東方空闘犬 〜 元エースパイロット、幻想郷の旅   作:メビウスノカケラ

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いやあ、燕石博物誌が今日届きましてね。また秘封が深くなって嬉しいよ。
というわけで、15話です。


第15話「凶日」

 四方を覆うスクリーンには、偽りの空が映しだされている。動きはなく、静止画の空だ。

《本来、君のような子供が、しかも身寄りもない様な君は、こんな場所にいるべきではない。幸せになるため、まともな教育を受けるため、施設で生活をすべきなんだ》

 若き日の出来事。まだ小皺も目立たないモーリス中佐は私に話しかける。私は操縦シミュレーター内で、両手で握った操縦桿を見つめながら彼の話を耳に入れる。

 その日、モーリス中佐は、空軍に入りたいと無理を言う私に、その厳しさを身を持ってわからせるためにF‐16のシュミレーターで私を試した。

 操縦桿は幼い私の手には大きく、両手で持ってやっと全てのボタンに指が届くぐらいだった。両手で操縦すると、微調整も聞かず、集中を切らせるとすぐにバランスも崩してしまう。私の初飛行はそんな状況だった。

《だが……ウェッジショット、君にとっては幸運といえば良いのか……君の天性の才がそれを拒んでいるようだね》

 そんな状況で、私はヘッドオン(正面同士で向き合っていること)のすれ違いざま、相打ちではあるが敵を落としてみせた。反射的にミサイルの発射ボタンを押していたのだ。

《ねえ、お兄さん。私は軍に入っていいの? あなた達に恩返しがしたいの。他に行くとこもないし》

 私がそう言うと、彼は人差し指を額に当てて考えこむしぐさを見せる。スクリーンの光が逆光となり、その顔は確認することはできない。だが、その声は少し残念そうだった。

《そうだな、君に覚悟があるのならあるいは……》

 モーリス中佐が言い終わる前に、逆光が強く、強くなっていき、その姿が隠れていく――

 

「んー!むぐーーっ!!」

 ――クックドゥルドゥーーゥッ!!

 妙な鶏の鳴き声と混じって、だれががやかましく唸っている。それらが私を夢から醒ましてくる。

「んぅ……うるさいな……」

 その声の在り処は近い。一体何だと言うんだ?日も登って来ているし、私が起きる時間は確かに近いが、こんな起き方はあまり気分が良いものではない。

「何よ……誰かいるの……?」

 瞳を開けて、私は霞む視界の焦点を合わせていく。自身の体力と霊力を表す情報だけが視界にくっきりと映り、それ以外はモヤモヤとしているが、どうやら私の眼前に何かがあると確認する。

「やあ! おはよう!」

「…………はい?」

 視界が晴れて確認したそれの正体は、いつかのやかましいミミズクだった。

 

第15話「凶日」

 

「うわあっ!?」

 知っている顔に驚き、私は布団から飛び上がる。寝ぼけていて一瞬本当に猛禽類のミミズクに見えたが、こいつは人だ。

「いやあ、存外に早く起きたね、君!」

 後頭部から上に伸びる日本の角のような髪型、『和』という文字の入ったヘッドホン……畳の隙間から生えている腹立たしいほど明るい笑顔にそれがくっついている。

「あ、あなた! 確か、ミミ……じゃなくて、救世主とかいう……」

【HORNED OWL】(ミミズク)

満月の夜、私の前に突如として現れて闇の妖怪である小さな女の子をレーザーで撃ち落とした自称『救世主』。私の記憶では、こいつはそんな奴だったはず。

 やたらとテンションが高い、妙な『仙人様』だ。この前に出会った時は寝床までついてきた。視界のHUDにはミミズクと表記されているが、まだ本物のミミズクのほうがマシだったかもしれない。

「おや? 私を覚えていてくれたのか! 嬉しい限りだね!」

 それは当たっていたみたいで、ミミズクの顔はパアッっとさらに鬱陶しく輝く。あの時と同様に、またこいつのペースに乗せられてしまう予感だ。

 ……わざと間違えたほうが良かったかもしれない。

「よいしょっと」

 ミミズクは畳の隙間から腕を出し手をついて、体を強引にズルリと引き上げて全身をさらけ出す。どうやって体を納めていたのか、その仕組みは理解不能だ……

「いやぁ、どうも君の中のドス黒いものが気になってね! だけど、今日は姿も見えない。満月の夜だけなのかな、あれは?」

 訳のわからないことを言いながら出て来ると、ミミズクはコキコキと肩を鳴らす。そういや、この前あった時もそんなことを言っていたな……

 で、私はふと、その後ろにうずくまっている何かを発見する。

「……あれ?」

 黒髪のジャーナリストのような格好をした女性が、手を後ろ、足もぐるぐるに縄で縛られ、目隠しと猿ぐつわをつけられている。

 そんな彼女に既視感が頭をよぎる。なんだか知っている人のようだけど……

「んーっ! んんーーっ!!」

「ああ、それは君を襲おうとしていた物の怪さ! 君のことをこの妙な箱でどうにかしようとしていたからね。きっちり私が退治して、ちょっとやそっとじゃ切れない『豊聡耳ロープ』で捕らえて置いたよ!」

 ミミズクが持っているのは白黒の四角い箱。その正体で、私は縛られた彼女が誰なのかを理解した。

「カメラ……ってことは、その人はアヤ!?」

「んんんーーっ!!」

【AYA】

 縛られた女性は激しく頷く。やはりアヤのようだ。

「なんだい、君も知っているのか、悪質ブン屋の射命丸文を! 此奴は風のうわさでは……」

「アヤ!」

 ミミズクの話など聞かず、私は急いで彼女の拘束を解きに行く。

「ってあれ? なぜ拘束を解くんだい?」

「知り合いだからよ!」

 神子の質問に怒声をかけながら、せっせせっせと私は縄をほどいていく。どんだけきつく縛ってるのよ、これ……

 とりあえず、まずはズラすだけで何とかなる目隠しをずらしてその赤い瞳を露わにし、次に猿ぐつわも取り払って饒舌な口も解放する。

「ぶは! 豊聡耳さん、なんなんです!? いきなり後ろから襲ってきて!!」

 口留めがなくなるやいなや、アヤはぎゃあぎゃあとミミズクに抗議する。「いきなり」ということは、アヤは不意打ち気味に縛られた、ということだろうか。

「ふはは、私は全てお見通しなのだぞ? この『かめら』とかいう箱で、か弱い彼女の寝こみを襲おうとしたのだろう、天狗よ?」

 ミミズクの方はというと、にやりとほくそ笑みながら、アヤが何をしていたのかを知っているのだと警告する。

 ……あれ?そういやなんでアヤはここにいるんだ?待ち合わせの時間はまだ先のはず。レイム達もまだ寝ている時間だろうて。

「襲おうなんてとんでもない! 私はただ、記事のネタを集めていただけですよ! こんどの新聞は、このドーラさんが主役の記事ですからね!」

「そりゃどうも……ん?」

 アヤは負けじと食い下がる。けれど、その「ネタ」という言葉になにか引っかかる。

 ネタっていうのは、アヤの新聞のネタのことだろうけど……まさか。

「アヤ、まさか、私の寝込みに隠し撮り……」

「隠し撮りなんて滅相な! これは公正な取材ですよ!」

 ……なるほど、これで今の状況が理解できた。少々気に食わないが、アヤの盗撮という毒牙からこのミミズクに助けられたということなのか。

「ちゃんと許可も取りますよ!」

 その許可というものはきっと、事後報告の事だろう。総判断した私は、私はやっと解いた腕の縄をまた固く縛り付けることにした。

「ちょ、ドーラさん!」

 アヤが焦った顔でこちらを見てくるが、構うものか。こっちは被害者だったんだ。

 縄を縛り直して、今度は救世主のミミズクに尋ねる。

「幻想郷の救世主さん、そのカメラ貸してもらえる? 中身を抜くわ」

 寝こみを撮られた仕返しに、それと写真の隠滅のために、カメラのフィルムを没収してやろうというわけである。

「やめてください! せめて現像してから――」

「いいや、いっそまるごと破壊したほうが良いかもしれないね?」

 アヤが道理の通らない言い分を言い切る前に、ミミズクは良案を上書きしてカメラを私に手渡す。私はその案に頷きながらカメラを受け取る。

「あ、それもそうね」

「悪い冗談はよしてくださいお二人とも! 来月の給料前借りで買ったばかりの最新型なんですよ!」

 アヤはジタバタと跳ねながら顔を真っ赤にして怒っている。自業自得だ、良い気になりすぎた天狗の鼻は、一度へし折ってやらなければならない。

「私達天狗に歯向かうつもりですか!!」

「おや? 元はといえば、そちらが無断で人里に入り込んで事を起こしているというのに?」

 アヤは天狗の権力とやらを引き合いに出すが、ミミズクの的確な状況分析を受けて、なんとも悔しそうな顔。

「く……小癪な……!」

 すると、アヤはこちらを睨みながら、瞳に涙を浮かばせている……なんだろう、何故か可哀想に思えてきた。「ここまでする必要はあるのか?」と。

 そんなことを思い始めると、また表情から読み取られたのかミミズクは私の心境の変化に注意を促す。

「おっと、君? 騙されちゃいけないよ。天狗は狡猾なんだ、涙の演技の一つや二つ、平然と行うと思っておいた方がいい」

「嘘泣きだなんて、酷いです!」

 ミミズクはそう言うが、アヤの瞳からはボロボロと涙がこぼれ落ちて畳を濡らしている……本当にカメラを壊してしまって良いものか、良心を揺さぶられてしまう顔だ。

「えっと、その……うーん」

 私はどうすればいいんだ? こんな朝早くにこんなことに頭を抱えさせられることになるとは思わなかった。

「迷うことはない、それを早く床に叩きつけてしまうんだ! それで万事解決さ!」

「ドーラさん! あなたはそんな非道いことしませんよね!?」

 二つの声が私を揺らす。心の天秤は不安定なままどちらにも傾かない。

「あ、あの……そうだ! まず、はな……」

 どっちつかずな心になってしまった私は、話し合いを提案しようとする。だが……

 ――ピシャァン

「「「!?」」」

 それを言う前に障子が勢い良く開く音。私達三人は一斉に振り向く。

「お ま え た ち ……!」

【KEINE】

【WARNING】

 寝巻き姿の乱れた、そして鬼の形相をしたケーネ先生だった。警告のブザー音が頭の中で鳴り響き、背筋には冷たい汗が流れ、私は戦慄を感じる。これはあれだ、先生のアレが来る時の圧力だ。

「やあ、先生! いいところに!」

 だというのに、ミミズクはというと陽気に先生に話しかける。面と向かってもなおプレッシャーを感じていないのか。

「今さっき、ドーラさんだったかな? 彼女が襲われそうになっていたので、そこの天狗を私が捕らえたのだよ!」

 ニコニコとしているミミズクに対して、ケーネ先生の影は深い。この光景、デジャビューだ。

 「ミミズク! 逃げて!」と、身振り手振りで伝えようとするが、ミミズクは気づきもしない。

「だから、この天狗はあなたに……」

 言い切る前に、先生はミミズクの肩を掴みにかかった。

「ひき、わ、た……え?」

 そこでやっと、鈍感なミミズクは気がついた。ニコニコ顔は引きつり顔に変容する。しかしもう遅い。

「むんッ!!」

 ――ゴッ

「オゴォッ!?」

 先生とミミズクの額の間から石と石がぶつかった時のような鈍い音。直後、ミミズクは畳になだれ落ちる。

 『頭突き』だ。ケーネ先生は怒った時、相手が誰であろうとこうする。

 そして、ミミズクは私が知るかぎり、二度目の頭突きを先生から食らったのだ。一度経験しているくせして危機感も何も持てずにヘラヘラしていたとは、鈍感にもホドがあるだろう。

「お前たち!! こんな朝っぱらから騒ぐんじゃあない!! 私にもご近所にも迷惑だろうが!!!」

 先生の顔の影は晴れ、額から煙が上がっているのを確認する。同時に、不機嫌そうなその顔も。

 ……その怒鳴り声も迷惑なのでは?なんていうのはやめておこう。

「私は朝が弱いんだ、心地よい目覚めを妨げられて非常に気分が悪い」

 先生は、コキリコキリと首を鳴らし、私に視線を合わせる。

「せ、先生! 私は被害者……」

「やかましい!! 喧嘩両成敗だ、馬鹿者!!」

「は、はい……」

 相当怒ってらっしゃる……私の声は届きそうもない。否が応でも従わされるその迫力に、私は抗えない。

 早々に諦めて素直に先生の前に立ち、断罪の時を待つ。ほんの少しの時間だが、この痛みを待つ時間というのはなぜ、こうも長く感じるものなのだろうか。

「ふんっ!!」

 ――ゴンッ

「フグッ!! ……つぅ~~ッ!」

 突き抜けるような痛みが額から後頭部にかけて響き、私は額を押さえてうずくまって痛みを堪える。私は三度目で、痛い場所をずらしたが……やっぱりこれ、頭突きの威力じゃないと思う。

「さあ次はお前だ、文々。新聞」

 その後ろで、ノシノシと先生がアヤに近づいていくのを感じ取る。悪が裁かれる時が来たのだ。

「あ、あ、あやややや!? わ、私は何も悪く無いですよ!! あの、と、豊聡耳さんが来さえしなければ穏便に……」

 どうにか逃れようとしたいアヤの声など聞くはずもなく、ケーネ先生はしゃがみこんで、縛られて無抵抗なアヤの胸ぐらをつかみその体を持ち上げる。

 そして、先生は頭を振り下ろす。

 ――ッ(ほぼ無音)

「あぎゃっ」

 音のない重い頭突きがアヤに炸裂し、大きな声をあげる間もなくアヤは白目をむいて動かなくなってしまう。アレはとても痛い。打撃というものは音がないほど痛いものである。

「そこで反省していろ与太郎ども!! 私は仕方がないから、早めに授業の準備をしてくる!!」

 ――スッパァン

 障子を勢い良く閉め、先生は自分の部屋へと戻っていった。

「……うう、とんでもない朝だわ」

 倒れるアヤとミミズクを見て、私はそう呟いた。朝くらい静かに目覚めたいものだ。いや、贅沢か?

 そして、今日この後どうなってしまうのか、不安を抱きながら私はまた呟いた。

「今日一日、また何か起こりそうで怖いわね……はあ」

 考えれば考えるほどため息しか出なかったので、私は考えないことにした。

 明日のことを今日考えても仕方がないというが、今日の事も考えたって仕方がない、幻想郷ではそういうものなのかと私は感じた。

 

「おはよう……って、あんた達ひどい顔ね」

【REIMU】

 朝食を先生の説教と一緒に味わいながら済ませた私の顔は、きっとげんなりした顔なのだろう。食事の味さえ入ってこない、それほどの威圧感だった。よほどのことでなければ、彼女の目覚めを妨げてはいけないとおぼえておこう。

「うぅ、まだズキズキする……」

 アヤはといえば、今さっき起こしたのだがまだ頭が痛むようで、非常に難しい顔をしている。クリティカルに当たった時は、それほどの威力なのね、あれ。

 ちなみに、ミミズクは置いてきた。布団に寝かせて、先生に任せておけば安心だろう。そのうちトジコとモノノベノとかいう部下達が引き取りに来るだろうし。

「とにかく、さっさと案内しなさいな」

「は、はい~とにかく、まずは里を出ましょうか~……」

 力の抜けた声のアヤはレイムの言葉に従い、山の方向にある里の出口へと歩き始める。私とレイムもそれに着いて案内される。

「ねえ、あんた? あいつのあんな所、私は今まで見たこと無いんだけど……何があったの?」

 レイムはアヤの様子が気になったのか、私に尋ねてくる。アヤが元気をなくしているのは、よっぽど珍しいというのだろう。

「ええ、まあ、先生とちょっとあってね」

 私は適当にそう答えて、アヤの背中を見つめる。覇気が感じられないその背中は、確かにさっきまでとは全く別物だ。

「……うぅ、あの教師……いつかスキャンダルを記事にしてやるんですからね……」

 そして、ブツブツとうわ言のように呟く背中だ。レイムはそれを見て何が起こったのかを分析する。

「あんなにブツブツ一人ごとするのもおかしい……ということは、先生の『頭』ね。揺さぶられちゃったのね、脳が」

「ご名答」

「大方、あんたらが朝早く騒いで起こされた先生が怒って、ッて感じでしょう? 勘だけど、あんたもやられてるんでしょうね。「喧嘩両成敗!」って感じで」

 アヤのことばかりではなく、レイムは私の事までピタリと当ててくる。中々に勘が鋭い。

 そして、私は細かい説明を始めようとする。

「元々はアヤがカメラで私を撮ろうとしていたのがことの発端……あ!!」

 だが、私は悪く無いと言い訳しようとしたが、この時に思い出す。アヤがあんまりにもグロッキーな状態だったので、その印象から忘れかけそうになっていたが。

「何よ、急に大声出して」

「そういえば、カメラが消えていたわ! いつの間にか!」

 私はそう言ってアヤの方を見る、だがそこには誰もいない。

「じゃ、お先に失礼しますー!!」

 すでに数十メートル先に走って逃げていた。ということは、カメラはアヤの手にあるということだ。

「あ、汚いわよ!!」

 アヤの足は速い様で、もう追いつけそうにない距離にある。このまま里の出口に着くや、アヤは空を飛んで逃げるだろう。

「アジトへの順路はドーラさんの服のポケットにあらかじめ入れておきましたので―……」

 アヤの声も聞こえなくなる距離になり、ついに私はアヤを見失う。

「……ああ、もう! 今日は朝から災難続き!」

 私は悔しくて地団駄を踏む。やりきれない気持ちを地面にぶつけてやるのだ。

 アヤはおそらく、わざとあのような弱ったふりをしていたのだろう。あわよくば、私がそのままカメラのことを忘れてくれる可能性を狙って。

 それがダメでも逃げおおせる自信があったから、さっきまで一緒にいたのだということも予想できる。

「良い大人のくせして、あんた結構子供みたいな反応するのね。あいつの新聞信じる奴もそうそういないわよ」

 レイムは呆れ気味だが、体で気持ちを表すというのは私の国では一般的な感情表現だ。何も恥ずかしくはない。

 それよりも、問題は写真だ。あのアヤの慌てぶりから見ると、おそらくなにか撮っているのは間違いないだろう。

「でも、写真は嘘をつかないわ! 妙な写真を載せられたら……変な人みたいな噂になるのは嫌なのよ!」

 私自身、寝ていたのでどのような写真が撮られていたのかはわからない。だからこそ、恐怖感が倍増だ。

 得体のしれない写真を新聞に載せられて、私は里の笑いものになってしまうのだろうか……逃げ足の速さ、風外、そしてパパラッチ。やはり、アヤは危険な人物だな。

「はいはい、諦めなさい。で、ポケットの中身だっけ?」

 ……レイムは冷たい返答を返す。でも、私も他のどうにかする術がないとわかっているので、仕方なく私はポケットを漁る。

 入っていたのは一枚の紙切れ。可愛らしい丸文字で、大雑把にアジトまでのルートが書かれている。左、右、しか書かれていない暗号のようなメモ書きだ。

 そして最後に一行、「後は霊夢さんにお任せします!」と書かれていた。

「……まあ、そんなことだろうとは思ったわ。天狗は頭が回るからね、悪い方に」

「……はあ」

 私は今日何度目かの溜息をつく。今日もこの先、散々な日になると実感した。

 

 曖昧なメモとレイムの『勘』を頼りに、私たちは妖怪の山の森のなかを進む。

「えーっと、つぎは左ね」

「ねえレイム、本当に大丈夫なの?」

「多分ね。何回聞くのよ、大丈夫だって。私はいつもこれだから」

 なんともまあ、滅茶苦茶な事を言っているが、他に頼る術がない。

 妖怪の山は見張りが厳しいらしく、その日その日に合わせたルートで監視をかいくぐらなければ見つかって大変なことになると、以前アヤとにとりとで話した時に言っていた。特に、モミジとかいう天狗が担当している場所が悪いと、どこも逃げ道がなくなるのだとか。

 レイムはそれをちゃんと避けられているのだろうか?

「見つかった所で、私がこてんぱんにしてやるだけよ」

 ……中々に強引な手段だ。レイムは冷たいように見えて、本当は結構乱暴な性格なのかもしれない。

 そんな風にやり取りをしながら私たちは森を進んでいく。すると、少し開けた場所が見えてくる。

「大蝦蟇の池ね」

 レイムはその池の名を口にする。小さな祠のあるその池は、木漏れ日の綺麗さも相まって何処か神秘的だ。

 そして、その祠には何かが引っかかっている。紅いフリルの付いた、長く白い布。

「ああ、龍宮の使いの羽衣ね。たまに落ちてるのよ、最近」

 なんだかよくわからないが、だれかの落とし物らしい。でも、こんなところに?

「拾ってどこかに届けたほうが良いのかしら? 交番とか」

「やめといたほうが良いと思うわよ。天上人と関わってもいいことあんまり無いし」

 レイムは無関心に先に進もうとする。だが、落し物だし、なんだか大事なものそうだし……拾うだけ拾おうか。

 そう思って、私はその祠に近づく。

「あ、ドーラ! あんまりいらないことを……」

 レイムがやめておけと言い、私は差し出した手が止まる。だけど、レイムが心配する面倒事は、猶予もなく降りかかってきた。

「あーーっ! 触っちゃダメよーーっ!」

 その声は、木々から射してくる光芒から響き渡ってきた。

 

第15話・完




次回、またオリキャラが増えちゃいます。申し訳ない。
これ以上増やす予定はないのでご安心を。
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