ませたぁぁ────

 

 小石を飲み込んだアヴェンジャーが苦悶の表情を表すと共に、辺り一面の黒い霞が薄れていく。

 

 伊丹が差し出した小石は、アヴェンジャーが消え去り際に遺した物で、伊丹の行動はアヴェンジャーが最期に遺した言葉によるものである。

 

 アヴェンジャーが小石を飲み込んで暫くすると、周囲は白く明るくなる。そこには邪気も感じられないアヴェンジャーが立っている。

 

 アヴェンジャー、何が起きたんだ?──

 

 おっさんが飲ませた石に、聖杯内の今までの呪いが吸着されたんだ。まあ、純度100パーセントとはいかないが、99パーセントは浄化出来たみたいだぜ──

 

 残り1パーセントは大丈夫なのか──

 

 大丈夫かどうかは俺には判んねえな。まあ水道水を飲むみたいなもんだろ。泥水飲むよりかはマシだろうしな──

 

 確かに違いないな──

 

 一呼吸置いた後、伊丹はアヴェンジャーに向かい自分の望みを告げる。

 

 願望機たる聖杯に俺の望みを告げる。俺の願いはキャスターの受肉だ。それとイリヤスフィールを普通の人間にしてやってくれ──

 

 するとアヴェンジャーはやれやれといった感じで口を開く。

 

 なあおっさん。こんだけの願望機を手にして願いが小せえんだよ。一億円手にして一千万円しか使ってねえ感じだぜ──

 

 なら、以後この聖杯の願望機としての機能を停止させる。これでどうだ!──

 

 ほう。随分と大きく出たな。ニ百年の叡智と争いの器を魔力を満たす事の無い、ただの空の容器にするって訳か。それがおっさんの望みとあれば仕方がないな──

 

 駄目なのか!?──

 

 い~や、大丈夫だ。おっさんの願いは叶えられる。そんな訳でおっさんとはもう会う事も無いが、楽しませてもらったぜ。なら俺はここ迄だ。伊丹、いい夢見ろよ! あばよっ!──

 

 アヴェンジャーは拳に親指を立てるポーズをして薄れていくと同時に伊丹の意識も薄れていく。

 

 

 

 

 

「────じ様っ!?」

 

「────う司様っ!?」

 

「────よう司様っ!?」

 

「────耀司様っ!?」

 

 キャスターに肩を掴まれ揺さぶられながら意識を取り戻す伊丹。

 

「嗚呼っ、耀司様~!」

 

 意識を取り戻した伊丹の胸に、顔を埋め泣きじゃくるキャスター。

 

「あんまり揺さぶるとむち打ちになるから気を付けてくれよ、キャスター。ただいまだ」

 

 伊丹は冗談を言いながら、泣きじゃくるキャスターを抱き締め、優しく頭を撫でる。

 

「おっ、お帰りなさいませ。耀司様!」

 

「たっ、ただいまだ。キャスター…………処で戦いはどうなったんだ!?」

 

「恐らくは私共の勝ちであると思われますが…………」

 

 伊丹は聖杯に願いを託した事を思い出す。

 

「ああそうだ、俺達は勝ったんだ、そして生き延びた!」

 

 辺りを見回し柳洞寺の殆んどが倒壊している有り様を観る伊丹は、残っているマスターやサーヴァントについてキャスターに尋ねる。

 

「他のマスターやサーヴァントはどうなんだい?」

 

 キャスターは辺り一面をスキャンして各マスターやサーヴァントの状態を伊丹に報告する。

 

 衛宮士郎と遠坂凛はそれぞれに骨折や軽い内臓損傷。

 

 ライダーは腹部や脚などに重傷を負い重体。

 

 ギルガメッシュも全身に致命傷を受けて重体。

 

 バゼットのアヴェンジャーは消失。

 

 伊丹はキャスターからの報告を受け戦い後の惨状を知る。

 

 当然伊丹も衛宮士郎や遠坂凛と同じような損傷を受けている。

 

 伊丹はキャスターに傷の度合いが酷い者からの治療を指示を出すが、それだとギルガメッシュが最初になりキャスターは異を唱える。

 

「耀司様、何故ギルガメッシュに情けを懸けるのですか!」

 

「戦いはもう済んだんだよ、キャスター。ギルガメッシュに治癒の魔術を懸けてやってくれ。それと忘れずに彼を君のサーヴァントとしておくんだぞ」

 

 アヴェンジャーが脱落し消え去った事を踏まえて話を繋げる。

 

「そうだ! 桜は大丈夫だったのか?」

 

 伊丹はバゼットのアヴェンジャーが聖杯に取り込まれた事による桜への影響を心配する

 

「アヴェンジャーが取り込まれた後、自我を失い掛けましたのでルールブレイカーで聖杯とのパスを切りましたわ」

 

「有り難うキャスター。君は俺が望む事を素早く処理をするね」

 

 伊丹はキャスターに負傷者への治癒に当たらせ自分を最後に治癒の魔術を掛ける様に言う。

 

 キャスターは負傷して動けないマスターやサーヴァントを浮遊させ一ヶ所に集め順々に治癒の魔術を掛け出す。

 

 横になっている伊丹の元に桜とバゼットがやって来る。

 

「お父様…………ご無事で何よりです…………」

 

 負傷している伊丹に覆い被さり泣き出す桜。

 

「あいたたたっ! お手柔らかに頼むよ桜。俺は未だ怪我人だぞ」

 

 二人の会話を断ち、申し訳なさそうに話し出すバゼット。

 

「伊丹さん。無事の帰還、おめでとう御座います。そして有り難う御座います」

 

 伊丹が上体を起こそうとするがそれを制して、言峰綺礼を倒した事に礼を言うバゼット。

 しかし伊丹は彼女に謝罪をする。

 

「いえ、とんでもない。此方こそ貴女のアヴェンジャーを犠牲にしてしまい申し訳ありません」

 

「どのみち聖杯戦争が終われば再び座に戻りますので、お気に為さらずに…………」

 

 彼女はポケットの中にある絵合わせのパズルを右手で握り締める。暇さえあればアヴェンジャーがやっていたパズル。

 

「本当に終わったのですね」

 

「その様ですね」

 

 伊丹はバゼットの問い掛けに答える。

 

 伊丹は聖堂教会のディーロ司教と魔術教会のロード=エルメロイⅡ世に連絡を取り柳洞寺迄来て貰う。

 

「こんな時間にお呼びだてしまして申し訳ありません。戦いは終わりましたのでディーロ司教には聖杯戦争の終結の確認をお願いします。それとロード=エルメロイⅡ世には大聖杯の現状を観て来て頂きたいのです」

 

 ディーロ司教は現状を確認して伊丹が聖杯戦争の正式な勝者であると聖堂教会として認定する。

 

 一方、地下空洞に入ったロード=エルメロイⅡ世は大聖杯が空になっている事に驚き伊丹の元に走り戻る。

 

「伊丹さん大変ですよ! だっ、大聖杯が空になっています!」

 

「そうですか…………」

(有り難う、アヴェンジャー…………)

 

 大聖杯が空になったと云うことは、魔力が使われ願いが叶えられた事に他ならないと伊丹は気が付く。

 

 伊丹は皆の治癒の魔術を懸けるのをほぼ終えたキャスターを呼ぶ。

 

「キャスター、霊体化できるかい」

 

「そんなのお安いご用ですわ」

 

 伊丹に言われ霊体化を試みるが身体が消えない。何故と思うキャスターに伊丹は話す。

 

「受肉したんだね」

 

「えっ!? 耀司様はいつ聖杯に願いを話されたのですか?」

 

 キャスターは戦いが済んでからの状況を思い返すが、伊丹と聖杯が出会っている所など見た記憶が無い。

 

 すると伊丹が話し出す。

 

「不思議なんだが、俺がギルガメッシュを殴り着けていて気が付いたら黒い霞の中にアヴェンジャーが居たんだよ…………」

 

 伊丹は現実とも夢とも解らない状況での世界の事をキャスターに話し出す。

 

 アヴェンジャーの事、キャスターの受肉とイリヤスフィールを普通の人間にして余命を伸ばす事。最後に冬木の聖杯を機能停止にする事を。

 

 伊丹の話を聞いていたディーロ司教の顔が青冷めていく。

 

「いっ、伊丹さん! 貴方は何て事を聖杯に願ったんですか!?」

 

 このディーロ司教の言い分にムッとした伊丹が言い放つ。

 

「何ですか? それとも俺とギルガメッシュがこの世の総てを支配するとでも願えば良かったですか? そうしたらそれこそ全ての聖杯を打ち壊して聖堂教会も無くしますよ」

 

「ぬぐぐっ…………」

 

 願いが何であれ、聖杯が認めた者の願いを叶える願望機。その事に聖堂教会が口を挟む事は出来ない。

 

 するとロード=エルメロイⅡ世が話し出す。

 

「今回は願いが叶えられたと云う事で大聖杯の魔力が空になったと見るべきでしょう。伊丹さんの仰る事が本当であるなら今後は魔力も溜まらず空のままと云う訳ですね。大聖杯に関しては今後も経過観察が必要ですね」

 

「私はもう聖杯とは関係ありませんので、それに関してはお任せします」

 

 短い様で長かった聖杯戦争。伊丹は只々ゆっくりと眠りたかった。

(これで何も考えずに眠る事が出来る、やっと…………)

 

 伊丹は意識が無くなり深い眠りへと落ちていく。

 

 

 

 

 

 朝陽が射し込む自室で目を覚ました伊丹が辺りの様子を窺うと、傍には包帯を巻かれた衛宮士郎が寝ている。

(やはり昨晩は戦ったんだな)

 

 昨晩の戦いを思い出しキャスターを探す。

 

 痛む身体を起こし寝間着の上に半纏(はんてん)を羽織り居間に行くがテーブルには皆の朝食が用意されては居るがキャスター居ない。

 

 部屋の外に出ると聖堂教会からの監察官来ており、キャスターはその対応に追われていた。

 

 伊丹はキャスターの元に駆け寄り彼女に問い掛ける。

 

「おはようキャスター。身体は大丈夫なのかい?」

 

「おはようございます耀司様。私の身体は大丈夫ですわ」

 

 恐らく夜通し起きていたのだろう、彼女の羽織っているローブは昨晩の戦いでボロボロになったままである。そんな彼女を伊丹は心配する。

 

「なあ、キャスター。少し休んだらどうだ。それに着替えをした方が良いかも…………」

 

 改めて自分の姿を見たキャスターはボロボロの装束に恥ずかしさを覚え部屋に戻り着替えをする。

 

 聖堂教会の職員達に混じりバゼットとロード=エルメロイⅡ世の姿を見付けた伊丹は二人を呼ぶ。

 

「今少し宜しいですか? 地下空洞に行きますのでご一緒して頂きたいのですが」

 

 伊丹の誘いにより三人で地下空洞の大聖杯前に行くと、伊丹は大聖杯の中に入り出す。

 

(あった! こいつだな)

 

 伊丹は大聖杯の底に残されている黒い小石を見付けて拾いバゼットとロード=エルメロイⅡ世の元に戻ると二人に黒い小石を見せる。

 すると不思議そうな顔をしてバゼットが伊丹に問い掛ける。

 

「何ですかこれは?」

 

「アヴェンジャーが遺した物です」

 

 伊丹の言葉に驚きを隠せないバゼット。

 

「彼がですか!?」

 

 伊丹はアヴェンジャーが倒されてから聖杯に願いを託した一連の出来事を話した。

 

「ではアヴェンジャーはこの世の全ての悪を呑み込んだのですね」

 

 涙を浮かべながら話すバゼットに伊丹はアヴェンジャーが採った行動を話す。

 

「そう聖杯に思い込ませたのかも知れません」

 

 伊丹は小石をバゼットに渡す。

 

「私が頂いても宜しいのですか!?」

 

「これはアヴェンジャーのマスターであった貴女が持っていて下さい」

 

 この一連のやり取りを見ていた聖堂教会の監察官が口を挟む。

 

「キャスターのマスター。勝手な事をされては困る。さあ、それを此方に渡しなさい」

 

 人の想いを壊す聖堂教会のやり方に伊丹は苛立ちを感じたがそれを表情には表さずに言う。

 

「聖杯戦争の勝者が渡すからいいでしょ!」

 

「聖杯戦争の監督は聖堂教会の役目。それに纏わる物を回収するのも仕事の内だが────」

 

「へ~、監督も役目なんだぁ~。あんな外道な監督役を派遣しておきながら…………聖堂教会の裏話が流れたら大変だなぁ~」

 

 前回と云い今回と云い、公平ではない監督役を派遣していた聖堂教会の不手際を(ほの)めかす伊丹と聖堂教会の不手際を知られては一大事と考える監察官。

 

「くっ、私は何も見ていない。キャスターのマスター、私に何か用件がありますかな」

 

「いいえ、何も御座いませ~ん」

 

 

 

 

 

 二人と別れ部屋に戻った伊丹をキャスターが出迎える。

 

「耀司様、あの子達の寝顔を見て下さい。あんなに穏やかで安心仕切った顔を見るのは久しぶりですわ」

 

 伊丹がキャスターに言われ子供達の寝顔を見ると、皆が穏やかな顔をしている事に安堵する。

(皆、終ったからゆっくり休めよ)

 

「処で耀司様、今日は出勤なさるのですか?」

 

 キャスターに治癒の魔術を懸けて貰ったとは云え、暫くは安静にしておいた方が良いのだが、社会人としての伊丹がそれを許さない。

 

「ああ、今日も笑顔で出勤だ!」

 

 山門まで伊丹と一緒に歩みを供にするキャスター。

 すると瓦礫と化した山門周辺に人避けの魔術を懸けるように伊丹が言う。

 人避けの魔術を懸けたキャスターに伊丹は石段を降りる事無くただ遠くを見詰めながら呟く。

 

「…………くれ、キャスター」

 

 よく聴こえず聞き返すキャスター。

 

「どうかなさいましたか耀司様」

 

 頭をボリボリ掻きながら少し大きな声で呟く伊丹。

 

「おっ、俺と、けっ、結婚してくれないか…………キャスター…………」

 

 思いもしない伊丹の言葉にキャスターは彼を掴み身体を自分の方に向かせ問い掛ける。

 

「…………裏切りの魔女とまで言われたこの私が、人が手にする様な幸せを得ても宜しいのでしょうか…………」

 

「あっ、当たり前だ。だから俺が君に頼んでいるんだ。君しか居ないと…………」

 

 キャスターは涙を瞳に溜めながら伊丹と熱い口付けを交わし応えた。

 

「はい! 耀司様!」

 

 

 




最後まで読んで頂き有り難う御座います。

前半部分の書き方は虚空屍のちょっとしたチャレンジでしたので、宜しければ皆さんの意見をお聞きしたく思います。読み辛い、目がチカチカする、話が解りにくいとか有りましたら感想欄や直接メッセージや活動報告に書き込んで下さい。何卒皆さんの意見をお聞かせ下さい。


ではでは…………


虚空屍
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