東方空闘犬 〜 元エースパイロット、幻想郷の旅   作:メビウスノカケラ

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第8話です。
話の進展自体はそこまでですが、ドーラの幻想郷生活に新たな道が見えてきます。


第8話「生活」

ドーラ「35、36・・・」

 明朝。テラコヤで私は腕立て伏せをする。

ドーラ「・・・50」

 50回を終えたところで次は寝そべって腹筋である。

ドーラ「1、2、3・・・」

 私は今日から少しは体を動かすことにした。昨日決めた。

ドーラ「27、28・・・」

 不思議な事に、3年間寝たきりだったのにもかかわらず体力には衰えは見られず、それどころか現役だった頃よりも調子がいいようにも思える。

ドーラ「・・・49、50」

 次は立ち上がってスクワット。

ドーラ「1、2、3・・・」

 体はこたえない。疲れもさほど感じない。それでもトレーニングを続けているのは言ってしまえば『念のため』である。

ドーラ「36、37・・・」

 飛行機に乗るために体を鍛えておいたほうが良いと思ったというのもあるが、

ドーラ「・・・50」

 何かあっても自分の身を守れるのは自分だけだ。特に、この幻想郷ではその辺りが顕著だと思った。

ドーラ「さて、あと2セット・・・」

 腕立てからスクワットまでの流れを後2セット。

ドーラ「1、2、3、4、・・・」

 訓練生時代とは比べ物にならないほど軽い内容だが、なぜだかそれだけでもこの体を衰えさせないためには十分だと思った。

ドーラ「・・・49、50。次、1、2・・・」

 直感だった。手を動かせば物を掴めると同じような感覚だった。理由は分からないがそう感じるのだ。もしかしたら、普段の生活だけでも大丈夫かもしれない。

ドーラ「47、48・・・50」

 だからこそ、念の為に少しは体を鍛えておこうと思った。

ドーラ「・・・14、15、16」

 孤独で静かな空間に、軋む床の音と私の声だけが部屋に響いていた。

 

第8話「生活」

 

ドーラ「・・・霧雨店?」

 トレーニングを終え、朝食を済ませたわたしは街の雑貨屋に訪れる。昨日、ケーネ先生から場所は教えてもらっていたので場所はわかったが・・・

ドーラ「偶然?なのかしら・・・」

 店の名前についている「霧雨」という文字。マリサの苗字は「キリサメ」って言ってたわよね。

ドーラ「・・・まあいいや。中に入ろう」

 それを考えるも先に欲しいものを探したかったので、私は店ののれんを押した。

 

霧雨店の店主(以下霧雨店)「いらっしゃいませ!」

 のれんをくぐると中年の160cmくらいの背の小さなヒゲのない男性が声をかけてくる。

ドーラ「あなたが店主さん?」

霧雨店「いかにも!見かけないお顔でございますが、お客さんは今日が初めてでございますかな?」

 店主は声を張り上げ、私に聞いてくる。

ドーラ「ええ。ここは雑貨店だって聞いたのだけど、欲しいものがあって・・・」

霧雨店「ふむ、何をお探しでしょうか?」

ドーラ「靴と服。動きやすいものがあるかしら?」

 私は運動用に服と靴を探している。外に出て走りこみをしたいと思ったからだ。屋内にいる時は下着だけで問題ないが、外に出るのには服を着なければならない。アリスに仕立ててもらった私の服はあまり運動するのに向いていないし、またアリスに仕立ててもらうのは気が引ける。

霧雨店「服だったらここに・・・」

 と、店主は里の人達が普段来ているような着物を紹介する。

ドーラ「ええっと、そうじゃなくて、運動するための服と靴が欲しいの。そんなにいい物じゃなくてもいいので、できれば安いのを」

 アリスにまた仕立ててもらうのは申し訳ない、と里に買い物に来たはいいが、私自身もそんなにお金は持っていない。

霧雨店「有るには有りますが・・・お客さん、一体いくらまでをお考えですかね?」

 店主は私の予算を聞いてくる。

ドーラ「ええっと、これくらい」

 私は予算を伝える。

霧雨店「うーん、その金額だと・・・これとかいかがでしょうか?」

 店主は茶色くてぶかぶかな着物を差し出す。

霧雨店「袖をまくれば運動も問題ないし、下も余裕があって足を動かすにはじゃまにならないかと思われます」

ドーラ「うーん、上と下で分かれているものはないかしら?」

 私はズボンと上着のように分かれている服をリクエストする。

霧雨店「申し訳ありません!無くはないのですが、お客さんの予算じゃこの服でもギリギリでございまして・・・靴も運動にも使えるであろうこの足袋靴は値が張りますし・・・」

ドーラ「そ、そうなのね・・・」

 先生からは質の高いものをあらゆる範囲から取り揃えている店だと聞いていたが、そもそも私も持っている金額が少なかったな・・・今度はお金をちゃんと用意してから来よう。

霧雨店「お客さんがお望みの服でしたらそうですね・・・お客さんががいま着ている服での物々交換も合わせて、というのであればご用意できますが・・・」

ドーラ「それは遠慮しておくわ」

霧雨店「そうですよね~」

 この服はアリスがわざわざ仕立ててくれたものだ。誰かに差し出す訳にはいかない。

ドーラ「えーっと、申し訳ないのだけれど、また今度利用させてもらうわ」

霧雨店「ああ、お客さん!商品は他にも有りますよ!ほらこの裁縫道具!これがあれば自分の服も思い通り!お安くしておきますよ~!」

 店主は店を後にしようとする私を引き留めようとする。

霧雨店「汗をかいた時のために様々な柄の手ぬぐいなんかも取り揃えていますよ~一枚どうです?」

ドーラ「い、いや、またお金作ってから来るんで」

 私は遠慮をする、というか、お金がないから買い物をして後で困るようなことにはなりたくない。

霧雨店「ふむ・・・そうですか。では、こちらは・・・」

 店主は諦めずに、他のものを勧めようとした時、

???「おはようございます」

 のれんから男が入ってくる。

霧雨店「ん?おお、霖之助か」

 銀髪でメガネを掛けた男はリンノスケと呼ばれた。

霖之助「親父さん、今日はこんなものを持ってきました」

 リンノスケは背負っている荷物を下ろす。

霧雨店「おっと、その前にだ。今はお客さんの相手をしているんだ」

ドーラ「どーも」

 私はリンノスケに軽く会釈をする。本当は帰りたいのだが・・・

霖之助「・・・ん?君は何やらあまりみない服を着ているね」

ドーラ「え?」

 リンノスケは私の服を珍しそうに見る。

霧雨店「こら、霖之助。お客さんだぞ、あまり不必要にいらんことを話しかけるな」

 店主はリンノスケを叱る。私は別にかまわないし、それよりも引き止められる方が少し迷惑なのだが・・・

霖之助「まあまあ、僕はもうここの店員じゃあ無いんだから良いじゃないですか、親父さん。それより、もしかして君は・・・外来人?」

ドーラ「そうよ。この服は幻想郷で用意してもらったものだけど」

 さっさとこの店を後にしたい、そう思いながら私はリンノスケの質問に答えた。

霖之助「親父さん、この人は何を探しにきたんです?」

霧雨店「ん?ああ、運動用の靴と服だ。ですよね?お客さん」

ドーラ「・・・ええ」

 店長は私の目的を教える。プライバシーはないのか、ここは。

霖之助「ふむ、ならば僕の店に在庫があったな」

ドーラ「え?あなたもお店をやっているの?」

霖之助「ああ。外の世界の品だけを取り扱っている雑貨店をやっているんだ。もちろん、外の世界の服だって有るよ」

 ということは、私が探しているような服もあるってことかしら?

霧雨店「こいつは私が経営をノウハウを教えてやったのですよ。まあ、あんまり客は来ないみたいだけんど」

霖之助「お、親父さん、それは自分でもわかってますから」

霧雨店「なんだい、お客さんを取ろうなんて生意気しようとするからこうなるんだぜ?」

霖之助「あ、あはは・・・」

ドーラ「・・・・・・」

 なんか不安だな。行ってみたい気持ちはあるが、まともな店なのか?

霖之助「ゴホン!人が来ないのは立地条件のせいであって、人が来ないっていうのは僕が店を立ち上げてから重々承知していたことだ。何も問題じゃあ無いよ」

 それはそれで問題なのでは?

霖之助「・・・まあなんだ。とにかく、私の店を覗きにこないかい?道案内はするよ」

ドーラ「お店はどこに有るの?」

霖之助「魔法の森の入り口さ。自分で言うのも何だが、外の世界の物が飾られている一風変わった建物がそうさ」

 ああ、一昨日にアリスと初めて里に来る間に通りすぎたあの建物か。なんだか不思議な雰囲気だったから少し行ってみたいと思っていた所だし・・・

ドーラ「そうね・・・じゃあ、連れて行ってもらえるかしら?お金はあんまり持ってないけれど」

 服もあるかもしれないしね。足りるかどうかは別として。

霖之助「ありがとう。お客様としてしっかりもてなさせてもらおう」

霧雨店「お客さん、こいつはクールに気取っちゃいるが、外来人のあなたをただ自分のうちに招待したいだけですよ。心のなかではガッツポーズを取ってますぜ、きっと。ククク」

霖之助「お、親父さん・・・」

 リンノスケは少し困ったような顔をする。

ドーラ「わ、私はそれでも構わないわ。行ってみたいと思ってるのは本当だし、そっちの理由は関係ないわ」

霖之助「し、失礼。だが、とても嬉しいよ。外の世界の人間に見てもらいたいものも色々あるしね」

 そういうと、リンノスケは私に手を差し出しながら言う。

霖之助「僕の名前は森近霖之助。よければ、君の名前も教えてくれないかな?」

 私はリンノスケの手を取り、握手をする。

ドーラ「ドーラ・ウェッジショットよ。よろしくね」

 

 魔法の森のすぐそばにある風変わりな建物。そこいらに様々な私達の外の世界にあった、だけどもかなり古いものが手入れをされて置かれている。ここがリンノスケの店『香霖堂』だ。

霖之助「どうぞ。こんなものしか無いけれどね」

 リンノスケはテーブルと椅子を用意して、お茶とお菓子、それと・・・

ドーラ「こ、コーラ?」

霖之助「おお、やっぱり知っているみたいだね。このコーラという飲み物、僕は結構気に入っているんだ。君も好きかい?んぐ」

 リンノスケはコーラをラッパ飲みする。

ドーラ「私はまあ普通に好きだけれど・・・電気も通ってない幻想郷じゃ冷やすことは出来ないでしょう?美味しいの?」

霖之助「? ふつうにうまいのだが、これは冷やして飲むものなのか?」

ドーラ「・・・そりゃ、コーラですもの。キンキンに冷やして飲んだほうが美味しいに決まっているわ」

 本当に幻想郷は私の想像をあらゆる方向からこえてくるな。コーラで驚くことがあろうとは。

霖之助「ふむ、なら知り合いに頼んで今度冷やしてもらおう」

ドーラ「それでその、私が探しているものは有るのかしら?」

 私は霖之助が言っていた運動用の服装と靴があるか聞く。

霖之助「ああ、そうだったね。靴はここに・・・よっと」

 リンノスケはテーブルの上に靴を置く。

ドーラ「これはスニーカーじゃない!しかも、状態もかなりいい!」

霖之助「そのスニーカーは地面を歩いたり走ったりする際に疲れにくくなる靴らしいね。履いてみると良い。サイズが合うかはわからないからね」

 リンノスケに言われ、私は靴を片方はいてみる。

ドーラ「・・・ぴったりだわ!これいくら?」

霖之助「ぴったりだったのか。それは良かった。ただ、それはちょっと状態も良くて、新品同様だからねぇ。少しだけ値が張るかな?」

ドーラ「私にはここのお金の価値がわからないけど、これだけあったら買えるかしら?」

 私は財布を取り出し、中身を見せる。

霖之助「ふむ・・・少し足りないな」

ドーラ「そう、残念ね・・・」

霖之助「だが、服の方は大丈夫そうだ。待ってて、持ってくるよ」

 そういうと、リンノスケは奥に入っていく。

ドーラ「ズズズ・・・」

 お茶を飲みながら店内を見回す。緑茶というのもなかなかうまいものだ。少し青臭いが、それもまたいい。

 しかし、この店内。商品自体には手入れが行き届いてはいるが、値札も貼られていないし、どれが売り物でどれが非売品なのかがわからないくらい雑多に置かれているな・・・なんだあれ、あの管の付いたツボみたいなもの。本当に外の世界に存在するものなの?

霖之助「おまたせ。実は二種類有るんだ。2つとも見てくれないかい?」

 リンノスケは二種類の服装をぶら下げて帰って来た。

ドーラ「ええと、ジャージはわかるけども・・・もう一つの方は何?ほぼ肌着みたいなんだけど・・・」

霖之助「これは『ブルマ』だ。外の世界の過去の学生はこれを着用して体を動かしていたらしい」

ドーラ「・・・本当に?見たことも聞いたこともないのだけれど」

霖之助「ああ、本当さ。裏も取れている。というか、外の世界の人間なんだろう、知らないのかい?」

 リンノスケは不思議そうな表情をする。素で言っているのだろうか?

霖之助「まあともかく、ジャージだったら1着、ブルマだったら3着買えるよ。ジャージを買うならブルマを1着おまけに付けておくよ。下にでも着ると良い」

ドーラ「・・・そのブルマって服は安いのね」

霖之助「ブルマは在庫が余りがちだからね。結構な頻度で落ちているくせに、買う人は少ない」

ドーラ「落ちているって・・・拾ってきたものなの?」

霖之助「もちろん洗濯はしているよ」

 そういう問題じゃあなかろうに。

霖之助「外の世界の商品は直接仕入れているものはほんの僅かで、この幻想郷に幻想入りしたものや神隠しにあった道具を拾って整備して並べているんだ。幻想郷で外の世界のものを手に入れるには、拾うのが最も一般的なんだ」

ドーラ「なるほど、そういうことなのね。それじゃあ、そのジャージをもらおうかしら?」

霖之助「お買い上げありがとう。あとで持ち帰るように梱包しておこう」

 リンノスケはそう言うと会計用のレジのある台に服を置く。

霖之助「それはそうと、ウェッジショットさん。君に最初に見せた靴も欲しくないかい?」

 リンノスケは何やら交渉を持ちかけようとしている様子だ。

ドーラ「・・・何かしら?」

霖之助「そう怪しまなくても良い。僕はただ、提案が有るだけだ」

ドーラ「提案?」

霖之助「そうだ。君は外の世界の人間だろう?」

ドーラ「ええ、そうよ」

霖之助「君が幻想入りしてきた時に何か物を持っていたはず。物によっては物々交換をしてその靴を君に渡すこともできるよ」

 なるほど。そういうことか。珍しい品と引き換えにさっきの靴を交換してくれるってことか。だけど・・・

ドーラ「ごめんなさい。私が幻想入りしてきたときには服すら身に着けてなかったから・・・」

霖之助「なんだって?そんなことがあるのか?」

 リンノスケは少し驚いて聞いてくる。

ドーラ「私を保護してくれた人によると、普通はそうじゃないらしいわ。他にも色々と不確定要素があるからってことで、私は幻想郷にいなきゃいけないみたい」

霖之助「ということは霊夢・・・博麗の巫女には会っているってことか」

ドーラ「ええ、レイムには会ったわ。知ってるの?」

霖之助「幻想郷じゃ霊夢を知らない人はいないといっても良いね。もっとも、霊夢はこの店に来ることも多いが・・・」

(カランカラン)

 店のドアが空く事を知らせる鈴がなり、見覚えのある二人が入ってくる。

魔理沙「よう、香霖!ちょっと探しものがあるんだぜ!」

 マリサが声を上げて入ってきた。その後ろにはレイムがいる。

霖之助「なんだい?冷やかしならゴメンだよ」

魔理沙「お前は口を開けばいっつもそれだな~・・・ん?ドーラじゃないか?」

 マリサは私に気づく。

ドーラ「あなたたち、なんでここに?」

魔理沙「私たちは調べ物だぜ!そっちこそなんでいるんだ?」

ドーラ「私はそうね、服と靴を探してたらここに連れてこられた、ッて感じかな」

霊夢「あら、ナンパされたってこと?」

 レイムは少しからかうように言う。

魔理沙「な、ナンパぁ!?」

 マリサはなぜか過剰に反応する。

霖之助「別にそんなのじゃあないよ。里で探しものがなかったみたいだから、商売時かと思って連れてきただけさ」

ドーラ「おかげで探していたものは見つかったし、1つは買えたわ」

魔理沙「な、なんだ、そういうことか。それで、何を探していたんだ?」

 何で焦っていたのかは知らないが、マリサは落ち着きを取り戻して私に聞く。

ドーラ「服と靴。今日から少しだけ体を動かそうって決めたんだけれど、それ用の服も持ってなかったし、服や靴を履かないと走りこみは出来ないしね」

霊夢「めんどくさいことやるのねぇ」

魔理沙「お前は自己鍛錬をやらなすぎだぜ。そのくせそんだけ強いんだからほんと反則だよなぁ」

霖之助「・・・それで、君たちは何をしに来たんだい?」

 リンノスケはレイムとマリサに聞く。

魔理沙「うんにゃ、そうだった。ドーラがいるからドーラから聞いてもいいが、飛行機についての本を探している。あるか、香霖?」

ドーラ「飛行機の本?」

魔理沙「そうだ。昨日話を聞いて興味が出てな。慧音センセがあんな状態であんまり話ができなかったし、それなら自分で調べようって本を探しているんだ。小鈴・・・貸本屋に行ってもお前が言っているような『ジェット機』について詳しく書かれている本は全然見当たらなかったからな」

 なるほど。そういえば、昨日、そういう話をしている時のマリサは活き活きとしていたな。

霊夢「私はそのついでに連れ回されているだけ。あ、霖之助さん!お昼ごはん作らせてもらうわね~」

 そういうと、レイムは立ち上がって奥に入っていく。

霖之助「はいはい」

魔理沙「もうそんな時間か。じゃあ、私もご飯を食べてからにしよう。お前らの分も作っておくぜ!」

 そして、マリサもレイムに続いて奥に上がっていく。

ドーラ「いいの?あれ」

霖之助「言っても聞かない」

ドーラ「ああ、なるほど」

 リンノスケのこの態度を見る限り、二人はよくここに来るようだ。

ドーラ「そうだ。さっきの靴のことなんだけれど、キープしておいてくれるかしら?」

霖之助「ああ、かまわないよ。またお金か珍しい外の世界の物を手に入れた時に買うと良い。良かったら店の品物も見てくれないかい?色々取り揃えているよ」

ドーラ「わかったわ。そうさせてもらう」

 私は店の品物を見て回ることにした。

 古いテレビ、古いパソコン、よくわからない置物に、昔の携帯ゲーム機・・・確かに、幻想郷には存在しなさそうな品ばかりだが、これって私達の世界にももうほとんど存在しないようなものばかりね。

ドーラ「ん・・・?あれは何かしら」

 私は折りたたまれたグレーの服に目が行き、手に取る。

ドーラ「こ、これは・・・!」

 たまげた。かなり古びているが、耐Gスーツじゃないか!

霖之助「ああ、それは『耐Gスーツ』。脚部に着用し、血液の逆流を防ぐための服だが、それがどうかしたのかい?」

ドーラ「耐Gスーツのことを知ってるとは、詳しいのね」

霖之助「僕は物の名称と用途がわかる目を持っているんだ」

 リンノスケも妖怪?それとも、魔法使い?だけど、そんな変わった能力も有るのね。

霖之助「僕の予想では、それは登山に必要な服だと思うんだ。高度が上がると気圧が下がって、血管が広がり、逆流しやすくなる。それを防ぐための服なんだと思うんだが、どうかな?」

ドーラ「いや、ぜんぜん違うわ」

霖之助「なんだ、違うのか・・・」

 リンノスケは少し肩を落とす。私はこの服の説明をすることにした。

ドーラ「この服は私達外の人間が飛行機・・・主に激しい動きをする戦闘機に乗る際に着用するものよ」

霖之助「飛行機・・・っていうと、人間が空をとぶために発明したっていうアレだよね?話には聞いていたがほんとにあるんだなぁ。それで、どうしてその服が必要になるんだい?」

ドーラ「この服が必要になる飛行機は特殊で、ものすごい速度で急旋回したり、宙返りしたり、激しい動きをするの。その時に、操縦している人間に遠心力や慣性力が働くの。その影響で血が逆流したりして、脳に血が行き過ぎたり逆に行かなすぎたりしてしまって気絶するのを防ぐためよ」

霖之助「なるほど・・・何を言っているのかあまり良くわからなかったが、飛行機の激しい動きで血が逆流するのを防ぐための服ってことだね?」

ドーラ「まあ、簡単に言うとそういうことね」

 リンノスケは納得したような顔をする。それはそうと、この耐Gスーツ、古いとはいえ状態はそこまで悪くなさそうだ。少し手を加えたら使えそう。

ドーラ「ねぇ、この服はいくら?」

 私はリンノスケに値段を聞く。

霖之助「それは大体、さっきの靴と同じくらい・・・いや、この幻想郷では必要になることもなさそうだし・・・値段を下げてもいいかな?」

ドーラ「本当に?」

霖之助「ああ。それに、僕が『非売品』にしたいとは思わないしね。あまり魅力を感じない品物だ。そうだな、さっきのお釣りで君に引き渡そうかな?」

ドーラ「え!本当に良いの!?」

 さっきのジャージより安いってことだよね?それって、商売成り立つのかしら?

霖之助「かまわないよ。こっちは在庫を処理できるしね」

ドーラ「やった!ありがとう!」

 これで、私のF-16を飛ばすのに一歩近づいた。これを修繕して着用すれば、飛行時のリスクを軽減できるぞ。

霖之助「どういたしまして。でもそれで何をするんだい?」

 リンノスケは用途を聞いてくる。そういや、あまり関係者じゃない人間に話すのもまずいかな?

ドーラ「ええっと、ファッションよ」

霖之助「あまりファッション向けの服じゃあ無いと思うのだが・・・まあいいか。買ったのは君だし好きにすると良いよ」

ドーラ「色々と助かるわ。ありがとう」

 私はそう言ってリンノスケに残りのお金を差し出した。いい買い物をしたが、持ち金がゼロになってしまった。得たものは大きいから良いのだけどね。

魔理沙「おーい、昼食が出来たぜ~こっち来いよ~」

 マリサが呼ぶ声が聴こえる。いい匂いだ。

(グギュルルゥ~)

ドーラ「・・・・・・」

 私の腹の音がなる。

霖之助「ははは、随分大きな音が聞こえたな」

ドーラ「あ、あはは・・・」

 うう、少し恥ずかしい。

霊夢「二人共~!はやくしなさ~い!冷めちゃうわよ~!」

 レイムが急かす声が聞こえる。何を作ったのだろうか。

ドーラ「あ、あの、私も頂いてもいいかしら?」

 少し失礼ではあるが、私はリンノスケに昼食を頂いていいかを聞く。

霖之助「かまわないよ。きっと、用意してくれているだろう。さ、奥に上がると良い。皆で昼食にしよう」

 私はリンノスケの言われるがまま、奥に向かった。

 

ドーラ「ごちそうさま!」

 きのこと鳥の肉のソテーときのこのスープを頂いた。

魔理沙「良い食べっぷりだな!作った私達も嬉しいぜ!」

ドーラ「ええ、美味しかったわ!あなた達って、料理がうまいのね」

 私は料理はからっきしだから、少し羨ましい。・・・ああ、思い出す。一度フライパンを握った時、料理を黒焦げにしてしまったなぁ。

霖之助「さて、僕はウェッジショットさんの荷物を包んでくるよ」

 リンノスケは立ち上がってその場を後にする。

ドーラ「そうだ、二人にちょっと聞きたいことがあるんだ」

 私は昨日の光景を思い出し、二人に質問をする。

霊夢「ん?」

魔理沙「なんだぜ?」

ドーラ「あなた達は人間なのよね?妖怪や魔法使いでもないのに何で空をとべるのかしら?」

 そう、この二人は人間であるのにさも当然のごとく空を飛んでいる。もしかしたら私でも飛べるんじゃあないか?と思って、二人に聞いてみることにしたのだ。

魔理沙「そうだなー、難しい話だが、私の場合は箒が飛ぶのをイメージして魔力をコントロールしているな」

ドーラ「魔力のコントロール?」

魔理沙「そうだ。私は魔法使いを目指しているからな。魔力を扱うまでにすごく苦労したんだぜ?私だからなんとかなったものの、普通の人間じゃまず出来ないぜ」

 マリサは魔法の難しさを得意気に語る。

霊夢「そんなこと言って、あんたは魅魔にどうしたらできるんだっていっつも泣きついていたじゃない」

魔理沙「馬鹿!そういうことは言うんじゃないぜ!かっこわるくなるじゃないか!」

 ・・・なるほど。魔法にも教える者が存在するのね。

ドーラ「それじゃあ、マリサが私に空を飛ぶ方法を教えて、私が空をとべるようになったりっていうのはできるのかしら?」

魔理沙「うーん、それはちょっとわからないなぁ。お前に魔法の素質が有るかどうかはやってみないとわからないし、私だってまだまだ修行中の身。ちゃんと教えられるかは自信がないぜ」

ドーラ「そうなのね・・・」

 そりゃあそうか。人間が飛行機なしで空を飛ぶなんて、普通は考えられないものね。ここが幻想郷とはいえ、人間は外もここも変わらない。

魔理沙「まあ、例外はいるんだがな。そこの茶をすすってるやつみたいにな」

霊夢「ズズ・・・なによ?空なんて普通に飛べるでしょ?」

魔理沙「これだぜ。こいつは直感で飛んでやがるからな。どういう体の構造してんだか」

霊夢「ズズズ・・・」

 なるほど、レイムは規格外なのか。

ドーラ「それじゃあ、空を飛ぶには飛行機に乗るしか無いみたいね。アレで空をとぶのは好きだけど、一度、自分の体で空を自由に飛んでみたいものね」

魔理沙「おっと、そうだ。飛行機についてだ。今日はその本を探しに来たんだった」

 そういえば、そんなことを言っていたわね。

ドーラ「私が今話してもいいわよ?」

魔理沙「いんや、お前と話すのはまた今度にするぜ。今日は予定があるからな」

ドーラ「予定?」

魔理沙「ああ。紅魔館ってとこにおっきい図書館が有るんだぜ。そこでもお前の飛行機での飛行に役立つものがないか探そうと思うんだぜ」

 コウマカン・・・というと、アリスが言っていた館のことか。テーブルマナーを習うにはうってつけの場所と聞いているが、図書館なんてものがあるのか。

霊夢「いつもいつも追い出されるのに、めげないわねぇ」

魔理沙「諦めないのが私だからな。お前も一緒に来るか?」

ドーラ「いえ、遠慮しておくわ」

 なんだか、アリスと鉢合わせして、テーブルマナーを厳しく叩きこまれそうだからやめておこう。

魔理沙「そうか。そういや、お前はこの後どうするんだ?」

ドーラ「え、ああ、私はそうね・・・住処を探したり・・・あ、その前に仕事か。仕事を探さないと」

 そうだ、仕事だ。お金を稼がなきゃ話にならない。食事も取れなきゃ、住むところを借りることも出来ない。幻想郷にいつまでもいるわけじゃないかもしれないが、働いて自分のお金を身に着けておくことに越したことはない。それに、アリスからもらったお金を返さなきゃいけないしね。

魔理沙「仕事か~・・・里には普通の仕事はもうほとんどの場所で人で語りているような状況だろうからな~」

ドーラ「え、そうなの?」

魔理沙「ああ。人里は狭い。故に、仕事の数も少ないし、昔からずっと変わらない体系だから、新しく人を雇うっていう所は少ないと思うぜ」

ドーラ「な、なるほど・・・」

 だがどうする?仕事がなきゃいつまでもケーネ先生のお世話になりっぱなし。アリスのお金も返せない。なんだかすっきりしないぞ?

ドーラ「マリサはいい仕事知らないの?」

魔理沙「そうだな・・・ああ!そうだ!」

ドーラ「何かあるのね!」

魔理沙「ああ、いいところがあったのを思い出した!里には稗田邸っていう里一番の資産家で、里を取りまとめる知識人が住んでいる家があるんだ。そこで小間使いとして雇ってもらえばどうだ?」

ドーラ「こ、小間使い?」

 小間使いっていうと、あれよね?雇い主のお世話をする・・・

魔理沙「安心しな、相手は私よりも年下の女の子だ」

ドーラ「あ、そうなのね。なら安心か」

魔理沙「まあ、私達よりも幻想郷のことについては詳しいけどな。だが、お前なら歓迎してくれるだろうぜ。あいつが外の世界の人間の事を知りたくないわけがない。もしかしたら住処も確保してくれるかもしれないな」

ドーラ「なんだか、すごく虫のいい話ね」

魔理沙「だが、そこが一番確実だと思うぜ」

 なんだか良く出来過ぎているけど、一度行ってみたほうが良さそうね。とても魅力的な環境だわ。

魔理沙「・・・とはいえ、最低限の家事は出来なきゃ雇ってくれないだろうからな」

ドーラ「家事って言うと、掃除とか洗濯とか?それくらいなら私もできるけど・・・」

魔理沙「あと、料理とかもだな」

ドーラ「う・・・」

 料理だって?まずいぞ、私は料理はからっきしだぞ。包丁くらいしかちゃんと使えないぞ。

魔理沙「なんだ、お前料理できないのか?」

ドーラ「その、得意じゃない、わね。うん」

魔理沙「まずいな・・・あそこで働く必須条件だぞ、料理は」

ドーラ「ど、どうしよう?」

魔理沙「・・・なんか忘れちまうけど、お前私より結構年上だよな?」

ドーラ「え?ええ。そうだけど・・・」

 いきなり何を聞いてるんだ?昨日話したろうに。

魔理沙「・・・まあいいぜ。あ、そうだ!いいことを思いついたぜ!」

 マリサはひらめいたようだ。

ドーラ「な、何かしら?」

魔理沙「ドーラ、やっぱお前、今日私と紅魔館についてこい」

ドーラ「コウマカンに?」

 アリスに出くわしそうだからできれば行きたくないが、一体なぜ?

魔理沙「ああ、そうだ。あそこには腕利きの『メイド』がいるんだ」

ドーラ「メイド・・・ってことはもしかして?」

魔理沙「そうだ。まあ他にも理由あるがな。ングッ・・・」

 そしてお茶を一口飲んだ後、魔理沙は力強く私に言った。

魔理沙「ふぅ。とにかく、お前はそのメイドに会え!そして、あいつに料理の稽古をつけてもらえ!あいつに教えてもらえたなら、お前の料理スキルはすぐに上達するだろう!」

 その魔理沙の言葉を聞いて、今日の私の予定が確定した。

 

第8話・完




うーむ、一人称で文を書くのはなかなかに初心者がすることじゃなかったかな?結構苦戦しました~
とはいえ、一度この形でやると決めたのだから買えることは出来ませんがね~

さて、次回はドーラが紅魔館に向かいます。
紅魔館といえば、どんな二次創作でも大抵はトラブルが起こる起点であることの多い場所(そして、よく爆発する)・・・紅魔館でドーラを待ち受けているものとは?

それでは、ここまで読んでくださって誠にありがとうございます!
次回も楽しみにしてくださるとありがたいです~
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