話は1月23日(水)の夜になります。
復旧させている話は削除前の物にかなり加筆、修正をしていまして文章量は意外と増えています。
「では耀司と呼ばさせて頂きますわ。ねっ、耀司」
マスターから耀司へと変わった瞬間である。
「ヨウジィ~、何が届いたのかしらぁ?」
(なんだかキャスターに少々デレッと感があるのは気の所為か? 気の所為だ!)
「前の職場の仲間が、元々住んでいた部屋の荷物を送ってくれたんだよ」
梱包を解きながら伊丹は答えるとキャスターも一緒になって箱を開け始める。
出てくる物は、前の職場の制服、スーツ、カジュアルウェア、下着、メイ☆こん等の多数の薄い本、コミック、アニメDVD、ゲームソフトに旧式ゲーム機本体である。
「なぁ~に? この薄い本は?」
何やら見つけ出してペラペラと見出すキャスター。
「だぁ~! 見るのは後にして! 今は片付けないと駄目でしょうが!」
言ってる傍から片付けをしている伊丹の手がピタリと止まる。それに気が付いたキャスターが伊丹に問い掛ける。
「どうしたのかしら耀司? 手が止まっていますわよ」
キャスターからの問い掛けが聞こえていないかの様に呟いている。
「いや…………まさかな…………」
伊丹は話を表面が擦れて文字が読めないアニメDVDとゲームソフトを見付ける。
テレビに旧式ゲーム機本体を繋げ電源を入れてみるとゲーム機のオープニング画面が映し出された。
機器が作動するのを確かめると伊丹は呟く。
「本体は使えそうだな」
表面が擦れているアニメDVDをゲーム機にセットしコントローラーを弄ると、アニメが再生され始めたのだがすぐに伊丹は電源を切ってしまった。
(有り得ないのか、有り得るのかどっちなんだ!?)
只ならない伊丹の行動に、いささかキャスターが心配し出し話し掛ける。
「ねえ耀司、どうしたのかしら?何か悩み事でも有るのかしら?」
「俺にも解らないんだ。何なんだ此の世界は!?」
混乱し始める伊丹だが、まずはキャスターにあれを見せた方が良いかも知れないし、話の理解も早くなるだろうと感じ出す。
「キャスター、一緒に来て貰いたい所ある。自分にも詳しい場所は解らないんだんだが、石段の途中にある獣道みたいなのを探してくれないか?」
「何か有るのですか?」
「話は後でする。兎に角来てくれ。先ずはそれからだ!」
余りにも真剣な伊丹の雰囲気にキャスターもそれを感じ取り応じる。
「判りましたわ、早速参りましょうか」
懐中電灯を持って部屋から出て、山門から石段脇を照らしながらゆっくりと獣道を探す。
程無く獣道が見つかり伊丹とキャスターは奥に進んでいく。すると道は突き当たる。
(恐らく此の辺りの山肌に、例の洞窟がある筈なんだが…………)
「耀司、こちらに! もしかしてお探しの物はこれでしょうか?」
一見、山肌にしか見えない所にキャスターが誘う。隠蔽の魔術で隠されていた洞窟の入口を彼女が見付け出し、誰ともなく呟く。
「こんな所に洞窟が有ったのですか? しかも入り口を隠すようにしているなんて…………」
「ああこれだ! お手柄だねキャスター。先に進もうか」
真っ暗な洞窟内ではあるが、キャスターが優しい明るさの灯りを点してくれている。
数分進んだ後、二人は中央が平たく盛り上がった部分がある、巨大地下空間に出る。
中央の盛り上がりが恐らくは聖杯であり、やはり存在するのだと伊丹は愕然とする。キャスターにはあれが大聖杯だと告げる。
(嗚呼~、本当に俺は物語の現実世界に来てしまったんだな…………もうこの世界からは逃げられない、降参だ…………)
「此が聖杯なのですか?」
霊脈が集いしこの場所に陣地を構築しているキャスターは、何かしらの巨大な力を感じてはいたが、それが大聖杯等とは思いもしなかった。
「ああ、そうだ! キャスター、飛んで中を見てくれないか? 俺は歩いて淵まで登るから」
「はい、御安いご用ですわ。でも何故私と一緒に飛びませんの?」
キャスターからの申し出に、僅かに身体を震わせる伊丹。
「いやっ、俺は無理だ。飛べない…………」
キャスターも伊丹が只の人間である事は分かっているし、勿論飛行能力などある筈がない事は承知している。
「耀司が飛べないのは解っておりますわ」
「そう云う事じゃなくて…………俺は高所恐怖症なんだよ!」
「うぷっ! そうでしたか。解りましたわ」
キャスターは口角をあげるが、自分の弱点を明かす伊丹に面白さを感じる。そして蝶の様にローブを拡げ聖杯内が見える高さ迄浮遊したキャスターは信じられない物を目の当たりにしたかの様に目を見開く!
「耀司! これは一体!?」
「ああ、此こそが大聖杯の中身だよ!」
キャスターが見た大聖杯は黒いタールの様な物で満たされつつあった。
恐らく伊丹は知っているがキャスターは知らない大聖杯の中身。
「何ですの、あの黒い物は!?」
「やっぱり黒だね。呪いっちゃぁ呪いなんだけどね。呪いによって汚された聖杯。真っ当な聖杯では無いよ」
やや暈しながら伊丹は答える。
「何故、願望機たる聖杯がこのように…………」
「第三次聖杯戦争の時に、《この世全ての悪》を呼び出した陣営が居てさ、こいつが殺られて聖杯に取り込まれた時にこうなったらしい」
「なんでそんな事が…………」
「詳しい話は後でするよ」
大聖杯を見た後、洞窟を抜け部屋に戻る伊丹とキャスター。部屋に入るとキャスターが口を開く。
「耀司が先日話していた物語の世界の事なのですが、やはりこの世界も話の流れの様になっているのでしょうか?」
「第四次聖杯戦争迄は話し通りの様だ。そして第五次の今回では君が召喚された事もね。あと、その物語のサーヴァントを召喚するキャラと思える人物も何人かは居たよ」
「詳しく教えて頂けないでしょうか?」
「判った、その前に此を観て貰えないか」
伊丹はゲーム機の電源を入れDVDのアニメを流し始める。
するとオープニングの映像の後に物語のタイトルが映し出され本編が始まった────────
─────エンドロールが流れる。
「こう云う事だよ、キャスター。ただこれは平行世界の一つだと考えた方が良いかも知れないんだけど…………」
キャスター陣営の結末に、それを知ってはいる伊丹だが落ち込む。そうなる可能性が有るからだ。
「耀司、此は酷過ぎますわ。ええ、全く持って酷過ぎますわ! 馬鹿にするのも大概にして欲しいですわね!」
拳を握り締めフルフルと震えているキャスター。
「それに、なに! この原作者? すな茸? はぁ~、砂にしてやろうかしら?」
(そりゃ怒りたくも成るだろうが、キャスターは何に怒っているんだ? キャスターの描写か、結末か、其とも両方にか?)
「確かに酷いよな。俺の
「んまあっ! 耀司ったら!」
「キャスター、怒りは周囲を見えなくさせるからまずは落ち着こう」
伊丹は自分に対しても落ち着かせ様としている。
アニメDVDを取り外し、タイトルが擦れて解らないゲームソフトをセットし、起動させる。
「今度は此を観てくれないか?」
恐らくはPC版のアダルトゲームソフトをR-15指定のゲームソフトに移植した、超有名な物語のノベライズゲームである。
伊丹はすべてのバッドエンドと三つのストーリーの五つのエンディングをキャスターに見せた。
キャスターにしたら全てがバッドエンドになってしまうのだが…………
「自分が知る第五次聖杯戦争の結果は以上だ。物語の流れだと俺たちは全てに於いて死んでしまう…………」
二人に沈黙が訪れる────
その沈黙を破ったのは伊丹。
「参考になるか解らないがまず状況を整理しよう」
「それが宜しいでしょう。私も少々解らない事がありますし」
1、このDVDの存在。
2、今の流れと此からの予測。
3、戦い方。
4、聖杯への願いと戦いの落とし処。
「まずは一件目。俺はまずこれの存在が納得出来ないんだ」
伊丹は件のDVDを指した。
「元の世界では有名な物語で俺も買い漁ったが、此方の世界では物語その物が存在して無かった。
だけど、自分に届いた荷物には物語のアニメDVDとゲームソフトが入っていた。何故だ?」
「耀司が此方の世界に跳ばされた様に、このDVDとかも跳ばされてしまったのでは…………」
伊丹は余りにも簡単なキャスターの解釈に驚いた。彼の問い掛けにキャスターは、自身の解釈に自信が無かった所為でもある。
「そんな簡単な事なのかい?」
「自信は有りませんが今のところの解釈では…………申し訳ありません、ご都合主義で…………」
自身の答えに項垂れるキャスター。
「う~ん…………稀代の魔術師のキャスターが言うのならそれ以上の解釈は無しだな。俺ですら解らないんだからね」
「稀代だなんて…………耀司ったら…………恥ずかしいですわ!」
伊丹の一言に照れるキャスター。
「キャスター、顔が紅いぞ、病気か?」
一応キャスターに気を使うが、さらりと流す伊丹。
「次に、物語を観て解ってくれたと思うが、此のまま戦っても勝算が無い。何もせずに流れに身を任すと物語の出来事の通りになる。この流れから外れないと生き残る事が出来ないんだ」
「物語には無い戦いをすると言うのですね?」
「そう。物語からどれだけ外れた事をして良いのか解らないけど、斬った張ったの戦いだけが戦いの全てでは無いんだよ」
「と、仰いますと?」
「基本は情報戦と外交戦だよ。それと少しは流血もあるかも………」
「流石は耀司ですわね。欺瞞に満ちた文書を流し敵の戦意を挫き混乱に貶めて叩き潰す! 策士ですわぁ~! まさにキャスターのマスターの鑑でございますわ!!」
「いやいや、詐欺紛いの行為は後々の火種になる可能性があるから止めようね」
厳重に詐欺は禁止と伊丹はたしなめる。
「それに嘘を流すのばかりが情報戦ではないんだ。手札を隠して置くんだ。我々しか知らない情報を知らない振りをして、小出しにしたり態と見せ付けたりしたら驚いたり動揺するしそれ以上の効果も付随すると思うんだけど」
「まるでカードゲームの様ですわね」
「ああ、テーブルに乗せるチップは…………二人の命だ!」
伊丹は解り易い様に、チラシの裏に相関図を書きながら説明を始める。
「聖堂教会と魔術協会に匿名で書簡を出すんだよ。そうだな…………魔術協会へはロード=エルメロイⅡ世宛がいいかな。聖杯が呪われて真っ黒ですよ~、至急調査を望むって。其と同時に第四次聖杯戦争で教会の監督役を引き継いだ神父がサーヴァントを使って聖杯戦争に参加してましたよ~。中立性が無くなっちゃいませんかぁ~、てね」
伊丹はキャスターに一枚目のカードを披露する。
「そんな神父が出ていましたわね。あのゾンビ! 確か言峰綺礼とか云いましたわね」
「戦端が開かれれば恐らく四人のマスターである衛宮、遠坂、ゾンビ神父とアインツベルンに立て続けに出会う事になるかも知れない。俺もマスター登録しに教会にも行かないといけないしね。
その後に各陣営と和平交渉をして不戦同盟として纏めるのはどうかな? 但しゾンビ神父は除くけどね。
まずはこんな感じに一気に周りを固めようかと思うんだけど…………キャスター的にはどう思う?」
「ゾンビ神父を除いた三人のマスターが一度に邂逅するのですから最初の大きなチャンスではあると思います。しかし耀司が姿を晒してマスターであると明かす事は止した方が宜しいかと。それにアインツベルンが…………」
キャスターの少し曇った表情に伊丹が軽く笑みを向ける。
「浮かない顔してるねぇ、もしかして気付いちゃったかな!?」
「はい。衛宮切嗣、士郎父子とアインツベルンの確執が些か厄介かと…………」
キャスターは解っていた。『母子と聖杯を見捨てた裏切者』と散々衛宮切嗣への恨み言を刷り込まれた少女の歪んだ想いを…………
「戦略的な手札を考えると自分がマスターである事は明かさない方が良いのかなぁ…………その手段も考えないとね。それともしもの話だけど邂逅しちゃったら説得をしてみるよ。数少ない大人のマスターとしてね。まぁ、なんとかなるさ!」
「処で説得が不調に終わりましたら如何なされますの?」
「ん? 不調?…………そんときゃ逃げるさ!」
最後まで読んで頂き有り難うございます。
元の伊丹の世界と此方の世界の大聖杯。そして鍵を握るゲームソフト。
果たして二人はどう動くのか?
本編で出てきたゲーム機は恐らくPS2です。アニメDVDはFate/staynightのセイバールートに色々詰め込んだ昔のものです。決してUBWではありません。ゲームソフトは恐らくPS2版のFate/staynightです。
念の為、お知らせしておきます。
ではでは…………
虚空屍