いよいよメデイアの地獄での日々が始まります。
──私が身体を得てからどれ位の年月が過ぎたのか……。
思い出すのも面倒臭い……。
私の中の色褪せた耀司様との想い出も今は遠い昔の話……。
今では細々と地脈の霊気で身体を保たせ、調合した薬草を貧しい人々に渡している暮らし……。
嗚呼……耀司様……。そろそろ私も貴方の元に向かっても宜しいでしょうか──
かつて、稀代の魔術師として現れた女は、自らの意思でこの世を後にする事を決め思い出す。
──そう云えばかつて私は少女と契約を交わしたわね……そうそう、とんま──違ったわ、閻魔あいって言ったかしら。またあの娘に逢えるのかしら──
彼女は人目を避けて暮らしていたが、自らの身体に霊気を集める事を止め、自身の痕跡を無くす様に消え去った。
「──と、云う訳でやる事も無いし、飽きたから閻魔あいとの契約通り来てやったわ。さあ私をどうするつもりかしら」
地獄の大バーサーカー、閻魔大王はタブレット型の閻魔帳の画面をスライドさせながらキャスターの生前の行いを確認し出し、うーんと唸り考え込む。
( 厄介な者が来てしまったな。彼女の罪科を受肉前と後とで別けて考えるべきか、纏めて考えるべきか……困った……)
浄玻璃の鏡にキャスターが地獄少女から貰った藁人形の紐を解いて言峰綺礼を地獄に流した場面が映し出される。
( しかも殺めたのは異界の者共と破門された元神父一人のみか……しかもそいつはこの女に殺められる10年前に一度死んではいる……それとこの女が己が命を自ら絶った事。厄介な案件だ……)
暫し黙り込んだ閻魔大王の考えも纏まりメデイアに言い放つ。
「メデイアに沙汰を言い渡す! ここは人の理を犯した者が罪を償う場所。しかし人生らざる者を迎えるのは初めてな事、そして貴様が殺めた言峰綺礼が既に一度死んでおり、穢れた聖杯により仮初めの生で長らえていた事、地獄少女を使った事、異界の者共の命を奪った事、自ら己が命を絶った事を鑑み、等括地獄では本来、等括地獄暦で五百年の責め苦とする処であるが、特別の計らいで一年の責め苦とし、それを受けた後はその身柄を地獄預かりとし獄卒見習いと処す! しかと果たせ!!」
「ちょっと教えて下さらないかしら。何故五百年の刑から四百九十九年も減刑されるのかしら?」
「それは厄介払いゲフンゲフンッ、厄介な案件だからだ」
人としての身体を受け、生きていく間には大小様々な命を奪い、それに見合う罪科を背負うのも納得するメデイアであるが、『獄卒見習い』と云う最後の文言にも反応した。
「それと確認させてもらうわ。最後に『獄卒見習い』って聞こえたのだけれど?」
「ああ、貴様の耳は正常な様だな」
「獄卒なんて御免だわ、まして見習いだなんて」
メデイア自身は傍に三百キロの筋肉達磨が居ては暑苦しくて嫌なのだ。
「いやいや、ゆくゆくは正規採用の獄卒ななれるのだぞ!?」
「こっちはそれが嫌だと言っているの! なんで私がバーサーカーみたいな獄卒共と居なきゃならないのかしら!?」
「しからば一年の等括地獄での刑を終えたらどうしたいのだ、メデイアよ」
暫し考え込んだメデイアが口を開く。
「……自由の身にして頂きたい物だわ。私なりにこの地獄を巡って見たいものでしてね。如何かしらね、大王様?」
「そうか、地獄を巡るかぁ……まあそれも良かろう。その件は儂自ら約束をいたそう。ならばこれより等括地獄に向かうがよい! メデイアよ!」
こうしてメデイアは等括地獄の暦で一年間の罪の償いをする事になった。
獄卒に連れてこられた等括地獄エリア。
ここは比較的罪が軽いされる亡者が、罪を償う為に責め苦を受ける場所である。
一般的に責め苦の年数は等括地獄で五百年。この等括地獄の年数基準は人間界の経過年数とは違う。人間界の五十年を一日として計算されるのである。
メデイアを従えた獄卒が、真っ赤な池の前に立ち止まり彼女に言う。
「おい、女。貴様にはこの『血の池』地獄に入って貰うぞ!」
「なにこれ? ただこの池に浸かれば──」
メデイアが話終わらない内に、獄卒の鬼が後ろから彼女を血の池地獄に突き落とす。
不意を突かれたメデイアは、見事に血の池地獄にダイブしてしまう。
「ちょ、ちょっと貴方! いきなり何するのよ!?」
池の縁に掴まろうとするメデイアを鬼が金棒で彼女を血の池地獄に沈めようと叩き出す。
「おらおら、沈め沈め!」
メデイアが鬼の繰り出す金棒を巧みに避けながら周囲を見回すと、他の亡者にも鬼達が金棒で突っつき、叩き、血の池に沈めている様が見られた。
( はぁ~ん、そう云う事なのね )
メデイアは鬼が出してきた金棒を掴み、血の池地獄に引っ張り込むと、その鬼は体勢を崩し金棒と共に血の池に落ちてしまった。
「あばばばっ! 俺は泳げないんだ! ごふごふっ! ブクブク──」
「あららっ、御免あそばせ。思わずしがみついたら引っ張ってしまいましたわ。お~ほほほほっ!」
( 海辺の監視員すら泳げるのに、ここの鬼ときたらなんてザマなんでしょう )
「貴様ーー! 何をしたっ!!」
メデイアのいる血の池の縁に鬼達が集まり、溺れた鬼の救助と彼女への仕置きが始まった。
幾人もの鬼達がメデイアを金棒で叩いて沈めようとするが、彼女は背泳ぎをして池の中程に移動する。
「ここまでは貴殿方の金棒は届かない様ね。浮きながらゆっくりとさせて貰うわ」
集まった鬼達の怒号の中、メデイアは我関せずとばかりにプカプカと仰向けに浮き、想いを巡らす。
( 地獄に耀司様はいらっしゃるのかしら? 特地であれだけ殺めては流石に極楽とかは無いわよね。それに言峰に会ったらどうしてやりましょうかしら? じっくりといたぶってしてやろうかしら……。桜や坊やにもいずれ会えるといいのだけれど……)
この騒動に獄卒長とか云う立場の一際大きな鬼がやって来た。
「そこの女。いい気になって居られるのも今の内だぞ!」
そんな脅し文句はメデイアには通じない。
「何か誤解がありますわ。獄卒さんが勝手に体勢を崩し足を滑らせ、この池に落ちただけですのに。まるでこのか弱い女が獄卒さんより力が強く、池に引きずり込んだ様な言われ方。私は悲しいですわ……」
この涙をホロホロと流すメデイアの反応に驚いた獄卒長の鬼はオロオロ慌て出す。
「そっ、そこの女! お主を責めてたり疑ったりして悪かったな」
「解って頂いて何よりですわ。私も血の池地獄の責め苦に耐えませねばなりませんので、ではご勘弁を」
( まったく馬鹿な鬼共もチョロいものね。もしかして私は地獄でやり放題かしら。この地に充満している霊力も桁外れですから、この地は私にはうってつけの所かも知れないわ。まあ、仕方が無いから、たまにはこの池で溺れる振りでもしておかないと鬼の面子も立たないわね )
メデイアは鬼から仕置きをされている振りをして、血の池地獄で寛ぐ日々が続くのである。
これはまだ始まりの初日、鬼からすればある意味地獄の始まりかも知れない……。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
果たしてメデイアは地獄で何を仕出かすのやら……。
こんな話です。
ではでは……。
虚空屍