Fate/元自衛官 冬木にて、斯く戦えり   作:虚空屍

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1月25日(金)~30日(水)の話になります。


07 恐らく言峰の手駒でしょう

 伊丹とキャスターの、だだ漏れの甘い日々は過ぎていく。

 

 伊丹の出勤には柳洞寺の山門でキャスターが手をブンブンと振って見送ってくれるのが日課になった。

 

 キャスターはそのついでにアサシンにおにぎりと玉之丞にはロイヤルヒルズの猫缶を届けている。

 

 

 

 

 

 普段の学園での伊丹は、6時限分の授業が埋まっている。

 

 食う寝る遊ぶ処ではなく、朝からの授業予定表を見るのも気だるくなっている。

 

 伊丹はそんな中でもマスター候補の面々を観察するが、未だ目立った動きがない。

 

(そろそろ動きが有っても良い頃なんだがなぁ…………)

 

 

 

 

 

 そんな日常が続いたある日の夕方遅く、仕事を終え帰宅の為に学園を出た所で、伊丹はキャスターと念話をする。

 

(キャスター、新都のオフィス街の従業員の昏睡の件はどうだった?)

 

(はい、抜かりは御座いませんわ。三日間も安静にしていれば元の生活に戻る事が出来る程度に抑えてありますので)

 

 伊丹は、キャスターが彼の戦い方を十分に理解して行動してくれている事に感謝する。

 

(流石だよ! ありがとう、キャスター。これも手札になるかな? 明日の朝イチのニュースで流れると良いんだけれど…………)

 

(それに耀司様の指示がありました女性の件、見付けましたわ。寂れた洋館に仮死状態ではありましたが、回復の望みは未だご座います)

 

 そして伊丹は、キャスターの段取りの良さと仕事の早さに驚く。

 

(了解したよ。しかしもう見付け出したのか? キャスターは仕事が早いなぁ、感心しちゃうよ。君と洋館で落ち会いたいから、使い魔に案内させてくれ)

 

(耀司様からのお褒めのお言葉が、私の何よりの励みになりご褒美ですわ。それでは後程…………)

 

 

 

 キャスターと件の洋館に出向き中に入ると、使い魔が目的の女性の居る部屋迄ヒラヒラと案内をする。

 

 其処には片手を無くした女性がベッドに横たわっている。まさしく伊丹が捜していた女性である。

 

 伊丹の指示でキャスターは女性をふわりと抱き柳洞寺へと連れ去り、残された伊丹がソファーに座るとテーブルの上にある絵合わせのパズルに気が付く。伊丹は時間潰しにパズルをしながら独り夜を待つ。

 

 

 

 

 

 夜半、パズルの絵が合わせられない伊丹がソファーで横になろうとした時、一人の男が陽炎の如くあらわれる。

 

 ソードブレイカーの様な右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)を構えるその男。

 

「俺のマスターをどうするつもりだ! 返答次第じゃ今直ぐに殺すぞ! おっさん! それとパズルを返せ!」

 

 伊丹はどこぞのヤンキーかと呆れたが、サーヴァントを見て驚く。

 

 自分の知っている姿形と違っていたからである。

 

 見るからにボロを纏い全身に模様があるが衛宮士郎には全く似てはいないのである。むしろ伊丹に似ているのかも知れない。

 

 確かに衛宮士郎との繋がりが無いから士郎には似ないであろうが、何故俺に似ているんだと考え込む伊丹である。恐らく彼の特戦群のコードネーム関連かもしれないと勝手に納得する。

 

「ちょ~っと待って! 君は彼女のサーヴァントでいいのかな? ならば君達とは敵対したくないし彼女の腕の治療をした後、回復をサポートしたいんだよ。しかしなぁ、おっさんは無いだろ…………」

 

 伊丹は徐に両手を上げ不戦の意を示し哀しげに答えると、サーヴァントは早くに彼女を見付け、救い出してくれた事に感謝の言葉を述べ、敵に成らなきゃ中立か味方をすると言う。

 

 伊丹は彼女のサーヴァントと洋館を出て柳洞寺に向かい、部屋には戻らず先ずは石段脇の獣道から洞窟に入り大聖杯をみせる。

 

「あんただろ、これ。困るんだよねぇ~」

 

 呆れ顔で伊丹は言い放つと、何故知っているのかと不思議顔のサーヴァントが問う。

 

「あんた全てお見透しって奴か?」

 

 伊丹はさらりと答える。

 

「そんな処だよ」

 

「おっさんには下手な芝居を打っても仕様がないって訳か」

 

 やれやれお手上げかと両手を挙げるサーヴァントに伊丹は的外れな答えを返す。

 

「そうでもないぞ、下手な芝居を観てやってもいいんだぞ! でもオッサン呼ばわりは勘弁な!」

 

「はぁ~…………俺はあんたが助けてくれたねえちゃんのサーヴァント、アヴェンジャーだ」

 

 彼女の死にたくないと云う思いに召喚されたサーヴァント。

 

 伊丹はアヴェンジャーの自己紹介に応える。

 

「俺は伊丹耀司、マスターの一人だ。俺もアヴェンジャーと呼ばれる事もあるがな!」

 

「あんたもアヴェンジャーか。で、なぜ彼女を助ける?」

 

 伊丹は特戦群での自分のコードネームを言い、彼女を助け出した理由を話す。

 

「俺達が死にたく無いからだ」

 

「確かに死にたい奴はそうザラには居ないだろうしな。目的が聖杯を手にする事じゃなくてか?」

 

「そうだ。今の処、勝つ事には拘らない。残りたいんだ。死にたく無いんだ! 勝ち残りはオマケかな」

 

 アヴェンジャーは伊丹の答えに対して一番簡単な方法を示し言う。

 

「なら令呪を差し出して教会にでも行けば良いだろ?」

 

 戦場に於て仲間を見捨てて自分だけが逃げ帰る(など)とは到底考えられない。

 

「それは無理だ。自分のサーヴァントを置いては逃げられない。だから自分とサーヴァントが死なない方法を模索しているんだ」

 

「おっさんは律儀な奴だな。それで俺のマスターの力も借りたいって訳けだな」

 

 アヴェンジャーは伊丹の答えに感心し、こんな相手となら共闘も良いだろうと思う。

 

「そうだ。しかしマスターと云うよりアヴェンジャー、君の力を借りるかも知れない。恐らくはお互いに利益の有る事だと思う」

 

「ういんういんて奴か?」

 

 伊丹は両手を胸迄上げそれぞれの指三本を立てるとクイクイと曲げ出す。

 

「そうだが微妙に違うぞ、Win Winだ」

 

 

 

 

 

 霊脈の集う柳洞寺に移動したのとキャスターの治癒の魔術のお陰で衰弱していた彼女も気力を取り戻し目覚め、目の前の女性に問う。

 

「…………貴女は?」

 

「あら、お目覚め? 私はキャスターのサーヴァント。貴女はラッキーよ、私のマスターに見付けて貰えたのだから。嗚呼…………羨ましい限りだわ!」

 

 見付け出したのはキャスターではあるのだが、捜索の指示を出したのが伊丹だからこの様な言い方をする。

 

 目覚めたばかりで身体が思う様に動かないその女性はそれでも身構え様とするが、令呪を宿した片手が無い事に気付き愕然とする。

 

 このまま殺されて仕舞うのかと思ったが、程無くして其処に伊丹とアヴェンジャーが入ってくる。

 

「気が付きましたか? 良かったですよ! 自分は伊丹耀司、こちらのキャスターのマスターです。アヴェンジャーとは紹介を済ませています」

 

 彼女は横たわっていた身体を起こす。

 

「私を殺さないの…………ですか?」

 

「安心して下さい。貴女を殺める理由なんてありませんよ」

 

 彼女は今一状況の理解が出来ていない様である。しかし伊丹の言葉に安心をし自分の名前を明かす。

 

「申し遅れました。私はバゼット・フラガ・マクレミッツです。助けて頂き感謝します。」

 

「え~済みません…………バジッヒラグミッツマングローブさん?」

 

「いいえっ! バ ゼ ッ ト・フ ラ ガ・マ ク レ ミ ッ ツですっ!! バゼットで結構ですっ!!」

 

 バゼットは名前を言えない伊丹に苛立ち語気を強めるが、それで少々頭が冴えた。

 

「済みませんでした、バゼットさん」

 

 頭をボリボリ掻く伊丹であるが直ぐに言葉を繋ぐ。

 

「確か貴女は魔術協会の所属の筈でしたよね?」

 

 バゼットは自分の所属する組織の名前を出してもいないのにも関わらず、伊丹の口から魔術協会の名前をあげられた事に驚きを隠せない。

 

「なっ、何故それをご存知なのですか!?」

 

「いや~ぁ、キャスターが稀代の術師と呼ばれているは伊達では無い証しですかね。魔術師としても強くて思考明晰、しかも諜報にも長けて居て美人で可愛いんです。正直、他マスターの情報なら、いつ鼻糞をホジッているとかお宝本の在りかの情報まで収集できますよ」

 

(嗚呼…………嬉し過ぎますわ! 耀司様…………)

 

 キャスターは伊丹の誉め言葉に顔を朱くに染め、目眩でその場にヘナヘナと座り込んでしまう。そんなキャスターの能力を伊丹は誇張してみたが、恐らくは可能であろう。

 

「処でバゼットさん。貴女が不意討ちを喰らった経緯について教えてもらえますか?」

 

 何故この男はその事を知っているのかとバゼットは疑問に思うが、隠しても仕様がないと手の無い腕を見せる。

 

「ええ、聖堂教会の言峰神父とは旧知の間柄でして、その神父に呼び出され他愛の無い話をしていたら突然この様な事をされて令呪を奪われてしまいました」

 

「バゼットさんの手を令呪ごと切りサーヴァントを盗ったのが言峰綺礼と断言できますか?」

 

「できます! ええっ、腹立たしい位に…………処で伊丹さん。先程から話されているアヴェンジャーとは何でしょうか?」

 

 やっぱりと思った伊丹が説明をする。

 

「ご存知有りませんでしたよね。正直、貴女は死んでいてもおかしくはなかった。恐らく意識が途切れる間際の想いがアヴェンジャーを召喚し、それで彼が貴女を見守り続けたのでしょう。勿論、私の推測ですが…………」

 

「そうでしたか…………アヴェンジャー、礼を言います」

 

 バゼットはアヴェンジャーに頭を下げる。

 

 更に伊丹は話を繋ぐ。

 

「貴女の生きていたい、聖杯戦争に参加したいと云う想いと生前のアヴェンジャーの生きたいと云う想いが二人を引き会わせたのかも知れませんね」

 

 ここぞとばかりにアヴェンジャーも口を挟む。

 

「ああそうだぜっ! 俺はねえちゃんの想いに呼ばれたんだ! そしてそれに応えた訳だ! そうしたら何処から嗅ぎ付けやがったのか、このおっさんとキャスターが来て、ねえちゃんを拐って行ったんだ」

 

 今のアヴェンジャーの説明に、誤解が生じないように伊丹は付け加える。

 

「しかし私たちはの目的は、貴女の保護とアヴェンジャーとの接触に有りました。しかし無事で何よりでした。それといい加減おっさんは止めてくれよ、アヴェンジャー」

 

 バゼットは『アヴェンジャーとの接触』と言われた時、何故自分がアヴェンジャーを召喚した事を伊丹が知っているのか疑問に思いつつも、何も出来ない身体故に聞き流す事にした。

 

「このお礼は如何様にすれば宜しいですか?」

 

「取り敢えずお互いに協力と云うのはどうでしょう。その辺の話はアヴェンジャーに聞いてください」

 

 アヴェンジャーとアイコンタクトを取り頭を下げるバゼット。

 

「アヴェンジャーも了解したのでしたら私からもお願いします。此の身体では思う様になりませんので」

 

「では同盟成立と云う事で! 今後ですがバゼットさんの件は聖堂教会と魔術協会のロード=エルメロイⅡ世にお知らせします。教会へは死亡したとして、ロード=エルメロイⅡ世には重傷だが一命は取り止めて保護していると」

 

 バゼットはまだ頭に霞みが掛かっているのか事の重大さを理解出来ずにいる。

 

「何故そのような事を」

 

「あなたもご存知のように教会は信用がおけません。特に今の監督役には! 存命が知れれば確実に刺客を放って来ます」

 

「確かにそうですね。知り合いとは云え、こんな酷い仕打ちをされるとは思いもしませんでした! 処で私の元々のサーヴァントはどうなったのでしょうか?」

 

 伊丹は当たり前の答えをバゼットにする。

 

「恐らく言峰の手駒でしょう」

 




最後まで読んで頂き有り難うございます。

follow ataraxiaのあのサーヴァントが出て来ました。
しかし姿が違います。
はたして活躍の場はあるのでしょうか。


虚空屍
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