話は2月2日(土)となります。
伊丹たちの流れにいよいよ衛宮士郎が関わってきます。
まだ寒い冬の朝に目を覚ます伊丹と、横には彼の腕枕ですやすやと寝ているキャスター。
カワイイ寝顔だと思いつつそっと頭から腕を抜き枕をあてがう。
「一線を越えちまったなぁ…………」
昨晩のキャスターとの行為を思い出し感慨に耽る。
伊丹は布団から起き寝間着を着直し、全ての行動がタイミング勝負である為、今日のタイムスケジュールを確認する。
後から目覚め、胸元を隠す様に布団から顔だけ出すキャスターは、伊丹と目が会い顔を朱らめる。
伊丹はそんな気不味さを破る様に胸元眩しいキャスターに声を掛ける。
「おっ、お早う、キャスター!」
「ええ…………お早う御座います…………」
「昨日はそのう~────」
「何も仰らないで下さいな」
キャスターは恥ずかしさの余りガバッと掛け布団を頭から被り潜ってしまう。
「ゴメン…………そうだよな」
服に着替え朝の支度を始めるキャスターを見ながら、伊丹は思考を切り替え気合を入れる。
「処でいよいよ今日だよ、キャスター!」
「はいっ、耀司様のお考え通りに事が進む様に致しますわ」
「ああ、宜しくだ! 但し無理や無茶はしないでくれよ」
「解っておりますとも」
二人は朝食を済ませ出勤の仕度を整え終えた後、部屋を出て山門まで来る。
そこには玉之丞を抱いたアサシンが待ち受けて居る。
「これはこれは主殿とマスター、この寒い中のお勤め御苦労で御座る。いよいよ今晩で御座るのか? ほれ玉之丞、主殿の御出立であるぞ」
アサシンは伊丹に玉之丞を渡し、受け取った伊丹は優しく抱き上げ、ゴロゴロと喉を鳴らす玉之丞の頭を撫でる。
「玉ちゃんにも癒されるな~」
玉之丞を抱き微笑む伊丹にアサシンは言う。
「主殿、
分かったとばかりに頷き、軽く手を挙げる伊丹。
「ああ、任されて。では行ってくるよキャスター、アサシン、玉ちゃん!」
「いってらっしゃいませ、耀司様!」
「励まれよ、主殿!」
「にゃん! にゃ~」
伊丹は二人と一匹に姿が見えなくなる迄見送られる。
何時もより早めに学園に着く伊丹にキャスターから念話が届く。
(耀司様、学校に着きましたわね。学園内ではライダーがかなり結界を張り進めているようです)
伊丹はキャスターが使い魔で、しっかりと自分を見ていてくれている事に感謝する。
(有り難うキャスター。遠坂凛と衛宮士郎も気付く流れなんだよね)
(はい、仰る通りです。しかしこんな結界では半端な魔術師でも気が付きますわ)
伊丹は、これから登校し校門を入って来る遠坂凛や衛宮士郎の反応が気になる。
(ああ解った! 気を抜かない様にするよ。ついでに登校して来た時の彼等の反応も見てみるよ)
(お願い致します)
ライダーが張る結界。彼女が放課後や深夜に学園に侵入し、あちらこちらに結界を張る姿を想像する伊丹。
(ライダーは慎二と一緒に行動しているんだよな? 慎二は偽臣の書を片手に『結界を張るのが遅いだよ』とか『ったく使えないサーヴァントを召喚しやがって』とか怒鳴り散らしているのか? ライダーも大変だな、可哀想に…………)
行動を共にする間桐慎二から罵られるライダーを想像する伊丹は、ライダーに同情を禁じ得なかった。
伊丹は事前に後学の為と称して、藤村大河に話を通した事もあり、弓道部の朝練をみる。
(小銃は撃っても、アーチェリーとか弓はやった事はないなぁ)
伊丹はしばらくは部員の射を真剣に観ていたが、そのうち部員の気が散るのも構わずに、あちらこちらと歩き回り、雑然としている用具置き場を態と開けて見る。
「あらっ、あ~ららららら~、見ちゃいけない所を開けちゃったのかな~、おやっ、どうしたの美綴さん、顔が青いんだけど」
伊丹は美綴綾子に遠回しに弓道場が乱雑である事を言う。
吃驚したのは美綴綾子である。間桐慎二に用具置き場の整理を再三に渡り行うように云っておいた筈なのにこの体たらく。フルフル震える美綴綾子は語気を強くして、間桐慎二に用具置き場の整理を命じる。
伊丹は職員室でもウッカリを装い、藤村大河に弓道場の乱雑さと間桐慎二の手抜きを話してしまう。
それを耳にした藤村大河は間桐慎二を呼び付け、放課後に弓道場の掃除、片付けを烈火の如く命じたのである。
それを背中越しに聞いていた伊丹はニヤリと笑い、放課後の間桐慎二と衛宮士郎の邂逅に期待を掛けた。
伊丹は今日の授業の準備をした後、ふらふらと学園内を彷徨き、校門に差し掛かった時に遠坂凛に出くわした。
挨拶しながら顔を見ると、遠坂凛は空気の淀みに気が付いたのか一瞬ではあるが眉間に皺を寄せた。
それを見逃がさなかった伊丹は意地悪く言う。
「あれっ? 遠坂さん、眉間に皺を寄せる程に先生の事が苦手? 何か嫌われちゃう様な事したかなぁ~?」
「いえっ、そんな事ありません。少し頭痛が致しまして…………申し訳有りませんでした」
「そっかぁ~、嫌われていなくて良かったよ。
あっ、そうそう! 頭痛治るといいね。放って置くと
意味深な一言を残して片手をヒラヒラとさせて去る伊丹に対し違和感を感じる遠坂凛だが、どうみても魔術師には感じられない。
(ねえ、アーチャー、今の伊丹って男をどう診る?)
(あの緊張感の無い男の事か? 特に魔術師の感じもしなかったが?)
遠坂凛は新任の伊丹についての悪口は聞いてはいないので、教師としては問題の無い人物と思う。ただ、得体が知れないとは感じている。
(そうなんだけど、最後の意味有り気な一言が気になってね…………)
(凛らしくもないな、そんな些末な事を気に掛けるとは)
遠坂凛は取り越し苦労かと思い伊丹の事を記憶から外し校舎へ入る。
想像以上に空気の淀みが有ることに驚き、生徒が立ち入らない場所で遠坂凛は語気を強め呟く。
「アーチャー、なにこれ。物凄く空気が淀んでいる! いえ、それ以上よ! これ、結界が張られてない?!」
そんな遠坂凛にアーチャーは念話で答える。
(既に準備が始まっている様だが、此処迄派手にやっているって事は、大物か?)
「いいえ、とんでもない素人よ! 他人に異常を感じさせる結界なんて三流もいい処。やるのなら仕掛ける時まで隠し通しておくのが一流なのに…………。
放課後は結界の下調べ、どんな結界かを調べて消すか残すか決めるわよ!」
この遠坂凛と霊体アーチャー二人のやり取りの現場を、使い魔を通したキャスターからの念話の報告で知り、事が順調に推移している事を理解する伊丹だが一つ気が付いた。
(遠坂凛は抜けている、完全に抜けている! 念話で話せば良いのに、何故喋るんだ凛ちゃん…………俺は悲しいよ)
一日の授業を終えた放課後の伊丹は、キャスターの念話の指示により衛宮士郎に話し掛けて足止めをして、間桐慎二との邂逅のタイミングを計る。
「おっ、居た居た、良かったよ~、丁度良い処にいてくれて! 一寸いいかな衛宮君…………」
伊丹は衛宮士郎の都合など構わずにどうでも良い話しを長々とし時間を稼ぐ。
そしてどうでも良い長話しに付き合わされる迷惑顔の衛宮士郎。
(一体この先生何を話したいんだ? 話の意味がサッパリ解らないんだけど)
暫くするとキャスターから、間桐慎二がこちらに向かって来ると念話がきた。
(耀司様、間桐慎二が予想接触地点まであと60秒程の所まで迫っていますわ)
(知らせてくれて有り難うキャスター。そろそろだな)
伊丹は話は済んだとばかりに会話を収束させる。
「悪かったね衛宮君、時間をとらせてしまって」
「とんでもないです。俺に出来る事が有ればやりますから」
今しかない、と云うタイミングで衛宮士郎を解放する伊丹。
「じゃあね、衛宮君…………」
「失礼します、伊丹先生」
伊丹と別れ、首を傾げながら廊下を去って行く衛宮士郎。
(伊丹先生といったい何を話していたんだろう。結局、訳が判んないなぁ)
手筈通りなら、間桐慎二と衛宮士郎が出くわし、衛宮士郎は間桐慎二から弓道場の掃除、片付け、弓の手入れを押し付けられ夜まで居残る筈である。
すると丁度良いタイミングで衛宮士郎と女生徒連れの間桐慎二が出くわす。やはり物語と同じ様に口論の末、衛宮士郎は弓道場の片付けと掃除、弓の手入れを引き受けてしまっていた。
(嗚呼、最高のタイミングで二人は会ったよ。キャスター)
そしてそれを物影から見ていた伊丹はニヤりと口角を上げる。
「今夜は君が主役だ、衛宮士郎」
仕事が終わったとばかりに学園を後にした伊丹はキャスターと念話で話す。
(取り敢えず自分に出来る事はここ迄かな。後は任せたよ、キャスター)
(任されて、耀司様)
(昨日も言った様に、無理や無茶は絶対に止めてくれよ。身の危険を感じたら、嫌っ、感じる前に逃げても良いんだからね)
(逃げるだなんて…………)
(いや、キャスター、逃げることは決して恥ずかしい事では無いよ。むしろ次の戦いの為の備えとも考えてもいいんだ)
(畏まりましたわ…………耀司様は何時も私の事を考えて下さいますのね)
(当たり前だ! 零観さんの手前、取り敢えず許嫁と云う事にしたが、今では本当の許嫁だと思っている。迷惑か?)
(迷惑なんてとんでも御座いません。その御言葉、私は嬉しゅう御座います。幸せですわ!)
(だから絶対に戻って来てくれよ、なっ!)
(はい、解りましたわ、誓いましょう、じっちゃんの名に懸けて、ですわね)
(ああ、そうだ! 誓ってくれ…………)
遠坂凛とアーチャーは放課後の時間を利用し結界を調べ回り屋上に来て、結界の無効化をする。
「何だ、消しちまうのかよ? 勿体ねえな」
屋上の結界の効果を弱めた遠坂凛に背後から声を掛ける男が居た。
遠坂凛が振り返ると給水タンクの上に赤い槍を持った全身青タイツの男が居る。
青い男を敵サーヴァントと判断し身構えつつ周囲を見回す。此処は四方をフェンスで囲まれた屋上。逃げ道はない。
瞬時に近づき構わず槍を繰り出してくる青いサーヴァント!
八極拳を遣う遠坂凛はフェンスに近づく様に転がりながらも何とか躱し、自身の脚に強化魔術を掛けフェンスを跳び越え屋上から脱出する。
屋上から落下しつつも自分のサーヴァントを信じる遠坂凛。
「アーチャー着地任せた!」
アーチャーが実体化し、寸でで遠坂凛を抱き着地を受け止める。
その場から離れ様と走り出す遠坂凛に、青いサーヴァントは追い付き背後から槍を繰り出すがアーチャーの剣により弾かれる!
ここに来てお互い手を止め間合いを取る、相対する青と赤のサーヴァント。
恐らく百を越えるであろう剣戟が、ここから始まる。
時間は夜を示している。弓道場の掃除と整理そして弓の手入れを終えた衛宮士郎は、外からする金属を叩き合う様な異音に気付く。
何事かと思い校庭に行きその光景に目を見張る。
そこでは人離れした剣戟が繰り広げられているのである。
(有り得ない!? 剣戟も眼では追えない! 青い奴の構えから出てる殺気が半端じゃないぞ! 奴は決めるのか!?)
余りの殺気にたじろぎ後ずさる衛宮士郎。僅だか足音を立ててしまっていた!
『誰だっ!』
最後まで読んで頂き有り難うございます。
今回は話の最後の一文が『誰だ!?』で終わっています。
誰が誰に言っているのかは…………
ではでは…………
虚空屍