話は1月23日(水)夜~24日(木)になります。
「ん? 不調?…………そんときゃ逃げるさ!」
伊丹自身が正体を明かしたくない為、教会へは行かずにマスター登録する方法を考えている。
「でも、教会に行ってマスター登録したらそれでバレるよね! 完全に言峰綺礼にはバレるんだよ! さてさてどうしたものか……………そうだよ! 使い魔だ、使い魔だよ! こんな事は可能かな?」
キャスターの使い魔を代理として教会に遣わす事を話し合い、伊丹はその方法を考え或るやり方を思い付きキャスターに打ち明ける。
更に話は進み話題は聖杯への願いに移る。
「私を呼び出してまで耀司は聖杯に何を願おうとしたのです?」
「俺は何か目的が有ってこの戦いに参加した訳じゃ無いからなぁ~、もし叶える事が出来るなら同人誌即売会の初日に徹夜しないで先頭に並ぶ事かも」
「そのドウジンシソクバイカイとはなんですの?」
「サークルや有志が書き上げた、一般に流通しない書籍やグッズの販売会って感じかな」
「徹夜して隊の先頭を取らねばならぬ程、余多の者が押し寄せるのですか?」
「ああっ! 凄いぞ! 本当に凄いんだぞ!! 期間中で十万単位の人間が集まるからな!」
「その販売会は一都市なのですか?」
「都市じゃ無いんだなぁ~。借り切った大きな広場の中に小さな出店がわんさと並んでるのを想像して貰えるか?」
「十万単位の人間が集う出店の広場とは見た事もご座いません」
想像が追い付かないキャスター。
「ならキャスターは聖杯に何を願おうとしたんだ?」
「神々への復讐ですわ!」
「それは此方で云うギリシャ神話に出て来る類いの神様って事?」
「そうですわ。ただただ民草に信仰させ気紛れで人生を狂わせ弄ぶ性悪でしてよ」
「そうだよなぁ~。キャスターは神話の中の神様に会っていたんだよなぁ~。日本にもそんな気紛れ神様が居なくはないし。そもそも神話の中の神様ってそんなものじゃないの? 日本の神話にもそんなのあるしね。で、復讐って何をするつもり?」
「消し炭にして差し上げ様かと、うふふふっ…………」
「ちょっ、それは随分と過激だね~! キャスターの云う神々は恐らく絶えてしまったかも知れないよ。サーヴァントが魔力を必要とする様に、神様は信仰心が必要なんじゃないかな? 星座には成ったが今ではその星座の神々に対しての信仰心が無いからね。キャスターが幸せな生活を送る事が、君の人生を弄んだ神々に復讐を果たした事にもなると思うんだけど、どうかな?」
「そうですわね。そう云う考え方も有るかも知れませんわね! しかし私は…………私を弄んだ神々を消し炭にしたいですわ!」
自らの願いを肯定されては居ないと感じたキャスターは少々の腹立たしさに語気を強めつつも伊丹の言葉の意味を考える。
(幸せな生活ですか…………しかし私は穢れた裏切りの女です…………こんな女でも少しは幸せになりたいなどと思っても宜しいのでしょうか?)
「たださぁ、あんなに黒く穢れた聖杯だぜ。大体、第一次から第四次まで誰も願いを叶えて貰って居ないんだよ。本当に願いを叶えてくれるのかな?」
(しかし第四次の結果は、切嗣が優勝者で歪んだ聖杯に気付き辞退して杯を壊したんだろ!?
それが元で多数の死者を出す災害が起きたんだよな。
戦いを無くすなら人の平和な世界では無く、人自体が居なくなればいいって奴か!
歪んではいるがある意味願いを叶えているんだよな…………でも本当に歪んで叶えられての災害だったのか? それとも何を願っても災害は発生していたのか…………いや、言峰綺礼の一言だっけか!?)
「そうですわね。先程見たあの聖杯は正常ではありませんわ。あんな杯に願いを託すのは恐ろし過ぎますわ」
今後の戦いの在り方、望みを託せない聖杯について一通りの話をするが話し尽くした訳ではない。未々検討事項は山程ある。
キャスターは教師である伊丹の翌日の仕事や体力を考え、話し合いを区切りの良い処で締めた後、二人寝床に就くのである。
翌朝、キャスターは伊丹よりも早めに起床し、寺の台所へと向かう。和食の作り方を教えて貰う為である。と云うよりは料理の基本から学ぶからである。
キャスターは人が居なくなったのを見計らいルールブレイカーを取り出す。
「包丁より使い慣れているこちらの方が私には良いですわね、ルールブレイカー!─────駄目ですわ…………切れない…………」
あの形ではキャベツの千切りは出来ない事を知らされる困り顔のキャスターである。
後から起きて来た伊丹と一緒に食事をし、出勤仕度の手伝いをする。
出勤直前に、聖堂教会と魔術協会のロード=エルメロイⅡ世宛の便箋にキャスターが魔術で文言を浮かび上がらせ、それを切手を貼った封筒に入れ鞄に仕舞う。伊丹が出勤途中で投函するのである。
仕度が済み二人で部屋を出て山門迄来ると伊丹は軽く手を挙げる。
「じゃあ、キャスター、行ってくるね」
「行ってらっしゃ~い! 耀司!」
キャスターは手をぶんぶん振り、石段から見え無くなるまで見送る。この時に放たれた一匹の使い魔が、伊丹に付かず離れずの微妙な距離を保ちながらヒラヒラと舞っていた。
(耀司の御守りですよ…………)
今日からキャスターは部屋の掃除、洗濯、布団の陽干しを柳洞寺の修行僧に教えてもらい、見様見真似でやり始める。
(耀司の許嫁として恥ずかしく無い様にしておかないと…………)
表向きの仕事を終えたキャスターは本来の仕事にも取り掛かる。
陣地の構築や霊脈集め、更にはゲーム機を動かし始めルート毎のイベントの時系列を細かく整理し、タイムテーブルを作成している。
そんな中でも昼前や夕方前の調理時には、必ず手伝いに入るキャスターでもある。
(これも何時の日にかの耀司のため。所謂、修行ってやつかしら。)
陽も暮れた頃、柳洞寺に宅配便が届く。受取人は伊丹キャスターと書かれている。
(はて? キャスターは私だけど頼んだ覚えが無いのに何かしら? それに伊丹キャスターって何!? これは無いでしょ、ぷっ!)
早速キャスターは届いた箱をバリバリと開け、中身を出し拡げ確認する。
(嗚呼…………耀司が頼んで下さった今時の服ですわぁ! 早速着てみようかしら!)
今時の服を着て姿見の前でクルりと回り自分の姿を見て顔を朱らめるキャスターではあるが、はたと気付き俯く。
(耀司が考え此処までしてくれているのに私は何! 彼に甘えてばかりで私が成したことは陣地を造る事くらい…………初日に冗談で誤魔化してはみましたが、令呪を奪って木偶人形にでもしようとも考えたのに。彼は私が裏切りの魔女と呼ばれていたのを知りつつ、それでも私の事を信じて二人で生き残る道を模索している。しかも宅配便の受け取り票には伊丹キャスターと書いて下さってもある。
嗚呼…………彼は何て方かしら…………こんな自分自身がとても恥ずかしい。
そうよ! 今日はこれを着て耀司を、いいえ、耀司様をお出迎えしなければ…………)
仕事を終え帰宅した伊丹を待ち受けて居たのは、洋服を纏ったキャスターである。
「耀司様、お帰りなさいませ」
キャスターは眩しい程の笑顔で伊丹を迎える出る。
「済みません、部屋を間違えました…………」
襖を閉めようとした伊丹だが、直ぐに眼前に居るのが現代風キャスターである事に気が付く。
「すっ、すまん、キャスター。余りの変わり振りに別人かと思った! あの…………何だなぁ…………その服、良く似合ってるな」
伊丹は顔を紅くし頭を掻きながら呟く。
「耀司様がこの様な服を着る機会を与えて下さったからですわ。感謝致して下ります」
深々と頭を下げるキャスター。
「キャスターは元が良いから何を着ても似合うと思うぞ」
「そっ、そんな事はご座いませんわ」
キャスターも顔を朱らめる。
「まあ、部屋の入り口で立ち話も何だから」
二人は部屋に入り襖を閉め腰を下ろす。
晩飯を済ませた伊丹は、学園内ではまだ動きが無い事を告げ、キャスターと纏まらない今後の作戦について話す。
「話は変わるけど、聞き間違えだったら謝る。何かいつもと違う事を言わなかった?」
「はっ? 何かしら?」
首を傾げるキャスター。
「いやっ、《耀司様》って言われた気がしてさ」
「お嫌でしたか?」
「いえね、突然どうしたのかなぁ~って…………でもそれはそれで嬉しいかも!」
「はい。常に二人の事を考えて下さっているのに、下着売り場で酷い事をしたり、苦悶の表情に愉悦を求めたり、令呪を取って木偶人形にしようとしたりでしたが、自らの行いを省みて今迄の自分を恥じて下ります。申し訳ご座いませんでした。私も耀司様の許嫁として日々修行でご座います!」
「おうっ?」
応えにならない声を上げる伊丹。
(いやぁ~、そこまで大袈裟に考えなくてもいいんだけど、本人なりに何か考える所でも有ったのかな? てか、許嫁って取り敢えずの設定だったのに…………令呪も奪おうとしてたのね…………)
デレデレキャスターの誕生である。
決してヤンデレではないのである!
「そう云えば耀司様、そろそろ山門にも…………」
「おうっ、そうだな、門番だな。お寺の皆も寝た様だから一丁やりますか!」
二人は山門へ行くとキャスターが詠唱を始める。その時、野良猫が山門脇に居た事に伊丹とキャスターは一瞬気を取られた。
詠唱が終わるとそこには想像通りの侍、所謂佐々木小────
(違うっ、誰だこいつ! 浪人? 顔が怖いし凄く濃い! しかも懐に白い猫を忍ばせている!)
「問おう、貴殿が己がマスターでござるか?
拙者、アサシンのサーヴァントで、元加賀藩剣術指南役 無双一刀流免許皆伝、姓は斑目、名を久太郎。二つ名を斑鬼と申す。乙女座のB型で御座る」
「やっちまったな…………」
「はい…………申し訳御座いません…………」
詠唱時、二人が猫に気を取られたが為に起きた結果的である。
「それで此が我が愛猫の玉之丞で御座る」
アサシンは懐から愛らしい白猫を取り出す。
早速キャスターの心を捕らえた玉之丞。
「キャーっ、なんて愛らしいのかしらぁ~! 抱かせてもらっても良いかしら? 玉ちゃ~ん!」
そして更には伊丹の心も擽る。
「萌えるっ、なんだか萌えるぞ!」
「主殿、マスター。玉之丞は拙者の宝具故に手荒な事はせぬ様に願いたい」
「「玉ちゃんが宝具…………?」」
「いかにも! 故に《玉之丞》と真名を呼ばぬよう願いたい」
「「解りました…………」」
アサシンこと、斑目久太郎と玉之丞の召喚であった。
伊丹は《斑目久太郎》、《斑鬼》で検索したがヒットしない。
過去の剣の達人ではあるが、その名が全国に知れ渡るのが数年先である事をまだ伊丹は知らない。
アサシンの召喚も終え、今宵も布団を並べて敷き寝床に入る二人だが、キャスターが何やらもそもそし出し恥ずかしそうに囁く。
「あのぅ耀司様、宜しければお手を貸して頂けますか?」
「えっ? おうっ!」
伊丹はキャスター側の手を出すと、キャスターはそれを両手で握り締め己が顔の側に寄せる。
「暫くはこうして寝てさせて頂きますわ…………」
一気に顔が紅潮する伊丹。
「てっ、照れるぞ! キャスター…………」
「私もですわ…………」
そんな甘さだだ漏れの二人は手を握り合い、深い眠りに就く…………そう、普通に(18禁ではない)。
最後まで読んで頂き有り難うございます。
はいっ、ここでアサシンの斑目久太郎と玉之丞の登場です。もちろん宝具は玉之丞ですが、その使い方は!?
虚空屍