東方空闘犬 〜 元エースパイロット、幻想郷の旅 作:メビウスノカケラ
色々やりたいこともあるけれど、その分成長した……はず!
自信はないけれど。
紅魔館の一室。サクヤの能力によって押し広げられたその広い部屋の中心に私はいる。
周りには標的となる魔道書と人形が12冊と6体。前後左右、そして上を見ても視界に映ることから、完全に包囲されてしまっていることが分かる。
一見物々しい雰囲気だ。だが、ギャラリーは冷静だった。レイムに至ってはあくびをしているほど。
そして、私も落ち着いている。それはなぜか。
「それじゃあ、まずはその場から魔道書の一つに弾を発射。撃ち落として見せなさい」
【Target / Grimoire】
(ターゲット / 魔道書)
パチュリーの声が聞こえ、視界に映るHUDの右上のメッセージウィンドウに、攻撃ターゲットは魔導書だという情報が表示される。この場所には様々な情報が投影されるのね。
そして周りの状況に意識を戻すと、HUD表示の機能により、緑色の四角いマーカーが人物や標的全てに重なっている。
左上のレーダーにもそれが反映されて、標的は赤いマーク、アリス達などの人物は青と緑のマークで色分けされて表示されている。更に、攻撃目標である本を示す12の赤い矢印に、円が追加されてどれを攻撃すべきかが一目瞭然となっている。
【BOOK】
目標物である魔道書の一つを注視すると、マーカーの横にそれが何を表しているのかを簡易的に表示してくれる。
【Target insite / Grimoire
You can lock on
Enemy in gun range】
(ターゲットを視認 / 魔道書
ロックオンが可能 機銃弾の射程内)
右上のメッセージウィンドウにはもう少し詳しい表記。どのような距離にあるのか、そのターゲットと私の状況関係は、などが出ている。なるほど、簡易ナビゲートという感じか。
――と、このように、私は今、自分にできる事を、パチュリーの研究対象としての役割も兼ねて確認している。これが、私も含めて皆が平然としている理由だ。
「ちょっと、何してるのよ。さっさと攻撃しなさい」
そして、そうやって自分の状況を静かに確認していると、パチュリーが急かす言葉を入れてくる。こっちだって右も左も分からない状態なのに、好き勝手言ってくれる。
「ちょっと待ってくれるかしら! 私だって色々とやれることを確認したいのよ!」
なので、こちらも言い返してやる。それを聞いたパチュリーは少しムスッとした表情になる。円滑に事を進めたがるきらいが有るのだろう。
「なによ、それでなにかわかるとでも?」
「私の視界に映っている情報量が多いのよ! どんな情報が映っているか、どのように情報が表記されているのか、何をすれば変化があるのか、それがわかっていなけりゃ危険よ!」
そう、情報の捉え間違えでミス、というのは大惨事につながりかねない。戦闘機乗りの基本だ。直感や勘だけでなく、HUDや計器の情報から状況を適切に判断する、できなきゃ戦うことなんて出来やしない。
ここは空ではないが、私の視界に映るこの情報が、私が手を抜くのを許してくれるはずもない。得られる情報はできるだけ得る、それが鉄則よ。
……まあ、どうしようもなくわからないものや、わかりきっているものに対しては手を抜いちゃうことも有るんだけど。
「……あ、そう。面倒くさいわね」
パチュリーは無表情でそう言い放つと、静かに手を動かした。
【WARNING】
【EVADE】
(危険、回避せよ)
「!!」
突然、頭の中でブザー音が鳴り響き、警告の文字が視界に映る。緑色のインターフェイスは全て赤く切り替わり、私に視覚的に危険を知らせる。
「っ!」
私がとっさに取ったのは、左方向への受け身だ。地面に体がつき、体を素早く起こすのと同時にさっき立っていた場所から衝撃音が響く。私の後ろにあった魔導書から発射された弾幕が、私のいた場所に炸裂したようだ。
【WARNING】
HUDの色は通常の緑に戻ったが、危険がまだ続いているという警告表示が視界から消えない。さっきまで閉じていたはずの本が全て開いている事も合わせて判断すると、どうやら、私の周囲に有る魔道書は全て攻撃態勢に入ったということだろう。
「ちょっと、パチュリー! いきなり何してるのよ!」
「ふん、あいつがちゃっちゃとしないからじゃない。やりたいことはいっぱいあるのよ」
アリスがパチュリーに怒鳴りつける。パチュリーがしびれをきらせて、否が応でも私を動かそうとしたということだろう。自身の能力もほとんど理解できていないのに、滅茶苦茶を言う。
「でも、まさか避けるなんてね。かなり加減して撃ち出したとはいえ、真後ろからの攻撃に対応できるなんて」
そして、そんな私を他所にパチュリーは分析を行う。本当に自分本位な人間だな……いや、人間じゃなかったな。
「ドーラ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫! いきなりびっくりしたけれど……」
アリスは心配して声をかけてくれる。私の安否の確認が取れると、彼女は胸をなでおろした。
「それよりも、あなた、なぜこの攻撃が予知できたのかしら? 貴方の能力は、視界に映る事象の情報を、自身の視界へ投影すること、だったはず」
パチュリーはやはりこちらの都合などお構いなしに質問を投げかけてくる。ちょっと言い返してやろう……と思うものの、周りにこれだけ危険が張り巡らされている。言い返してまた何かされたらたまらない。
まあ自己分析に繋がるし、それに、下手に逆らうとどんな目に合わされるものやらということで、私は渋々答える。
「……えっと、視界に映るものだけじゃないみたいね。このHUDのレーダー……いくらかの範囲までなら、動きを感知できるみたい」
「感知?」
「そう。私の視界には、周りにある、私が認識した人物や物を感知して表示してくれるレーダーが映っているの。まだちゃんと確認していないけれど、おそらく弾幕もどの位置にあるのか表示されると思うわ」
視界の左上に表示されるレーダーを意識しながら、私はパチュリーに説明する。
レーダーの情報というのは大事だ。敵味方の位置を区別せず、間違って味方を撃ったなど笑い話にもなりゃしない。
しかし、このレーダーは中々高性能なようで、その物体の向きまで矢印として表してくれる。これを目安に、相手の後ろを取りに行く、なんてこともできるだろう。
「ふむ……小悪魔、しっかりとメモね」
パチュリーは秘書の小悪魔に私の話をメモさせる。そして、再び私に質問する。
「けれど、それを見て避けたと? それにしては反応が早かったようだけど」
「感知するのは何も周りの動きや距離だけじゃないみたいね。私に危険が迫ると、私の頭の中で音が鳴り響くと同時に、警告の表示が現れたわ」
「それで、あなたはとっさに回避行動を取った、と。予知ではなく、感知に特化した能力……なるほど」
危険が迫った時に、HUDには必ず現れる警告表示。これを見ると反射的に動いてしまうように、私の体はなっているようだ。
パチュリーはそれに感心した素振りを見せる。向けられる研究者の視線が怖いが、私はさらに続ける。
「それと、敵意というか、私に狙いがつけられていることも分かるわ……今、あなたが魔道書に私を狙わせていることもね。不安になる赤い文字がまだ消えてない」
私は未だ消えぬ【WARNING】という警告を意識しながら、パチュリーに物申してやる。だがパチュリーに悪びれた様子はなく、
「そんなことまで分かるのね。うだうだしてたらもう一回撃ってやろうかと思ってたけど……これじゃまた避けられちゃうわね」
フッ、と嫌味な笑みを浮かべる。警告表示はまだ消える気配もない。ああ、苦手だなぁ、ホントこの人。
「パチュリー、あんまり乱暴しちゃダメよ! ドーラはひ弱なんだから!」
ひ弱という言い方に少し引っかかりがあるが、アリスはパチュリーに抗議する。
だが、パチュリーは冷静に対応、アリスを説き伏せる。
「魔法の研究でもそうだけど、実験の観察というものは時には大胆さも必要なのよ、アリス。今だって、こいつの能力の凄さがわかったでしょ? あの反応速度は中々なものよ。今回のこれがなきゃ解らなかったわ」
「む…………」
……なんでそこで口をつぐむかな、アリスは。どうやら、アリスは納得させられてしまったらしい。
元人間とは言っていたけれど、アリスもパチュリーと同じ魔法使い。私という研究対象に少し興味が有るのだろうか。
「それに、手加減はしてるわ。怪我はしても死にはしない。霊夢がいれば傷なんてあっという間に治るんでしょう? だったら何も心配なんて要らないわ」
そしてこの、パチュリーの滅茶苦茶な言い分である。たまったもんじゃない……けれど、もっとひどい目に合わされたことがある手前、言い返せない。
私は諦めるという選択をした。どうにでもなるだろう。
「……もういいわ! 煮るなり焼くなり好きにしなさい! 危険だろうがなんだろうがやってやろうじゃない!」
そうよ、多少無茶しても大丈夫な体になったのよ。どれだけ無茶できるかも調べておく必要があるわ。上等じゃない!
「ほら、向こうもやる気になったみたい」
パチュリーはアリスに私がやけになっているぞと指し示す。アリスは大きくため息を付いて、吹っ切れたように人形を操る体勢に構え直す。
「……たく、強引ね! ドーラ! 気をつけなさいよね!」
改めて、私の訓練が始まった。
第14話「実力」
「狙いを定めて……」
右手の動きと連動して動く、視界に映るレティクル(照準のこと)を魔道書に重ねあわせ、そのまま私は念じる。
「おおっ!!」
すると、私の右手の数センチ先の方から、銃弾型の弾幕が次々と撃ちだされていく。通常の弾丸と違って、薄く青色に発光する弾丸達は、一直線に魔導書へと飛んでいき、
【BULL’S EYE】
(撃墜した)
見事に命中。ページがビリビリと破れながら、魔道書は力を失ったように墜落する。それを確認すると、私は銃弾を止める。
「は~……あの時は必死だったからよくわからなかったけれども、案外簡単にできるものなのね、これ」
あの暴走した妖精をひるませた弾幕。やぶれかぶれでやったからできたのかと思っていたが、案外すんなり発射することができた。
【GUN 0765】
【ENG 100%】
(弾丸の残量とエネルギーの残量を示す。エネルギーとは、ドーラの霊力のこと)
表示の弾丸残数は減っているが、エネルギーは全く減っていない。エネルギー供給とは独立している、ということなのかしら?
「ふむ、威力はそこそこ、本をボロボロにできるくらいは有るのね」
パチュリーは威力について言及する。だが、私はその情報に注釈を入れる。
「威力は最初に使った時よりも高くなっているみたい。多分だけど、このヘアピンのおかげかも」
髪を左側にまとめているヘアピンは、パチュリーが渡してくれた霊石製のもの。霊力で体が作られているとかいう今の私の体に呼応して、どうも良い作用を引き起こしてくれるみたいだ。
霊力消費の軽減に始まり、弾幕の性能向上、HUD表示の切り替えなど、良いことが起こっている。
「……ええ、こちらでも確認したわ。あなたのそのヘアピンからね」
……パチュリーに監視されるというデメリットも有るわけだが。パチュリーは紫の四角い魔法の石を手にとって、その様子をモニターしているようだ。
「しっかりと効果ありのようね。じゃあ次は、動体をターゲットに。アリス、お願い」
「わかったわ」
次はアリスが動かす人形をターゲットにするようだ。
【Target / Alice’s Doll】
(ターゲット / アリスの人形)
HUDの右上のメッセージが変化する。レーダーも、本の位置を表す赤い矢印を囲んでいる円が消え、新たに人形の場所を示す矢印に円が表示される。
レーダーを見ると、人形を示す矢印は動きがつき始める。それで人形の位置を確認して、私はその中の一体に狙いを定める。
【DOLL】
【Target insight】
マーカーの右側と、メッセージ欄に情報が表示される。私はそれを視界の片隅で見ながら、右手を動かし、レティクルを人形の動く少し先に合わせる。移動先を予測して相手に弾丸を命中させる、偏差射撃を行うのだ。
「ほっ!」
アリスには悪いが、一発で落とさせてもらうわ……とそう思ったが、思惑は外れた。
「それ」
「あっ」
私が弾丸を撃ちだすと人形は急ブレーキ。進行方向とは逆に動きだし、空を切る弾丸から遠ざかっていく。アリスは瞬時に私の手の方向を読み、人形を操作したのだ。
そして、アリスは私に注意を呼びかける。
「そう簡単にあたってやれないわよ、ドーラ! 手の方向を見れば何処に撃つかなんて、弾幕ごっこ慣れした私達幻想郷の人達にはわかっちゃうわよ」
「む……幻想郷では確かにそうね。空戦は何も、軍隊に限られた話ではないんだったわ」
それに、ドッグファイト(戦闘機同士の戦いのこと)と違って、この世界では空で急に止まったりすることができる者もいる。さっきの人形みたいに、間髪入れずにだ。
私が今までやってきた空戦とはわけが違う、ということね……
「……なら、あれを試してみようか!」
ある方法を思いついた私は再び右手を構える。レティクルを人形に再び移動先に合わせ、偏差射撃の素振りをする。
「何度やっても同じことよ、ドーラ! 撃つ瞬間に人形を方向転換させたら当たらないわ!」
アリスの言葉を耳に入れるが、私はそんなことはもうわかっている。偏差射撃だけではない、もう一つ工夫をこらすのだ。
【MSSL 2/2】
チラリと、ほんの少しだけHUDの表示の右下、武装の残量表示を意識する。そしてすぐさま、私は動く人形に意識を集中させる。
【DOLL】
すると、対角線が視界と垂直になるような正方形のシーカーが、視界の中心から現れて人形のマーカーに重なる。
それは一体となり、正方形の中に正方形が、頂点と辺の中心でピッタリハマったマークとなり赤く変色。同時にピーという告知音が脳内で鳴り響く。
【Locked on】
右上のメッセージウィンドウにはロックオンしたという表示が成され、
「Fox2!(フォックスツー)」
そして、私は一言叫んだ。
「!!」
私の腕の側面の空気が光り、煙を引きながら何かが飛び出す。
【MSSL 1/2】
HUDの数字が減る。私の言葉とともに放たれたそれはミサイルだ。銃弾型と同じく青白く光っている、サイドワインダーというミサイルを小型化したような弾が、急停止したアリスの人形に方向を変えて近づいていく。
「追尾弾ね!」
アリスはすぐさま、人形を素早く動かしてミサイルの追尾を振り切ろうとする。私はこれを狙っていたのだ。
人形が逃げている移動先を予測して、レティクルを動かし、
「そこよ!」
偏差射撃を実行した。
弾丸が人形に命中し、その動きを止める。そして、ミサイルが追いつき直撃、人形は爆散した。
【BULL’S EYE】
ミサイルから逃げる標的は動きが読みやすくなる。それを利用して、射撃の成功する可能性を上げる方法だ。おまけに、ミサイルも直撃すれば、相手は撃墜必須。私がドッグファイトの際、敵のエースとやりあう際のとっておきだった。
「……どう! やったわよ、アリス!」
撃墜を確認した私は、少し調子に乗ってアリスに顔を向ける。アリスの驚いた表情が見たいと思う。
「中々やるじゃない、ドーラ! 霊夢みたいなことができるのね」
だが、アリスはいつも通り。いかにも本気を出していませんよ、とでも言うかのような顔だった。なんだかちょっと悔しい。レイムもこれやるのね。
そして、レイムは自分の名前を出されたことに気づき、ウトウトさせていた首を振ってそれに応える。
「……へ? ああ、うん。そうなのね」
……全く興味なしである。私がやったことって、幻想郷じゃそう珍しく無いみたいだ。そういえば、一昨日見たレイムとマリサの弾幕戦は、こんなのがちっぽけに見えるような物だったわ。
しかも、マリサが私を後ろに乗せてだったから、本当はあんなのよりもハイレベルなのをやっているはず……
「追尾弾の霊力はこうよ。記録しておきなさい」
「はい、パチュリー様! ばっちりです!」
パチュリーはパチュリーで、何をやったかには興味がなく、私が起こしたその事象についてにのみ興味を示している。顔色など変えるわけがない。
そして、サクヤはいつの間にかいなくなっている。仕事に戻ったのだろうか。
……これは中々に来るものがあるわね。まるで、いかに私が無力な人間であるかを見せつけられているかのようだわ。人間じゃないけど、今は。
まあ、内心わかっていたことだからダメージはあまりないけれど。孤児という後ろ向きな肩書を持ちながら軍時代を切り抜いてきたんだ、これくらいどうってことはない。
「……それで、できることはそれくらい?」
小悪魔が記録したのを確認して、パチュリーは私に聞いてくる。私は首を傾げて唸り、答えを伝える。
「……今のところはこれくらいかしらね」
「わかったわ。じゃあ、次はさらに連続して霊力の流れを見たい。ドーラ、飛びなさい」
私は頷き、次なる試練に立ち向かうために足元に意識を集中。ついさっき覚えた方法で、宙に浮き上がっていった。
【ENG 097%】(霊力)
【VIT 100%】(体力)
【ALT 00010】(高度10フィート。約3メートル)
【SPD 0000】(速度。ノット法。2ノットが約1キロ毎時)
【GUN 0765】(銃弾型弾幕の数)
【MSSL 1/2】(ミサイル型弾幕の数)
HUDの表示を確認しながらゆっくりと浮かび上がる。
周りを囲んでいた魔道書と人形も同じくらいの高度、10フィート前後に移動。レーダーを見ると、さっきよりも広く散らばっている様だ。
「これからやるのは、少し実践じみたもの。色々と体を動かして、その間に霊力の変化がどのようなものになっているかを見させてもらうわ」
どうやら、今から私はいそいそと体を動かすことになるようだ。何をするかは大体は想像できるが、詳しい内容をパチュリーに質問する。
「今から、私が魔導書から決まったパターンで簡単な弾幕を張るわ。その間をかいくぐって、アリスの人形を一体落として見せなさい」
「なるほどね、動きながら弾を打つ、か……ウィルコ(了解)、やってみるわ」
説明を聞き終え、私は身構える。弾幕がどのようなものになるのかを想像し、備えようとする。
パチュリーが手を振り上げると魔導書が光り、弾幕を放ち始めた。
【WARNING】
「って、うわあっ!?」
しかし、想像していたよりもその弾幕は厚く、隙間はあるものの今の私の宙に浮く技量で避けきれるか怪しいものだった。
「ドーラ! ボサッとしてないで、よく弾幕を見る!」
「え、ええ!」
いざ弾幕を目の前にしてあっけにとられる私に、アリスは声を張って集中を促す。とにかく、目に映る物から素早く情報を得ようとする。
……集中して見てみると、思っているよりも弾幕の隙間は大きい様だ。レーダーでも確認したが、集中を途切れさせずに体を動かせばなんとかなりそうだった。
「これなら……」
それを確認すると、私は右手をすぐに構えられるように構えながら、シフトウェイト(体重移動)で空中を移動していく。
そこを右に、そして上に……ここで大きく空間があるから、レーダーを確認しながら前に進んで……
「そして構える! FOX2!」
動く人形をレーダーで位置を確認しロックオン。そしてミサイルを発射する。人形は追跡するミサイルから回避行動を取る。
【ENG 080%】
【MSSL 0/2】
【RELOADED】
ミサイルを使い果たすと、エネルギーが90パーセントから80パーセントまでごっそり減り、リロードしているという表示が視界に映る。なるほど、弾切れを起こすと、エネルギーを消費して弾数が確保されるわけね。
ミサイルは二発補充するのに霊力を10パーセント使用か……これまた燃費が悪い。飛ぶのと合わせて使用することは難しいだろう。有事の際は機銃をメインに使って、ミサイルはとっておきだな。
そんなことを考えながら私は逃げる人形の進行方向に照準を合わせ、偏差射撃を行おうとする。だが、
【EVADE】(回避せよ)
「うわっ!?」
真っ赤になったHUDから避けろと視界に表示され、私は一発だけ眼前に迫っていた弾幕を首をそらして避けようとする。
「わあっ!!」
【CAUTION】
【STALL】
(警告 / 失速、もしくは制御不能)
その拍子に重心の位置が勢い良くずれ、私は体勢を崩す。焦ってしまって足から発生する揚力を上昇させるが、逆効果。私の体はくるくると風車のように横回転を起こし、
「うわああっ!?」
私の視界に弾幕の雲が突っ込んできた。
――ピピピチューン……ドスン
「う、ぐ……」
【VIT 011%】
【ALT 00000】
【ENG 065%】
【WARNING】
【CAUTION】
ぼやける視界に、HUDだけがはっきりと映る。高度がゼロである所を見ると、私は地面とキスしてしまったようだ。
手を挙げられないところから、うつ伏せの体勢で倒れているということが分かる。アリスの人形が私の下敷きになっているのが、円のついた赤い矢印が、中心の私を表す白い矢印と重なっていることから分かる。アリスがとっさに私をかばったようだ。
けれど……ああ、くそ、痛い。打ちどころが悪かったのか、頭がぼんやりとするし、体が動かない。あと、肋にもヒビが入ってしまっていると思う。
いくら霊力で体が治ると言われているとはいえ、3メートルもの高さから受け身も取れず落下したんだ。痛いもんは痛い。
……嫌なこと思い出しちゃうな。この感じ、体が動かないこの感覚、不自由な寝たきり生活を想起させてくる。痛みがあって、自分の体を感じられるだけマシというべきか……
「ドーラ!!」
もうろうとする意識の中、レーダーの青い矢印が動くことで、アリスが駆け寄ってきて私の様子を確認しに来るのがわかる。もう一つの緑の矢印は……レイムかしらね。
「頭打ったわよね、今? 大丈夫?」
不安そうな声。首を動かせずアリスの顔は見えないが、声でわかる。ずっと世話かけてるなぁ。いつかお返ししないと。
「あ……アリス、ね。ドジ、ちゃ……みた……」
「喋らなくていいから、動かないでいてなさい」
レイムの声でおとなしくしてろと聞こえる。緑はやっぱりレイムだったのね。
私の腕にレイムが触れる感覚。でも、霊力で元気が出るのはわかっているけれど、本当に怪我は治るのかしら……
「本当にこれで治るのよね?」
「た、多分……パチュリーが言うにはだけれど」
二人の声が静まると、レイムの手の温度が上がる。レイムの手を介して、私の体に霊力が注入されているのだろう。
「ふ…………く……ふぅぅっ……」
【ENG 078%】
【VIT 027%】
全身に少しくすぐったい感覚が走り、体が震える。HUDのエネルギーと体力の残量を表す数字が増えていくと同時に、まずはぼやけていた視界がくっきりとしていく。次に頭の痛みが引き、肋の痛みも引き……
【ENG 100%】
【VIT 079%】
「……ん、本当に治るみたいね」
体がの不自由が無くなった。私は手を動かし、それを確認した。
【VIT 100%】
「レイム、もう大丈夫よ」
私の体力を表す数字が満タンになったのを確認し、私は寝返りを打って体を起こし、二人に礼を言う。
「ふぅ……ありがとう。でも、ヘマ起こしちゃったわ」
私の言葉を聞いて、二人はふぅと息を吐く。
「しっかりしなさいよね。目の前で怪我されちゃいい気分しないわ。空飛ぶくらいできなきゃ」
「無理言っちゃダメよ、霊夢。下手なのは仕方がないでしょう」
世話が焼けると愚痴を言うレイムに、アリスはフォローを入れるが、あまりフォローになっていない。その通りではあるが。
「下手で悪かったわね。これから上手くなってやるわよ」
私は強がりを言ってみる。内心はちょっと不安になってしまったが、へこたれていても仕方がない。
「空戦を行うのは自衛の時……あなた達の世話になり続けてもいられないしね」
そう、幻想郷は危険がいっぱいだ。私は数日間ここで暮らしただけでもそれを実感した。
できれば、昼間に出歩く際に護衛が要らなくなる程度にはなりたいが……
「その様子なら大丈夫そうね。あの程度も避けられないとは思わなかったけれど」
……そして、私に幻想郷の怖さを最も体感させてくれたパチュリーも、静かにこちらに寄ってきた。最初に会ってから、こいつには悪い目にしか合わされてない。ますます苦手だなぁ。
「あの程度って……今日、私が初めてあれをやったことを忘れないでほしいわね。飛ぶのもほとんど初めてみたいなものだし」
「でもあなた、飛んでたんでしょう? 外の世界で」
「生身で飛ぶのとあれとではわけが違うわよ……」
まあ、原理は似ているけれど。腕をちょっと動かすのにも銃身が変化し、バランス感覚が問われる生身での飛行。レバーの感覚と計器で飛ばせる戦闘機とでは感覚が全く違う。
パチュリーは経験していないからそんなことが言えるんだ。
「でも、足から浮く力が出てるなんて、相当不安定で難しいはずよ? それでもあれだけ飛べるのなら、ちゃんと練習すれば上手くなるわよ、ドーラ」
パチュリーの言葉で少し腹を立てていた私は、アリスの言葉で少し元気が出る。そう、とにかく練習しかないんだ。実行することが、成功するために一番近い道なのだから。
「……ありがとうアリス。でも、まだまだ私がひよっこなのは事実。お世辞なんて良いわ」
空をとぶことはとても難しい。ましてや、飛びながら戦うのはもっと難しい。それは私が一番良くわかっている。そして、それができるまでには長い鍛錬が必要なことも。
この幻想郷の人妖はとても空をとぶことが上手い。すごく安定して空を飛ぶ。私はそのレベルまでは行けるかはわからない。
けれども、その差を少しでも縮めなければ、危険は大きいまま変わらない。さっき失敗したあれもちゃんとできるようになるくらいにならなければ、いつまでも守ってもらってばかりになる。そんなのはゴメンだ。
それに……風を感じて空を飛んでみたい。ツバメのように、素早く華麗に、気分よく飛んでみたい。
だから、やるしかない。
「……パチュリー。まだ続けてもいいかしら?」
そう思うと、さっきの痛い思いをしたことなど忘れて、口が動いていた。
「何を?」
「訓練よ。ちゃんと飛べるようになりたいわ」
空への想いが、私に痛みを忘れさせたのだ。苦難なんてはねのけてやる。
私はパチュリーの目を見て、やりたいという意思を見せる。私の熱意を見てくれと言わんばかりに。
「嫌」
「え?」
だが、予想していた答えとは別のものがあっさりと返って来た。
「もうデータは取れたからね。速く分析したいわ。 私の用は全て済んだの。あなたの都合なんて、どうでもいいわ。小悪魔、行きましょう」
「はい、パチュリー様!」
そういうと、パチュリーは魔導書をこの場から全て消し、小悪魔とともに部屋の外に出て行く。
「やるなら一人でやってなさい」
「………………」
……なるほど、熱意が空回りした人の気分ってこういうものなのね。
「そういう人なのよ、パチュリーって」
「…………はぁ~~っ」
私は溜めに溜め込んだ息を思いっきり吐き出した。
……改めて、パチュリーとはウマが合わないと、私は思った。
外に出ると、すでに日光は無い。綺麗な星空が頭上を覆っているが、禍々しい妖怪の時間となっていた。
「今日はパチュリー様のお手伝い、メイド長の私が代わって感謝いたしますわ」
「わかったわ。ディナー、とても美味しかったわ」
サクヤが笑顔で私たちにこれから紅魔館に上がる際の注意を言われ、私はそれに応えるようにサクヤが振る舞ってくれた夕食の感想を伝えた。
――私がパチュリーに放ったらかしにされた後、すぐに咲夜が部屋に戻ってきたのだ。夕食が用意出来たと、私達をダイニングルームに案内するためだ。
食事の場に到着すると、大きなテーブルが真ん中でふんぞり返っており、そこで席につくように指示された。
まず、レイムが慣れたようにドスリと一番近い椅子に座った。次に、アリスはその向かい。私はアリスから少し離れるためにレイムの席から一つ、横に空けて座った。怒られる事が嫌だという、子どもじみた理由で。
……その後アリスはその空けた席に移動してきたわけだが。
そして、出てきた料理はとても豪勢なものだった。時間がないからこれぐらいしか用意できなかったとサクヤは言うが、とんでもない。
スープは目の前に配膳され、切り分けられたバケットが中心の皿で山盛りに積まれ、取ってくれと言わんばかりにある。レタスと玉ねぎとトマトのサラダに鴨肉のハイカラな料理は、ビュッフェ方式で自分で取り分ける。紅茶は飲み放題。これの何処が「これくらい」なんだ?
私は喜んで、バケットを三切れとサラダと肉を四枚皿に取り、おいしく頂いた。レイムはサラダと肉だけを取って、アリスは私の半分の量を取り分けた。
食べてる最中、アリスはやはり機嫌が悪かった。また食堂の時みたいに叱られるのかと思ったが「後でお説教ね」という一言だけで済んだ。食べ方なんて別にどうでもいいじゃないか。
……とそう思っていたが、サクヤはそれをニコニコと観察してくる。たまに紅茶をカップに補充する際、私はサクヤの鋭い気配を感じたため、以降は少しおとなしく食べるようにした。。
――そして、食事が終わって私たちは玄関へとエスコートされたというわけだ。
「でも、ドーラさん? もう少しお食事はおしとやかにいただくものですわよ? おいしく食べていただいたことには感謝しますが」
「ほら、ドーラ。咲夜もこう言ってるんだから、ちゃんとしないとね」
サクヤもアリスも、私のテーブルマナーとやらに不満があるようだ。笑顔だが、サクヤはなんだか禍々しい雰囲気を漂わせていた。
「あ、あはは……ついああなっちゃうのよ。癖でね」
前みたいに「美味しければいいじゃない」なんて言うと、サクヤが笑顔でひっぱたいてきそうだったのでごまかす。なんというか、サクヤは平然とした顔で何でもやりそうだし。
「では、以後こちらにお越しいただいた時、その食事態度が治って無いのであれば、私は遠慮なくあなたをつまみ出させていただきますね」
「……はい」
ほらやっぱり。笑顔で怒ってらっしゃる……流石に、以後は気をつけなければ、アドラ――私の片割れみたいに意識を落とされて、その後拷問されそうだ。
「じゃあ、ドーラ。今度食事で一緒になる時に、私が見といてあげるわ」
アリスもなんだか活き活きとしてらっしゃる……面倒だが、サクヤに何されるかわからないし、仕方がないか。
「……ちゃんと矯正させられるのかしらね」
そして、レイムは呑気にその様子を眺めていた。
「さ、レイム、ドーラ、長居しても仕方ないわ。帰りましょう」
アリスがそう言うと、サクヤは、丁寧にお辞儀をして挨拶を交わした。
「それでは皆様方。道中お気をつけてお帰り下さいませ。ごきげんよう」
「それじゃ、明日朝、テラコヤに集合ね」
「ええ。送ってくれてありがとうね」
アリスは魔法の森に帰り、レイムは私をテラコヤの門の前まで送ってくれた。次にゆっくり出来るときは、テーブルマナーを教えると一言残してから。しっかりしてるわね、ホント。
そして、レイムと私は明日の予定について話している。
明日はレイムと私の二人で妖怪の山に、アヤの先導で赴くことになっている。
目的はそう、私の相棒、『F‐16』を空に飛ばすための計画を一歩前に進めるためだ。
「しかし、あんたも大変ねぇ。紅魔館で死にかけたり山に行ったり。人里でおとなしくしてりゃいいのに」
レイムは同情するというわけではないが、よくもまあそんなことを進んでやるものだと、少し呆れ気味で言う。
「そういうわけにもいかないのよ。私自身のこと、私の今後のこと、そして、私の夢を再び叶えることがかかっているんだから」
そう、やることだらけなのだ、今の私は。
自分自身でもまだ掴みかねない、私の今の状態。
今後、私が幻想郷でどうやって過ごしていくか。元の世界に戻ることは可能なのか。
そして、私の愛機を再び空に戻すことができるのか……
「立ち止まって休むのは、すべてが終わってからでも遅くはないわ」
気合を入れるように、私は拳を握る。
「情熱的ねぇ。ま、別にいいけど。出る杭になって、妖怪に打ち付けられないようにね。守るこっちも面倒なんだから」
そう注意を促すと、レイムは背を向ける。
「大丈夫、やってみせるわよ」
レイムの背中を見ながら、私は自分の決意を自分に言い聞かせるように話す。
「そう。じゃ、私は帰るわ。また明日」
私の言葉に耳をかさずレイムは浮き上がり、神社は帰って行ってしまった。
「……ふぅ」
しかし、今日はいろんなことが起こったわ……
紅魔館に向かう途中に妖精が暴走して、それをなんだかすごく怖い妖怪が首謀者の妖精を懲らしめて運ばせた。
紅魔館に着いてからも、私の片割れであるアドラがメイドとして厳しく教育されていたり、もう一体私の分身が図書館にできていたり、墜落して死にかけたり……
……今日だけでなく、初日から何かが起きてばかりだ。一昨日はまだゆっくりと出来たが……それでも、まだ私は幻想入りして今日で五日目よ。あまりにも色々ありすぎじゃないかしら……
これ、やっぱり私が幻想入りしたことが関係してるのかな?たまたまだったとしても、それはそれで怖いが……
……起こったことを考えてもしょうがないわね。明日も何かあるとは限らないんだし。私もお風呂に入って寝ようか。つかれたし、それに明日は早い。
私は、考えることを止め、テラコヤの戸を開けた。そして、靴を脱いで、一言発することで帰宅完了した。
「ただいま!」
【MISSION ACCOMPLISHED】
(任務完了)
第14話・完
現実はそんなに甘くない。
けれど、その現実に向かって立ち向かうのがドーラなんだと思う。
最初は幻想郷を客観的に見るため、というだけで作られた、エスコンに影響されまくったキャラだけれど、なんだかもう、すごく愛着が湧いてますw